2000年代のジャズ vo. 9


★★★★★
Thomas Rückert Trio "Debut" (JHM : 3630)
like someone in love 26-2 Dharma Aparksha never let me go all or nothing at all Jnana hommage a Arvo Part prelude UMMG you're my everything

Thomas Rückert (p) Dietmar Fuhr (b) Jochen Rückert (ds)
極上テンション・ジャズ名盤『ウィーヴ』で鮮烈な印象を残した独ジャズの名手アヒーム・カウフマン。同トリオで骨の太い太鼓を叩いていたヨッヘン・リュッケルトのお兄さんトマス・リュッケルトのデビュー録音が出ました。自らもベテラン・ピアノ弾きであるジョー・ハイダー運営のレーベルJHMから,ピアノ弾きとしてCDを出すという時点で面白くない筈がないわけですが,いや,これは好いです。ベースはご記憶の方おられますでしょうか?少し前にご紹介したクレメンス・オルツのトリオに在籍していた人です。オルツの師匠といえばジョン・テイラーでしたが,この人も同じくコローニュ音楽院でテイラーに師事する弟子だったというのが人選の真相。このトリオが出た後リーダーはニューヨークへも外遊し,なんとそこであのマット・ペンマンを捕まえて帰ったとか(2枚目が超楽しみですねえ)。冒頭からメルドー君かと見まがう鮮烈な変拍子,凝った変調。ソロでは両手弾きに左手の分散和音と,若手で独り勝ちするメルドー君への対抗心メラメラと燃えつつも,メルドーとは明らかに異なる,外連味のないメロディックな歌い回しと軽やかな運指が素晴らしい。細かく聴けばアラもあるんでしょうが,デビュー盤でこれなら立派なものでは。甲種お薦め致します。

★★★★1/2
Gerard Kleijn Group "Lovequotes" (Boomerang : BMCD 364)
impromptu 1 so in love love is impromptu 3 a friend of a friend a flower is a lovesome thing impromptu 1 - reprise number 10 madame Rosa cupid's arrows impromptu 2 I fall in love too easily

Gerard Kreijn (tp, flh) David Golek (g) Örjan Graafmans (p, ep) Paul Berner (b) Joost Kesselaar (ds)
オランダのラッパ吹きジェラルド・クレインは1964年生まれ。ヒルベルサム,ロッテルダム両音楽院に進んでバート・ジョリス,ヤーモ・フーゲンダイクに師事し,1997年に即興演奏の学位を取得。自己のグループを結成する傍ら,コンセルトヘボウ・ジャズ・オーケストラやアムステルダム・ジャズ・クインテットなどとも共演。ブレダ・ジャズ賞,アンデルセン賞を獲得するなど,欧州圏では早くから認められたようです。このアルバムはグループの2枚目にあたるアルバム。リーダーはフリューゲル吹き分けが示すとおり技巧派ではなく,中低域も好く使ったモデストなプレイ。リッチな音色と,歌心を大切にしたフレージングが身上です。小粒な脇もワン・フォー・オールの精神でモデストに徹し,個人技よりもグループとしての調和を重んじている。特に,リバーブは使うもののディストーションの類は使わず,クラシック・ギターの音あしらいとエレキ本来の音の間を行きつ戻りつするギターが醸し出す効果が絶妙。単なる上品なハード・バップの表層に,物憂いエキゾチズムがまるでイタリア民謡のように悲哀の籠もった陰影を与え,作品にユニークな表情をもたらすことに成功していると思います。一聴地味ながら,聴けば聴くほど深みを増す出来の良いアルバムです。

★★★★1/2
Zsolt Kaltenecker Trio "Triangular Expressions" (KCG : 007)
song for Michel yes and no a thousand years travelling marching blues farewell one finger snap babooshka I had a dream tempus fugit

Zsolt Kartenecker (p) József Horváth Barcza (b) András Mohay (ds)
リーダーは1970年,技巧派の多いハンガリー生まれ。リスト音楽院を出て1994年にプロ入りしています。良く力が抜け,粒の揃った丸いタッチを利して,右手は単音主体の軽やかなピアノを弾いてます。バップ調,モード,バラッド,ファンク,ジャズ・ロックと素材を選ばぬ全天候型。しかし,軽やかな表情の下にはかなりの技巧を隠し持っていて,特に左手の闊達さには吃驚。(「イエス“&”ノー」のタイトルから伺える通り)おそらくB.マルサリスのアレンジを範にしたであろう急速調の△埜せる,目覚ましい両手弾きには唖然としました。両手弾きといえばアメリカにもメルドー君がいますが,彼のようにインテリ臭く斜に構えたところは微塵もなし。右手は単音で外連味なく歌い,才能を利して難解さに走ることも,無駄に技巧をひけらかすところもほとんどありません。技術と歌心のバランス感覚において傑出し,他の器用貧乏なピアノ弾きとは一線を画す中庸を得たピアノ・センス。痛快でいてオーソドックスな佇まいに溜飲が下がりました。

★★★★1/2
David Weiss "Breathing Room" (Fresh Sound : FSNT 110)
armagaddon breathing room parallel sonarities getaway those who sit and wait dark forces kickback

David Weiss (tp) Marcus Strickland (ts) Craig Handy (as) Xavier Davis (p, ep) Dwayne Burno (b) E.J. Strickland (ds)
リーダーはニューヨーク出身。北テキサス大学を出たのちニューヨークへ戻って,フランク・フォスターのラウド・マイノリティやジミー・ヒースの脇役を努める傍ら,本盤にも参加しているクレイグ・ハンディらと一緒に活動してきた人物。タイプとしてはケニー・ドーハムに似ているでしょうか。内容はブレイキー・スクール色濃いファンキー・ジャズと,ショーター的な新主流派イディオムを組み合わせた今風ハード・バップ。新主流派は好きらしく,ショーターの,鬚笋辰燭蝓ぅ献隋璽悒鵑痢悒供Εッカー』を捻ったと思しきГ覆氷イ澳歃个靴離リジナルを書きますが,ファンキー臭が不思議な具合に絡まってやや懐古趣味的な風合いが濃い印象。それを野暮ったいととるか,巧みに伝承派路線を消化したモーダル・ハードバップ!と好意的に取るかで評価は分かれそうです。個人的に最近いい動きをしていると思っているドウェイン・バーノとジェフ・ワッツ彷彿のタイトな太鼓へと脱皮してきたE.J.ストリックランドがここでも好演。演奏のグルーヴ感は間違いなくこの2人に多くを負っているでしょう。心境著しいマーカスのテナー,マルグリュー・ミラー似の潤滑剤ザビア・デイヴィス以下,穴のない人選で手堅く作られたアルバムだと思います。い任魯競咼◆Ε妊ヴィスのエレピも聴けます。

★★★★1/4
Esbjörn Svensson Trio "Strange Place for Snow" (Act : 9011-2)
the message serenade for the Renegade strange place for snow behind the Yashmak bound for the beauty of the south years of yearning when god created the coffeebreak spunky sprawl carcrash

Esbjörn Svensson (p, synth) Dan Berglund (b) Magnus Östrom (ds)
スウェーデン若手の急先鋒スヴェンソン・トリオの新作です。最近ようやく日本でも名前が売れてきたようで。元々は典型的な北欧ジャズだったこのトリオが変貌したのは1995年ごろから。キース・ジャレットを消化したリーダーのメカニカルな運指を武器に,ジャズ・ロックを採り入れた『ヴェニスの冬』(1996)はこの路線の一つのピークとなり,彼らは単なる北欧トリオを超えて独自の音楽観を確立しました。彼らはその後,クラブ・ミュージックへ接近。より三位一体となった緊密なグループ表現を模索しつつ現在に至ります。同じスウェーデンのラーシュ・ヤンソンもクラブ風の味付けをしたアルバムを出しましたし,ブラッド・メルドーはドラムンベースを採り入れた新作を出しました。これも時代の流れ,ひとつの表現様式でしょう。しかし,楽際化すればするほど,どっちつかずの半端な音楽が生まれる危険も倍増する。自由と無節操の境界をいかに見極め,自分の足下を見失わずにいられるかが重要なのでは。新しい音色を導入はしてみたものの,些か消化不良さが目立った前作に比して,今作では新奇な音色が無理なく自然な形でグループ表現と一体感をなし,機材の出す音色と即興者のスポンティニアシティとのパラドックスが巧く処理されました。その最大の要因は,やはりシンセサイザー類は味付け程度に止め,デジタル・パーカッションに頼らず,明確にトリオの演奏を核にして演奏と音色の主従関係をはっきりしたことでしょう。『ヴェニス』以来の方向性が漸くまとまりをなして来て,今後の深化に期待する気になりました。演奏レベルは相変わらず最高度で録音も良い。アコースティック4ビートにこだわらない方。お薦めです。

★★★★1/4
Éric Teruel Trio "Gone Away" (Cobra Bleu : 640102 2)
faimousse Mr.CP the wind charmer nocturne II the whisper gallery past recall green fluid belluggi sequenza l'ombre du petit prince liverpool walk / inter luttes Lea's world manège d'automne

Éric Teruel (p) Patrick Maradan (b) Cédric Perrot (ds)
リーダーはフランスのピアノ弾き。既に前作が某業者を通じて国内に流通し,ピアノ・トリオ好きの多い日本でも知名度を獲得している御仁です。おおもとの基礎はチック・コリア辺りにあるようですが,エヴァンス派,ハード・バップなどの要素もバランス良く含み,硬めのタッチで些かお調子者の語り口。こう聞けば皆さんも同じ仏人のバプティスト・トロティニョンやマニュエル・ロシュマンと同じだ,とお気づきになるでしょう。この人の最大の美点は作曲センス。お遊び程度に挿入された前衛ものを除けば,特定のイディオムに偏らず程良くモダン。丁寧に書かれたモデストな佳曲揃いで,大変良く練られたものだと思います。それだけに,リーダーの技巧に難があるのが何とも残念。速いテンポでも良く動く運指にはさほど問題がないものの,タイム感が悪い。トロティニョン系のザクザク弾きを志向しているだけに,却って双方の格差が露骨に感じられてしまう。あまり背伸びしないで少し崩して演奏をしたほうが,この人の良さは生きるのになあ(例えば)。そんな彼の持ち味を良く理解しているプロデューサーが付けば,きっと良いアルバムを作るでしょう。誰かやりませんか?(笑)

★★★★★
Matt Penman "The Unquiet" (Fresh Sound : FSNT 133CD)
up and over treehugger keepsake the unquiet in piece wanton days sense of stealth desert storm

Matt Penman (b) Chris Cheek (ts, ss) Kurt Rosenwinkel (g) Aaron Goldberg (p, rhodes) Jeff Ballard (ds)
マット・ペンマンは,フィンランド出身のニューヨーカー,ミカ・ポヨーラ・トリオの一員でもあるブルックリン派のベーシストです。先頃ご紹介したクリス・チークの秀作『ヴァイン』にも参加しており,決して大見得を切ることなくラインを取っていく堅実な演奏が印象に残りました。これはそんな彼が満を持して発表した初リーダー作。前述クリス氏がお礼参りしたうえ,彼に便乗してブルックリンの最先端を走る若手の俊才ぞろぞろ大集合。豪華すぎるフロントを見ただけで,『ヴァイン』の裏盤ができあがるのは殆ど予定調和でしょう。全曲彼のオリジナルですが,ポヨーラの脇に甘んじているのが信じられないほど作曲センスも良い。『ヴァイン』ではやや抑え気味だったローゼンウィンケルはより自由に,しかし相変わらず非常にレベルの高いソロを取り,メルドーの代わりに入ったゴールドバーグもいつになくメルドー似の硬質なピアノを弾く。チークも好調を維持し,フロントには殆ど文句のつけようがありません。敢えてアラを探すとすれば,ジェフ・バラードのドラミングか。チーク盤ホルヘ・ロッシの柔軟でいてシャープな太鼓に比べるとバタついており小粒さは否めず,彼らのイディオムにとって要となる凝ったリズムの整理が充分行き届かなかったのは惜しいです。それでもなお,最も良い形でブルックリン派の音楽的成果を堪能できる秀作のひとつとしての評価は動きますまい。

★★★★
Gregory Tardy "The Hidden Light" (J-Curve : JCR1009)
the hidden light the living hope beyond the prison doors Mr.Hurt they say it's wonderful educated freedom the night traveler I only have eyes for you second wave Jonah's tears part 1 Jonah's tears part 2 take my hand precious lord

Gregory Tardy (ts) Nicolas Payton (tp, flh) Antonio Hart (as) George Colligan, Xavier Davis (p) Sean Conly (b) Eric Harland (ds)
リーダーは本盤にも参加しているペイトン同様ニュー・オリンズの出身。ご多分に漏れずウィントン一派ということになります。ウィスコンシン大やセントルイス音楽院でも学んだようですが,実は結構苦労人で,グラント(奨学金)もロクに貰えない中,ストリート・ミュージシャンで生計を立てていたこともあるんだそうです。ベニー・ゴルソンをぬか床で寝かせたような,やや活舌の悪いウネウネしたテナーは好みが分かれそうですが,それを補って余りあるモーダルな作編曲センスは似たようなタイプのジミー・グリーンと同様,新主流派以降のジャズを消化した見事なもの。多分彼は1960年代後半のジョーヘン路線でテナーが吹きたいんでしょう(にその狙いが顕著)。まだ発展途上の主役は,今後ジョーヘン譲りのオリジナルかつ魅力的なサウンドを身につけるべく頑張っていただくとして,この盤の魅力は8割方がサイドメン。コントロールの難しいフリューゲルで音を外すことなく,フレディ・ハバードばりの緊密なソロを披露するニコラスの ぜ臾鬚鮴垢蠑紊欧襪箸いΩ実のもとバタンバタン大暴れするハーランド以下脇役大荒れの△砲祕∩海箸靴泙靴拭やや粗削りですけれど,ウィントン系譜の今風モーダル・ハードバップ好きの方に。お薦めです。

★★★★1/2
David Kikoski "Combinations" (Criss Cross : 1226 CD)
improvisations - intro; trio Cecilia duo I bass interlude Tamami harmonizing instincts blues for us duo II trio improvisation II

David Kikoski (p) Boris Kozlov (b) Jeff Watts (ds) Seamus Blake (ts)
最近はすっかり多作になり,ピアノ好きの間では評価の確立した感のあるデイヴ・キコウスキー。クリス・クロスからまたまた新作が登場しました。シャープな重量級ジェフ・ワッツとは余程しっくり来るのでしょう。今回も彼との共演は継続。しかも,↓Г妊掘璽泪后Ε屮譽ぅ参加。ここまで来れば皆さんも,相性保証付きの顔触れで録音された秀作『ザ・メイズ』の再来だということがお分かりになるでしょう。一時期,彼はチック・コリアばりに淀みなく弾こうという思惑が先行し過ぎ,クラシックの練習曲を弾いているように器用貧乏なアルペジオが無味乾燥に響いたこともありました。しかしここに来て,それが少しずつ自分なりの表現スタイルへと昇華つつある様子。イージー・リスニング寸前の爽やかすぎる楽曲はこれまでと同様の趣向。間奏を挟んで組曲仕立てになっていますが,同じくオリジナル曲で固めていながら,それがひたすらにキュービズム信奉だった『オールモスト・トワイライト』と比べれば,演奏・作曲における進境は歴然。かっちりとタイトな叙情の中にチック系ピアノの明晰さを巧みに採り入れていく冒頭のピアノ独奏,フレーズが扁平で隙間恐怖症気味だった『トワイライト・・』にはない,間がフレージングに充分生きたトリオ演奏。彼の進展を伺わせるに充分です。ベースのボリス・コズロフは最近サイドメンで売り出し中の若手。ドスの利いたウォーキングでジョン・パティトゥッチの穴を見事に埋めています。

★★★★1/2
Ivan Paduart Trio + Rick Margitza "Still" (A-Records : AL 73226)
disconnected still recent development first days not for sale Nat song of hope a last drink at the club

Ivan Paduart (p, syn) Stefan Lievestro (b) Mimi Verderame (ds) Rick Margitza (sax)
フレッド・ハーシュ作品集『クレア・オブスキュア』で印象を残したベルギーの俊才イヴァン・パデュアールの新譜を発見。キーボードも弾く人なので大した期待もせず「アアまたフュージョン作を出したのか」と何の気なしに手に取ってびっくり。なんとペデュアート並みにセンスの良いジェフ・ガードナーの朋友リック・マルギッツァが絡んでるじゃないですか!聴く前から音が聞こえるこの素晴らしい組み合わせを前にしちゃ買わんわけにゃ参らんでしょう。リバーブ掛けまくりの北欧サウンドを連想させるジャケットながら,中身は歯切れ良くモーダルなエヴァンス〜ハンコック路線の新主流派ジャズ。主役がミシェル・ハーの弟子だったことを思い出さずには聴けない,適度にエッジの利いた叙情的新主流派サウンドが展開されます。マルギツァのテナーはますます柔らかくなって巧みを増し,シーンきってのハイセンスな両雄の顔合わせだけにリリカルで品位高い作編曲も周到。文句の付けようがございません。それだけに残念なのは集音。ベースの音が不自然に小さくバランスを欠きますし,ピアノの響音も悪い。せっかくの好演奏に裏方がミソを付けたのは残念でした。

(2003. 2. 18)