2000年代のジャズ vo. 10


★★★★★
Joel Weiskopf Trio "Change in my Life" (Criss Cross : CRISS 1232 CD)
there's been a change in my life enigma righteousness, peace and joy first love you are my way, my truth and my life Irish folk song the believer song for my grandmother all the things you are day of rejoicing

Joel Weiskopf (p) John Patitucci (b) Brian Blade (ds)
テナー吹きウォルト・ワイスコフのご兄弟ジョエル・ワイスコフの,クリスクロスでは3枚目となるリーダー作が出ました。デビュー作となったトリオ盤『ザ・サーチ』は,ロニー・マシューズやシダー・ウォルトンなどのメロディックなモード奏法を独自のハーモニック・センスで再現前した趣味の良い演奏。言わずもがなの作編曲も含め大いに溜飲を下げたものでしたが,そんな前トリオ作も霞むほどに強力なこの布陣!鬼才ブライアン・ブレイドと豪腕ジョン・パティトゥッチの共演なんて,余所でもまず滅多に聴けるものではありません。きっとリーダーもさぞ共演を楽しみに,入念な下準備と相当な気合いで臨んだことでしょう。傑作の誕生が分かりすぎるほど分かるこんな作品に,これ以上何をコメントする必要がありましょうか?分けてもほとんど完璧に他の2人と一体化しつつ,欲しいオカズを完璧に配膳するブライアン・ブレイドのしなやかな太鼓は出色と言って良いほど見事。この人は初期のエルヴィン的な持ち味こそ薄れましたが,レオン・パーカー辺りを範にしつつ,ますますヴァーサイタルになっている気がしました。甲種推薦致します。

★★★★1/2
Simple Acoustic Trio "Habanera" (Not Two : MW712-2)
habanera excentrica without them tamara green sky furiozi Stravinsky simple song simple jungle

Marcin Wasilewski (p) Slawomir Kurkiewicz (b) Michal Miskiewicz (ds)
最近日本にもちょくちょく紹介されるようになってきたポーランドの小粒なトリオ。小生はまだこのトリオが有名になる前,『コメダ』と題されたクリシュトフ・コメダ作品集で彼らを聴いていたのですが,それがあまりにも詰まらなかったため,以来このトリオを無視。巷でこの盤が有名になるのを横目に,今日までシカトして参りました。『コメダ』は東欧系らしく,北欧系のピアノ弾きよりも固い輪郭線と,単旋律重視の神経質な音に支配されたチックもどきの小粒なトリオでした。しかし今回のトリオ盤では,コメダ作品集に比べると随分と丸くなり,音数を減らして北欧的なリリカルさが増し,かなり方針を変えてきたのに驚きました。己の技量を好い意味で見きり,内省性の高い感情表現へと移行したのが奏功しましたね。これは,チック・コリアから出発して,現在では寡黙なグループ表現へと移行したノルウェイのダグ・アルネセン・トリオに通じるものと言えるでしょう。北欧系のリリカルなトリオを愛好される方には広くお薦めできる省エネ知性派トリオです。

★★★★1/4
Victor Alcántara Trio "Stabat Mater Inspirations" (Organic : ORGM 9716)
stabat mater cuius animam quae moerebat quis est homo vidit suum dulcem eja mater fac ut ardeat sancta mater fac ut portem quando corpus

Victor Alcántara (p) Thomas Stabenov (b) Bastian Jütte (ds)
リーダーは1975年生まれの若手。1999年のモントルー・ジャズ・フェスティバルのソロ部門で準決勝まで行った人物です(その後どこまで勝ち上がったかは把握していません)。どうやらジャズ専業というわけではないようで,リコーダー奏者マルクス・ザーンハウゼンと組んで『インビジブル・ポエム』なる作品を作るなど,もともとジャンル越境志向は強い人のようです。初リーダー作となるこの盤も,ペルゴレージに心酔しているリーダーが,それを現代の編曲手法で再現前しようと試みたところに由来がある様子。「聖と俗」を端的に表現したジャケットの画像はそうしたリーダーの意図を実に巧く表していると言えるでしょう(ジェンダー研究の資料にさえなりそうなジャケットです)。内容はオーソドックスで堅実な欧州ジャズ。ペルゴレージを題材にしているとはいえ,身構える必要は殆どなし。セカセカした太鼓の演奏は少し小粒で粗いものの,クリストフ・エルブステッセルやヴィグレイク・ストラースなどと同じ流れに属する端正な音世界に溜飲が下がります。ちなみにレーベルであるオーガニックの語幹「オルガン」は,オルガヌム(中世多声様式のことです)と語源が一緒なんですが,ひょっとして敢えてここを版元に選んだ理由もそれなのかも知れないですねえ。考えすぎですか?

★★★★1/2
Triosence "First Enchantment" (Mons : MR 874 354)
waltz for Andrea river song mayqueen shades of a sundial speaks in images a.l. story winter samba first enchantment a midnight's summer dream African festival quiet sense

Bernhard Schüler (p) Michael Kehraus (b) Stephan Emig (ds)
ドイツのエッセンを拠点に活動しているピアノ・トリオのデビュー作です。グループ名の由来は「トリオのセンス」ではなく,トリオ・エッセンス(トリオの真髄)を短くした言い回しに由来する名前なんだとか。ピアノが1979年生まれで脇の二人も1976年生まれと,メンバー全員まだ20代の若さ。当然ながら無名ですが,もともとはドイツ国内の各種コンペを荒らした手練れが集まって作ったグループらしく,1999年の結成当時にエッセンのジャズ・コンペで新人賞を獲り,同年にドイツ放送局の最優秀新人賞を獲るなど,国内では既にかなりの評価を受けているようです。演奏はチック・コリア的な軽さと明晰さを備えた淡泊な欧州トリオ。パラパラしたタッチで淀みなく弾くピアノ以下端正で線が細く,デリケートな筆致は以前ご紹介した同郷のクレメンス・オルツ・トリオにも通じるものです。同トリオとの大きな違いは和声や作編曲のセンスでしょうか。司令塔であるピアニストは,作編曲のセンスも含めて一歩間違うとイージーリスニングに陥りかねないほど衒いがなく,ジョージ・ウィンストンみたい。良くも悪くもジャズ的なアクは殆ど見あたらないサワヤカ然とした演奏ですので,徹底的に白っぽいものがお好きな方にお薦めします。

★★★★1/2
Kucich - Ibañez - Barroso "Y Después...Qué?" (i-n-g-o Musica : 018CD)
bemsha swing y después qué? giant steps duas luas negra y punto I should care una y otra vez light rhythm I loves you Porgy trio blues

Germán Kucich (p) Carlos Ibañez (b) Juanma Barroso (ds)
今だにジャケット一つで歴史に名を残したレコードの代表格と目されている可哀相な一枚に『クール・ストラッティン』があります。明らかにそれ系の足フェチどもに手を出させようと目論んだと思しきこのCDは,スペインの無名トリオによる,恐らくはデビュー録音。ドラムとベースは『カフェ・エスパーニャ』というクラブのお抱えミュージシャンらしく,このトリオも演奏仲間ということのようです。やや粗く重い太鼓,ベヨンベヨンした抑揚のない音色のベースともども,イカニモ地方ものらしい垢抜けなさが漂っているうえ,技術的な事を言えばピアノは少し調律が甘い様子(歪みが良く指の当たる中域中心にあるところを見ると,資金難で調律に出すのを怠ってるな〜?)。資金不足からか素晴らしいとは言えない録音も含め,音感の鋭い方の中には眉間に皺が寄る方もいるかも知れません。ただ,そうした技術的なことを除けば,演奏はこれらの困難を受けなければならない理由が分からなくなるほど好く出来た秀演。ジョージ・シアリングやレッド・ガーランドの薫陶を得た上品なグルーヴ感とフィーリングを,エヴァンス的リリシズムに上手くブレンドしつつ,エレガントかつスインギーに歌を紡ぐピアノが出色で,小粒ながら大変品位高いオーソドックスな佇まいに頬が緩みます。さらに輪を掛けて全面に溢れるオリジナル曲が実に良く書けている。線の細い小粒な演奏でも大丈夫な方なら,聴くほどにスルメの如く味の出る穴盤として興じ入って頂けるのではないでしょうか。

★★★★1/4
Don Braden "Brighter Days" (High Note : HCD 7076)
she's on her way I hear a rhapsody sweet T invitation underground groove not yet my favorite things montclair prelude to a kiss brighter days

Don Braden (ts) Xavier Davis (p) Dwayne Burno (b) Cecil Brooks (ds)
ドン・ブレイデンはそのどこか訥々とした生真面目なサックスの歌い回しよりも,作編曲の周到さが印象に残る職人タイプの典型で,そんなところから彼を「現代版ジミー・ヒース」だと思ったりするのは小生だけじゃ御座いませんでしょう。しかし,最近の彼は(恐らくは自分が有識者からそう思われているのを自覚していて)発奮したか,ワン・ホーンでやたらにバラエティを豊かに取ったアルバムを出してきています。目下最新録音のこの新作もまさにそれ。バリバリのマッコイ奏法でマッシヴな空気を煽るザビアー・デイヴィスと,ワンホーン盤『ファイアー・ウィズイン』でも共演していた重量級ドゥエイン・バーノに釣られてか,ブレイデンも時に格好を崩して熱っぽく吹けています。しかし,それでもやはり彼のフレーズの組み方は理知的というか穏健というか。どこか端正でバカになりきれない。これは彼の持ち味なのだから,あまり無理にトレーン系肉体労働者のふりをしなくたって良いじゃないかと思ったりもしてしまいました。作編曲は相変わらず丁寧で,サイドメンとも好く協調しており,ワン・ホーン努力の甲斐あって表現に幅も出てきた。目下彼の代表作と言って良い出来映えであり,仕事師ならではの良心的なモーダル・ハード・バップ作としてお薦めです。

★★★★
Kenny Werner "Form and Fantasy" (Night Bird : 1001)
amonkst sicilienne-intro sicilienne nardis tears from heaven dolphin dance my funny valentine Bill remembered time remembered-Lonnie's lament

Kenny Werner (p) Johannes Weidenmueller (b) Ari Hoenig (ds)
老けたメルドー(笑)ことケニー・ワーナーは,やはり頭でっかちな面が拭えないのか,脇に回るとまさに絶品としか言いようのない素晴らしいソロを執って場を引き締める反面,主役に回るとどうも目配りが行き過ぎて散漫になります。少し前に出た豪華メンバーのトリオ作『デリケート・バランス』でもそうした面が存分に出て・・。テンションが高いのは分かりますけど,少しも居住まいが崩れないくせに妙に先鋭的で崩れた曲解釈をするので結局画竜点睛を欠く,という以上の感慨がなくなるんですよねえ。この作品はフランスの録音で,ジャン=ミシェル・ピルクの脇も務め,癖球にも柔軟に対応するアリ・ホーニヒを迎えてのライヴ。外遊な上ライヴという環境からか,いつになく生気に満ちたワーナーを聴けるのが美点でしょう。それは前述のトリオ盤にも入っていた,鯆阿韻侘鯀魁A衒僂錣蕕沙多な素材を持ち出し,あれもできるこれもできると言いたげなアルバム構成は散漫で疑問符を拭えませんが,本気モードで乗りまくる生気に満ちたソロが空々しさを中和していて,ワーナーのトリオでは最近一番面白く聴きました。ところで,この盤に入ってる日本語解説は酷い!某T島氏がこの盤を肴にもう1人と対談してるんですが,全くの思いつきでテキトーな事をほざいてるだけ。何の意味もない戯れ言で,ムカムカむかっ腹が立つのを禁じ得ませんでした。こんな紙切れを申し訳程度に添付した途端,値段は一挙に1.5倍の2800円に釣り上がる。オマエ,そんな価値のある文章書いてるか?エッセイストならもうちょっと気の利いた事書けよ。批評家ならもう少し論理的にものを言う訓練しろよ。ふざけるのも大概にせえ,ジャズを食い物にしちょるのはオマエじゃ!と絶叫しつつキッチリ中古盤で半値以下に値切って買いましたが何か?(笑)

★★★★★
Lars Jansson Trio "Witnessing" (Imogena-Spice Of Life : SOL IG 0001)
success failure get it witnessing at ease Fred quiet mornings inner flow just being new blues resting in the shadow the wounded healer can heal reading music

Lars Jansson (p) Lars Danielsson (b) Anders Kjellberg (ds)
昨年末にアンデシュ・ペーションのトリオに在籍する日本人ベーシスト,森泰人氏を迎えたトリオによるライブ盤を出し,来日してライブもやったらしいヤンソン・トリオのスタジオ録音による新作が国内盤で出ました。キース路線を端正に継承する温故知新なヤンソン・トリオに,懐旧的なバップ路線のヤン・ラングレン・トリオ,機材を駆使し近未来的なサウンドを志向するエスビョルン・スヴェンソン・トリオまで抱えたスウェーデンのジャズ界は,人材のバランスが取れ,恐らく今一番実り多い時期にあると言って良いでしょう。三者三様の語り口でありながら面白いことにこの3者,いずれも固定メンバーのトリオを核にしている。目指すものはまるで異なっても,この土地に於けるジャズの隆盛が,いまだ三位一体のグループを旨としている事実は,米欧のジャズの間に生じ,今も拡がりつつある音楽観の違いを端的に示すようで面白いですね。アメリカにはこうした「あのトリオじゃなければ」というピアニスト,キース以降かなりの程度で絶滅してしまったように見受けます。甘美なオリジナルとキース丸出しのピアニズムを利したヤンソンのこの新譜も,『ホープ』を彷彿させる高完成度。トリオとしては完璧にまとまっており,何枚作っても外れなさそうなこの信頼感は,これだけCDの溢れた現代には得難いもの。万事個人主義でビジネスライクな文化が「協調する音楽」を根絶やしにしてしまったアメリカと,協調を軸にジャズを作っていく欧州ジャズの姿勢が,こんにちのジャズとしての隆盛の差異に些かでも影響しているとすれば,ある意味この新作は,ひとつの普遍的な真理を巧みに言い当てているのかも知れません。

★★★★1/2
Simon Nabatov Trio "Three Stories, One End" (Act : 9401-2)
three stories, one end Emily for Herbie epistrophy groofta I wish I knew giant steps St.Thomas wish I were there

Simon Nabatov (p) Drew Gress (b) Tom Rainey (ds)
ロシア系アメリカ人サイモン・ナバトフのトリオ作。リーダーは1959年モスクワ生まれの中堅。モスクワ音楽院を出たのち1979年にニューヨークへ移ってジュリアード音楽院に学び,いらいニューヨークを拠点に活動中。演奏は△示すとおりご多分に漏れずのエヴァンス派基調。しかしもとはフリー系なのか,凝った転調,ポリリズムの多用,アトーナルなメロディ/ハーモニック・センスを武器にした緊密な曲構成と,フリー奏法を交えた鋭角的なピアニズムはいわゆるエヴァンス派より遙かに武骨。最近のウォルター・ノリス,デニー・ザイトリン,初期ポール・ブレイら,エヴァンスの語法をより先鋭的に発展継承したエヴァンス派第2世代の強面なイディオムに一脈通じるもの。分かりにくい方には期せずして彼がに掲げたハービー・ニコルズ(演奏スタイルからして,はハンコックではなくニコルズへのオマージュだと思う)やモンク臭,ときにセシル・テイラーをブレンドした渋めのエヴァンス派であると考えれば好いです。技巧的になかなか闊達でもあり,凝った和音でなおかつ無調のムチが利き甘さに流れない音を楽しみたいファンには穴盤として興じ入って聴いていただけるのでは。名盤請負人ドリュー・グレスが出色の出来。ポリリズム多用の凝った楽曲を前に,いつもより余計に熱を帯びた絡みを披露し印象を残します。個人的には前衛前夜の初期ポール・ブレイを思わせるГ了弸的な響きに参りました。

★★★★3/4
Ralph Peterson "Subliminal Seduction" (Criss Cross : CRISS 1225 CD)
trials of trust and treachery the vicious cycle the fifth insight tears I cannot hide essence of the wizard but I never left the seventh insight social response I only miss her when she's gone synergy subliminal seduction

Ralph Peterson (ds) Jeremy Pelt (tp, flh) Jimmy Greene (ss, ts) Orrin Evans (p) Eric Revis (b)
最近,俄かに活気を取り戻してきたラルフ・ピーターソンの新譜は,ご覧の通りお抱えの弟子筋が脇を固めた新世代ブレイキー・スクール宣言ともとれる一枚。大半を作曲した彼の筆致は(特にフロントの管のハーモナイゼーションなど)まさしく10余年前のOTBそのまんま。かつてウィントン第2世代として新主流派のイディオムを「伝承」した彼が,今やすっかり大物と化して,今度は次世代を担う若手にそのイディオムを伝承している。かつて巷を騒がせた伝承派の謳い文句は,今や聞くことも少なくなりましたが,どっこいその構成員たちは着実に次世代への奥義継承を進めているのだ・・という好個の例がここにあります。難しいことは良く分からないと言う方にも,この顔触れから十二分に予測可能な今風のモーダル・ハードバップが予定調和的に楽しめる一枚と知れば充分。リーダーの太鼓は昔ほどじゃじゃ馬ではなくなりましたが,若手陣の奮闘が嬉しい。ますます音色が柔らかく滑らかになりジョーヘン化してきたグリーン,気負いばかりが目立った初リーダー作からは別人のように悠々と歌心溢れるソロを取り進境著しいペルト,普通のメインストリーマーとして弾いても,そのゴツゴツ感で強烈に自己主張しているエヴァンスと,若手の助演男優賞効果が大将を見事に担ぎ上げていると思います。お薦め作。

(2003. 4. 3)