2000年代のジャズ vo. 11


★★★★1/2
Orrin Evans Trio "Grown Folk Bizness" (Criss Cross : CRISS 1175 CD)
rocking chair firm roots that old feeling the elm Bernie's tune volition rhythm-a-ning* toy tune** Route 80 East**

Orrin Evans (p) Rodney Whitaker (b) Ralph Peterson (ds) Ralph Bowen (ts)* Sam Newsome (ss)**
オリン・エヴァンスはフィラデルフィア出身の若手ピアノ弾き。ラルフ・ピーターソンにかなり可愛がられているようで,彼絡みの録音ではかなり頻繁に名前を見かけるようになりました。モード奏法が基調にありますが,一般の黒人モード弾きと違い,敢えて洗練されたクラシカルな奏法に背を向ける自己主張の強さが彼の持ち味。黒人ならではのブルージーなフィーリングをたっぷり含んだ適度に泥臭いタッチ,モンクの影響下に前衛まで視野に入れたゴツゴツとパーカッシブな打鍵を織り交ぜて,オリジナリティのある鋭角的なピアニズムです。ルドガース大学ではケニー・バロンに師事していたそうで,師匠との絡みで言うとバロンの名盤『スクラッチ』を思わせるアプローチのピアノ弾きといえましょう。自己主張が強い割には,ルーツ・ミュージックや前衛奏法を無理なく主流派的なピアノの美意識へと絡めていくバランス感覚が非常に優れていて,実はかなりクレバーなピアノ弾きだという印象。それは歌もの ぅ轡澄爾劉◆ぅ皀鵐のАぅ轡隋璽拭爾劉┐鵬辰─ぢ召旅人ピアノ弾きはまず採り上げないリッチー・バイラークのい泙覇れる,貪欲なまでの視野の広さに現れています。前衛ものはダメという方も充分興じ入って聴ける間口の広さ,それでいて器用貧乏に陥らない芯の座った武骨な音に唸ります。

★★★★1/4
Mark Aanderud "Trio '02" (Arta : F1 0116)
prologue dark places new morning just like home frozen drops song for Malika sambamba three for Kenny buenos dias con samba epilogue

Mark Aanderud (p) Vít Svec (b) Pavel Razím (ds)
初めて耳にするリーダーは1976年メキシコ・シティ生まれ。メキシコ国立音楽院に進んだのち,バークリーへ。1994年には早くもプロ入りしてペレス・ブラード楽団,イグナチオ・ベロアなどと共演。その後,チェコへ移ってトリオを結成し活動中のようです。弱冠26才ということになりますが,その若さにしてこれが初リーダー盤でないだけに力量は確か。鋭角的な硬めのタッチを利したセカセカ乗りの右手が,チック・コリア風にパラパラ転がる上に,マッコイ風の直線的なコードあしらいがモーダルなドライブ感を生む。作編曲を含めたトータルな印象は,初期ピエラヌンツィあたりのメカニカルなジャズでしょうか。再利用されたボール紙みたいな冴えない外装からは信じられないほど上手いピアノで驚きました。サイドメンの2人はいずれもチェコ人。何だかちょっと前に紹介したラーシュ・スンドベリ盤のサイドに似ていて,それほど闊達には思えませんけれど,重いウォーキングのベースはプラハ音大卒。太鼓ともどもキャリアはリーダーよりも豊富なようです。伊ロマン派ものなどお好きな方は溜飲を下げていただけるのでは。お薦め作。

★★★★3/4
Vigleik Straas Trio "Subsonic" (Curling Legs : CLPCD71)
three princes mist zik-zak AR subsonic feng 7

Vigleik Straas (p) Johannes Eick (b) Per Oddvar Johansen (ds, perc)
数年前に同じカーリング・レッグスから『アンドレ・ビルダー』という,ヒジョーに地味なんだけど非常に内容の良いキース系北欧ジャズ盤を出したヴィグレイク・ストラース・トリオの新譜が出ました。この間リーダーは,1999年に一枚ソロで録音を出していたと記憶しますが,それを除けばほとんど音信不通。前作の内容が線も細く地味だっただけに,大丈夫なんだろうかと気にされた方は多いのでは。前作に比べると演奏の自由度が上がり,中には明確なビートを刻まない曲もありますけど,ボボ・ステンソン辺りにありがちな晦渋さはほぼ皆無。相変わらず妙な色気や派手な展開など一欠片もなく,ひたすら寡黙,端正でデリケート。破綻のない北欧的なグループ表現を探求する玄人芸の妙味に溢れた仕上がりはまさしく職人気質。やはりこのトリオは期待を裏切らないと溜飲を下げること疑いなし。僅か6曲と少ない楽曲も,脇の2人の提供した2曲がやや垢抜けない他はどれも良く書けたメロディックな佳品とくれば,却って余計なゴミが混ざらなくて良かったですし,キースのピアニズムを小粒に消化したこのトリオらしい燻し銀のグループ・エクスプレッションも不変。秀逸作です。

★★★★3/4
Edward Simon Trio "The Process" (Criss Cross : CRISS 1229 CD)
navigator calabria the process azules Woody'n you reprocess tonado del cabrestrero i'm in the mood for love azules reprise

Edward Simon (p) John Patitucci (b) Eric Harland (ds)
一頃ちょっと影の薄かった元チック・コリアの傭兵ジョン・パティトゥッチは,最近になり復活。脇役で暴れるようになりました。そんな彼には同じクリス・クロスに一人,良く共演するお仲間がいる。そう,デヴィッド・キコスキーです。この人選がそのまま今作のサイモンを上手く表している。本盤における,彼の幾何的で明晰なフレージングやハーモニック・センスは直接的と言って良いほどにデヴィッド・キコウスキーの嫡流と形容して良いでしょう。元々ラテン・ジャズから出発。当初はキューバン色濃いピアノを弾き,「垢抜けないな〜」くらいの感慨しかなかった彼。テレンス・ブランチャードのグループに加わって,嫌でも洗練されたブランチャードの洗練された楽曲を弾くようになってから,見る見る化けました。今作では,そこからさらに一歩踏み込んで,今風のブルックリン・サウンドを目指したのでしょう。初期のピアノ・トリオ作がラテン色丸出しだったのを考えれば,長足の進歩。やっぱり環境って大事なのねと感心するばかり。豪華な脇も見事な助演で楽曲も推敲が行き届き,正直キコウスキーよりセンスが良いくらい。トリオ盤としては非常に良くできたものだと思います。チック・コリア,ディヴ・キコウスキーが好きな方は間違いなく快哉を叫ぶでしょう。ただ,『カレンツ』当時の彼はニューヨークにいながらブルックリン被れせず,どこか欧州のジャズメンを思わせる寡黙で硬質なタッチで弾くスタイルをとっていましたし,そういうスタイルこそ大同小異なNYシーンで彼の存在を貴重にするものだという気がするのも確か。キコウスキーの傍系に収まってしまったのは少しばかり残念なんですが・・,これは贅沢というものなんでしょうねえ。

★★★★1/4
Bert Seager "Pioneer" (Invisible Music : IM-2026)
where have all the flowers gone bunny dune pioneer blue yonder you and the night and the music trio improvisation joyful neus I should care pioneer (reprise)

Bert Seager (p) Masa Kamaguchi (b) Také Toriyama (ds)
バート・シーガーはまだ日本では知名度が殆どないピアノ弾きですが,数年前に『レゾナンス』という素晴らしいエヴァンス派の名盤を発表し,個人的には強い印象のあるピアノ弾きの一人。エヴァンス派と言っても多種多様ですが,この人のそれは理知的な側面を継承したもので,同じエヴァンスでもラファロ〜モチアン時代のそれに近い。技巧派ではないものの,作曲センスは秀逸でタッチも丸く,フレーズは良く歌う。玄人受けするいいピアノ弾きだと思うんですけどねえ。今ひとつ知名度が向上しないのは,時に才気に勝ちすぎて前衛に走るためでしょうか。日本人2人が脇を固めているのが目を引く本盤は,2002年発表の最近作。前衛もありの彼だけに心配しましたが,蓋を開けてみれば全くの杞憂でした。これまでになく衒いのないポエティックな演奏とオリジナル。一言でいえば田舎の田園風景を長閑に描写した音詩(トーン・ポエム)集。アレッサンドロ・ガラチや,ファウスト・フェレイオロ系の牧歌的な曲想は,甘美で洒落た『レゾナンス』とはまた違った世界です(唯一収録された過去作品Г鯊召板阿比べればお分かりになるでしょう)。脇の日本人はひたすらキーパーに。ポリリズミックな遊びは得意ではないようで目立ちませんが,技術はまずまずな様子です。「日本人をもっと応援せよ」と最近良くお叱りを頂きますので,取り敢えず今月はこれで許して頂戴(笑)。

★★★★1/2
Christian von der Goltz "Dreaming" (YVP : 3106 CD)
katharsis empty hands nardis Duke Ellington sound of love romantic waltz next step forever true dreaming

Christian von der Goltz (p) Ed Schuller (b) Eliot Zigmund (ds)
リーダーは1959年生まれの独人ピアノ弾き。ベルリン芸大時代は絵画を勉強していた変わり種ながら,両親が演奏家という恵まれた家系のもとピアノは6才から学び,ウォルター・ノリス,ケニー・ワーナーにも学んだ経歴の持ち主です。随分前に,ドイツに本拠があるMonsから一枚だけリーダー作を出したものの,その後さっぱり音沙汰がなくなったので心配していたところへ突如届いたのが本盤。アメリカ寄りなメンバーを前に,前作で見事に協調していたあのトリオは解散したのかと思ったら,事情は少し違う様子。たまたまベルリンでエド・シュラーのライブを聴いたゴルツが気に入り,自らブルックリンまで乗り込んで録音したんだとか。エリオットの太鼓はやや重いので,ゴルツとの相性を心配しましたが,蓋を開けてみれば杞憂でした。ゴルツが惚れ込むだけにサイドメンは2人とも見事で,前作を凌ぐデリカシーと一体感を提供していると思います。内容は1960年代のハービー・ハンコックを思わせるリリカルな曲想と,シダー・ウォルトンを思わせる端正なモード・ピアノが好ましくシンクロした新主流派ジャズ。前半はスタンダード半々,後半は自作4曲の体裁。作編曲に長けた人だけにオリジナルが実に良く書けている。ピアノは時折空フレーズがちらつきますし,控えめで理知的な主役の人柄か,一聴地味に思う方もいるかも知れませんが,聴けば聴くほどじわじわと琴線に触れてくるタイプの典型。ちなみにベースの名前,どこかで聞いたことがありませんか?そう,ガンサー・シュラーの息子さんです。

★★★★1/4
Jacob Karlzon Trio "Today" (Prophone : PCD 059)
nardis yesterdays bubbles if I should lose you bye, bye blackbird introduction to a hymn sorgen och glädjen in your own sweet way 'round midnight goodbye

Jacob Karlzon (p) Mattias Svensson (b) Peter Danemo (ds)
前2作が静かに評判を呼んでいるスウェーデンの若手有望株,ヤコブ・カールゾン・トリオの,トリオでは三作目となる新譜です。一見してお分かりのように今作は,前作までとは違い,ピアノとベースが1曲ずつ持ち寄ったオリジナル以外はスタンダード中心の選曲。手垢の付いた楽曲を肴にするとなると,若い人ほどやっぱり弄り回したくなるのは世の常。このアルバムも,素材は多少作りすぎるほど重度にいじり回され,原型はかなりの程度崩壊しています。しかし,アドリブに入った後の盛り上げ方,軸音を緩やかに上下行させながら元のコード進行の周囲を浮遊する歌い回しの心憎さなどは紛れもなくこの人のセンスの良さを示すもの。編曲も下手というよりは好みの分かれるところ大なアレンジといったほうが良く,これを買うか否かは聴き手の側の許容範囲の大きさに依存するでしょう。原曲はあくまで素材に過ぎぬと割り切って,動機は動機,アドリブはアドリブで楽しめる方であれば充分買いの一枚であると思います。

★★★★1/4
Ryan Kisor "The Dream" (Criss Cross : CRISS 1215 CD)
minor ordeal the dream deception calypso cove Bert's blues panic attack I should care fiesta mojo*

Ryan Kisor (tp) Peter Zak (p) John Webber (b) Willie Jones III (ds) Eric Alexander (ts)* Renato Thoms (perc)*
スランプを脱したか,最近また精力的に活動を再開した彼。国内盤も出たようで,良かったですね。本人も自信が出てきたんでしょう。この盤も含めワン・ホーン盤を連発するようになりました。彼のスタイルはメインストリームでオーソドックスなもの。これ見よがしなスケール・アウトやハイトーンを弄することなく,初期フレディ・ハバードのポスト・バピッシュなフレージングと,ケニー・ドーハムを思わせる音色でスイスイと吹くスタイル。ということはウィントン以降俊才を送り出し続けるミシシッピー河仲間のメインストリームなラッパ吹きと言うことになるでしょう(彼はアイオワ州出身で,セントルイスはお隣です)。尤も,音圧が高い方ではなく線もやや細い彼は,ニコラス・ペイトンやスタッフォードに比べると小粒。マウスピースも彼らほど若い番号(ハイトーン重視)のものは選んでいないようで,綺麗な音色と的確なコントロールが身上。本人は新主流派的転調をてんこ盛りにした急速調のΔ△燭蠅鴆チ屬反瓩仰せたいのでしょうが,個人的には背伸びをするよりも,むしろミディアム・テンポで,ブルースのイ筌蓮璽鼻Ε丱奪彡喚,覆匹鬚犬辰り歌うほうが,巧さと持ち味を発揮できるのではないかと思います。派手なところはないですが,良くできた一枚なので,オーソドックスなハード・バップ・ファンは一聴の価値があるのでは。

★★★★3/4
Marcus Strickland Quartet "At Last" (Fresh Sound : FSNT 101)
Iris three for her at last the ninth life when in doubt... joy song serenity February 21 Gar-zone

Marcus Strickland (ts, ss) Robert Glasper (p) Brandon Owens (b) E.J. Strickland (ds)
ここ2年ほどの間にみるみる「顔の見える」プレーヤーへと急成長してきたマーカス/E.J.のストリックランド兄弟が,マーカス名義で満を持したリーダー・デビュー。新主流派を代表する名作曲家であるショーターの,肇献隋璽悒鵑劉Г裡俺憤奮阿蓮ぅ蝓璽澄爾諒徇鬚鮖任┐覘(ジョージ・ガゾーンへのトリビュートなのは明らかです)以下全てオリジナル。この選曲からしてリーダーの趣味は明らかでしょう。リーダーのテナーはますます理想が明白になり,ジョーヘンの柔らかな肉感とショーターの引き締まった音色をバランスさせようとの意図が明白に聴き取れるようになりました。1960年代ブルーノートを再現しようとする日本人エンジニアの懐旧趣味も効果を挙げ,これ以上ないほど見事に1960年代黒人新主流派ジャズの呪術的な世界が蘇ります。そんなもんアナクロだと言う方は聴かないで宜しい。全曲周到な作編曲で捨て曲なし。やや無名のピアノも上手くアドリブも見事と3拍子揃った秀逸盤,固いこと言わず楽しんだもんの価値です。

★★★★
Fred Hersch Trio "Live at the Village Vanguard" (Palmetto : PM 2088)
bemsha swing at the close of the day phantom of the bopera endless stars swamp thang stuttering some other time days gone by miyako / black nile I'll be seeing you

Fred Hersch (p) Drew Gress (b) Nasheet Waits (ds)
フレッド・ハーシュはデビュー作『ホライズンズ』が1985年頃でしたから,かれこれ18年選手。この人は作編曲能力が突出していて,欧州随一の作編曲センスの持ち主イヴァン・パデュアールもトリビュート盤を出し,頻繁にそのオリジナルを愛奏しているほどです。しかし,その割に本国で(は勿論日本でも)いまだ余り芳しい評価を受けていないようで残念。尤もこれは彼にも原因があり,リーダー作の多くが人選に無頓着。特に彼のドラマー選びは無頓着以外の何者でもなく,過去のリーダー盤の多くがドラマーのがさつなバックアップで凡作に駄してしまいました。太鼓にブルックリン派の若手ナシート・ウェイツを迎えた本トリオ盤は,久々に文句のない人選で挑んだ意欲的な内容と言えるでしょう。やはり年齢は争えないのか,往時のチック・コリア的な闊達運指は(急速調で)若干粗く流れますし,ライヴということもあってか編曲もラフ。やの後半は本人の技量を超えての急速調でガサツさを露わにします。しかし一転,緩奏における表現力は独壇場。甘美な↓きЛ─吻前半)における初期ハンコック・ライクな叙情性は,彼の群を抜いたセンスの良さを示すものです。久々にこの人の実力を真っ当に評価して貰えそうな出来になっているのでは。これをお気に召した方は,彼のデビュー作もぜひ。

(2003. 6. 22)