2000年代のジャズ vo. 12


★★★★★
Terje Gewelt "Interplay" (Resonant : RM13-2)
blue in green voila voila a remark you made midnight mood little eyes the fens may-be when she consoles me solar November

Terje gewelt (eb, b) Christian Jacob (p)
ピエール・サンカンの弟子にしてメイナード・ファーガソンの秘蔵っ子でもあるアメリカのピアノ弾きクリスチャン・ジェイコブと組み,デュオ作『デュアリティ』で瞑想的かつ審美的な音世界を展開したノルウェイのベース奏者テリエ・ゲヴェルトが,再び彼と相見えて素晴らしい新譜を吹き込んでくれました。二枚目を作ったということは,本人たちにとってもこの共演,大いに愉しむことのできた,充実の吹き込みだったのでしょう。ザヴィヌルのい函い澗犬献泪ぅ襯垢劉を散らせた他は,オリジナル曲中心の構成。そして,やはり今作でもアメリカ人らしくカラッと弾くジェイコブのピアノが,大きな美点となっています。ただでさえインティメートな編成である二重奏は,北欧の演奏家同士では,過度な耽美主義へ走ったり,抽象的な対話へと陥りがちになります。あくまで明瞭な輪郭線を保ったうえで快い叙情性を与えていくピアノの持ち味こそ,この盤の魅力の核を成すものでしょう。しかし,それも,自分のリーダー作でありながらスタンドプレイに走ることなく,あくまで堅実にピアノを支える主役の奥ゆかしさゆえに可能なこと。互いの美学と技量とが見事に一体となったこの顔合わせにこそ求め得るものと言えましょう。数年に一度のゆっくりペースで構いませんから,下手な色気を出すことなしに,このまま今後も2人仲良く,吟味の行き届いたアルバムを作って欲しいものです。甲種お薦め。

★★★★3/4
John Taylor "Rosslyn" (ECM : 1751)
the bowl song how deep is the ocean between moons rosslyn ma bel tramonto field day

John Taylor (p) Marc Johnson (b) Joey Baron (ds)
ジョン・テイラーは,ECMのメジャーな演奏家は殆どがお世話になっている脇役重宝型の代表格。ECMが牽引してこんにちの形になった北欧ジャズの世界は,実はその形成期に於ける主要作の大半にさりげなく加わっていたこの人の,冷徹なピアノに多くを負っていた経緯があります。豊富な脇役歴が示す通り,誰の脇に回っても特有の理知的な音選びで格調高い気品を添加する彼。しかし,なぜか主役としての録音には良いものがありませんでした。初期の2枚以降は,リーダー盤も殆どがマイナー盤。トリオ作も『ブルー・グラス』以降は見あたらず。その間に彼は,初期のメカニカルなモード奏法から脱皮。独自の深く厳粛な語法へと辿り着きました。似たスタイルをとる人は今や珍しくありませんが,自らそのイディオムを開拓した彼のピアニズムは,その格調高さ,厳然とした佇まいにおいて傑出している。リーダー録音の機会が与えられなかったのは,まさに不条理としか言えぬものでした。そんな思いで待っていた全ての皆さんに,ついに朗報が。長く待たれたまともなトリオによるリーダー作です。待った甲斐がありました。ECM屈指の両雄の柔軟なサポートを受け,極限まで音数を削った淡々とした佇まいの中から浮かび上がるテイラーの透明なリリシズムには,ただただ清々しい美意識があります。お薦め作。

★★★★1/4
Luigi Martinale Quartet "Urka" (DDQ : 128053-2)
urka unexpected news yes I have news from the pier crooked blues open space the ring we need a medium changing pictures yes, I have : take 2 nothing is wrong back to the roots

Luigi Martinale (p) Nicola Muresu (b) Alessandro Minetto (ds) Fabrizio Bosso (tp, flh)
イタリアのピアノ奏者ルイジ・マルティナーレは,1986年にヴェルディ音楽院を出たエンリコ・ピエラヌンツィの弟子。昨年,少し話題を呼んだ『リンクス』という企画盤があるほかリーダー盤もあり,特にドリュー・グレスを迎えたトリオ盤『スウィート・マルタ』は密かに秀作の呼び声も聞こえるほど。決して技巧派ではないんですけれど,有名どころでいえばシダー・ウォルトン,同郷の人物で言えばマルチェロ・トノロ辺りを思わせる訥々としたピアノ・タッチを利し,朴訥な単音ソロを組み上げていく律儀なピアニズムと,ピエラヌンツィの弟子らしくセンスの良い作曲センスで勝負する,玄人好みなタイプだといえるでしょう。この盤は2002年に出たもので,ラッパにイタリアで目下最も活きのいい若手,ファブリツィオ・ボッソを迎えたのがミソ。シダーに似ていると言うことは,失礼ながらリーダーは主役としては些か地味と言うことでもあります。それだけに,無理をせず演奏に核を持ってくることにより,自分は脇でメロディ・メーカーに専念でき,畢竟この人の持ち味もいい具合に発揮されているんじゃないでしょうか。太鼓がバタついてるのは残念ですけれど,ラッパは大活躍。ケニー・ホイーラーを思わせる主役の曲想に合わせ,こちらもホイーラー趣味のフリューゲルで飄々と協調しています。

★★★★3/4
Hubert Nuss "The Underwater Poet" (Greenhouse : CD 1016)
the underwater poet a blue-orange and a purple-crimson mode in the garden of 'Taylor's perfection' coloured autumn Ollysses and the unexpected dream when you wish upon a star purplish blue out of the darkness a view from both sides the brightest day one for my baby blue-violet sundown in gold and brown

Hubert Nuss (p) John Goldsby (b) John Riley (ds)
寡欲なためなのか,それとも「似たようなピアノなら沢山いる」と誤解されているためなのか。ソリストとしてはどうも過小評価されているとしか思えないジョン・テイラー氏。自分が評価されないなら,手兵を育成して黒幕に・・そう考えるようになったのかどうか。ここ数年,彼はコローニュ音楽院で後進の育成を開始。1990年代の終わりとともに,徐々にその成果が形になって現れ始めています。ヒューベルト・ヌッスのデビューも,テイラーの生み出した最も良い実りの一つでしょう。同じくジョン・テイラーの高弟,クレメンス・オルツ,トマス・リュッケルト同様,この人も近現代の楽理を十分に咀嚼した知性溢れる演奏が持ち味。こちらは彼のトリオ第2作で,1997年のデビュー作から5年ぶりの新譜となりました。一聴,オーソドックスな北欧ジャズのスタイルを基調に据えつつ,背後では安直な前後の脈絡を鮮やかに奪胎していく思索的な和声および対位法センスが絶妙な縦糸となって緊密さを損なわない。メシアンやバルトークをルーツとし,リッチー・バイラークからビル・キャロザーズへと連なるジャズ界のハーモナイズ脱構築主義者たち。近現代音楽の遺産を肯定的に捉え,ジャズを再定義しようとする彼らの中で,敢えて独自の語り口を開拓していく毛並みの良さに唸ります。

★★★★1/4
Mulgrew Miller and Wingspan "The Sequel" (MaxJazz : MXJ 204)
go east young man the sequel elation holding hands know wonder dreamsville spectrum it never entered my mind just a notion samba d'blue

Mulgrew Miller (p) Steve nelson (vib) Steve Wilson (as, ss) Duane Eubanks (tp) Richie Goods (b) Karriem Riggins (ds)
デビュー当時はマッコイ・タイナー風のゴリゴリ・モード弾きだったマルグリュー・ミラーも,最近は随分と丸くなって,ヴァーサイタル且つ柔軟になりました。自分の実年齢をよく弁え,無理せず現実を直視する姿勢は好感度大です。リーダーよりもむしろ脇で良く姿をお見かけするのも決して偶然ではないでしょう。このアルバムは2002年暮れに出たもので,自身の1987年作『ウィングスパン』の続編という体裁を取ったもの。元OTBのウィルソン,TCBに優れたハード・バップ作を持つユーバンクスの2管フロントという体裁は,ハード・バップ仕様。いっぽう前回作でも共演している鉄琴のネルソンとの繋がりはハービーとボビー・ハッチャーソンのコンビを思わせる新主流派路線。この辺りのバランス感覚が,そのままこのアルバムの内容を物語ります。個人的には評価が低すぎると思わずにはいられないカリーム・リギンズと,ゴリゴリ音で堅実に脇を固めるベースのグッズという若手二人も技量確か。楽曲も良く書けていて,さすがはベテラン。手堅い作りに快哉を叫びます。お薦め作。

★★★★1/4
Zsolt Kaltenecker Trio "Rainy Films" (KCG : 005)
train summer night autumn leaves raindrops keep fallin' on my head full moon blues connection cuba closing hour

Zsolt Kaltenecker (p) Horváth József Barcza (b) András Mohay (ds)
最近はすっかりファンも増えたハンガリーの技巧派ソルト・カルトネッカーは1970年生まれの若手。クラシックでも名門のブタペスト音大卒を出た俊才です。有名になるだけに滅法上手く,しかも過去にジャズ界を荒らしたただの技巧バカ(例:某ル●ルカバ)とは違い,あくまでピアノをオーソドックスかつ丸く鳴らす技術に長けたピアニズムは好感度大。このアルバムは2001年に出たもので,通算五枚目にあたるリーダー作。メルドーやキース・ジャレット,エヴァンス,フィニアス・ニューボーンなどを雑多に消化しつつも,それらはあくまで「メロディックかつオーソドックスな演奏の飾り」だと割り切るバランス感覚の良さに加え,それら雑多なスタイルの摂取を可能にしている,東欧人らしい闊達な技巧は群を抜いたものがあると思います。この盤でも雑多な元ネタを弾いていながら散漫さはいたって僅少。この辺りが過去のジャズ・エリート(技巧派の●ンサロやチョウチョ,知性派のワーナーやメルドー)とは大きく異なる彼ら独自の魅力でしょう。バプティスト・トロティニョンやトマス・リュッケルトなど,バランスの良い技巧派ピアノ・トリオ盤に快哉を叫んだ方は是非。

★★★★3/4
David Berkman "Leaving Home" (Palmetto : PM 2078)
leaving home creepy forever astor unchained harmony mayor of smoke tangoed web aftermath knots flotation device little and big embraceable you

David Berkman (p) Brian Blade (ds) Chris Cheek (ts) Sam Newsome (ss) Dick Oatts (as, fl) Ugonna Okegwo (b)
デヴィッド・バークマンは1985年にニューヨークへ進出し,トム・ハレルの脇で腕を上げた白人モード弾きです。ケニー・ワーナーに似て,幾何的なモード曲で見せるパラパラしたアブストラクトな右手と,スペーシーな左手のコードを,巧みに絡めつつ幾何的な演奏をするのが持ち味。エリオット・シグムンドが1993年に出した隠れ秀作『ダーク・ストリート』により,日本でも一躍注目されるようになりました。既に3枚のリーダー盤もあり,これが最新作と言うことになります。彼は北オランダ音楽院でも教鞭を執る知性派で,そのせいでしょうか。前作『コミュニケーション・セオリー』は読んで字の如くかなり晦渋。今作同様豪華なサイドを従え,クールで理知的なサウンドを展開してはいたものの,セオリーばかり先に立ち,およそ楽しみのためのレコードとは言い難いものでした。今回は好い意味でこなれて新主流派的な叙情性が増し,数段音楽として生きたものになっていると思います。それでいて,モーダルなハーモニーを隙間たっぷりに鳴らすピアノの背後で密かに緊張感を持続するのは,細かく書き込まれた妙に黒っぽい3管アンサンブル。2者の巧妙なコントラストにより,幾何的かつ都会的なブルックリン派のスタイルの中で,ひと味違う今風サウンドを現前していると思います。イイです!

★★★★3/4
Stefano Bollani "Les Fleurs Bleues" (Label Bleu : LBLC 6635 HM 83)
l'histoire qui avance rever et reveler cidrolin il duca se non avessi piu te l'arca bar biturico chippie si tu t'imagines dans mon ile it could happen to queneau un giorno dopo l'altro Raymond

Stefano Bollani (p) Scott Colley (b) Clarence Penn (ds)
イタリアの若手俊才ステファノ・ボラーニは,既にフランコ・ダンドレアとのピアノ・デュオ盤などで輸入盤好きの間では知られていた人物。1972年生まれの彼は1993年にフローレンスの音楽大学を出たそうですが,もともとはポップ・ロックのオーケストラにいた変わり種です。彼の名前を一躍高めたのが,名手クラレンス・ペンとスコット・コリーという大物を迎え,満を持して発表されたこのトリオ作(2000年にジャンゴ賞を受賞)。これを機に,かのヴィーナスからもリーダー昨が出たようなので,今後しばらくはいいパトロンが一杯ついて,寝ながら弾いても儲かることでしょう(笑)。ピアニストとしての基本はエヴァンスやハービー・ハンコック辺りにあるようですが,この人の持ち味は,ところどころに挿入されるパーカッシヴ奏法。モンクやセシル・テイラーの影が,一般的なイタリー・ロマン派ピアノ・トリオのフォーマットに,より自由で才気走った表情を加味する様は,ボラーニの方がより叙情的とはいえジャン=ミシェル・ピルクに相通じるものがあります。冒頭いきなり出現する無多調とパーカッシヴ奏法にゲンナリする方は多いと思いますが,そんな方はここで停めずにぜひ2曲目以降を。

★★★★1/4
Brad Mehldau "Largo" (Warner Bros. : 9362-48114-2)
when it rains you're vibing me dusty mcnugget dropjes paranoid android Franklin Avenue Sabbath dear prudence free willy alvarado wave/mother nature's son I do

Brad Mehldau (p, vib, effect) Larry Grenadier, Darek Oleszkiewicz, Justin Meldal-Johnsen (b, eb) Matt Chamberlain, Jorge Rossy, Jim Kiltner, Victor Indrizzo (ds, perc) Steve Kujala, David Shostac (fl) Jon Clark, Earle Dumler (ob) Gary Gray, Emile Bernstein (cl) Peter Mandell, Rose Corrigan (bssn) William Reichenbach, Phillip Yao, Joseph Meyer, Jerry Folsom (hrn) George Thatcher, Kenneth Kugler (b-tb) Jon Brion (g)
デビュー盤こそオーソドックスなピアノ・トリオだった彼も,その後ライヴ録音を経てスタジオとライヴの分業体制を確立。ライヴでは技巧とインスピレーションの限界に挑戦する傍ら,スタジオでは作り込みの姿勢が一作毎に増し,コンセプト・アルバム仕立ての『プレイセズ』は,フォーマットこそピアノ・トリオながら,ニヒルに醒めたコード遣いと所在無げな右手のフレージングで独自の頽廃芸術の完成を目論んだものでした。昨今のポップス界を良く知らない小生に具体名は挙げられませんけれど,イ悩里蠑紊欧蕕譴織譽妊オヘッドなんかも,万事に褪めた現代を端的に反映し,ニヒルな音楽を作っている様子。もともとニヒルなメルドー君が,彼ら共通の「褪めた音楽」をジャズ流に再解釈しようと考えるのは自然ななりゆきと言えるかもしれません。もう一曲採り上げられたが【元祖:ニヒルな音楽】ジョビンというのも,この世代の音楽的ルーツを端的に示すものではないでしょうか。吹奏アンサンブルを付帯した物憂い和音展開と,各種打楽器,エフェクター類による今風リズムの2つが編曲の中核。クラブ・サウンドの導入自体は珍しくもありませんが,欧州勢があくまでトリオを核にするがゆえ,どうしても電子機器に頼ってしまうのに比して,リズムを増員し本格的に打楽器陣を拡張。装飾音以外は機材に頼らず,理念としてのジャズの相互供応性を損なわずに今の耳にも充分面白いものを作った点は評価に値しますし,表面的なアレンジを度外視して聴いても,やはりこの人のピアノはセンス抜群。ここからジャズへ入ってくるルートは今後大いにありでしょうし,新しい世代にとってはスヴェンソン・トリオの『ヴェニスの冬』と並ぶマイルストーンとなるでしょう。近未来的なリズムは,年輩ファンには抵抗があるかも知れませんが,そういう方はリズムを頭の中で切り離せばすんなり聴けるはず。そう,表層の新奇なリズムを取り払うと「【スピーク・ライク・ア・チャイルド】の21世紀版」なんですよ(笑)。

★★★★1/4
Quartetto LoGreco "Reflections" (Schema : SCCD 339)
somethings that you know everytime we say goodbye giant steps: flute version reflections dropping four Stella by starlight: tenor version a journey to the temple trough the planet ask me why Stella by starlight: flute version giant steps: tenor version

Michael Rosen (ts, ss) Sandro Cerino (fl) Marco Bianchi (p) Enzo Lo Greco (b) Gianni Lo Greco (ds)
最初はただアヤシイだけに過ぎなかったスケマは,ここ数年,ファブリツィオ・ボッソを始めとする若手スターを送り出して急成長してきたイタリアのレーベルです。意外にロマン派への傾倒が著しい昨今のイタリア・ジャズ界にあって,ひたすら衒いのないメインストリーム・ジャズを追求している姿勢が潔く映るのかも知れません。シリアスなジャズ界では全く無名といっても良いこの兄弟は,ソウルスタンスというボッサ・ユニットの構成員。1999年にデビュー後,録音も4枚ほどあり,この他にもイタリアの映画音楽を再演した企画盤『シネマ・イタリアーノ』なる盤で,あのパヴァロッティやスティングなんかとも顔を合わせているようです。そんな軽めの経歴から期待薄のまま買ってみたんですが,これが意外にも,普段の欲求不満を晴らすかのようなモーダル・ハードバップ。ジャケットからも明らかなように,ドラム・セットは極めてシンプル。ベースも変なラファロ奏法でお茶を濁すことなく,デイヴ・ホランド風の音色で低域をかちっと支える。リーダー作なのに出しゃばることなく,スイング本来の気持ちよさに的を絞るご兄弟の演奏哲学は潔いの一語です。フロントも小粒ながらそれぞれ好演。ぶっきらぼうな音色を出すテナーはハードボイルドですし,調律を外し柔らかく倍音を確保したピアノ上でコロコロ右手とモーダルな左手を合わせ,ロニー・マシューズやシダー・ウォルトンのような燻し銀のピアニズムを披露するビアンキは一層好演。60/70年代趣味丸出しのくぐもった録音環境がさらに加わり,まで入ってくれば狙いはもはや明らか。スティーリー・ダンに憧れたサミュエル・パーディーが30年後の今,ダンもどきを制作するように。この兄弟にとってはいつまでも,60年代後半のジャズが【古くて新しい】音楽なんでしょう。

(2003. 10. 11)