2000年代のジャズ vo. 13


★★★★1/2
Helio Alves "Portrait in Black and White" (Reservoir : RSR CD 176)
frenzy sambetinho angel eyes portrait in black and white falling grace you must believe in spring loose samba song for Anna loro

Helio Alves (p) Santi Debriano (b) Matt Wilson (ds)
先頃亡くなったジョー・ヘンダーソンは,最晩年にジョビンへのトリビュート作『ダブル・レインボウ』を録音。最後の輝きを見せて話題を呼びました。このとき,ツアー・メンバーとして参加していたのが彼。バークリー音楽院でドナルド・ブラウンに師事した経歴の持ち主ながら,もとは1966年サンパウロ出身のブラジリアンで,クラウディオ・ロディッティのサイドメンに抜擢されたのがツキの始まりだった人です。1997年には独立してレザボアに『トリオズ』を録音。アメリカ勢とブラジル勢からなるリズム隊でトラックを折半。ケニー・バロンやマーク・ソスキン似の丸いタッチで,軽妙な乗りを披露していました。本盤は6年ぶりとなる彼のレザボア第2作。記憶が確かなら,私は前作のレビューでタイム感の問題を指摘したと思うのですが,それをどう解決してくるか。実は大いに注目しつつ耳を貸しました。冒頭,急速調の「フレンジー」に聴ける,ニヒルなコード選びと垢抜けたフレージングに吃驚。敢えて自分の美点でもあるブラジル的なモタリの部分を削ってタイム感の難を相殺。肉を切らせて骨を絶っていく。自信に溢れたジャケットから伺える通り,拘りを捨てて腕一本,都会の最前線で勝負していく気概と聴きました。サイドメンがいずれもニューヨーカーというのも,決意の表れでしょう。ちなみに,個人的には,一般に言われているメルドーの語法(両手バラ弾き)以外の部分で,彼がメルドーの流儀を消化している点は注目に値すると思います。メルドーの音選びは,最前線のピアニストの間で,確実に今を呼吸するスタイルとして浸透していると,ここでも再確認することになりました。

★★★★
Patrick Favre Trio "Danse Nomade" (AxolOtl : LLL313)
Daphne toyo t'aime pour Marthe danse nomade festina lente Joelle entretemps saphir contemplation

Patrick Favre (p) Eric Surmenian (b) Frédéric Jeanne (ds)
1960年アヴィニョンに生まれたフランスの中堅ピアノ弾き,パトリック・ファーヴルが昨年録音したトリオ作です。リーダーはアヴィニョン大学を出たのち1985年にプロ入りし,ミシェル・ペトルチアーニのご兄弟ルイ・ペトルチアーニとデュオで活動したのち,ジャン=ルネ・ダレルチやマルク・マジロのサイドメンを経て,1992年には自己のトリオを結成しました。エヴァンスやキースをバランス良く咀嚼した透明感溢れる欧州叙情派ピアノを基調にしつつも,ベルギーのディーデリック・ウェッセルズやイヴァン・パデュアールをもう少し軽く,イタリー・ロマン派寄り(ファウスト・フェレイオロ辺り)にしたような軽めの筆致が特徴でしょうか。リーダー以下演奏技量そのものは少し小粒で線も細い。やや太鼓が粗いと言えばそうかも知れませんし,確かにバリバリ弾きまくるタイプではないんですが,大きな穴はなく気になるほどのものでもありませんし,それを補って余りある主役の作曲センスは美点。楽曲がリリカルでセンス好く書けている。欧州の叙情派ピアノがお好きな方に。

★★★★★
Thilo Wagner - Wolfgang Mörike - Gregor Beck "Finally" (Nagel Heyer : CD 078)
finally I'll be seeing you if I were bell my romance o sole mio what is this thing called love when you wish upon a star I'm old fashioned zelim all of you everything happens to me pennies from heaven

Thilo Wagner (p) Wolfgang Mörike (b) Gregor Beck (ds)
1965年生まれのリーダーは,カールスルーエでパウル・モルタクにピアノを師事し,1987年にティロ・ベルク楽団でプロ入りした御仁。まだ若く,リーダー盤は僅か2枚にも拘わらず,脇に回ると一転。既に60以上の吹き込みに顔を出しているとか。そういえば,以前ご紹介したチャーリー・アントリーニのスイング・エクスプロージョンにも参加していましたし,ダニー・モスやスコット・ハミルトンら彼の地の大物は勿論,アート・ファーマーやハリー・アレンら渡欧組とも共演している。中間派あるいはハード・バピッシュなスタイルが持ち味の名手は決して多くない欧州圏にあって,この若さで衒いなくスイングする彼のピアノが重宝されるのは分かる気がします。本盤は,既にご紹介した1994年のリーダー作に続く2枚目で,全編に渡ってトリオ演奏を聴ける嬉しい一枚。ウィントン・ケリー直系の単音ソロに,ジュニア・マンスばりのグルーヴネス。白人らしい端正で硬めのタッチを利して,素材を問わず丁々発止とスイング。アドリブも実に良く歌ってますし,テクニックも確か。若さに似合わぬ奏力と,ノー・ギミックの清々しさに快哉を叫びます。甲種お薦め。

★★★★1/4
Abe Rábade Trio "Simetrias" (Xingra : XC-0502-CD)
simetria manglares hotel Minerva bágoas de prata SCA matria de sombra outono N.Y. dilemma zapatos de estar tres palabras

Abe Rábade (p) Paco Charlín (b) Ramón Ángel (ds)
リーダーは1977年9月,スペインはガルシア地方のサンティアゴ・デ・コンポステーラ生まれ。生地の音楽院で学んだのち渡米してバークリーへ入学し,バリー・ハリスやジョアン・ブラッキーンを始め,面白いところではレイ・サンティシなんかにも師事したようです。帰国後の2001年にテテ・モントリュー国際ジャズ大賞で入賞したのを機にトリオを結成。本盤は同トリオの2枚目の作品で,昨2002年に出ました。幾何的で乾燥肌なリフと多彩な複合変拍子によって鋭角的にデコレートしていく演奏・作編曲手法は,ラインハルト・ミッコやアヒーム・カウフマンらドイツの即物主義ジャズメン(バルトークの見地からM-BASEを咀嚼した欧州ジャズ・ピアノ)の流れを汲むものです。メンバー全員技術的にはやや小粒。ピアノはタッチの線が細く急速調の運指は少々摩滅しますし,ベースの音も細くてやや軽いうえ,太鼓はバタバタしているなど,メカニカルで緊密なジャズをやるにはやや朴訥なのが残念ですけれど,甘さに流れず媚びのない作編曲は好感度大ですし,アドリブは丁々発止の若々しさに富んでいて清々しい。あまり無理しないで,もう少し隙間を使った演奏ができれば,さらに好い作品を作れるポテンシャルを備えた好トリオだと思います。

★★★★
Stefano Battaglia "The Book of Jazz vol.1" (Symphonia Odyssey : SYO 00707)
cafe ask me now nefertiti congeniality the golden number prelude to a kiss something sweet, something tender wrong together peace

Stefano Battaglia (p) Paolino Dalla Porta (b) Fabrizio Sferra (ds)
ステファノ・バッターリャは既に,フランコ・ダンドレアとのピアノ二重奏盤で,密かに話題を呼んでいたイタリアのピアノ弾き。2000年に入って注目されていたところへ,折良く満を持してこの初トリオ作が登場し話題を呼びました。その後,黄色いジャケットの第2集も出た模様。つまりはこの第1集の仕上がりが本人たちにも満足行くものだったんでしょう。演奏はイタリアものには珍しく,北欧寄り。スペーシーな左手の和声で間合いを充分に取り,スイングしないピアノの演奏は,少しバタ臭く(シャレじゃありません)饒舌な他は,驚くほど温度の低い演奏フォームで弾かれたものです。アメリカのピアノ弾きで形容するなら,和声に凝りまくる寡黙なビル・キャロザーズを,直線的なモード弾きデヴィッド・バークマンのフレーズと和声で希釈したようなイメージでしょうか。ベースとピアノは既に前衛リード奏者リカルド・ルッピ『ネモジーヌ』で共演済み。この2人は息も合ってます。それだけに惜しいのは太鼓。この人は,ベースのエンゾ・ピエトロパオリと組んでピエラヌンツィのスペース・ジャズ・トリオの構成員だった人物。少し前に出たパレルモ出身の名手ダニーロ・レアのトリオ作でも脇に回っていましたし,キャリアはむしろ他の二人より上だと思うんですが,どうも彼の太鼓は粗いし小粒な気がします。欧州は太鼓奏者が品薄ってことなんでしょうかねえ。むしろ二重奏のほうが演奏は緊密になって良かったのかも。

★★★★1/2
Henryk Miskiewicz "Lyrics" (Grami-ZAiKS/BIEM : CD 002)
half note lyrics gush furiozi song about song thema from Spartakus gate of the happiness

Henryk Miskiewicz (as, ss, b-cl) Marcin Wasilewski (p) Slawomir Kurkiewicz (b) Michael Miskiewicz (ds)
イカニモ昨今のヴィーナス盤を思わせる美女ジャケットに釣られて買った(嘘)このCDは,ルーマニアのアルト奏者が2001年に発表したリーダー作。聞いたことのない名前のリーダーは,しかしサイドメンとしてはかなり重宝されている人物のようで,ビッグ・トライブ・バーンなるグループで初吹き込みを経験したのは,今から四半世紀以上前の1971年。経歴はゆうに30年を超えるベテランでした。近年に入ってリーダー盤も出すようになり,初リーダー作『モア・ラヴ』(1994年)以降,既に4枚ほどが出ているようです。失礼ながらあまり有名人でもなさそうなこの人物が,なぜに昨今,日本で大人気のシンプル・アコースティック・トリオと共演?そう思われた方は多いことでしょう。詳しいことは分からぬものの,どうやら主役が同トリオの太鼓奏者の実父な様子。子の七光り企画?と大した期待もせずに手に取りましたが,どうしてどうして,作編曲は上手いですし,プレイも堅実でなかなかの技量。バス・クラリネットとソプラノの吹き分けながら,メイン楽器はアルト。フィル・ウッズを思わせるタイトで引き締まった音色を利して,しかし扇情的にではなく,地道に吹く。バックのトリオは相変わらず小粒ながら毛深めの北欧ジャズ・テイストでかっちりと好サポート。全編ほろ甘い叙情的なバラッドに統一されており,出来はかなり良いと思います。なにぶんにもマイナー盤なので入手は難しいでしょうが,同トリオものがお好きな方は安心してお求めになれることでしょう(追記:どうやら某石松関連会社が頒布権を買い,国内に撒いてるようです。このルートからなら平易に買えるのでは)。

★★★★★
Marc Copeland Trio "Haunted Heart & Other Ballads" (Hat Hut : hatOLOGY 581)
my favorite things 1 crescent dark territory greensleeves when we dance my favorite things 2 soul eyes it ain't necessarily so easy to love haunted heart my favorite things 3

Marc Copeland (p) Drew Gress (b) Jochen Ruckert (ds)
もとサックス吹きとして出発した彼は,1980年代はマーク・コーエンと名乗り,ジョン・アバークロンビーと組んでアルバムを録音していたエヴァンス派ピアノ弾き。そちらのほうでご記憶の方は多いのではないでしょうか。最近前衛レーベルとして知る人ぞ知るボッタクリ企業(値段がクソ高い)へ2枚ほどアルバムを録音。こちらはその一枚で,トリオ編成によるスタンダード曲集です。小生は,アバクロと組んだ『セカンド・ルック』と,ランディ・ブレッカーを加えた『ストンピン・アット・サヴォイ』とかいうクインテットものを所有していましたが,正直小器用なだけのピアノという以上の感慨はなく,このアルバムも70さんに後押しして頂かなければ,中古狙いで当分は買わずにいたでしょう。反省です,というくらいの名盤。名盤請負人ドリュー・グレスとヨヘン・リュッケルトというデリカシー溢れる両名手を従え,外れはないだろうと想像はつきますが,いや〜驚きました。すっかり化けましたねえ。手垢の付きまくったバラードが,リッチー・バイラーク似のヴォイシングによって硬質な北欧風ジャズへと読み替えられていく。思索的かつ寡黙に歌うリーダーを,竹を割ったように溌剌とタイトなスネアとタム音で引き締めるリュッケルト,包容力のある響きで屋台骨を支えるグレスともども好演。ありがちなスタンダード集を,三者のみずみずしい煌めきによって希有なものにまで高めた手腕は最上級の賛辞に値します。甲種お薦め。

★★★★3/4
Alessandro D' Episcopo Trio "Stella Cadente" (Altrisuoni : AS127)
Napoli centrale tammurriata nera ,omarenariello ,e stille cadente ,I te vurria vasa' Sarah loop senza fine tu si na cosa grande anema e core Napoli centrale 04.00 A.M. mood indigo

Alessandro D' Episcopo (p) Hämi Hämmerli (b) Alberto Canonico (ds)
アレッサンドロ・デピスコーポはナポリ出身のピアノ弾き。生地のサン・ピエトロ・ア・マジェラ音楽院へ進んで楽典を学び,ジーノ・ダスコーリとアレクサンダー・ヒンチェフにピアノを師事して演奏活動に入りました。イタリアのジャズメンなのになんでAltrisuoni?と気がついた貴兄は鋭い。のちに,さらなる研鑽を期してコローニュへ,さらにはモントルー音楽院へ留学。あのティエリー・ラングに師事していました。本盤は,フランコ・アンブロゼッティやジョルジュ・ロベールのサイドメンとして地味に活動してきた彼が,ようやく録音したリーダー作。30過ぎても大学へ足を向ける生真面目さが示すとおり,演奏はひたすら端正。基本はキース・ジャレット寄りのエヴァンス派ですが,線が細いことでウィントン・ケリーっぽいデリカシーもあり,ときには左手にマッコイの影響がちらつく瞬間もある。運指に漂う微かなラテン臭にはチック・コリアからの影響も見えるなど,脇役家業が長いのも頷ける幅広い教養と,歌心を第一にした堅実な演奏はただただ好ましい。類似の演奏家を挙げるのは難しいんですが,悪い意味でなく器用貧乏ではないデヴィッド・ベノワとか,『ムーヴィン』当時のダグ・アルネセンと言えば分かりやすいでしょうか。実直堅実な演奏家を「シケてんなァ」なんて言わない方は,間違いなく気に入ります。ぜひどうぞ。

★★★★3/4
Cholet, Känzig, Papaux Trio "Autumn Circle" (Altrisuoni : AS141)
senechas autumn circle confluence just a waltz pyz how insensible cousin Dominique G 15.32 la toupie lining out five

Jean-Christophe Cholet (p) Heiri Känzig (b) Marcel Papaux (ds)
リーダーは1962年生まれ。スイスのレーベルからのリリースですが,どうも仏人のようです。元はクラシック畑の人らしく,スコラ=カントールムでピアノを学んだのち,23才でジャズに開眼。ベルナール・モーリーに和声法を,ビル・ドビンズに編曲法を,ケニー・バロンとリッチー・バイラークにピアノを,リー・コニッツに即興を学んだのち,1992年に自己のオクテット(Odéjy Octet)を結成。同年に有名なラ・デファンス(La Défense)国際に自己のフォテットを率いて2位,翌年にはオクテットを率い,作曲と編曲部門で一位を獲得しました。彼のスタイルは一聴,師匠バイラークの影響を顕著に示すもの。┐良限蠅示すように変拍子を多用。現代音楽の薫陶を得た晦渋なコードあしらい,アタックの強い攻撃的な打鍵で,即物性の高いフレーズをゴリゴリ弾く。バイラークやコローニュ楽派の影響は誰の目にも明らか。『EON』に入っていた「ミツク」を彷彿させる△筺ぅ▲辧璽燹Εウフマンみたいな変拍子の,クレメンス・オルツと言われても信じてしまいそうな音選びのイ覆匹鯆阿と,「ありゃまあ,相当好きだなこりゃ」と苦笑いを禁じ得ません。お顔そのままに少し緩いところのあるパポーの穴を,ティエリー・ラングのトリオを救済した武骨なケンツィヒが埋め,音の核を。これで演奏にも芯が通りました。鞭の利いた作風故に万人向けとは言えないでしょうが,コローニュ派の諸作がお好きな方は一聴の価値ありです。お試しになってみてください。

★★★★★
Eric Reed "Manhattan Melodies" (Verve : IMPD-294)
the 59th Street bridge song Manhattan melodies Harlemania : drop me off in Harlem, Harlem nocturne, take the 'A' train New York City blues letter to Betty Carter* blues Five Spot puttin' on the Ritz** Englishman in New York NYC melody : autumn in New York, skating in Central Park, Central Park West theme from New York, New York

Eric Reed (p) Reginald Veal (b) Gregory Hutchinson (ds) Dianne Reeves (vo)* Renato Thoms (perc)**
1970年フィラデルフィア出身の彼は,7才でクラシックを習い,13才でプロ入り。翌年にウィントン・マルサリスに見いだされ,18才まで彼のコンボでピアノを弾いていました(小沢征爾と豪華に共演したタングルウッド音楽祭の実況ビデオで,若々しい彼を見られます)。その後1991年には独立。以来,着実にリーダー盤を出しています。実は小生,2枚目の『イッツ・オールライト・トゥ・スウィング』を聴き,当時の未熟で器用貧乏なピアノに落胆してしまいましてねえ。以来この人の作品にはなかなか手が出ませんでした。この盤も半信半疑で聴きましたが,数年のうちに別人の如く巧くなったのに吃驚。もともとこの人は,2才で父の教会でピアノをいじりはじめた筋金入りのゴスペル原体験の持ち主。マルサリス好きのする襟の整った黒っぽいフィーリングが,洗練されたモード奏法と絡み,個性として調和を奏でるようになりました。NYCゆかりの自作と有名曲を織り交ぜた本盤では,その魅力が十全に。マーカス・ロバーツ趣味のラグ・ピアノΔら新主流派丸出しの◆ぅ▲侫蹐吻Г縫好謄ングの┐泙如雑多に流し込めるのも,自分のカラーに自信が備わったことの表れでしょう。マルサリス優等生系の音に抵抗がなければ是非。甲種お薦めです。

(2004. 2. 15)