2000年代のジャズ vo. 16


★★★★3/4
Enrico Pieranunzi with Marc Johnson "Trasnoche" (Egea : SCA 098)
trasnoche i sospiri e le lacrime r'l desìo islas a second thought thiaki the way of memories the chant of time narrations du large clouds
Enrico Pieranunzi (piano) Marc Johnson (bass)
1980年代初頭,トリッキーな運指技巧を駆使して,一躍イタリア・ロマン派の頂点に躍り出たピエラヌンツィ氏。【スペース・ジャズ・トリオ】での目を見張るような個人技は,得意の絶頂にあった天才の神業が横溢するものでした。マーク・ジョンソンという朋友を得て,1990年代からは個人技のみならずグループ表現をも模索。『シーワード』にその成果を結実させます。しかし,彼も檜舞台に立つこと三十年。相変わらず見事な演奏の奥で,近年は少しずつ老いの影を感じるようになってきたのも事実です。彼自身も自覚があるのでしょう。特にここ3,4年は,どの作品にも来し方と行く末の間で苦悩する姿がちらつき,「ああ,更年期だなあ・・」との思いを禁じ得なかったものです。過去が輝かしすぎるゆえに一層,それを乗り越えていくのも難しいのでしょう。以前から申し上げている通り,今の彼が向かいつつあるのは,豊かな内省性と円熟味に支えられた,深みのあるピアニズム。2003年発表の本盤は,そうした彼の目論みが今のところ最も色濃く現れ,また最も上手く形にできているであろう二重奏盤ではないでしょうか。余人を挟まぬ二重奏は,ジャズにおいて最もインティメイトな相互交歓を可能にするフォーマット。四半世紀に渡って共演を重ねてきた無二の楽友マーク・ジョンソンとただ二人。華美なラテン臭も,目を見張る運指技巧も,何一つ披瀝することなく,心穏やかに対話する。まだ中年の艶気や甘さが勝ち過ぎると仰る方もおられるでしょう。しかし,この後に続くであろう,さらに枯淡の境地に達した充実作への扉を開けた作品として。本盤は紛れもなく2000年代の最初の10年間で『シーワード』的位置を占める録音のひとつになると思います。

★★★★1/2
Christoph Sänger - Ernie Watts "Blue Topaz" (Laika : 3510135.2)
soul eyes I the days of wine and roses my foolish heart saudade in your own sweet way like someone in love oriental spring have you met Miss Jones I hear a rhapsody I didn't know what time it was blue topaz somebody loves me soul eyes II
Christoph Sänger (piano) Ernie Watts (tenor saxophone)
ジャズ好きの間ではかなり有名でありながら,フュージョン・テナーと思われているせいか今一つの評価しか貰えないアーニー・ワッツは,1945年バージニア州ノーフォーク生まれ。実は,1966年に加入したバディ・リッチ楽団が出世の始まりという意外に硬派な人で,ロスへ移ってからも,オリヴァー・ネルソンやジェラルド・ウィルソンの楽団で仕事をしていました。根が器用だったんでしょう。1970年代に入るとアンディ・ウィリアムスに引き抜かれ,NBC局付のスタジオ・バンドに加入。その後もフランク・ザッパからテンプテーションズまで,頼まれれば何でも器用にこなし,1982年にはクインシー・ジョーンズの肝煎りで,ヴァンゲリス最大のヒット作『炎のランナー』を,リチャード・ティーやマイケル・オマーティアンらスタジオ職人達とカバーして大ヒットさせるなど,クロスオーヴァーの荒波を器用に渡っていきました。その辺りが硬派なファンの逆鱗に触れたんでしょう。いまだロクな評価をされてないようで,可哀相ですねえ。そんな彼も近年はジャズ回帰傾向顕著。本盤はその最たるもので,何とドイツのお調子モード弾きクリストフ・ゼンガーを向こうに回して二重奏盤を作ってしまいました。お年のせいも手伝って,ワッツのテナーはピッチ・コントロールがやや怪しくなってはいますけれど,実にエモーショナル。楽器もリードも違うデヴィッド・サンボーンを思わせる切々とした情感表現と,サンボーンに比して柔らかく円味のある音で,スイスイと吹く。ハードボイルドな好演ではないでしょうか。リーダー盤では二枚目半的なモード・ピアノで,丁々発止弾きまくるゼンガーが,ここではワッツを立て半歩後退。こののち第2弾が出たのも頷ける,分を弁えた伴奏者ぶりに驚きました。意外なほど相性の良い,溌剌モーダル二重奏盤。

★★★★1/4
Tim Stevens "Freehand" (Rufus-Earth Spirit : RKCE-2401)
proem generating freehand 1 jitters freehand 2 freehand 3 life at Greystanes freehand 4 craft and art freehand 5 creative control freehand 6
Tim Stevens (piano)
数年前にオーストラリアから,素晴らしい抒情派ピアノ・トリオが2枚上陸し,一部で話題を呼びました。そのうちの1枚,『サドゥン・イン・ア・シャフト・オブ・サンライト』でピアノを弾いていたのが,本盤の主人公ティム・スティーヴンスです。1971年メルボルン生まれの彼は,メルボルン大学ヴィクトリア校へ進み,繊細な単音の好トリオ盤で一部にファンをもつポール・グラボウスキーらに師事。その間,1992年のワンガラッタ国際で優勝し,既に1990年代半ばには,豪州での知名度はかなりのものだったとか。本盤は2002年に吹き込まれた初の独奏盤。私同様,「あのスティーブンスさんだ!」と思いながら,『フリーハンド』という意味深な標題やシュール臭漂うジャケットから危険な香りを感じ取って手を引っ込めていた皆さん。なかなか鋭敏ですねと申し上げましょう。全体を折半するフリーハンド=自由素描の6曲は,いわゆる隙間系シュール・ピアノ。きキ辺りは,哲学的といえば聞こえはいいものの,実際はウェーベルン風のエッチングといった印象で聴き手をかなり選ぶことでしょう。ただ,同じ自由素描でも,持ち前の思索的なリリシズムと上手く絡んだΝあたりは,晩年のドビュッシーに通じる深くほの暗い頽廃感が,前衛突入前夜のポール・ブレイ的凄みを漂わせ,なかなかに効果を挙げていますし,´Лの標題付き作品における高い作曲センスと,適度に晦渋な憂いを帯びた深みのある叙情性は,このピアニストの非凡なセンスを如実に物語るものではないかと思います。これだけセンスが良いのに,いまだ知名度薄のままなのは,蓋し脇役の人選に問題があるからでは。彼は1993年以降,いわゆる【ブラウン・ヘイウッド・スティーヴンス】名義で活動し,このほど結成した新トリオも,ジョー・チンダモ盤でバタバタ粗く叩いていたデヴィッド・ベックを迎えてしまった様子。もう少し繊細な脇役を迎えてあげた方が浮かばれるんじゃないかと思えてならないんですが・・いかがでしょう?

★★★★1/2
Sai Ghose Trio "Fingers and Toes" (Summit : DCD 328)
the changing table you don't know what love is slippin' Bailey baby steps lifeforce super saucer green dolphin street fingers and toes a father's hymn

Sai Ghose (p) Mike Connors (ds) Jerry Wilfong (b)
サイ・ゴセはマサチューセッツ州アクトンを拠点に活動するピアノ弾き。本トリオ盤は彼の2枚目のリーダー作で,昨2002年に出ました。彼は6才でピアノを始めたにもかかわらず,クラシックが退屈で間もなくドラムに転向してしまい,再びピアノに目覚めたのは大学に入ってから。輝かしい経歴とは無縁のままに来てしまったのが,ローカルなピアノ弾きに甘んじている由縁でしょう。本盤は前作から2年ぶりの新譜と言うことになりますが,この間,リーダー氏には愛息ブライデン君が誕生。生まれた小さな赤ちゃん目のを前にして,彼は思わずその手足の指を数えてしまったそうで,標題の含意はそんな微笑ましいエピソードに由来するんだそうです。内容も愛らしいジャケットが物語るとおり中庸で小粋。さりげなく捻った変拍子や心地よく耳を裏切る和声進行に理知的な表情が覗くものの,スタイルそのものはいたってオーソドックス。エヴァンスの影響下にある知的な和声感覚と,ウイントン・ケリーやトミー・フラナガンへの憧憬を感じさせる丸い右手の単音ソロを好ましく和合させていく,上品で小洒落たピアニズムが身上です。リーダー以下,アドリブはスムースに流れ技量確かですし,楽曲も白から黒まで雑多なスタイルが散漫になることなく適度な案分で配合されており,豊かな教養を感じさせる。とても良いトリオ作だと思います。

★★★★3/4
David Berkman Quartet "Start Here, Finish Here" (Palmetto : PM2098)
cells triceratops Iraq stone's throw English as a second language penultimatum only human old forks quilt mean things happening in this world
David Berkman (p) Dick Oatts (as) Ugonna Okegwo (b) Nasheet Waits (ds)
デヴィッド・バークマンはオハイオ州クリーブランド出身の白人ピアノ弾き。ミシガン大学,次いでバークリー音楽院で学んだのち一端は故郷へ戻ったものの,1985年に再びNYへ進出。トム・ハレル,セシル・マクビーのサイドメンとして名を上げる傍ら,ヴィレッジ・バンガード・オーケストラでピアノ弾きの座を務めて評価を固めました。ピアニストとしての彼は,小型のケニー・ワーナーといった印象。パラパラしたアブストラクトな右手と,スペーシーな左手のコードを巧みに絡め,インテリの面持ちを崩すことなく幾何的な演奏をする。ワーナーのお弟子さんとして一部で知られるマーク・シランスキー辺りご存じの方は,すんなりとイメージしていただけることでしょう。本盤は2004年に発表された4枚目。比較的大掛かりな編成が続いた彼としては,初めてワン・ホーンまで随行員を減らした編成が俄然目を引きます。作編曲を含めたトータルな音世界が魅力のピアノ弾きだけに憂慮を禁じ得ませんでしたけれど,蓋を開けてみれば全く問題なし。ワーナー譲りのメカニカルなフレーズと,人を食ったところのない端正なタッチは健在。ウェーベルン風のイ魘瓦鵑覗簡圓忙兇蠅个瓩蕕譴襦し箚屬鬚燭辰廚蠎茲辰親明感とデリカシー溢れる音作りも前作通りで,サイドメンも屈強。変に急速調を挟んで自分を大きく見せるような無理をせず,徹底して詩的かつ思索的な作品作りに徹している。こうなるともう負けない横綱。崩れる気がしませんねえ。このシュアネス。今ニューヨークに居る人の中では,一番地に足が付いているのでは。ところで,以前テナー吹きジョエル・フラームの作品にバークマンが寄せた「ショーコズ・ダンス」。麻原のことですかなんて笑ってましたら,何と彼の奥さん,『不揃いの林檎たち』に出てた中島唄子さんなんだそうです。ただもうびっくり。

★★★★1/4
Karl-Martin Almqvist "Full Circle" (Prophone : PCD 068)
do we dance full circle in between katten burlesk slow flow spantis double dare indi you must believe in spring
Karl-Martin Almqvist (sax) Jonas Östholm (p) Filip Augustson (b) Sebastian Voegler (ds)
リーダーのアルムクヴィストは,マシアス・ランデウスの脇役で皆さんお馴染みのリッチ・ペリー系脱力テナーマン。ストックホルムの王立音楽アカデミーやニューヨークのニュースクール音楽学校で学んだのちプロ入りし,現在はニルス・ラングレンのファンク・ユニットやストックホルム・ジャズ・オーケストラの一員として活動しています。活動歴は結構長く,1994年に出た企画盤『アイ・リメンバー・クリフォード』に早くも彼の姿を見つけることができます。本盤は,スウェーデン・ピアノ界の重鎮ヤン・ラングレンを迎えた2000年発表の『カール=マーティン・アルムクヴィスト』に続く2枚目のリーダー作で,2004年発表。ピアノがラングレンから,余り耳慣れない新人ヨナス・オーストホルムに交代しました。残る2名がランデウス・カルテットの僚友で,出てくる音が前と同じとなれば,当然出来も不出来もピアノ次第ということになります。正直,不安相半ばだったのですが,聴いてみてびっくり。少し小粒とはいえ,モード・チューンで左手が消化不良を起こすラングレンに比べ和声のセンスは抜群に良いですし,どこかトリスターノ・ライクなメカニックさを持つ右手もハードボイルド。ラングレンより遙かにいい仕事をしています。さらに,この人は曲書きの才もかなりお有りのご様子。スウェーデンの重鎮ドラマー,フレデリク・ノーレンのグループでサイドメンを務めているくらいしか目立った活動も見られませんが,実のところノーレンのグループでは曲書き一切を彼が担当。やっぱりなあ。を聴くに,センス好いです。リーダー盤楽しみですねえ。

★★★★1/2
Nico Morelli "Nico Morelli" (Cristal : NM 0303)
tarantè blues zen il canto di sadonè pezzo X songo love for sale findings ...chi legge alba di millenio
Nico Morelli (p) Aldo Romano, Bruno Ziarelli, Frédéric Delestré, Luc Isenmann (ds) Marc Buronfosse, Stéphane Kerecki (b) Stefano Di Battista (ss)
数年前,トリオ作『ザ・ドリーム』で印象を残したイタリアの小型ピエラヌンツィことニコ・モレリは,1965年12月28日タランテ生まれ。父の勧めで,電子オルガンを弄り始めたのは7才。次いで9才からピアノに転向しました。父親はかなり厳しかったようで,一日の練習時間は15時間に及んだそうです。生地の音楽院を出たのは彼が24才の時でした。その後,ニーノ・ロータが教鞭を執っていたこともあるイタリアのバリ音楽院(フランスのパリ音楽院ではありません)へ進むも,年齢的にクラシックは無理だと諦め,ジャズへ転身。2年間に渡り,スティーブ・レイシーのサイドメンを務めて名を上げ,1994年に初リーダー作『ビハインド・ザ・ウインドウズ』で独り立ちしました。本盤は4枚目となるリーダー作で,初めて国内お目見えとなったもの。で今や有名人のステファノ・ディ・バティスタが客演する他は,4人の太鼓と2人のベースを曲ごとに入れ替えてのトリオ演奏です。軽快で饒舌な主役のピアノは相変わらずで,右手の指が作るフレーズの,良く跳ねたリズムはピエラヌンツィの第2世代。モリコーネを思わせる甘美なオリジナルを書いて,ロマン派の叙情をたっぷり披瀝する本家に比べ,幾分バッピッシュでカラっとした,二枚目半の演奏や作編曲も大きく変わっていません。強いて言えば急速調での運指技巧は,少しばかり落ちましたか。指の回転率こそ遅れてはいないものの,ところどころで指がつんのめったり,ロレツが乱れ,打鍵が硬くなり,一杯一杯なのが丸分かりなのは,ちょっとばかり残念です。それでも,『ザ・ドリーム』の期待を満たす高レベルは堅持。今風バップ・ピアノからイタリー・ロマン派系まで,広い範囲の支持層に興じ入って頂けると思います。

★★★★1/2
Jef Neve Trio "Blue Saga" (Contuor : C.002)
inner peace Branford's dream segment construction 60 years too early when spring begins* pink coffee one for the load this is not a doxy hidden
Jef Neve (p) Piet Verbist (b) Lieven Venken, Teun Verbruggen, Koen Mertens (ds) Pieter Kindt, Kristof Lefebre (tb)*
リーダーのジェフ・ネーヴェは,1977年トゥルンフート(Turnhout)生まれのフランドル系ベルギー人ピアニスト。ベルギー国立芸術アカデミーへ進んでヒューゴ・レフェヴェールらに学ぶ傍ら,ブラッド・メルドー,マーシャル・ソラールからビル・キャロザーズ,ケニー・ワーナーまで,鬼のようにマスター・クラスを受講してジャズに精進。2000年にジャズ科とピアノ科の両方で修士号を取得しました。その後バート・ジョリスやドレ・パルメルツらのサイドメンとして頭角を現し,現在は出身校でピアノ科の教鞭を執っている模様。クラシックもかなりやり込んでいるようで,ジャズ・トリオのみならず,2弦付帯のピアノ三重奏団も同時並行で率いてクラシック(室内楽)を演奏するほか,2001年には国立フランドル管弦楽団からソリストに抜擢されたこともあるのだそうです。本盤は彼が修士号を取得後に結成したトリオによる初リーダー作で,2003年の発表。低域を強めに録った集音のせいもあるのでしょうが,エリック・ヴェルミューレンに秀抜な作曲センスを上乗せしたような,骨のある北欧ピアノ・トリオに仕上がってます。超急速調の辺りになると,さすがに運指がアップアップしますし,欧州勢にありがちな若干強弱表現の粗い太鼓は,気になる方もおられるかも知れません。それでも,ベルギーものらしく甘さに流れぬゴツゴツした風合いと,文化省や英国のバレエ団から作品を依嘱されるだけの作曲センスが相俟って,聴き応えのある高水準のピアノ・トリオとなっているのではないでしょうか。個人的には,そんな彼の武骨さと和声のセンスが両方光るパーカー・チューンのに快哉を叫びました。

★★★★1/4
Format A Trois "Deuxième" (Altrisuoni : AS 104)
L en M un autre batik juste un peu... Isola ...que du feu! be me Leon l'autre un signe en hiver pourtant kundun je ne sais pas dire non
Alexis Gfeler (p) Fabien Sevilla (b) Patrick Dufresne (ds)
フォルマッタトロワは,ピアノのアレクシス・グフェラーがリーダーを務めるスイスの三人組。ピアノは1974年生まれ。1989年にプロの道へ進み,1993年からジュネーブのヴォルテール大学へ進学,ベルンのスイス・ジャズ・スクールを経て,モントルー・ジャズ・アカデミーでティエリー・ラングに師事して学位を得ました。その後,一時期コローニュ音楽院へも籍を置き,デイヴ・リーブマンやマイケル・ブレッカーのセミナーも聴講していたようです。モントルー・ジャズ・アカデミー時代の1994年に太鼓のデュフレーヌと知り合い,後輩だったニューヨーク帰りの太鼓奏者ファビアン君を引き入れて,このトリオを結成しました。本盤は2002年に出た2作目。一枚目はいわゆるキース傍系の北欧ピアノながら,いかにもバタバタした演奏の小粒さと,やたら神経質そうなピアノの線の細さとリズムの甘さが気になり,さほどいい印象は持てませんでした。このアルバムでも,相変わらず演奏は三人とも線が細く,同じスイスで言うと,ステューイ・ヴォン・ワッテンウィルやクリス・ウィーゼンダンゲルを北欧系に仕立て直した印象。それでも,急速調やメカニカルタッチを控えた淡泊寡黙な音場のうえで,ピアノは音数を削って脇役に寄りかかり,サイドメンの2人はスタンドプレイに走ることなく,できるペースで訥々と音を刻む。グループ単位で音を作るこの戦略が奏功。足りない部分が巧く隠れ,看板の銘に違わず,まとまりは随分と良くなったように思います。小粒ゆえにグルーヴ感が脆弱でも,うまくまとめていればオッケーですな方はぜひどうぞ。

★★★★1/2
Thierry Lang Trio "Reflections I" (i.d. - Sarah : VACD-1005)
le sablier three lines wounds private garden waiting for a wave moon princess your notes nostalgie
Thierry Lang (p) Heiri Känzig (b) Peter Schmidlin (ds)
とうとう国内盤まで出るようになったかと感慨を覚えずにはいられないティエリー・ラングは,1956年スイスのローモント生まれ。もとは渡英して,王立音楽大学でクラシックのピアノ弾きを目指したものの,卒業後はジャズへ転向。チャーリー・マリアーノのサイドメンとして頭角を現し,1990年に『チャイルズ・メモリーズ』で世に出ました。最近はモントルー音楽院で教育者としても活躍。アレクシス・グフェラーやアレサンドロ・デピスコーポらの後進を育成しています。本盤は先頃ダグ・アルネセンやエンリコ・ピエラヌンツィの旧盤を再発して気を吐くSarahから出たもので,ラングとしては『ティエリー・ラング』以来久々のトリオ作。少し足を引っ張り気味だったマルセル・パポーがTCB社長のシュミドリンと交代し,トリオの演奏はさらにまとまりが良くなりました。ラングのピアノはひと頃よりタッチに丸さが加わってこなれ,持ち前の甘美な自作の作曲センスも手伝ってピエラヌンツィをもう少し北欧寄りにしたような筆致に。過去の作品から自作曲を複数挿入した体裁にも明らかな通り,相変わらずやや甘口のピアノは,徹頭徹尾分かりやすく見通しが良い。一枚目でまだ息が合わないのか,Г里茲Δ法ざ覆砲茲辰討魯丱薀鵐垢魴腓い娠藾佞盡受けられますし,個人的にはもう少し強面な表情があってもいい気がしますけれど,逆に言えば間口が広く,ジャズに不慣れな方でも,すんなり親しんで頂ける仕上がりなのでは。余談ながらこの後,本トリオはさらに2枚を録音。プロジェクトは連作化する模様。エンリコの向こうを張ってシリーズ化するとしたら素敵なことです。

(2006. 7. 26)