2000年代のジャズ Vol. 17


★★★★3/4
Ian Hendrickson-Smith "Still Smokin'" (Sharp Nine : CD 1031-2)
I wish you love love for sale memories of you Jacob's crib sparrow's flight Ian's bossa I can't get started* smile San Francisco beat
Ian Hendrickson-Smith (as, fl*) David Hazeltine (p) Peter Washington (b) Joe Strasser (ds) Ryan Kisor (tp) Peter Bernstein (g)
リーダーのヘンドリクソン=スミスは1974年ニューオリンズ生まれ。1992年にニューヨークへ進出し,ミンガス・ビッグ・バンドやエッタ・ジョーンズ,ジョン・パットンの脇役を務めて名を上げました。彼が日本で知られるようになったのは,2003年にシャープ・ナインから出したメジャー・デビュー作『アップ・イン・スモーク』によってでしたが,実はその前からKパスタ・レコードなるマイナー・レーベルと契約。2003年の『パーティ・オン3』まで,数枚の吹き込みに参加しており,結構キャリアの長い苦労人さんでもあります。本盤はこれに続くリーダー録音で,2004年1月にニューヨークのアッパー・ウェストにある【スモーク】で吹き込まれたライブ録音。リーダーは,重度にキャノンボールへ被れた艶っぽく軽やかな吹け上がりが,一聴物語るとおりのファンキー・ジャズ好き。本家ほど大排気量ではないので,「ジジ・グライスっぽい音色」と言った方が良いでしょうか。これに,小粒なドナルド・バードの面持ちでカイザーが加われば,もはや彼らがアダレイ兄弟の黄金時代に狙いを定めているのは,どなたにも明らかでしょう。ファンキー一色ののフロントの効果は思わぬところへ波及。リーダーと懇意なための参加と思しきヘイゼルタインが,久々に本領発揮しているのには快哉。最近気が抜けたなあ・・なんて思っていた彼が,かつての韋駄天ピアノを彷彿させる快演を連発し,下から演奏を支えて相当にアルバムの温度を上げています。大変出来の良い今風ファンキー・ジャズです。それ系の音に目がない方は是非。

★★★★★
"Pierre De Bethmann 'Ilium' Quintet" (Naïve : NV 49411)
volseau K.I.S.S. ingérences solune steady. la lenteur dia sisyphe-1 sisyphe-2 ruptures ilium
Pierre De Bethmann (rhodes) David El Malek (ts) Michael Felberaum (g) Clovis Nicolas (b) Franck Agulhon (ds)
プリズムの元構成員といえば,「ああ〜」と仰る方も多いであろうピエール・ド・ベトマン氏。1965年パリに生まれた彼は,1989年にバークリー音楽院へ留学し,1994年にプリズムを結成。4枚のアルバムで一躍時の人となったのはご承知の通りです。しかし,意外にも本職は経営コンサルタント。バークリー留学の2年前までパリ高等商科大学(ESCP)へ籍を置いて経営学を学び,バークリーからの帰国後も,プリズムを結成する1994年までの5年間はコンサルタントをやってご飯を食べていたそうです。同グループが『オン・ツアー』を発表して打ち上げ花火の如く空中分解してしまった2001年,彼は新たなユニット《イリウム》を結成。2003年に第一作にあたる本盤を出しました。1965年生まれで思い出すのはあのマーク・ターナー。彼は1987年バークリー入学を果たし(ちなみに一年後輩にクリス・チークもいます),1990年に卒業している。ベトマンが留学中,彼らの洗礼を受けたのは想像に難くない。テナーとギターの2フロントに,リーダーのフェンダー・ローズの編成からもご想像の通り,自分名義のグループを組んでまで作った音は,そのものずばりの『イン・ディス・ワールド』。メカニカルな変拍子と無機的なリフで構成されるリーダーの作編曲は,誰の耳にも旧スモールズ系のそれですし,フレージングに至るまでターナーへ心酔しているテナーと,サイケ調の変態性+退廃的な浮遊感を併せ持つギターは,露骨なまでのローゼンウィンケル崇拝。仏パンタン生まれの前者は1995年にデファンス国際で即興三位,作曲部門二位を受賞。後者は,1985年にバークレーへ進み,マーク・ターナーと懇意に。10年遅れてヨーロッパにもスモールズのイディオムは拡がって来つつあるということを如実に示した本盤。5年後にジャズの新たな流れを展望するとき,ある意味重要作となるかも知れません。余談ながらベトマンさん,2004年にはジャンゴ賞も受賞したとか。余勢を駆ってこのほどグループ第二作『コンプルクス』も出ました。

★★★★3/4
Claus Koch "Snooki-ing" (Nagel Hayer : 2029)
Dubravka's delight moonstruck super spider professor bradipo counterblow twilight times snooki-ing ghost of a chance theme for cookers
Claus Koch (ts) Ralf Hesse (tp) Claus Raible (p) Wolfgang Kriener (b) Michael Keul (ds)
クラウス・コッホは1967年グラーツ生まれのテナーマン。吹奏楽者ながら遙々海を越え,バリー・ハリスに弟子入りするほど筋金入りのハード・バップ信奉者だった彼は,帰国後もチャーリー・アントリーニやダスコ・ゴイコヴィッチ,ローマン・シュワラーの脇を固めて名を上げました。身も心もバップが好きで堪らない彼は,1996年に同志を募って自らのグループを組んだ折りも,メッセンジャーズの向こうを張って【バペレイターズ】(Boperators:バップのオペレーターたち)を名乗ったほどです。同郷の同級生にして負けず劣らずのバップ狂クラウス・レイブルがピアノに鎮座して目を引く本盤は,実質上【バペレイターズ】の顔触れにより,2002年ハンブルクで録音されたコッホ名義のリーダー作。冒頭ハード・バップの代名詞「誰々'sデライト」の自分バージョンを持参し,ドイツのアルフレッド・ライオンことフランク・ナゲル=ヘイヤー率いるレーベルからCDを出す。これで音がモード・ジャズだったら詐欺です。果たして出てくる音は目が点になるほど模範的な1950年代ハード・バップ。主人公のテナーはグリフィン的な骨っぽさとグルーヴネスを音色に秘めつつ,フレージングはスムースでレスター流儀。ややマイナーな喩えで恐縮なんですが,個人的に贔屓のフランク・ヘインズとそっくり。頬が緩んで仕方ない。ラッパはケニー・ドーハムで,ピアノはバリー・ハリスの嫡流。ここにデイヴ・ベイリー似の太鼓とベン・タッカー似のベースが合流。管のカウンター・メロディの当て方はマクリーンのルーレット盤辺りの風合いですか。なにぶん全員ドイツ周辺の顔触れだけに,本場ものに比べ乗りが硬いのはご愛敬。愚直に黄金時代を懐古する首尾一貫した創作態度は大いに好感が持てますし,演奏もハイレベル。貴兄がハード・バップ好きでさえあれば,自動的に甲種お薦め致します。

★★★★★
David Hazeltine "Menhattan Autumn" (Sharp Nine : CD 1026-2)
a walk in the park moon river blues on the 7 the look of love on the marc uptown after dark ask me now Nancy (with the laughing face)
David Hazeltine (p) Eric Alexander (ts) Peter Washington (b) Joe Farnsworth (ds)
いなせなアルト吹きヘンドリクソン=スミスのリーダー盤で,久しぶりに好調なソロを弾いていたヘイゼルタイン。或いは不調を脱したのかと気になり,また買ってみるかと考えるようになった頃。タイミング良く出てくれた本盤は2003年のカルテット録音。とはいえ脇を固める3人は,クラシック・トリオやワン・フォー・オールでも,しじゅう一緒に演奏しているお仲間。これ以上何か言い足す必要もありそうになく,何を書いても蛇足な気がしないでもない。まずエリック・アレキサンダー。また巧くなってますねえ。思い返せば,デビュー当時は楽器の取り回しもしんどそうで,野太いけれど総身に神経が通わないところがありました。そんな彼がいまや当時の大味なデクスター・ゴードン臭は完全に影を潜め,コントロールも軽やかになり,羽根よりも軽やかに管を鳴らしている。もはや誰の耳にも,メンフィスの大先輩ジョージ・コールマンの色は明らかになりました。ということで,興味は早々に一番の心配事だったヘイゼルタインのピアノへ。やはり見違えるほど吹っ切れている。ミディアム・スインガーとアップ・テンポものが増えたアルバムの構成が何よりの証左。シダー・ウォルトンのレガート奏法を基調にしつつも,軽快にスイングするシングル・ノート。以前の気っぷのよさが戻ってきました。こうなれば元々横綱級の腕利きです。全編,安心して聴ける。気になることがあるとすれば,(佞蠅如ぐ柄阿砲呂覆った運指の乱れがごく僅か顔を出していることですか。もしやもう老いの影が?まさかねえ。

★★★★1/4
Serge Forté Trio "Jazz in Chopin" (Ella Productions : EP 2003-2)
étude No.6 prélude No.7: berceuse ballade No.1 andante spianato mazurka no.4 suite révolutionnaire: part 1-5 prélude No.4
Serge Forté (p) Karl Jannuska (ds) Peter Herbert (b)
ベースに,ビル・チャーラップやピーター・マドセンの脇を固めたピーター・ハーバートの名前を見つけ,嬉しくて買ってしまった本盤のリーダーは1960年5月1日チュニ(Tunis)に生まれ,リヨン音楽院を出た仏人。ジャズに開眼する18才までクラシック畑だったせいか,1990年以降4枚発表したリーダー作は,どれも本盤のようにクラシックやラテン音楽とジャズの境界付近を浮遊。良くも悪くもアレンジで聴かせる面が少なからずあるピアノです。押しも押されもせぬクラシックの大家ショパンをジャズ化するという,かなり無謀な冒険をしたジャズメンは少なからずいましたが,あの後ろ髪を引かれるような経過音や土臭いフレーズがショパンの生命線ゆえ,多くは「これが魅力なんです」とばかり受け売りし,挙げ句ショパンに本丸を落とされてしまうものでした。そこへ行くとこのピアノ弾きは策士。いかに換骨奪胎してショパン・カラーを希薄にするか,随分苦心した模様。全曲に渡り,原曲はリズム・ハーモニー・主旋律が重度に解体され,臭い消し処理済み。真っ当なジャズとしても,ほとんど違和感なく聴けます。やっぱり大きく減速する超絶技巧曲のΔ砲麓詐个魘悗呼世覆い發里痢す夫の跡は充分に伺えるのでは。ただなあ,後期ロマン派の爛熟期ゆえ,それでも主題はやたら長大。不承不承原曲をトレースする三人の演奏には,内心逃げ出したくてうずうずしながら,センセーに睨まれて廊下に正座させられている小学生の心情にも似たもどかしさが残る。換骨奪胎型のジャズ化の場合は,素直なジャズ化とは逆に「なんでそう弄り回してまでショパンなのか?」という両義的な命題から逃げられないのですね。尤も当事者にとって,これは半ば冒険作ないしは企画ものでしょうし,リッチー・バイラークを織り交ぜたベルギアン風の硬質なピアニズムと編曲力の高さは,余所行き仕様な本盤からも充分に伺える。本領は,フツーのジャズをやった別盤で聴けば宜しいのでは。

★★★★★
Peter Beets "New York Trio Page 3" (Criss Cross : CRISS 1264 CD)
prelude in E minor the judge degage tristiny I've got my love to keep me warm is it wrong to be right? django passport
Peter Beets (p) Reginald Veal (b) Herlin Riley (ds)
ご兄弟と母国オランダで結成したビーツ・ブラザーズの成功により,アメリカの保守派レーベルから目を付けられたピーター・ビーツ。彼の米国出稼ぎトリオも第三作を数えることになりました。オスカー・ピーターソンを敬愛する彼のピアノは,基本的に白人版オスピー奏法。小難しいフレーズも和音も弄せず,ひたすらオーソドックスにスイングする快刀乱麻のプレイは,このアルバムでも健在でした。ピーターソン・ライクなグルーヴとドライブ感を底流に持ちながらも,初期のビル・チャーラップに通じる軽やかな運指技巧と,白人らしく洗練されたタッチを利して,あくまでさらりとした風合いにまとめるスタイルは,徹頭徹尾嫌味がない。数多ジャズメンを玉砕させてきたお馴染みショパンの難曲,肋歡的。普通のジャズ演奏家なら間違いなく原メロ負けしてしまうこの曲をやって,全くそれらしい場違い感を与えないのも,彼自身の演奏が素材に揺らがないほど強固な型を持っているからでしょう。相撲と同じで,自分の型を持ってる人はやはり強いです。脇を固める2名は,ご存じウイントン・マルサリスの傭兵。『スタンダード・タイム第一集』の重厚長大なマルサリスを,まるっきり別人の如く小粋な『第二集』のカルテットへまとめ上げた手腕は健在。特に太鼓のライリーは,彼岸からこれだけスノビズムのない黒人ピアノを弾く人がやってきて,余程愉しかったんでしょう。演奏が素晴らしく溌剌と乗れていて,さながらピーターソン・トリオにおけるエド・シグペン状態。最近録音がどんどん良くなっているマックス・ベールマンのお陰か,ラジナルド・ヴィールのベースも野太くて気持ち良い。懐旧的なスタイルそのものに拒否反応を覚える聴き手でもない限り,およそ誰にも好かれるピアノ・トリオの典型です。甲種推薦。

★★★★3/4
Michel Perez Sextet "Storias" (Notes Croisées : MP1)
chapeau chinois JF Elsa lichens Alexandra Gianni neiges ambre like someone in love
Michel perez (g) André Ceccarelli (ds) Sylvain Beuf (sax) François Chassagnite (tp) Nico Morelli (p) Vincent Artaud (b)
あまり耳慣れないソリストのミシェル・ペレ氏はリヨンの【ホット・クラブ】なるジャズ・クラブを根城に活動を始め,ハンク・モブレーやスライド・ハンプトンら欧州楽遊組をバックアップしてキャリアを積んだ人物。本盤の編成や面々からすると意外な気がしますけれど,元はロックとの境界領域で活動しており,1972年にキーボード奏者ジェラール・メモールとプログレ系ジャズ・ロック・グループ【スペロー】を結成。2枚のアルバムを残したほか,マリルス・デイヴィスが来仏した1984年には,ニースとヴィーンのジャズ祭でサイドメンを務めてもいたようです。リーダー盤は5枚あり,本盤はピアノ弾きマリオ・スタンチェフと組んだ1996年作『デュオ』に続いて,2004年に出た6枚目。ニコ・モレリ,アンドレ・チェカレリ,シルヴェン・ブフと豪華メンバーを従えたセクステット録音で,【ジャズマン】誌で4つ星を獲ったほか,【ジャズ・マガジン】誌で月刊最優秀盤に選定されました。若かりし頃のハードなスタイルとは裏腹に,ここで聞こえるリーダーのギターは意外にオーソドックス。部分的にはベン・モンデール辺りのアンニュイな音色とアプローチにも目配りしていることを匂わせながらも,基調は,ケニー・バレルにクラシック・ギターを少し足しあわせたような音色と,メロディアスなアドリブ・ライン。テクニシャンではなく,巧いタイプですか。この人は曲書きのセンスが面白い。お名前からするに血筋はイタリア系かも知れません。あくまでオーソドックスな歌ものの曲形式のうえで,奇妙に転調しながらモリコーネ的な感傷を伏し目がちに絡める曲想は,郷愁をそそるメランコリックな味わいがあっていい雰囲気。芸達者揃いの助演も素晴らしく,エンリコ『シーワード』を傑作にした名手アンドレ・チェカレリの繰り出す,強弱のコントロールが行き届いた多彩な搦め手は特に光ります。

★★★★★
Joe Haider Trio "A Sunday in Switzerland" (JHM : JHM 3633)
a sunday in Switzerland on Green Dolphin Street dark circle blues rhythm'dim Karen's birthday waltz groovy till for line some other blues
Joe Haider (p) Giorgos Antoniou (b) Daniel Aebi (ds)
1936年ダルムシュタット生まれのハイダーは,1960年にミュンヘンのシュトラウス音楽院を出てプロ入り。既に半世紀近い音楽歴を誇る割には,あまり話題に上がることのない人物。長くベルンのスイス・ジャズ音大で教鞭を執っていたことも少なからず影響しているかも知れません。そんな彼は,世紀の変わり目を迎えた2000年,突如『祖父の庭園』を発表し本格復活。僅か4年のうちに,こうして第3作が出ました。今回も4曲の自作と,ベースのアントニウが書いたオリジナルを1つ。残る3曲をスタンダード・・とバランスが良い。昔語りのお爺さんみたく訥々と飾らない叙情性,一音一音確かめながら音を並べていくかの如く律儀なリーダーのフレージングは本盤でも不変。民謡を編曲したかのようにメロディックで無垢な自作のセンスも相変わらず。同じく渡欧永住組のケニー・ドリューを彷彿させる等身大の美意識は,演奏技術が専門化したこんにち,むしろ希少なものといえましょう。さらにもうひとつ,この3人がグループとしてますます良くまとまってきている。ゆったり大きめの振幅で拍を刻むベースは,やや辿々しくもあるピアノを巧く補償してスイングの核を作ってますし,太鼓はますますタイトになり,演奏を引き締める。枚数を重ねるたびに,バランスが向上。その意味でも,かつてのケニー・ドリュー・トリオの向こうを張る存在になりつつあると思います。軽々しく名盤という言葉は使っちゃいけないんでしょうが,地道な精進で一枚ごとに水準を上げる努力を怠らない姿勢は素晴らしい。こうなってくると逆に怖いのは,日本レーベルに拾われちゃうことですか。自然を保護したいなら,下手に干渉しないのが一番なのと同じ。こういうトリオは変な欲目を出したら終わりです。彼は社長さんだから大丈夫でしょうが,なまじ日本人の琴線に触れるスタイルだけにちょっと心配。「自然が大好き」とばかり,土足で生態系に介入しては踏み荒らす粗忽者が現れぬよう,この場をお借りして釘を差しておきます。

★★★★3/4
David Sills "Bigs" (Naxos : 86070-2)
bigs shark-eez who can I turn to? I wanted to say zingaro aka portrait in black and white grunions star jasmine waiting for Charlie I'm glad there is you mahindo
David Sills (ts) Larry Koonse (g) Alan Broadbent (p) Darek Oles (b) Joe LaBarbera (ds)
以前セカンド・アルバム『ジャーニー・トゥゲザー』を月報でご紹介したこともあるデヴィッド・シルズ。本盤は,2000年に発表された3枚目のリーダー盤です。リーダーはカリフォルニア州マンハッタン・ビーチ出身。カリフォルニア州立大学ロング・ビーチ校でサックスを学んだのちプロ入りした,まだ30才そこそこの若手なんだとか。しかし,既にナクソスへ同じ顔触れによる2枚の吹き込みを残し,順調にキャリアを積んでいるようです。「チェロキー」の主旋律をスケルトーナルに換骨奪胎した△物語る通り,彼のスタイルはいわゆるクール・スクール傘下。多くがレスターからスタン・ゲッツやズート方向へ進む白人テナー吹きの中で,敢えてテッド・ブラウンやウォーン・マーシュ方向へ進むタイプというのは滅多にお見かけしません。クール派の巨人にによく学び,くすんだ深みのある音色を取り込んだスタイル作りをする姿勢には妙味が感じられます。前作では若さが鼻につくところも散見され,おまけにグループの演奏にちぐはぐなところも見受けられたものでしたが,2年経過した本盤では,リーダーのテナーも貫禄が出て格段に自然体で歌うようになりましたし,グループとしての一体感も随分と良くなりました。この5人はレギュラー・メンバーとして活動しているらしいので,きっと気心も知れ,こなれてきたんでしょう。ナクソスにしておくのは罪作りに思えるほど良く出来たアルバムだと思います。西海岸の爽やかな風が吹き抜ける,軽めのクール・ジャズがお好みの方はぜひどうぞ。

★★★★1/2
Grant Levin Trio "The Bust" (Beezwax : BW2878A)
segment Brazilian dreams CCC windows inner urge insatiable/unquity road the bust midnight voyage six million steeplechase/crazeology
Grant Levin (p) Hans Halt (b) Tekanawa Haereiti (ds)
リーダーのグラント・レヴィン君は,カリフォルニア州アルカータ郡フンボルト生まれの23才。本盤を録音した2003年当時は,ネバダ大学レモ校ジャズ演奏科の学部生でした。録音メンバーの三名は彼とレギュラー・トリオを組んでるお仲間。ベースを弾くハンス・ハルトは同学科の教員を務め,いわば彼のお師匠さんにあたります。彼らは学業の傍ら,レモ校周辺のジャズ・クラブ【ムーディズ・ビストロ】や【ビストロ4番街】を根城にのんびり演奏活動を続ける間柄で,この録音も当初は公表するつもりなどなく,卒業制作のつもりでスタジオを借りて作ったものだったとか。テープを貰ったサンディエゴに住む彼の友人が,こりゃ凄えとインディアナ州のビーズワックス側に売り込み。とんとん拍子にCD化が決まったのだそうです。冒頭と掉尾をパーカー・チューンで挟み,コロコロ運指のチック・コリアが書いたい法ぅ癲璽秒討カルデラッツォの─い修靴匿啓舂派屈指の作曲家ジョーヘンのイ魎屬肪屬い紳虜曚,そのままこのうら若いピアノ弾きの音楽的嗜好を代弁。初期ハンク・ジョーンズやトミフラを彷彿させる小粋な右手のシングル・トーンを前面に出しながら,控えめにモードの薬味を添えていくスタイルは,ひたすらに分かりやすく好ましい。レギュラー・トリオだけに,伴奏を務める2人も良く協調。猫の忍び足の如きデリカシーと,思わず小躍りしてしまいそうに小気味良いスイング感を生みだしており,好ましいの一語です。細かいことを言えば,ピアノは技巧的に少しばかり小粒で,リズム感脆弱。ときにアルペジオが寸詰まりになったりもしてるんですけど,無問題無問題,ご愛敬程度。欲目がなかったぶん,自宅の居間で録音したかのようなノー・エフェクトの集音もいい感じです。余談ながらこのCD,プラケースに可愛らしいおまけが入ってまして。大手にはない茶目っ気につい頬が緩んでしまいました。

(2006. 7. 26)