2000年代のジャズ Vol. 18


★★★★3/4
Bernardo Sassetti "Nocturno" (Clean Feed : CF008CD)
time for love sonho dos outros reflexos nocturno olhar musica callada mov.1 cançon No.7 andante monkais quando volta o encanto musica callada mov.1 (solo)
Bernardo Sassetti (p) Carlos Barretto (b) Alexandre Frazão (ds)
リーダーのベルナルド・サセッティは1970年,ポルトガルのリスボン生まれ。もとはクラシックを学んでいたそうですが,程なくジャズに開眼して,ホレス・パーランやローランド・ハナのマスター・クラスを受講。1987年のプロ入り後は,カルロス・マーチンスの四重奏団【モレリアス・ジャズテット】へ加入してサイドメンを務める傍ら,フレディ・ハバードやケニー・ホイーラー,パキート・デリヴェラら大物の脇を固めてキャリアを積みました。1990年代以降はギ・バーカーの五重奏団の一員となり,数枚のヴァーヴ吹き込みに参加。このグループが1995年に発表した『イントゥ・ザ・ブルー』は,同年のマーキュリー賞の最終選考にノミネートされたそうです。豊富な脇役キャリアを経て,1994年には初リーダー作『サセッティ』を発表。1996年には第二作『ムンド』を録音しました。本盤は2000年に発表された三枚目のリーダー作。目を引くのはΝЛでモンポウが料理されていることでしょう。毛深いラテン系が支配するスペインで,朴訥然と「内なる」「沈黙の」音楽を追い求めたモンポウ。彼を礼讃する美意識が,そのままこの人のピアニズム。隙間をたっぷり取った音場の中で,途切れ途切れに並ぶシングル・ノートのスタッカートと繊細なコードで,シンプルかつ内省的に語る。脇役が少しばかり弱く,太鼓の強弱表現が粗いなど,技術的にはやや残念なところもあります。しかし,良い作品を作ろうという一同の至誠で,技術面の至らなさを懸命に補償。デリカシーと良心が全編に感じられる,極めて好ましい仕上がりになっていると思います。

★★★★1/2
Brad Mehldau Trio "Anything Goes" (Warner Bros : 9362-48608-2)
get happy dreamsville anything goes tres palabras skippy nearness of you still crazy after all these years everything in its right place smile I've grown accustomed to her face
Brad Mehldau (p) Larry Grenadier (b) Jorge Rossy (ds)
ご結婚なさり,人生も一区切りしたメルドー君。2004年に発表した久々のスタジオ盤トリオ作です。このアルバムの特徴は,これまで必ず入っていた自作曲を,全く入れなかったことでしょう。この人が《アート・オブ・ザ・トリオ》シリーズを開始したときから,小生は彼ををピアノの二重人格者と書いてきました。持てる技巧を目一杯に駆使し,ライブ会場で疾走する一連のシリーズを,彼の情になぞらえると,ニヒルなコード捌きとアンニュイな主旋律のコンビネーションでオリジナリティを作っていくスタジオ録音群は,さしずめ彼の知にあたる。この観点から捉えると,『プレイセズ』とは裏腹に他人の書いた素材でも,自分色に染色できるぜと宣言した本盤は,デビュー以来長く続いた《知と情》の試行錯誤を,ある意味彼なりにバランスした自己解答。ウジウジ思い悩むような陰鬱な緊張感は,演奏から見事にかき消えましたし,素材に遊ばれている感の拭えなかった編曲も,随分とこなれました。彼なりに自分の型が出来上がり,恐らくは大いに安堵したんでしょう。これまでになく肩の力が抜け,三者三様まったり飄々と演奏する姿は,好々爺然としてすらいる。どこへ向かうのか興味津々だった者としては,落ち着くところに落ち着いた彼を見るに,「やっぱりなあ」というか,「こんなもんですか?」というか。再び二足の草鞋を履きこんでやっていくにせよ,そうでないにせよ。彼のピアノに何となく先が見えちゃったのも確かです。勿論,既に2000年代最初の5年間ピアノ界を席巻した《ニヒル語法》の開拓者として,彼は充分イノベイティブな仕事をしましたから,これ以上彼に革新者としての仕事は望みませんが。今後は成熟のベクトルに舵を切るってことで,「見るべきものは見つ」の心境。多分これからは中古盤しか買わないと思います。

★★★★1/4
Toni Solà Quartet "Natural Sounds" (Swing Alley : sa 005)
Amy mangones safari blues un instant de màgia funk to Grover nictalops all the gin is gone come sunday* ger-ru bright moments song for Stanley Turrentine
Toni Solà (ts, ss*) Xavier Monge (p) Ignasi González (b) Pau Bombardó (ds)
イグナシ・テラザに半ば秘蔵っ子として可愛がられ,以前発表したデビュー作でも固めて貰っていたトニー・ゾラーが,2004年に発表したレギュラー・カルテット作です。彼は1966年バルセロナ生まれ。音楽教育は受けず,基本的に独学でサックスを習得。結果としては,ヘタに今風のモード奏法へ走らないで済む結果となり,彼の存在を貴重なものにしたわけで,物事万事塞翁が馬ってことでしょう。ビブラートをたっぷり使った,こってり系の吹け上がりからも明らかなように,彼の嗜好は現代の中間派。あちらがレスター・ヤングに立脚している点で違うとはいえ,やっている音楽の美意識そのものは,ちょうどナゲル・ヘイヤー時代のハリー・アレンと同じ。21世紀なのに,今さら中間派の焼き直しなんてやっててどうすんの?なんて仰る方でなければ,半ば予定調和的に期待通りの音を聴けるんじゃないでしょうか。一つ気になるのは,少々スタイルが変わったことですか。デビュー当時の彼は,ベン・ウェブスターを思わせるどっしり腰の据わった鳴りっぷりで若さに似合わぬ貫禄があり,これ以上ないほど分かりやすい中間派ソウル・テナーでした。当然,本盤でもそれを期待していたんですけれど,ここに聴けるのはウェブスターというよりはイリノイ・ジャケーやコールマン・ホーキンス。ダート・トーンを練り込む音色や,ぶりぶりと見栄を切りながら掛ける細かいビブラートは,より庶民的。ウェブスターの品位は乏しく,むしろテキサス・テナー風。急速調Г任呂気垢にボロが出るも,レギュラー・メンバーに代わったお陰で演奏のバランスはかなり向上。ピアノも俄然丸くなり,出来そのものは悪いどころかかなり良いだけに,主役のテナーから,当初の風格が失われたのは,個人的にはちょっと残念です。

★★★★1/4
Walt Weiskopf "Sight to Sound" (Criss Cross : 1250 CD)
sight Miro Pablo Camille Claude Salvador canvas Toulouse Vincent sound don't worry about me
Walt Weiskopf (ts) John Mosca (tb) Andy Fusco (as) Joel Weiskopf (p) Doug Weiss (b) Billy Drummond (ds)
カウンター・パンチを充てることにかけては,現在のジャズ界で最も上手い人物の一人ではないかと思われるクリス・クロスのコルトレーンことウォルト・ワイスコフ。2003年に発表したリーダー作を。結局,この人のアルバムを並べてみると,三管セクステットが大半を占めます。一時期,ワンホーンや大型コンボにも手を出しましたけれど,作編曲を含めた総合音楽家として評価されてこそ,その独自性が最大限に生きる彼にとり,一番自分の音を鳴らしやすいのはこの編成なんでしょう。アルバム・タイトル『眺めを音へ』や,有名画家のお名前(何人お分かりですか?)を冠した各曲の標題が示す通り,絵画から受けたインスピレーションを音楽に読み替えることを意図したコンセプト・アルバム。そのためか,《即興と作編曲を高次元でバランスする》ことを目指すリーダーの意図が,これまで以上に色濃く出ました。しずしず厳かに合奏される長めの主題と凝った変拍子は,即興を殺すか殺さないかの境界線近くにまで到達。特に主題のリフにスラーが多いのはその結果でしょう。これが主題から野趣を削り,彼の持ち味をやや相殺してしまう。ワイスコフのアレンジを買っている数少ない同好の皆さんの間でも,アレンジの評価は分かれるのでは。彼はこの当時,スティーリー・ダンのグループに入って欧州ツアーをやってました。どちらも変態コード進行製造の達人。少なからず触発されたところはあったんじゃないでしょうか。実際,ややアレンジ偏重なのを割り引いても,一聴それと分かるこの人の作編曲センスは相変わらずオリジナリティ豊か。馴染みの顔が脇を固め,即興に入ればいつも通りの高密度な演奏で安心して聴けます。ちなみに,何だかひたすらに場違いなは,リーダーの弁に依れば「単にこの曲が最近好きなんです」だとか。オーソドックスな主題に,相変わらずの凝ったカウンター・メロディをあてて,自分色に染め上げるこの曲を聴くにつけ,「心配しないで。アレンジ過多でも,そっち畑に行ってしまうことはないから」と言ってるように聞こえてしまいます。

★★★★1/4
LTC + Mark Turner "Hikmet" (VVJ : VVJ 055)
Alex pictures love theme from Spartacus round town pigolio di stelle Hikmet in ballo rain girl skylark
Pietro Lussu (p) Lorenzo Tucci (ds) Pietro Ciancaglini (b) Mark Turner (ts)
これだけ色々な録音が世に出るようになり,気軽に人々が世界を行き交うようになりますと,他流試合も国際的になって参ります。聴く方としては,それぞれに目を掛けていた演奏家を,意外な組み合わせで愉しめることになり,願ったり適ったり。良い時代になったもんですねえ。イタリアのフィル・ウッズことロザリオ・ジウリアーニの脇を固めて怪気炎をあげていた太鼓とピアノが,どういう契機からかマーク・ターナーを迎えてカルテット盤を出しました。半分はベースとピアノが代わる代わる自作。残る半分は同業者のオリジナルやスタンダードで構成し,マーク・ターナーはあくまでも客演。そのぶん,オーソドックスなポスト・バップ・スタイルで,テナー吹きとしてのターナーを聴ける一枚となっているのが売りでしょう。スモールズ系のイディオムで緊張感たっぷりに変態音階を披瀝するターナーのスタイルは,聴き手に緊張を強いるところがあります。で,正直なところ「吹き手として客演させるのはどうかな・・」と思いつつ耳を貸しましたが,相性は意外なほど良好。半音階を練り込んだ,いつもの抽象的なフレージングを核に据えながらも,△筬イ任話羔疆豌山を挿入して標題への目線を示唆し,い任郎廼瓩舛腓辰筏憶がないほどメロディックなソロを吹くなど,愉しんで仕事をした様子。意匠を他人任せにできたことが,却っていい結果に繋がったのでしょう。ちなみに標題は,1902年ギリシャ(旧オスマントルコ)のテッサロニキに生まれたトルコの詩人ナジム・ヒクメットのこと。多感な時期にソビエトへ留学し,共産主義に染まった彼は,1924年の帰国後,共和国政府から何度も弾圧を受けながら活動を展開。海外では相当の知名度を持ってます。ジャケットの内側にはその詩が引用され,本盤の制作動機を示唆している。一昔前ならコルトレーンですか。今も昔も,ユニバーサル言語を標榜する音楽家と左翼思想は相性抜群です。残念ながらライナーで礼讃なさってる詩は,言語の壁に阻まれて読めませんが。

★★★★1/2
Ivan Paduart Trio "Blue Landscapes" (Videoarts : VACD-1006)
Igor blue landscapes Madeira broken hearts perpetual movements sweet Georgia fame I had a ball falling grace my song why not
Ivan Paduart (p) Philippe Aerts (b) Dré Pallemaerts (ds)

最近,ティエリー・ラングの新録を立て続けに制作し気を吐いたビデオアーツから,今度はベルギーの俊才パデュアールを迎えた新録が。ダグ・アルネセンの再発からも明らかなように,社長さんは1990年代から大挙日本へ流入した欧州の新しい才能をリアルタイムで聴き,ジャズに目覚めた第一世代。当然,印刷メディアを介した情報に懐疑の念を抱くようになった,最初の世代になります。【アフタータッチ】なるフュージョン・バンドのキーボード弾きでもあり,作編曲力に秀でたパデュアールを捕まえて,自作メインの意匠。彼の名を高めた『クレール・オブスキュール』と同じトリオ編成を選ぶ。自分が録音する演奏家がどんな人間なのかをきちんと踏まえた上での仕事。当たり前のはずなんですけど,こんな簡単な事すらできない会社の何と多いことか。ツボを完璧に押さえて駄作はできません。絡む相手によっては弱さを露呈する脇の二名と,かつてはソリッドなタッチのピアノを弾いたリーダーとが,巧みに協調。程良く弛緩した叙情派の演奏を展開。ミシェル・ハーの第二世代も頷ける,高品位のトリオ作です。ところで,本盤は歴とした国内盤なんですが,やはり悪名も権威もジャズ界一の某誌からは何も貰えなかった模様。これだけの作品を抑えてゴールドディスクなら,競合盤はさだめし素晴らしい作品だったんでしょうな。まあ同一レーベルに異常な高率で賞を濫発する雑誌の評価なんて当てになりませんし,別にそこからの評価なんて要りませんか(苦笑)。自分の目や耳を信じ,新しい才能にオープンな関係者の皆さん。見てる人はちゃんと見てますから,めげずに頑張ってください。ただ,「パドゥア」は「パデュアール(パドゥアール)」のほうが良いかと。

★★★★3/4
Edward Simon "Simplicitas" (Criss Cross : Criss 1267 CD)
opening infinite one not so unique you're my everything I simplicity fiestas unknown path fiestas: reprise you're my everything II south facing exit
Edward Simon (p) Avishai Cohen (b) Adams Cruz (ds) Luciana Souza (vo) Adam Rogers (g) Pernell Saturnino (perc)
テレンス・ブランチャードのサイドメンとして頭角を表した彼も,都会暮らしが長くなり,かつてあんなに垢抜けのしないアフロ・キューバン・ジャズをやっていたとは思えないほど,すっかりニューヨーク最先端の音に変貌しました。本盤はクリス・クロスでは二枚目となるリーダー作で,2005年の発表。移籍第一作では,上手くなった反面,当世風のモード・ピアノがまだ充分こなれていない空々しさも残した彼でしたが,本盤ではメカニカルなモード・スタイルの咀嚼も完了。デヴィッド・キコスキーをもう少しダークな色調にしたようなハーモニック言語とパラパラした歌い回しのピアニズム。それでいて,ご本家よりもセンスの良いフレージングを武器に,すっかり堂に入ったところを見せています。スタンダードい鯆阿に,編曲も随分こなれ,トータルな音楽屋としても進境著しい。中盤,スチールドラムを無理矢理乗せるΔ筺ざ疚ね萇にサンバを再解釈しようと目論むГ鯆阿に,自らの音楽的ルーツと今風ピアノ語法の融合にはまだ課題が残っているようですけれど,前半を中心に現代風ピアノ好きの方なら充分満足して頂ける出来ではないでしょうか,加えて本盤,サイドメンが実に良い腕してますねえ。特に,チック・コリア路線繋がりで登用されたと思しきアヴィシャイ・コーエンにはたまげました。冒険的でいて的確なライン取り,ドスの利いた音色に完璧なリズム感。凄腕です。

★★★★1/4
Clarence Penn Quintet "Play-Penn" (Criss Cross : 1201 CD)
Teo Grace-Ann you must believe in spring blues for Paris the charm consistent-seay red alert essence Preston's theme
Clarence Penn (ds) John Swana (tp, flh) Ron Blake (ts) Jesse Van Ruller (g) Rodney Whitaker (b)
リーダーは1968年,アメリカで最もガラの悪い街の1つにして中西部ジャズのメッカでもある,ミシガン州デトロイトの出身。通学路の途中に,太鼓を日夜練習しているご近所さんが住んでいたのが縁で小学校三年からドラムを始め,マイアミ大学を経て,エリス・マルサリスのいたヴァージニアのコモンウェルス大学へ。1989年にはNEAから奨学金を貰って,ボストンのアラン・ドウソンのもとで修行を積みました。1990年,エリス・マルサリスに帯同してマウント・フジ・ジャズ・フェスへ参加した際,ルイス・ナッシュに見初められ,彼の推薦でベティ・カーターのサイドメンとなり,次いで1995年にはステップス・アヘッドへ加入。1996年に,NYタイムズ誌の年間ベスト10にも選ばれた『ペンズ・ランディング』でリーダー・デビューを果たしました。本盤はこれに続き,2001年に出た第二作。暫く聴かないうちに随分音がファットになっていたスワナに,気の弱そうなソウル・テナーのブレイクで二管を組み,リュラーの洒落たギターを入れて,景気良く今風ハード・バップをやってます。キャリアの割にリーダーとして遅咲きだったのは,生来の控えめな性格が絡んでいるんでしょうが,ウッド・ベースに鎮座した戦艦ウィテカーとともに繰り出す,肉感的かつ腰の据わったグルーヴは流石。俺が俺がタイプでない彼は,きΝの自作もバップ・イディオムで凝ったところはなく,恐らく人選や意匠に気を配ってまで,一枚看板を掲げるのは趣味じゃないのでは。敢えてやや趣旨違いなルーラーを使ったのも,彼の洒落たコード打ちで,その辺りを埋め合わせて欲しかったんでしょう。しかし,ミュージシャンよりもいちプレイヤーであろうとする姿勢が,ラルフ・ピーターソンくんだりとこれだけの差を開けてしまうとしたら酷な話。ルイス・ナッシュと並んで,中量級では最もタイトで良くスイングする素晴らしいドラマーだけに,浮かばれて欲しいですねえ・・そういえばナッシュも最近あまり見なくなっちゃいました。元気にしてるのかなあ。

★★★★1/4
Fredrik Norén Band "Live at Glenn Miller Café, Stockholm" (Mirrors : MICD 014)
Pete's flame falken Oliver's blues the new year Mobster lobster the view P.G. tips Tiburón BMS
Nils Janson (tp) Peter Fredman (as) Jonas Östholm (p) Lars Ekman (b) Fredrik Norén (ds)
フレドリク・ノレーンは1941年生まれのスウェーデン人ベテラン・ドラマー。18才のプロ入り後はウェブスター御大を始め,幾多の渡欧組の脇を固めるいっぽう,ラーシュ・ガリン,ベンクト・ハルベリ,ベンクト・ローゼングレンら,スウェーデンを代表する面々と共演して名を挙げました。1978年には,自らの名を冠した五重奏団を結成。処女吹き込みを出した1980年に【スウェーデンのジャズ】賞を獲得。その後,自らが社長を務めるレーベル【ミラーズ】からコンスタントにアルバム発表を続け,1993年にスウェーデン・グラミー賞を受賞。本盤を含めて13枚の録音を残しました。本盤は,昨2004年3月に出たグループ最近作。2004年4月3日と5日,ストックホルムの【グレン・ミラー・カフェ】での実況録音です。このグループには,有名になる前のダン・ベルクルンドやフィリップ・オーギュストソン,マグヌス・ブローらが籍を置いていたこともあり,いわばスウェーデン版メッセンジャーズ的位置づけにあたるのですが,ノレーンの太鼓もまたブレイキー風。既に老境の太鼓は,多彩なシンバル・レガートで起伏を作るトニー・ウィリアムス以降のドラミングではなく,ぼんコぼんコ叩く小太鼓と,規則正しいハイハット(足踏みシンバル)でリズムを取る,オーソドックスなスタイル。お年のせいもあって,速めのテンポでは,ベースとピアノが困惑するほど顕著にもたついてます。要は,昔の名前で出て若手にチャンスを与え,恩義を演奏で返して貰う老翁といった位置づけになるのでしょう。北欧版メッセンジャーズだけに,バンドの魅力もサイドメン。以前,カール=マーティン・アルムクヴィストのリーダー盤でセンスの良いモード・ピアノを弾いていたヨナス・エストホルムは,本家のシダー役を巧みに務め上げてますし,線の細いハバード風のラッパと,ジェームス・スポルディングにフィル・ウッズを二割加えたようなアルトも,小粒ながらそつなく好演。彼らが書き下ろす,ショーター在籍時のメッセンジャーズ的なポスト・バップ調のオリジナルともども良く準備され,ヨイヨイの老翁を巧く担いでいるんじゃないでしょうか。少し洒落た音で,演奏はバタバタしているB級ハードバップと聴いて触手の動く方はぜひどうぞ。

★★★★★
Slawek Jaskulke 3yo "Sugarfree" (Bcd : CDN 3)
don't even swing reality known MC M'CA rhythm changes Sonni u no who i m chili spirit

Slawek Jaskulke (p) Krzysztof Pacan (b) Krzysztof Dziedzic (ds)
少し前に,荒削りながら野趣溢れるモード・ピアノで印象を残したポーランドの俊才ヤスクーケ君が,自分のトリオを組んでスタジオ録音を発表しました。彼は1979年,ポーランドのプーツク生まれ。彼の地では最もジャズジャズしている,カトヴィチェのシマノフスキ音楽大学で学ぶお決まりのコースを歩み,2001年のグニジア・ジャズ祭に登壇した折りのライブ録音で世に出ました。ハービーやマッコイのもつゴリゴリした口当たりを下地にし,そこへヤンシー・キョロシーやペール・ヘンリク・ワリンら欧州前衛ピアノの熱気を3分の塩加減で加えたピアニズムは,流麗なピアノに慣れていた耳に新鮮な驚きをもたらしてくれたものです。ただ同盤はライブだったこともあり,折角の野趣は空回り。作編曲面の力量は未知数なままに残りましたし,肝心の演奏も,臨時編成と思しき格下サイドメンとの呼吸がバラバラで,彼のピアノが完全に浮いてしまい,やたら空回りするばかりに終わっていました。反省もあったんでしょう。二年を経た本盤では,間に合わせではない脇役と,じっくり練った楽曲を持ち込んでのスタジオ録音。予想通り,彼のもつ力量がいい形で前面に出てきました。エフェクト効果を一部駆使しつつも,基本はアコースティック・トリオ。しかし,リズムは完全にドラムンベース乗りの変拍子系。幾何学ビートの上を,ハービーから泥臭さを抜いたような表情の,モーダルで熱っぽい主役のピアノが淀みなく疾走する。近未来的な楽曲は丁寧に準備されており,各人の演奏技術も確か。乾いたタムドラムがカンカン響く,EST周辺の今風ビートに抵抗さえなければ,どなたも間違いなく興じ入っていただけます。甲種お薦め。

(2006. 7. 26)