2000年代のジャズ Vol. 19


★★★★3/4
Harry Connick Jr. "Other Hours" (Marsalis Music : 0011661330429)
what a waste such love take advantage how about tonight sovereign lover my little world oh, my dear can't we tell dumb luck oh! ain't that sweet the other hours your own private love

Harry Connick Jr. (p) Charles Ned Goold (ts) Neal Caine (b) Arthur Latin II (ds)
これはイイ!シナトラの現代版程度の認識しかなく,殆ど相手にしていなかったハリー・コニックJr.が,華やかな本業の影でひっそり吹き込んでいたカルテット録音。今でこそ『メンフィス・ベル』における俳優としての顔や,『ウィアー・イン・ラヴ』のヴォーカリストの顔が有名になり,評価もされている彼ですが,もともとは1967年ニューオリンズ出身で,師匠はかのエリス・マルサリス。毛並みは相当にいいわけです。実際1990年に,たった一枚作った『ごきぶりスフレ』なるトリオ盤では,「舐めとったらアカンぞ」とばかり,コテコテのモンク被れを披露してましたね。本盤は2003年の発表。19才からコロムビアと専属契約を結び,本来なら余所への録音はできないところ,コロムビア側が日頃のご褒美とばかりに目をつぶり,友人ブランフォード・マルサリスの私家レーベルへの録音が実現。トニー賞を獲るほど長けた作編曲力と,ニューオリンズ育ちのピアノの腕をフルに生かし,売り上げばかりを考える日常を離れて,完全に作りたい音楽へ浸ってます。全曲を自作しているからでしょう。モンクを咀嚼しつつも,政治的意図を丸出しにする野暮はなし。訥々と音数は控えつつ,ハンク・ジョーンズやお師匠風の叙情性を取り込んでコロコロ上品に転がるピアノは良く歌い,楽曲も丁寧に準備されている。加えて出ずっぱりのテナーが実に良い味。1990年にコニック楽団へ入って以来の朋友。ジョン・マッケンナを思わせる湿り気を帯びたハスキー・トーンとダルなフレージングが,トリオの演奏をいっそう盛り立てる。個々人の技術そのものは決して一線級ではなく,特に太鼓は圧倒的に小粒。にもかかわらず,テナー版ブルーベック・カルテットの如く,寛いだペーソスの合奏を生んでいる。噛めば噛むほどの典型です。ところではアルト持ち替えに聞こえるんですが,クレジットはテナーのみ。どうなんでしょう?

★★★★1/4
Alban Darche "Le Gros Cube" (Yolk : J2021M)
indicatif hold up de la saltimbanque amalgam la martipontine tango 1 suite arabe tango 2 le cube part 1 le cube part 2 basilade part 1 basilade part 2 krabut papa tango stephi
Alban Darche (comp, arr, sax) Sébastien Boisseau (b) Christophe Lavergne (ds) Arnaud Roulin (synth) Matthieu Donarier (sax, cl) François Ripoche (sax) Patrick Charnois (bs) Geoffroy Tamisier, Laurent Blondiau, Airelle Besson (tp) Jean Louis Pommier, Daniel Casimir (tb) Gilles Coronado (g)
リーダーのアルバン・ダルシュは1974年,ブルターニュ地方カンペール生まれ。1981年から1993年まで国立ナント音楽院でサックスと室内楽を学んだのち,1996年に国立パリ高等音楽大学へ進学。1998年に修了しました。パリ進出時,既に腕前は相当なものだったようで,在学中の1997年と1998年のデファンス国際で入賞。1998年のアヴィニョン国際でグループ賞とソリスト賞を貰ったほか,1999年のヴァンヌ国際で優勝しました。彼は【カルトエスノ】,【キューブ】そして本盤の【グロ・キューブ】と,大小のグループを器用に掛け持ちし,各々に合わせて自作を書き分けながらの活動を身上にしており,本盤はこのうち,最も大所帯な【グロ・キューブ】名義の2005年盤。中身を一言で形容するなら,今風ギル・エヴァンスにザッパ趣味を加えた吹奏楽でしょうか。作編曲家がリーダーだけに,楽曲は怖ろしく高密度。プログレからシャンソンまで,雑多な音素材を細かく張り合わせ,高密度の転調と変拍子によってそれらの素材を目まぐるしく入れ替えて聴き手を幻惑する六人組風サード・ストリーム音楽。斜に構え,人を喰う仏人らしい視線と,先輩世代にはなかったプログレやフリー,サイケ・ロック,中近東音楽,ポップスの消化が,どこかミュージカルめいた毒気とコミカルさを与え,現代フランスを呼吸する吹奏ジャズとしての,明確な自己主張を可能にしている。それら実験的な要素を,怖ろしく精妙な和声を飴に連結し,耳の良さをアピールしてくれなければ,一枚聴き通すのも辛抱強さを要求されるほどに尖った音。ジャズ界でもなかなか受け入れてもらい難いと思いますけれど,主役のダルシュさんはめげることなく突き進んで欲しい。通り一遍のビッグ・バンドに飽きた方へ。

★★★★1/2
Ron McClure Quartet "McJolt" (SteepleChase : SCCD 31262)
McJolt broken dreams once I had a secret love Elm all blues solar beautiful love Nardis Stella by starlight
Ron McClure (b) John Abercrombie (g) Richie Beirach (p) Adam Nussbaum (ds)
リーダーは1941年コネチカット州ニューヘイヴン出身。アコーディオンが音楽との出会いだった彼は,高校でベースに転向。1963年にハート・カレッジを出たのち,バディ・リッチやメイナード・ファーガスン楽団を経て,1966年にご存じチャールス・ロイドのカルテットへ。キースやディジョネットと肩を並べて有名になりました。彼は一時,マイルス抜きの《ザ・クインテット》に,ロン・カーターの後任として在籍していたこともあるそうで,タイプもそっち系です。本盤は1990年に出たリーダー第二作。アンダーシュ・ベリクランツの後ろで怪気炎を上げていた強面三人が,ECMきってのうにょうにょ変態アバークロンビーと正面衝突。これだけで怖いもの見たさ半分,手が伸びる方も多いでしょう。豪腕三名の馴れ初めは,彼らが1985年にコンラッド・ハーヴィグのリーダー盤で後ろを固めた際に意気投合したのが元だったそうですが,それ以前にも,バイラークはアバクロと《クエスト》で頻繁に共演し,リーダーもアバクロと,《クエスト》やジャック・ディジョネットの1976年盤で共演した間柄。懇意だったというわけです。Δ妊ターシンセを臆面もなく使う,やや節操のないアバクロのギターは好みが分かれるでしょうし,冒険的なフェイクを濫発するバイラークのソロも,やや好き嫌いを分けるでしょう。しかし,これを敢えて買う方はその辺り,折り込み済みなのでは?実際,購買者が期待しているのを知ってか知らずか,スローな楽曲は↓きのたった3曲(笑)。ゴリゴリ腰の据わったバイラーク・トリオや,ベリクランツの後ろでブイブイ言わせた三人が懐かしい方であれば,彼らの繰り出すドライブ感満点のグルーヴ,充分興じ入っていただけることと思います。ところで,どうでもいいんですけど,マクルーアさんって毛深いですねえ。この画像でお分かりになるでしょうか。Tシャツの間から白銀色のもわもわしたのが出てるの,これ全部毛です。

★★★★3/4
Adam Kowalewski Trio "Les Moulins de Mon Coeur" (Not Two : MW723-2)
dedication les moulins de mon coeur Minsk euko when I see you barrel-organ yearning dancing with vooco
Adam Kowalewski (b) Piotr Wylezol (p) Lukasz Zyta (ds)
自身が大変なジャズ好きのマレク・ヴィニャルスキ氏が運営するノット・トゥーは,ポーランドの若い才能を積極的に紹介するベンチャー企業。そんな社長さんのお眼鏡に適い,目出度く2001年に本盤でリーダー・デビューを果たしたベースは,1969年カトヴィチェ出身。ご当地のシマノフスキ音大で学び,1994年にポメラニアン・ジャズ祭で優勝しました。その後スコット・ハミルトンやジョン・アバークロンビーらの脇を固めるとともに,音大の5年先輩にあたるラッパ吹きピョートル・ヴォイタシクのカルテットに参画。ピアノのヴィレジョウとは大学の先輩後輩で,ヴォイタシク・カルテットでは仲良く脇を固める間柄です。恐らく社長さんはこのカルテットを通じて彼らを知ったのでしょう。お国は違いますけど,一聴出てくる音はソルト・カルトネッカー『トライアンギュラー・・』と良く似ている。ピアノは,エヴァンスの繊細なコードを下地にしつつも,あくまで左手の和声は添え物程度。ヘイゼルタインやチャーラップの流れを汲む,パラパラした分かりやすいタッチの右手に,エンリコ傍系のリズム感と作曲センスが乗る。カルトネッカーのような技巧肌ではないぶん音数は控えめながら,良く力の抜けた丸いタッチで,外連味なくコロコロと単旋律を転がしていくオーソドックスなピアニズムは大いに好感が持てます。ゴメス系の低弦高ながら,ゾリゾリと尖った音を鳴らすベースもいいアクセントになってますし,ややバタつく太鼓も,ポール・モチアンっぽいといえばそうなんでしょうから,バランスの良いトリオなんじゃないでしょうか。ところで本盤,原題は『ヤーニン』なのに,何故か国内盤では『風のささやき』なる仏語に改題されている。ご存じルグランの書いた『華麗なる賭け』の挿入歌なのは分かりますけど,何で改題?そういえばガッツさん,シンプル・アコースティック・トリオの『コメダ』も改題してましたね。こういう無意味な改題は紛らわしいから止めて欲しい。実は間違って改題コメダ盤,二重に買わされた苦い経験が。こうなるともう詐欺みたいなもんです。

★★★★3/4
Kurt Rosenwinkel "The Enemies of Energy" (Verve : 314 543 042-2)
the enemies of energy grant cubism number ten the polish song point of view christmas dream of the old synthetics hope and fear
Kurt Rosenwinkel (g, vo) Ben Street (b) Jeff Ballad (ds) Mark Turner (ts) Scott Kinsey (p, key)
最近,すっかり安定期に入っているローゼンウィンケル君。ひとまず自分のスタイルが出来上がってしまったからなのか,世紀の変わり目ごろの彼を色濃く包んでいた覇気のようなものが,このところやや減退してしまったような。もちろん,まだ若くセンスも抜群に良い彼は,当面何を作っても,4つ星半クラスの水準を軽々と超えてくるでしょう。しかし,才気のオーラが鮮烈な光を放っていたのは,やはりバークリー音楽院の先輩にして先導者のマーク・ターナーと組んでいたこの時期の録音だったような気がします。ターナーとの一連の録音や,自己の初リーダー作を通じて,既に1990年代前半から急速に評価を高めていた彼は,2000年に満を持して大手ヴァーヴへ移籍。本盤は移籍後初のリーダー作となりました。クリス・クロスからの発表だったせいか極めてオーソドックスだった前作に対し,ヴァーヴへ移籍して大豹変。ターナーのイディオムに立脚しつつ自分の世界を作ろうとの野心が一気に吹き出した本盤が,彼にとっては真性の【初リーダー作】でしょう。旧スモールズ派の核であるメカニカルな変拍子と幾何学的なリフ,近未来的な浮遊感をたたえたコード進行に立脚して核を形作る。自らはアバクロやスコフィールド,メセニーら,エフェクト世代のギターを今風に消化し,ダークで夢遊病の如く所在なげなプレイを展開。スモールズ・イディオムの核のうえで,ウェザー・リポート(◆法ぅ轡隋璽拭次悒優ぅ謄ブ・ダンサー』(ァ法ぅ瓮札法次吻─砲覆鼻と爐惚れ込んできた音楽への憧憬が音符に乗る。恐らくは通電鍵盤の腕を買われた,運指の小粒さゆえメルドー君になり切れないピアノを含め,若さ故の散漫さや,荒削りな部分は残るものの,今まさに次代を手にしようとする彼の野心が本盤を得難いものにしています。

★★★★★
Hubert Nuss "Feed the Birds" (Pirouet : PIT3014)
a virtual dream of the nearest thing to heaven with a smile and a song what's new the light of kida-laris feed the birds good bye Sir Peter R&R you are my lucky star
Hubert Nuss (p) John Goldsby (b) John Riley (ds)
少し前に,思索的なトリオ盤を出して印象を残したヒューベルト・ヌッス,3年ぶりに第三作を出してくれました。2002年発表の前作は出るまで5年を要しましたから,今回はより短期間で録音してくれたことになります。1964年生まれの中堅であるリーダーは,1982年にヴュッテンブルク市ジャズ・オーケストラへ入団してプロの道へ進みましたが,その後1987年にもルーフ・ヘルボルツハイマーのビッグ・バンドへ加入するなど,楽団経験の長い人物。そんな彼が,独自の和声感覚を身につけ,これだけ顔の見えるピアノを弾けるようになったのも,コローニュ音楽院で師事した,ジョン・テイラーの薫陶の賜物でしょう。同院を卒業した1988年にはマンハイム・ジャズ競技会で奨励賞。ドイツ若年音楽家コンクールで優勝したのはご承知の通りです。メンバーにも変化がなく,静謐な歌い回しにも大きな変化はなし。ニ粗のカデンツァや,い亮郊垢丙険Δ琉き分けモチーフに現れるポリ・モーダルなハーモニック言語は,相変わらずメシアンを咀嚼した理知的なもの。しかし,前二作では色濃く出ていた「俺ってコローニュだぜ」的な小難しさが随分と後退。スロー・テンポ主体に構成したせいもあるでしょうが,それよりも鞭を鞭のように響かせないだけ,ヴォイシングのセンスがこなれてきたのが大きい。歌ものの占める割合が増えたのも,自信の裏付けでしょう。既に8年間に渡って一緒に活動している脇の二名とは,ますます良く協調。演奏が馴染んだ結果叙情性も増し,コローニュ楽壇らしく和声に一癖あるピアノ・トリオとして,大変薦めやすい作品に仕上がっています。ちなみに彼,現在はマンハイム音楽院で講師職にある模様。早晩,孫弟子がぞろぞろ出てきそうですねえ。楽しみだなあ。

★★★★1/4
Jochen Baldes "Niniland" (Brambus : 199929-2)
so so so lo no huga Nini Dolores ladal earthcalling Horisberger kalam
Jochen Baldes (ts) Adrian Frey (p) Herbie Kopf (eb) Kaspar Rast (ds) Stefan Schlegel (tb) Matthias Spillmann (tp)
74分もの長時間録音が可能なCDが世に出て四半世紀。アルバム制作に際して何が一番変わったかといえば,作り手が1枚を仕立てるのに入れなきゃいけない曲の数が増えたことでしょう(笑)。発表のペースは変えられないが,曲は余計に書かなければならない。畢竟,濫造したシングルを寄せ集め,密度も薄く統一感もない音盤が一気に増えました。この時勢に敢えて8曲しか入れぬ数少ない作品には,粗製濫造に対する明確な問題意識が感じられる場合が少なくありません。1980年代以降のポップス界で,敢えて8曲に絞った作品に秀作が多いのも,その辺りに理由があるのでしょう。ジャズも同じだ・・そう痛感するのは,こういう作品を聴いたときです。リーダーは1964年チューリヒ生まれ。1988年から,ニューシャーテルで音楽の基礎を学び,次いで1991年から4年間,ベルン音大で学びました。お師匠様はCoJazzでお馴染みアンディ・シェラーだったというから大したものです。数枚の録音にサイドメンで参加したのち,1999年に初リーダー作となる本盤を出しました。当初は,スイスの小粒なチック・コリアことエイドリアン・フレイ狙いで買ったんですが,蓋を開けてみれば,何とも良心的なこのテナーに頬を緩められっぱなし。テナーはジョーヘン・タイプですか。弱音の息の抜き方なんかそっくりです。ただ,白人なうえ演奏技量も少し小粒ですから,ご本家のあの肉感的なウネウネ感はなく,結果として炭焼き小屋の爺さんめいた,朴訥で飾り気のないサックスになっています。他のメンバーも,全体に小粒で線も細い。電気ベースで音も軽く,急速調Δ任呂△燭佞燭垢襪覆鼻すの据わった演奏ではありません。これを補って余りあるのが,『モード・フォー・ジョー』好きを隠さないリーダーの作曲力と,『ブッカー・リトル&フレンド』のダークな香り漂う管配置。飾り気のないワン・ホーンに,曲に応じてラッパとトロンボーンを付け外しし,メロディックなポスト・バップ流儀で書かれた楽曲は,どれも丁寧に準備されていて穴がない。演奏も,奇を衒うことなく真摯朴訥に歌い込まれ,好感度大です。モード初期の音がお好きな方なら,頬緩めて聴いていただけるでしょう。

★★★★1/4
Bojan Zulfikarpasic Trio "Transpacifik" (Label Bleu : LBLC 6654)
set it up the joker flashback run René, run! bulgarska z-rays Groznjan blue sepia sulfurex niner purple gazelle
Bojan Zulfikarpasic (p, rhodes) Scott Colley (b) Nasheet Waits (ds)
シルヴェン・ブフのカルテットでの軽やかなピアノが印象を残すボヤン・ズルフィカルパシチは,1968年セルビアのベオグラード出身。1989年に旧ユーゴのベルグラード音楽院を卒業。その前年からパリに移住し,1990年にラ・デファンス国際ピアノ部門で優勝して,一躍脚光を浴びました。1993年には自己のカルテットを率いて初リーダー作を発表。その後も順当にリーダー盤を積み上げ,本盤で5枚目になりました。2003年に出た本盤は,標題が示す通り,彼岸の腕利きを従えた初のトリオ作。前年にジャンゴ賞を得て,意気上がる中での他流試合です。彼は軍役中にバルカン半島の民謡に触れ,インスピレーションを得たそうで,それを今風ピアノと融合させ,自分のスタイルを作ろうと意図している模様。本盤でも,両手ユニゾンで東欧臭の濃い旋律をゴリッゴリと弾き,出自を主張。大排気量の技巧を生かし,アタックの強い前衛寸止めクラスター音をアクセントに使う強面なスタイルは,同じレーベルからアルバムを出していたステファノ・ボラーニを,もう少し骨っぽくした印象を残します。ただ,あくまでも核は,腕の立つオーソドックスなパラパラ弾きでしょう。なにぶん「我を出そう,個性を出そう」と試行錯誤している段階のピアノなので,自己主張の部分がまだ取って付けたような空々しさを残してしまう。その辺りが今後の課題ですか。これはもう腕と才気を持ち合わせた人物には必ず付いて回る業のようなもの。何でもできるがゆえ節操なく手を出してしまい,分裂症に陥ってしまう。若い彼が小さくまとまる必要は確かにない反面,それらを貫く強烈な彼らしさを打ち出せないままの冒険が,無節操と表裏一体なのも確か。雑多な試みがまだ試みのレベルを抜けきっていず,自分の音としてこなれていないもどかしさを感じるのも事実です。

★★★★1/2
Paul Bollenback "Double Gemini" (Challenge : CHR 70046)
breaking the girl after love is gone double gemini reflections of Jaco let her cry so many stars open hand field of gold I am singin' cat's eye
Paul Bollenback (g) Joey DeFrancesco (org) Jeff 'Tain' Watts (ds)
ジャズ・オルガン奏者ジョーイ・デフランセスコのサイドメンを務め,もう随分長いこと経っている現代のベンソニアンことポール・ボーレンバックは,1959年生まれ。ニューヨークでジョー・ロックやゲイリー・トーマス辺りと仲良く活動中の中堅です。長いキャリアの割にはリーダー盤の数が少ない人で,現在までに僅か4枚しかありません(他に『ダブル・ヴィジョン』なるアルバムもあるようですが未確認)。2枚目にあたる本盤は1997年に発表され,今のところ唯一,フロントを置かないオルガン・トリオ編成のリーダー盤。太鼓にドカドカ乗りの重量級ジェフ・ワッツが加わり,オルガンには散々共演を重ねた首領様。顔触れとしては文句の付けようがなく,演奏レベルは非常に高いです。彼の基本は,モンゴメリーやベンソン流儀のグルーヴィーで粘っこい本格派ですけれど,実は自作でSASEC賞を獲るほど作編曲にも熱心。一昔前のモンゴメリー〜ベンソン信奉者であれば,簡素なブルース素材でひたすら黒々と泥臭いプレイをするところ,彼はあくまで泥臭いプレイを涼しげな風情でこなします。本盤でも全体の半分を占めるのは,爽やかな風でも吹き抜けそうな自作曲。プレイさえ黒々としていなかったら間違いなくフュージョンでしょう。さらに残りの半分を占めるのはチリ・ペッパーズ,スティービー,スティングにアース,ウィンド&ファイアー。多彩なポップスに囲まれて育った想い出に正直。もう少し泥臭くてもいいかなとは思いますし,今ひとつ知名度が上がらないのは,ベンソニアンでありながら垢抜けしたスタイルに一端があるのかも知れません。けれど,1970年代の多彩な音楽を聴いて育った世代のクセに,プロになった途端真っ黒けなんて却って嘘臭い。コード・プレイもシングル・トーンも淀みなくこなし,豪腕ジェフ・ワッツと絡んで全く見劣りしない技量は相当なもの。意匠も洒落ていますから,コテコテもんはどうも・・と仰る方でも,むしろ普通の黒人ジャズよりすんなり聴けることでしょう。色眼鏡を掛けない方はぜひ。

★★★★1/4
Kurt Rosenwinkel "Deep Song" (Verve : 0075021034563)
the cloister Brooklyn sometimes the cross if I should lose you synthetics use of light cake deep song gesture the next step
Kurt Rosenwinkel (g) Joshua Redman (ts) Brad Mehldau (p) Larry Grenadier (b) Jeff Ballard, Ali Jackson (ds)
旧スモールズ系変拍子ロック・ジャズ・ムーブメントの中核をなす現代の鬼才ローゼンウィンケルは,1970年フィラデルフィア生まれ。マーク・ターナーの五歳後輩です。パット・メセニー,ビル・フリーゼルにジョンスコを聴いてジャズ・ギターに目覚め,1988年前後から2年間バークリーへ。まだ在学中の1990年,ゲイリー・バートンのツアーに誘われ,翌年には中退してプロ入り。1992年からポール・モチアンのエレクトリック・ビバップ・バンドで経験を積みました。彼の初リーダー作は1998年の『インテュート』でしたが,当時はまだオーソドックスなスタイルを抜けきらず,同盤も拍子抜けするほどにフツーなプレイのスタンダード集でした。サイドメンとしては,既に1994年からターナーと懇意だった彼。しかし,実際本格的に大化けし始めたのは,ソロ作と同じ1998年に出たターナーの『イン・ディス・ワールド』辺りからでしょう。変態音階ソロ,凝った変拍子乗りと夢遊病的なコード進行に象徴されるターナーのイディオムを,そのすぐ傍らで吸収。彼の見込み通り,新世代の中核に食い込んできたのも,並外れた才能の為せる業でした。本盤は,彼にとっても天才開眼となったターナー盤と同じ五重奏で,メルドー君を入れた編成が目を引く2005年作。最近微妙にベクトルのずれてきたターナーではなく,チーク似のジョシュア・レッドマンをフロントに持ってくる策謀に興味津々。メルドー君と同じく人気があり,おかげでリーダー盤も多い反面,資質としてはむしろ腕利きのサイドメンで光ってしまうジョシュア。そんな二名の天才を配して,好い部分を巧みに引き出し,彼は目利きの確かさを証明している。加えて,ジェフ・バラードがだいぶ良い太鼓を叩くようになりましたねえ。以前マット・ペンマンのリーダー盤で聴いた頃はバタバタしているだけで,少しもタイトなドラマーじゃなかったんですが。基本はターナーの嫡流。ややビートを抑え,浮遊感と頽廃感を強調して,よりアンビエントで1970年代臭の濃い音になってます。相変わらず音は,人によっては少し地味かも知れませんけど,大物揃いらしく,一定の水準は超えた良い出来なのではないでしょうか。

(2006. 7. 26)