あの名場面の直前を描く!
「先生、出番です!」第四回

「暗い・・・辛い・・・くそお、誰か・・・誰かオレを早くここから出してくれッ!!」




漂流5日目

1889年2月11日・・・この中に閉じこもってから5日になる。まあそんなに早く発見されるとは思っていないので
たいくつしのぎに頭の中で日記でも書いてみようと思う。
日記なんて書くのは何年ぶりだろう・・・小学校の頃の、夏休みの宿題以来だろうか?
まああの時は日記の隅から隅まで、父親の悪口と「いつか殺してやる」と書きまくったため、
学校で問題になって、親が呼び出されたんだっけ・・・・
あの時以来、オレは本音を書かなくなった。本当の気持ちは、全て頭の中にしまっておく・・・
「金持ちの家を乗っ取って、のし上がっていく」とか「いつか世界を征服してやる」という野望も。


漂流13日目

1889年2月19日・・・天気はわからないが日付はわかる。真っ暗なこの棺おけの中で、
なぜ日にちが変わったのがわかるかというとだな・・・
まあ、眠って起きれば朝だろうということなのだが、昼寝をして目覚めることもあるし・・・
しかしなんだな、何で昼寝をして目覚めたときというのは前後不覚な状態になってしまうのだろう?
このオレさえも「ここはどこ?オレはだれ?」的なちょっとしたパニックに陥ってしまう。
まあたぶん、目覚めた状態が、いつも自分が見慣れた寝室の状態と違っていて
別の部屋だったり、違う時間帯だったりするからなんだろうな・・・
そう言えばオレがジョースター家に初めて乗り込んだとき、
枕が変わったせいか、よく眠れなかったっけ。
グズグズと寝返りばかり打っていたら、ジョースター卿がやってきて
「眠れないようだが、これを抱いて寝るといいだろう」と言って
古いクマのぬいぐるみを置いていった・・・
あれはジョナサンが、小さい頃一人で寝るのを怖がったとき買ってやったぬいぐるみだったらしい。
このDIOにぬいぐるみだと!?ハッ!!
・・・・だけど受け取らないのも角が立つし、これからジョースター家で「いい子」のフリをしなきゃあならないので
そのクマのぬいぐるみは抱いて寝てやったさ・・・
あのぬいぐるみ、どこへやったっけなあ・・・あれがあれば・・・
あれがあれば、この狭くて暗い棺おけの中も・・・


漂流23日目

1889年2月29・・・いや、3月1日だったかな?たしか去年がうるう年だ。
日にちがよくわからなくなって来たぞ・・・まあいいか。
どうせ頭の中でつけている日記帳、読み返す事も無い。
それにしてもこの暗い棺おけの中で、朝だけはいつもちゃんとわかる。
なぜかというと・・・それはジョナサンの体が・・・・朝立ちするからだ。
こいつ、死んでからもう一ヶ月以上になるというのに、まだ毎朝ビンビンになってやがる!
まあ・・・アイツは新婚旅行が始まってばかりで死んだからな。
アイツの性格上、きっと婚前交渉なんかは無かっただろうし、
結婚してからまだ、1〜2回しか花嫁を抱いていないだろう。
まあこの絶倫ぶりからして、1晩に2〜3回はヤッただろうと思うが、
それにしてもエリナ・・・早々と寡婦になってしまったな・・・
フン、オレの口付けを泥水で拒んだ女だ、不幸になればいいんだ!
だけどあれ以来、オレは誰かにキスするのが怖くなった。
夜の街で女を買っても、向こうからキスしてくるまではしない。
オレは・・・もしかしたら、エリナに惚れていたのかも・・・
!!何を考えているんだ!あんな女なんか好きなワケないじゃあないか!
今回新婚旅行中の二人を襲ったのだって、エリナが泣き叫ぶ顔を見たかったからじゃあないのか!?
・・・だけど・・・エリナの泣いた顔って・・・オフクロに似ていたんだよな・・・
エリナ・・・新婚2日目で未亡人になって・・・あの時、オレがスペアの棺おけを貸してやらなかったら
きっとあの赤ん坊と一緒に、海の藻屑と消えていただろう。
なんで助けてしまったんだろうオレは・・・きっとオレがこの体を支配しきっていないから
ジョナサンの肉体がエリナを助けたんだろうな・・・
・・・・!!!なんて感傷的な事を考えてしまっているんだオレは!?
女なんて!女なんて弱々しくて足手まといで
それでもって自己主張ばかり強くて独占欲の固まりで
男を翻弄するくだらない存在だ。
「あたしと世界征服、どっちが大事なのよ!?」とか言って
今まで英雄の人生に女が尽力した事があるか?
否。女は歴史の汚点だ。女は歴史を後退させることは有っても
功績を残すことなどまったく無い!
クレオパトラ!楊貴妃!
傾城の美女などもっての外!
このDIOには女などただの食料でしかない!


漂流280日目

1889年11月13日・・・・何か嫌な感じがする・・・何かがやってくるような・・・
この感じはなんだ?体中がムズムズするような・・・気持ち悪い・・・
しかし何か嬉しい気持ちににたようなときめきも感じる・・・
これはオレじゃなくてジョナサンの体が感じているようだ・・・おかげで体が火照って眠れない。
まてよ・・・ジョナサンの体だと?ジョナサン・・・エリナ・・・・
・・・・!、まさかっ!?
ジョナサンとエリナの子供が生まれたんじゃないだろうなッ!?
まさか・・・いやしかし、ジョナサンは絶倫だし、新婚旅行で避妊するヤツじゃあないし・・・
デキたのか?あの時・・・そして生まれたのか?さっき!?


漂流554日

1890年8月14・・・もう日付を考えるものいやになってきた・・・体中が痛い。
寝返りをうつのもやっとの、この狭い棺おけの中で・・・
やれることと言えば頭の中での妄想と・・・
この右手での・・・・いや・・・・その・・・
やれやれ、また朝立ちしてやがる。
ちょっと治めてやるか・・・しかし何も食べない状態でもう「出るもの」も出なくなってしまった。
はじめのうちはウンコとかションベンの始末に困ったものだが
ジョナサンの首を捨てたときと同じように、一瞬棺おけを開けて外に排出したんだ。
その度に空気が無くなって水が入って来てイヤだったよなあ・・・・
まあ、もう酸素も、とおに無くなった状態だから空気なんて無くたっておんなじなんだけど
棺おけの底が水浸しなのは本当につらい。
棺おけのフタに張り付いているのはとても辛い。
まあ・・・・仕方ないか、あの時は死ぬところだったんだし、生きていただけでも・・・
ってオレ不死身なんだけど。
しかし死なない体ってのも、キツイなあ・・・いつまでこんな状態なんだろう


漂流11190日目

1920年9月27日・・・まただ・・・また気分が悪い。あの時と同じだ・・・・
もしかして、増えたのか?あのいまいましい体・・・
ジョースターの一族がまた一人増えたというのか!?
くそ・・・体が火照る・・・イライラする・・・
あの一族を根絶やしにするまで、この感覚は収まらないというのか?
ジョナサンの体よ・・・その時ようやくこの体が
正真証明このDIOのものとなるのか・・・


漂流日29200日目

1969年2月7日。これでちょうどオレが海の底に沈んでから80年だ・・・
ジョナサンの体も衰弱し、すっかり筋肉が落ちてしまった。
ああ・・・生き血・・・生き血さえ飲めれば、再び力を取り戻し、
ここを脱出して海底を歩いてでもイギリスに帰ったのに・・・
ああ、しかし海底でも太陽の光は降り注ぐか・・・忌々しい太陽め!!
いや・・・懐かしい・・・太陽の光さえも今は懐かしい・・・
この暗闇の他に、何か見るものが欲しい・・・・


漂流34594目

1983年10月21日。今日で94年と261日。ようやく希望の光が・・・もとい
希望の闇が見えてきた。さっきからこの棺おけが何者かによってガタガタと揺すられている。
こないだのように、大きな魚がつついているのではない。もっと大きいアタリだ。
やっと・・・やっとこの棺おけを発見し、開けてくれる人間が来てくれたのか。
嬉しい・・・ものすごく嬉しい。
飛び出たらまず、いの一番にそいつにキスしてやろう。もちろん首筋にだが・・・
問題は、今が昼か夜かというところだ。
もし夜だったら問題ない。オレは速やかに全員を餌食にして殺し、
そのあと船倉に隠れて船が発見されるのを待つ。
きっとすぐ見つけられるだろう・・・この海底に居たときよりは。
次々と獲物を見つけては闇に隠れ、いずれはどこかの港に着く。
それからは・・・もちろん長いこと練っていた計画通りに、世界征服を始めるのだ。
手下を作り、隠れ家を手に入れ・・・しかしもう100年近くも経って時代は変わっている。
果たしてオレの力が、今の世の中に通用するだろうか?
もしかしたら吸血鬼なんて一撃で倒してしまうような
強力な武器が出ているのでは無いだろうか・・・
そう・・・それとジョースター・・・
オレの体で感じる、やつらの子孫は3人・・・この世界のどこかにいる。
このいつも頭の上でブンブン蝿が飛び回っているようなイライラした気持ちは
あいつらがこの世にいるから感じるんだ。
どうしても・・・全員始末するしかない。
ジョナサンの仇討ちに、今更やってくるとは思えないが
安心して眠るためには、やっておかなければならない事だ。
待ってろジョースター・・・必ず・・・一人残らず・・・
ああ、とうとう棺おけに縄がかけられたようだ、
海中を浮かびながら、海面に向かって行くのがわかる。
覚悟を・・・決めようか
棺おけを開けた瞬間、もし昼間だったらオレはその場で消滅する。
しかし夜だったら・・・その時は、世の中がこのDIOのものになる時だ!

≪終わり≫