雫井脩介

  犯人に告ぐ  /火の粉  / 虚貌

双葉社

犯人に告ぐ   雫井修介 

神奈川県の警視巻島は、誘拐事件の捜査にあたり、犯人の「ワシ」と対峙することになる。事件の結果を巻島は、記者会見することになるが・・・・・

メディアを使っての捜査とは、斬新だ。主人公の巻島はインパクトがあった。この捜査は、いろんなかけひきがうずまき、人のだましあいだ。先を読んで罠でも仕掛けないかぎり事件の解決は難しいということか。そんなだましあいの中にあって、津田長の存在が、私にはよかった。ラスト、バッドマンの登場があっけないように思ったが、警察の内部の様子は、うまく描かれていたと思う。

2004
8


幻冬社

火の粉  

裁判長の梶間勲は、一家3人殺害の容疑者武内に無罪の判決を言い渡す。その後、退官し、大学教授となるが、ある日、隣に武内が引っ越してくる。義母の介護をする勲の妻尋恵。息子夫婦とその一人娘まどか。ごく普通の一家の隣に越してきた武内が、梶間家にどう関係してくるのか?

武内は、無罪の判決をもらって、自分を助けてくれた裁判長だから、恨みはないのに、なぜ近づいてくるのか不気味。その武内が、親切そうにじわじわと梶間家に入り込んでくる様子がよく分かり、それがこわかった。

ミステリーから話はそれるが、死刑を下すということが、裁判官にどれだけの苦痛をもたらすものか。いくら極悪人であっても人の命を奪うことの重みを感じた。
家族の中にあっては傍観者で、仕事においても、平穏な道を選ぼうとする・・・こんな勲のようは人が日本人には、多いのだろうな。それに対して、、家族の気配りを忘れない尋恵に好感が持てた。こういう妻(母)が家族の中心にいるからこそ、家族はまとまるものなのだと思う。そして、義母を慕う嫁の雪見もいい。
2003
2


幻冬社

虚貌  

会社を解雇されたことに恨みを持った時田と坂井田は、荒を仲間に加え、弟分の湯本と共に、社長宅を襲い、火を放つ。その事件で、社長夫婦は殺害され、子供2人は施設に預けられる。20年後、荒は主犯としての刑期を終え出所するが時田、坂井田が殺される。ガンで先行き短い滝中刑事(もりさん)が真相に迫る。

捜査にあたる顔に痣のある刑事。事件の家事でやけどを負った被害者の子供。流されるままにタレントを続けるが、整形手術を受けるように言われて悩むアイドル。これら、顔にコンプレックスを持つ醜形恐怖症を交えて話は進む。顔は人の印象を一番に裏付けてしまう・・そこを利用した犯罪(復讐劇)・・・・
2001
9

 

重松清

卒業 / 疾走
トワイライト / きよしこ/ 小さき者へ
 / 熱球 
流星ワゴン /さつき断景 /口笛吹いて 
ビタミンF / かかしの夏休み / 日曜日の夕刊  
ナイフ / 幼な子われらに生まれ  

新潮社

卒業  重松 清

誰もが経験せざるをえない親しい人との永遠の別れをテーマに、今までの生活を卒業し、新しく旅立つ家族を描いた短編集 。いじめやリストラ、介護など多くの問題を呈示している。

「まゆみのマーチ」では、母の死に立ち会って、妹にどのように接していたかを知り、自分の息子との関係をやり直そうとする姿が描かれている。前に進めない我が子のために、一緒に歩いてやる母。まゆみのために歌ってくれたと言う「まゆみのマーチ」は、母の愛情がいっぱいで、思わず涙してしまった。他に「あおげば尊し」「卒業」「追伸」があるが、どれも家族の大切さが伝わってきた。

2004

2


角川書店

疾走  重松きよし

シュウジには、家族自慢の兄シュウイチがいた。しかし、シュウイチが高校に入ってから壊れてしまい、放火する。そのことで家族は責められ、シュウジは学校でいじめられる。シュウジは新しくできた教会に足を運ぶようになるが、そこには、両親を自殺で亡くしたエリがいつもいた。

本の表紙の絵からして伺えるように、つらい話だ。まだ15歳の少年には重すぎる。いたぶられている場面の描写はあまりにも苦しくて読み進むことができなかった。
少年が、壊れていく様子が、町の崩壊とともに描かれているが、この本は、差別、家庭崩壊、いじめなど多くの問題を提起している。今の世の中、弱い人間が多い。弱い人間は、自分より弱いものをいじめるのだ。一人になってしまったシュウジがつながりを求めている気持ちが、痛々しかった。
 


文藝春秋

トワイライト  

小学生の時に埋めたタイムカプセルを20年後開ける予定が、学校が廃校になることになり、26年後に開けることになり、1975年六年三組のクラスの仲間が集まった。担任の白石先生は今はこの世にいない・・・・

登場人物をマンガの「ドラえもん」になぞらえているので、人物の特徴がよくわかった。私は同世代なので、大阪万博のことなどうなずける話が多くあった。昔はよかったと懐かしむ場面が多く、暗い気持ちになったが、現代の厳しい状況の中で、これからどうすべきか、未来に何を望むのか、そういうことを考えてほしいとこの本は訴えているように思う。両親の不和に悩む子ども達(千晶と愛美)とケチャとの交流のがよかった。
2002

12


新潮社

きよしこ  

うまくしゃべれない――吃音――に悩む少年の物語。何度も引越しを繰り返す少年は、自己紹介のとき、自分の名前「きよし」がうまく話せず、まわりから笑われる。・・・・

作者の自伝的小説。どもることで、自分の気持ちを相手に伝えられない苦い気持ちが伝わってくる。まわりの人たちとかかわりあいながら成長していく様子が描かれている。
この中では、石橋先生へのクラスみんなの気持ちが嬉しい「北風ぴゅうた」が一番感動を与えた。小学校最後のお別れ会で劇をすることになり、その劇を台本を書いている少年に<通行人いうても、このお話でたまたま脇役じゃったいうだけで、その人にとっては自分が主人公なんよ。>という石橋先生の言葉が印象に残っている。
2002
11


朝日新聞社

小さき者へ  

「日曜日の夕刊」の第二弾。
「海まで」僕は妻と息子二人と田舎でひとり暮らす母親の元へ帰郷する。母は、まだ小さい次男のミツルを可愛がり、長男のカズキを嫌っているように見えた・・・

この話は、ひとりで暮らす年老いた親の面倒をこれから先どうするのかという大きな問題を提示している。しかし、真っ向から話していくのではなく、母をカズキの気持ちのすれ違いから、意地悪をする話が書かれている。この二人の関係がどうなるかに注目させ、母親のさみしさ、強がり、本音を浮き出させている。話の持っていき方がうまい。そして、間に入って右往左往する僕が語り手となり、話はうまくまとめられていると思う。これから先の結論ははっきり出ていないが、この家族なら何とか乗り切れる、そういう気持ちを感じさせる一編だった。

「小さき者へ」暴力をふるうようになった中学の息子俊介へ父が書いた手紙。自分の中学時代を思い出し、自分の父親との接し方を反省し、昔聞いたビートルズの話をする父親。そこには父親の本音が語られていて、俊介に気持ちが伝わることを祈りたくなる一編。

他に、離婚した両親を持つ小学生を描いた「フイッチのイッチ」学校をやめたいという高校生の美奈子とその父親を描いた「団旗はためく下に」脱サラして持った店がつぶれてしまい、再起に悩む男を描いた「青アザのトナカイ」中学生の野球の監督と選手を描いた「3月行進曲」
誰もが失敗し、悩み、後悔を繰り返し、それでも一歩づつ前に進もうとするさまざまな人生を情感豊かに描いている。

2002
10


徳間書店

熱球  

洋司は、母が亡くなり、父のひとりいる周防に小学生の娘、美奈子と共に一時帰郷する。妻の和美は、勤務先の女子大学からボストンの大学へ留学していたが、メールでやりとりしていた。高校時代は、シュウコウのエースだった洋司が昔の友達に会うが、周防に残るか、東京に戻るか思案する。

これも父親の立場から書かれている。優柔不断といわれようが、洋司の迷う気持ちがよくわかる。人にはこういう迷う時期も必要なのではないかと思う。妻の和美の考え方は正しいが、どこか息が抜けない。人には、それぞれの人生があるはず。その中で、「逃げてもいいんだから。」という言葉がどれだけ、気分を楽にしてくれることか。
シュウコウを応援してくれたザワ爺への弔辞の言葉が胸を打つ。大人びた美奈子や無口な父が見せてくれた心遣いが心地よかった。
2002
3


講談社

流星ワゴン 

リストラ、家庭内暴力、妻の浮気と人生に疲れて死にたがっていた僕は、駅前にワゴン車を見つけるが、そのワゴン車には、5年前に交通事故でなくなった橋本親子が乗っていたが、彼らに連れられ、"大切な場所"に向かう。

過去にタイムスリップしてやり直そうとする話で、空想的な部分が出てくるのは、重松さんにしては、異例です。ここには3組の親子が登場します。不慣れな父の運転で、小学生で死んでしまった健とその親の橋本親子。金に執着する父の事業に反感を抱き、ずっと不仲であったチュウさんと僕。中学受験に失敗したことから学校生活がうまくいかず、それを家で爆発させてしまう広樹とその親の僕。この親子関係がどう変わっていくのでしょう。親子がわかりあえた場面は感動的でした。

過去に戻り、もう一度やり直そうとしても現実は変わらない。でもそのとき、こうしたらよかったと考える事は、無駄なことではないと思う。僕は、同じ年のころのチュウさん(父親)との出会いは、同じ立場の父として、どんな事を考えていたのかを知ることができた。つらい今を生きること、それはつらい現実かもしれないけれど、昔の断面を考え直すことで、新しい希望も湧いてくると思います。そんな希望を与えてくれる一冊でした。

2002
2


祥伝社

さつき断景  

1995年、5月、何かをはじめようとして何もできないでいる高校一年生のタカユキ。長女を嫁に出す日を向かえたアサダ氏。電車一本の違いで、地下鉄サリン事件を免れたヤマグチさん。この三人の1995年から2000年までの5月の行動が、実際にあった出来事をまじえて、綴られている。

最近のニュースはつらい出来事が多く、世の中を信じられなくなるような現実に出会うこともあります。それでも私たちは生きていかねばなりません。この本の三人はどのように年を重ねたのでしょう。どこにでもいるような三人とその家族や仲間たちです。私たちも同じような現実の中で生きているんだなと思いました。ちょっとしたあたたかい心の触れ合いを感じました。
2001
11

文藝春秋
口笛吹いて 

野球選手になる夢を捨て、今では昔の話もしない「口笛吹いて」昔、熱血教師が、今は生徒に無視されつつ授業をしている教師「タンタン」リストラされた親父の生き方を理解できない「カタツムリ疾走」子供を亡くし、産休教師をして再出発をかける「春になれば」結婚生活に悩む「グッドラック」

これらのいわば、人生に負けた人たちが主人公の短編集。

人生は思い通りに行かないもの。でも今の生活を大切にしている人に、エールを送りたい気持ちになる。
2001


新潮社

ビタミンF  

父親が主人公の7つの短編集。
セッちゃん」雄介は中学の娘加奈子がいつも学校のことを話してくれるので喜んでいた。加奈子はクラスでいじめられているセッちゃんの話をするようになった。・・・・・・話されているセッちゃんはいなかった。セッちゃんとは加奈子自信のことだと気づいた時、雄介は・・・・

父親の悲哀を感じました。世の中厳しいから、父親が少し頑張ったところで、そんなにすぐに何かが変わるわけでないけれど、頑張っているお父さんの姿を見たような気がしました。
2000
文藝春秋 かかしの夏休み  

小学校の教師小谷は問題児カズを抱えていたが何も出来ず、みんなから「かかし」(何も出来ずにただ見てるだけ)と言われていた。小谷の中学時代の同級生の運転するタクシーが、ガードレールに突っ込み、即死したので、彼の告別式に息、そこで、同級生と顔を合わせた。実は、小谷らの故郷は、ダムに沈んで、今は、水の底だった。

37歳のみんなのそれぞれの人生。「しあわせですか。」の問いに、「しあわせってなんですか?」という答え。人生を深く考えてしまいます。
他「らいおん先生」「未来」
2000

毎日新聞社
日曜日の夕刊  

几帳面できれい好きでチマチマしているチマ夫といいかげんでがさつなガサ子の恋の話「チマ夫とガサ子」太宰治に傾倒し、自殺を繰り返す女子大生が恋人に選んだオレが生の意味を考える「桜桃忌の恋人」同窓会で、昔いじめていた後藤のことを思っている「後藤を待ちながら」その他、母と子、父と子、家族の幸せを描いた短編集。

不器用で自分の気持ちを素直に表現できない人たちに、共感できる。どれも味わいあるのですが、「さかあがりの神様」が自分の義父のことを思い出しながら、子どもにさかあがりを教えているこの話が一番好きです。恋愛小説は珍しい気がしましたが、「チマ夫とガサ子」では、理屈や計算ではない感情「好き」、とてほほえましいかったです。

1999
11



新潮社

ナイフ 

いじめが題材となっているので、心が痛みました。けれどこれらを読むうち、いじめにもいろんなケースがあると感じました。
「ワニとハブとひょうたん池」
何の前触れも理由もなくクラスのみんなからいじめにあってもプライドを失わず、ゲームだとわりきれる中学生のミキは強いと思います。
「ナイフ」
息子がいじめを受けていると知った親の気持ち、そして息子とどう接していくのかが書かれています。父親が、息子真司をいじめた相手にすごんでも、結局怖くて逃げ出した。それを真司に話す場面は私も涙が出てきました。最後はいじめを受けている本人の戦いなのです。親はいったい何ができるのか?一緒に泣いて、重荷を減らしてやることだけでしょうか。
「キャッチボール日話」
いじめられている大輔は、前2編と違って弱い子です。親は、いじめを知っていても、もっと強くなれという。けれど、それがどうしてもできない子がいる。負けることを認めてやる事も、時には大切なのではないのでしょうか。キャッチボールして相手とまっすぐに向き合い、相手の気持ちを受け止めることができたらと思います。
「エビスくん」
1対1のいじめ。そばから見るといじめられている子はなぜそこまで我慢するのかという気持ちになるが、いじめられている本人は、怖いからというのではなく、好きだから、友情の裏返しとして受け止めている。今時のいじめはエスカレートしていますが、本来のいじめは、こういうことっだのかという気がします。それと、兄弟愛に泣けました。
「ビタースイートルーム」
これは、模範的な小学校の先生に親たちが反感を抱く話です。自分の子のことは、親が一番よく知っている。先生と生徒の関係は、少しの期間だけですが、親と子どもとは一生の付き合い。そのときそのときに何が一番いいか考えての行動は、たとえまちがっていたとしても、たとえ後悔を繰り返したとしても、子どもを思っての行動なのです。学校で話をした奈帆の親の気持ちは、甘い親の屁理屈に思えましたが、でも子育てをしている親として共感できる気持ちです。
97
11

幻冬舎文庫

幼な子われらに生まれ  

37歳の私は、今の妻とバツイチ同士で結婚し、妻の連れ子薫と恵利子のパパとなって4年後、妻が妊娠する。その赤ん坊が生まれるまでの父親の葛藤を描く。

いいパパになろうとしているのに、薫は険悪な態度をとるようになり、家の中の雰囲気が悪くなり、自分のい場所がなくなっていくパパ。薫の気持ちもわかる。パパは実の子と会っているのだから、自分も・・・・・本当に実の父に会いたいわけではないけれど無理をいってみたくなる。妹にあたったりする。本当の親子なら、何事もなく終わっていくこともいろいろと問題が起こったりする。この物語を読んで、パパがんばってるなあと思った。仕事も程々に家族中心に行動しているパパなのに、どこか可愛そうな気もしました。こういう日々を繰り返し家族の絆も生まれてくるのでしょう。
97
7

99
11
文庫

 

島田和子

カミングアウト


新日本出版社

カミングアウト (児童文学)

三奈は引っ越してきた新しい町で、ハンセン病の療養施設「全生園」の中で勇治おじさんと知り合う。その勇治おじさんの闘病生活の話を聞くが・・・・・

ハンセン病に対する私たちの差別、偏見、無知を思い知らされました。患者達は、強制隔離され、身内にも会えない時を過ごしていたとは・・・このようなつらい思いをしていたと思うとたまらない気持ちになりました。今でもまだ知らない人が多すぎます。このように、「カミングアウト」して、みんない呼びかけ、少しでも偏見がなくなればという気持ちでいっぱいです。
2000
2

映画と本の紹介