< TOPに戻る >

 

         CM 2

鶴見っていう駅で待ち合わせで、そこからロケバスで移動。

一緒に新入生役の女の子、そしてそのマネージャーも移動。
話しやすい人でホッとしたね。
タカピーな人じゃなさそうだし・・・。

そこでおいらは迷ったね。
どんな自分を演出しようかってさ。
この前の打ち合わせのときとんでもないくらい、緊張してしまった。
行きの電車の中、小説を読んでたんだ。
だから、今回はどうだろうって不安だったんだよ。

「未来は途上にある。」
そんなことを村上龍が言ってたよ。
そこで何故かホッとしたんだ。
すごく勇気づけられたよ。

バスに揺られながら、ロケ地である学校についた。
校庭にはもう梅の花が咲いていて、春なんだなあ
って思ったよ。

そう、世間は春を迎えようとしてるんだ。

そこは女子高で、男子トイレがあまり無くて困った困った。
しかも、もう一遍の教室編の撮影してるもんだから、
静かにしなきゃ行けないしさ。

おいらたちは小さな教室に入れられたよ。
前には、千葉修司様って書いてあった。
芸能人になった気分だった、変な感じだったな。
そこは、数学の本ばっかで頭が痛くなったよ。
そこで、女の子のモデルが喋り出した。
もちろんおいらにじゃなくてね。
おいらは、「教室編」のメインの男の子と喋ったよ。
様子をうかがったけれど、生意気そうな奴だった。
実際そのCMが流れたら分かると思うけれどさ。
いきなりため口でさ。
やっぱ、こっちの世界ではそのずうずうしさが要求されるのか、
って、そんなこと思ってしまったくらいだよ。
普通の悪ガキなのにさ。でもおいらも合わせといたよ。
そいつ、女のことなんか合わないって言ってるような態度だったからさ。
そんな奴に親切にするスタッフがかわいそうだったよ。
俺ならやってらんないねえ。

スタッフはやっぱ、テレビで見る通り、でかい機材とか持った人達がいっぱいいてさ。
はあーって感心しちまったよ。みんな不精髭生やしてたな。

待ってるときに監督さんがはいって来た。
田中国衛を彷彿とさせる、そんなかおしてた。
で、おしゃれなんだよね。
予定より早く撮影することになって、
すぐにおいらのメイクが始まったよ。
かっこいい兄ちゃんだった。しかも良い香水してたな。
いつか、女装して化粧したときのことを思い出して、笑っちゃったよ。
メイクしたら本当に肌が綺麗になったよ。
びっくりしたね。
そりゃ、あれ見せられたら、女の子は化粧するよな。
確かに美意識がくすぐられるわ。
あんなに綺麗に見えるんだもの。ほんとの肌じゃないけどさ。
その他いろいろ塗られたよ。
体が光るんだってさ。

ユニフォームに着替えたけれど、下のバスパンが、うちのカラーと一緒で、
なんか馴染めたね。

でその下にって、ポールスミスのブリーフパンツをくれたよ。
女の人だったから照れくさかったけれど、あげるって言うから貰っといた。

メイクの途中、「教室編」の女子高生が沢山はいって来たよ。
別に大物モデルでもないのに、あほみたいに鏡から俺を見てるんだ。
そんなに見たきゃ見ろよ!って感じ。何にも出ないからさ!!

んで、体育館に行ったらどっかのバスケのチームが練習してた。
大学のサークルを借りてきたんだってさ。じろじろ見てたよ。
スリーポイントシュパシュパ決めたら、この人はバスケ出来る人なんだ
って顔で見てたよ。こっちにわざと、ボール転がったふりしようとして、
頑張ってたけれど、一体何したかったんだか?あほかと思ったよ。

スタッフの人達に一通り挨拶して、
体を温めた。ベンチウォーマー着せてくれるし、
待遇はすばらしいものだったね。
髪が乱れれば、メイクさんが来てくれるし・・・。

自分でも驚くくらいシュートがよく入って、
みんなびっくりしてたよ。

プロデューサーの人としゃべったんだけど、
早稲田だってさ。あいつもあいつもって、
早稲田出身が沢山いたよ。こういう業界にも。
結構喋れてよかったな。

いろいろ監督に指示してもらって、
撮影に入ったんだけど、なかなか上手く行かなかったね。
カロリーメイトはモソモソするし、
手はかじかんじゃって、ボール回しも難しいし。
テイクいくつまで行ったっけか??
よく覚えていないね。

ここで言っとくけれど、
あんまり顔は写らないよ。
ほとんど写らない。
多分おいらだって分からないと思う。
そういうCMじゃなかった。

それにしても待遇がよかった。
合間にはコート着せてくれるし、
食いかけのカロリーメイトは吐いて良いって言うし、
ゴージャスだった。周りの人に悪かったよ。
でも、なかなかアクションが上手く行かなくて、
それどころじゃなかったよ、おいらは。
俺に小川くらいのハンドリング能力があればどんなに良かったか。
小川だったらって、何回も繰り返してたね。

それで、撮影は終った。
みんなに元気良く挨拶しといた。
本当に有り難うって思ったしさ。

それからご飯食べた。
ロケ弁じゃなくて、給食みたいなやつ。
食うところ間違えて、スタッフと一緒に食った。
いろいろ話したかったからさ。ためになったよ。
「運」について喋ってた。そこには長谷川のりゆき顔負けの色男もいたね。
どんな仕事してんだろう??

んで、部屋に戻って、モデルさんといろいろ喋った。
こいつらなら笑わせることも可能って思って、
笑わせたあと、ちょっと真面目な質問をした。
仕事の話とかね。
彼女らは監督から呼ばれて、もう三回共演したって言ってたな。
一人は中学生日記出身で、もう一人はスカウトだった。
もう沢山仕事してる人達で、おいらの境遇を喋ったら、
珍しがってたな。その片方のマネージャーの出身が宮城で、
しかもそのおかんの実家がおいらの家のそばで、話が盛り上がったよ。

帰宅して、シャワー浴びて、全身きれいにして、
ビール飲んでるってわけさ。
今回の件はこんなもんだよ。
モデルの子みたいにこれから仕事がんばろうって、そんなこと思ってない
し、欲は無いよ。顔も写りそうに無いけれど、別に悔しくも無い。
これが最初で最後の仕事かもしれないしさ・・・。
こーゆー世界もあって、
今回は自分が今までやってきたことが、別の方向で評価されたって
ことで、すごく幸せに思う。
自己満足に過ぎないとは思うけどさ・・・。
いつ放送されるか、いくら入るか分からないけれど、
幸せなんだよね。
流れるまで、みんなに言うもんじゃないと思った。
確かにすごいことだけど、自慢するもんじゃない。
みんなに言ったことを少し後悔したよ。
流れてからで良かったんじゃないかってさ。
しばらくは自分でも終わったこととしようと思うね。
んで、流れたときに、みんな一緒に笑おうぜ。
「へたくそ」「カッコ悪い」ってさ。

一つの小さな物語。
親に反対されたこの仕事だけど、
小さな形になったよ。
満足するまで、やらせてもらえなかったけれど、
でも、満足なのさ。


< TOPに戻る >