(朝日新聞03年2月7日)
ゴッホの初期作、日本で発見 8日に競売

 オランダの画家ゴッホ(1853〜90)の修業時代の油彩画で、行方不明だった「左向きの農婦の頭部」(縦41.2センチ、横34.8センチ)が洋画家の中川一政さん(1893〜1991)の残したコレクションの中にあることが分かった。8日に東京・銀座で開かれる競売会に出品される。
 中川さんの遺族から競売の依頼を受けた競売会社シンワアートオークション(本社・東京)が昨年12月、ゴッホの作品に似ていることから、アムステルダムのゴッホ美術館に問い合わせていた。しかし、1928年に出版された全作品カタログの図像と比べると、鼻の部分などが異なっているため、競売目録には作者不詳「婦人像」とし、落札予想価格も1万〜2万円と設定していた。

 6日になって、ゴッホ美術館から真正作であるという調査報告書が届いたため、改めて落札予想価格を300万円以上とした。調査報告書によると、1884〜85年の作品で、1950年ごろ大規模に加筆・修復されたため、「オリジナルの特徴はほとんど失われており、ゴッホ特有の筆致は、部分的にのみ認知できる状態」という。

 独学で絵を学んだ中川さんは「ゴッホは学校にも行かないで自分の身辺から絵をかいた」と特別な思いを抱き、25年に伝記の翻訳出版もした。

 美術市場に詳しい美術評論家の瀬木慎一さんは「79年にロンドンの競売で約1万4千ポンド(約742万円)で取引されたことまではわかっていた。日本のオークションでゴッホが取引されるのは初めてだろう」と話している。

 中川一政 油絵を独習し、14年の巽(たつみ)画会に入選した「酒倉」が審査員岸田劉生に注目された。強い色調の詩情をたたえた油絵で知られる一方、日本画、水墨画も手掛けた。75年文化勲章受章。神奈川県真鶴町と石川県松任市に記念美術館がある。




(読売新聞03年2月8日)
               
ゴッホの初期作品が展示されているオークション会場(銀座)
「1万円」のゴッホ、6600万円で落札
 
 洋画家中川一政氏のコレクションで、後期印象派の巨匠ゴッホ(1853―90年)の初期作品と判明した油絵「農民女性の頭部」が8日夕、東京・銀座で開かれたオークションに出され、6600万円で落札された。

 この油絵(縦41・2センチ、横34・8センチ)は、オランダ・アムステルダムのゴッホ美術館による調査で、オランダのニューネンで農民などを描いていた1885年ごろの作品と分かった。作者不詳だった当初の落札予想価格は1―2万円だった。

 落札したのは、広島県のウッドワン美術館館長で、木質建材メーカーウッドワン会長の中本利夫さん(73)。「どうしてもゴッホを買いたいと思っていたので、金額にはこだわらなかった。自分が落札できてよかった」と話している。報道で知って急ぎ落札参加を決めた。中本さんは2000年12月には、岸田劉生の「毛糸肩掛せる麗子肖像」を3億6000万円で落札している。

 オークションには、中川氏の遺族からユトリロ、ルオー、梅原龍三郎などの絵画や工芸、墨跡など約170件が出品された。開催したシンワアートオークションによると、この日、競りにかけられたすべての作品が落札された。合計額は3億2879万円。

 【オークション】

 美術品などの競売。国内の美術市場は画商や百貨店が主体だったが、近年オークション会社が成長。1989年設立の「シンワアートオークション」は有力企業の一つで、落札額3億6000万円の岸田劉生作品を扱ったこともある。



(朝日新聞03年02月11日)
天声人語
こんな句がある。〈よく見れば薺(なづな)花さく垣根(かきね)かな〉。一見、何の変哲もない句である。ひょっとしたら、技巧も何もない句だと酷評されるかもしれない。
 もちろん専門家はご存じのように、芭蕉の作品である。「要するに、無味・平淡な句である。この無味・平淡のなかに深い『よさ』を感じとった芭蕉の表現意識は、……けっして平凡ではないのである」(小西甚一『俳句の世界』講談社学術文庫)。

 先日競売されたゴッホの油彩画「農婦」にも、そんな気配がある。「暗い、汚い、稚拙」などと評価されかねない絵である。それがゴッホ作と認められたとたんに、1万円程度の予定が6600万円にはねあがった。そのころの代表作「馬鈴薯を食べる人びと」についても当時、ゴッホの弟のテオやパリの画商は色彩が汚いのと乱雑さに驚いたといわれる。

 実際、ゴッホの作品の評価は生前極めて低かった。彼の死後、作品を捨ててしまいなさいと周りが遺族に勧めたほどだった。いまも彼の作品だと知らないで、どこかの居間に彼の絵を飾っている人がいるのではないかという話も流れる。

 こんな例がある。ゴッホがスコットランド人画商の肖像画を描き、本人に贈った。画商の父親が「駄作だ」として5ポンドで売ってしまった。いまなら50億円を下らないだろうというその絵は1世紀以上も行方不明のままだ。

 先の「農婦」も所有者だった洋画家の中川一政さんが亡くなったいま、入手経路はわからない。ただ画家は、作品の魅力を鋭く見抜いていたのではないかと想像するばかりだ。




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