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がんばれゆうメイト ガッツだゆうメイト
〜実録郵便局アルバイト日記〜
伊吹 マサヤ
十二月十六日 晴れ
冬休み二日目。今日から郵便局でのアルバイトが始まる。私にとっては昨年度に続いて二回目のアルバイトである。
この冬休みのアルバイトを決心するにあたって、他の職業にしようとは一度も考えなかった。理由は簡単、郵便局は時給のおいしさもさることながら、親方日の丸というほかのアルバイトにはない素晴らしい利点があるからである。「お役所仕事」などという言葉があるように、何かと非難される「官」の仕事だが、やるほうにまわればなかなか気楽なものである。昨年度ほかのアルバイトをやった友人からいろいろと大変そうな話を聞いていた私には、郵便局以外の民間企業のアルバイトに就く根性はなかった。
そんなわけで今年も郵便局のアルバイトに応募した私は、経験者と言う事で当然のように採用され、出勤開始希望日の今日を迎えたのだった。印鑑とちり紙と言い訳のように手にとったサイドリーダーを鞄に詰めた私は、かなり時間に余裕を持って郵便局へ向かった。
「あれっ?アルバイトは今日からだっけ?」
タイムカードや出勤簿が見当たらないのでとりあえず近くにいた責任者らしき人に聞いてみたのだが、返ってきた答えは全く的はずれなものだった。確かに今日から働きたいと届け出ていたはずなんですけど…
「それはあくまで希望でしょう?働いてもらう日は郵便局のほうで指定するんだよ。」
へっ?
「ほら。尾野君は二十一日からきてもらうことになっているんだ。説明会のときに出勤日は後日連絡するって言ってたでしょう?」
そ、そんなぁ。だってこっちは今日から来るって言ってるんだから今頃そんなこといわれても困るし…説明会のときに説明したと言われても…寝てたし…
「また二十一日になったら来て下さい。今日はわざわざご苦労様でした。」
我ながら経験者とは思えないミスである。帰り道で学校に向かう弟とすれ違ったが、事情を説明する気にもなれなかった。 …はあ…なんかもうやる気なくなったなあ…
十二月二十一日 晴れ
さあ、今日から正真正銘郵便局でのアルバイトが始まるぞ!…すでにほとんどやる気はないが…
どうやら担当地域は去年とほとんど同じようだ。初日ということで今日は普通の郵便物だけである。一年ぶりにもかかわらず意外と道順を覚えていたので自分でも驚いた。新しくできた家もそんなに多くないし、ポストが遠い家は相変わらず遠くポストのない家には相変わらずポストがなかった。いや、ポストがないというのはまともなポストがないという意味である。
ところで、こういった家の中でも特に腹が立つのは、集合ポストのないアパートによくあるドアポストのうちドアの向こう側に受け箱も何もないやつである。こういった家はドアポストに郵便物を挟んでおくしかないのだが、風の強い日などは下手に挟んでおくと郵便物が飛ばされてしまうので本当に神経を使うのだ。アルバイトだって人間である。機嫌の悪い日にこういう家があるとその郵便物は無残にも玄関に叩きつけられることになる。玄関が泥だらけだった場合結構悲惨なことになっているんじゃないだろうか。まあこっちも法律に触れることをしているわけじゃないし、ちゃんとしたポストを作らないのが悪いのだ!…みんな、大人になったらポストだけはしっかりしたものをつけようね。
そういえば、一般の人はゆうメイトという言葉の存在を知っているのだろうか。ご想像の通り、私たちアルバイトのことを指す言葉なのだが、たまに課長が朝礼のときに使うぐらいで一般の職員の人は絶対に私たちのことをゆうメイトなんて呼ばない。何の必要があってこんな言葉を作ったのか。若い私たちのために今風のオシャレな名前を考えたのだろうか。それはないだろうと言い切れないのが怖い。
十二月二十五日 晴れ
ほかの高校も冬休みに入ったのだろうか。アルバイトの数がやたらと増えた。私の中学校時代の友人も何人かいたので、やっと昼休みの話し相手ができホッとした。
昼休みといえばなぜ桶川郵便局の休憩室は男子と女子で別れているのだろうか。私はアルバイト期間の昼休みのほとんどを友人と一緒に職員用の休憩室(ワイドテレビ・冷蔵庫・保温庫・電子レンジ・ポット・自動販売機付き。もちろんそんなものはアルバイト用休憩室に無い。アルバイトが使ってもいいとは一言も言われていないが、別に職員の人からは何も言われなかった。)を使っていたのであまり関係ないのだが、別に昼休みぐらい女の子と一緒にいさせてくれてもいいんじゃないだろうか。男だけの休憩室は雰囲気が暗く、空気がよどんでいるのでせっかくのお昼ごはんが美味しくなくなってしまうのだ。アルバイト期間後半の男子休憩室利用者数には悲惨なものがあった。 私がこのことを共学校に通う中学校時代の友人に問いかけると、彼らは意外だと言わんばかりに
「えーっ、絶対別の方がいいよ。女子なんかいたってうるさいだけじゃん。」
などと答えてきた。おまけに
「お前性格変わったなあ。中学校のときはそんなこといわなかっただろう。」
とまで言われてしまった。確かに中学校のときは私も真面目で勉強熱心な生徒だと勘違いされていたので性格が変わったと思われるのは分かるのだが、通う高校が男子校か共学校かでこうも考え方が違ってくるものだろうか。やはり私たちは「隔離」されているのだろうか。
そういえば今日はアルバイトに名札が配られた。勤務中は必ず胸に付けていなければならないのだが、真面目に付けている奴は少ない。ちなみに私は真面目なのでしっかりと付けていた。ズボンや靴に。しかしこれはどちらかといえば名札のほうに問題があると思うぞ。この名札にはよくわからない人間の顔のイラストと共にこんな文字が印刷されているのだ。
「新郵便番号キャラクター『ポストン』」
…まあ来年二月から郵便番号が新しくなるのをアピールしたいのはわかるが…ポストンですか…これってやっぱりお偉いさんが会議とかで決めたんだろうなあ…ったくお役所ってやつはよ…
十二月三十一日 晴れ
今年もとうとう最後の一日となったんだなあと実感してしまう。郵便物の少ないこと少ないこと。あんまり少ないので終わった後に内勤を手伝わされてしまった。強制残業である。
しかしこの内勤と言うのもある意味辛い仕事である。単調作業のうえ部屋がとっても暖かいのでとにかく眠くなるのだ。自分が配達するところは別としても、他人の地区の年賀状を組むときなんかどうしても注意力が散漫になる。間違えてないことを祈るが…
明日はいよいよ元旦配達だ。数十キロにもなる年賀状の束を自転車のかごやカバンに詰め終わると、プロのはしくれとして柄にもなく気分が高まってくる。よし、明日は気合入れて配達するぞ!
一月一日 晴れ
眠い。とにかく眠い。だいたいいくら明日は仕事だとわかっていても大晦日の夜に早めに寝るなんてことができるわけないじゃないか。おまけに今日はいつもより一時間以上も早い八時出勤である。小室ファミリーの年越しカウントダウンをしっかり見届けてしまったので、九時間睡眠になれた冬休みボケの体ではさすがにキツいものがある。朝飲んできたお屠蘇も効いてきた。私は早くも勤労意欲ゼロ状態で遠くからかすかに聞こえる局長だか課長だかの挨拶を聞き流しているのだった。そう、今やっているのは出発式。郵便局が世間様に注目されるのはこの日か年賀状発売日ぐらいのものなので、なんともまあ気合の入った飾り付けである。去年の出発式なんか和太鼓の演奏まであった。来賓もそれなりに気合を入れて呼んでいるのだろうが二百人近い職員とアルバイトがいるのに青空の下、マイクもなしで挨拶されたって最後尾のここまで聞こえるわけがない。昨日テストしていたマイクはどうしたのだろう。年に一度しか使わないので実は壊れていたとか。もしかして近所から苦情でもくるのか。いずれにしろ後ろのほうで自転車にまたがっているアルバイトたちは寒さに耐えながら何もせずに時が過ぎるのを待つしかなかった。
やっと出発式が終わったようだ。自転車をとばして配達地域に向かう。去年もやって慣れているとはいえ、さすがに元旦の自転車の重さは半端ではない。本来スピードを出すのは危険なのだが、この日は大きい道でも車が全く通らないので自爆しない限り意外と安全なのである。…もっとも私は一回道路脇の木に突っ込んだが…
元旦の配達は普段より楽だ。いちいち確認するまでもなく年賀状はほとんどの家にくるので、順番に一軒一軒束を入れていけばいいのだから。ゆえに今日はとっとと終わらせて早めに家に帰るつもりだった。が…
最初は確か三軒目だった。束をポストにいれようとしたところ、住所が微妙に違っていることに気がついた。確かに名字はあっているのだが、これは何軒か先の家である。気になって残りの年賀状も調べてみると、束の二枚目以降は正しいものが続いていたがその中にも同じ間違いをしたものが数枚混じっていた。まあここは間違えやすいところだから仕方ないか、と気を取り直して配達を続けているとまた何軒もいかないうちに全く同じような間違いが見つかった。束の中にさらに数枚の間違いが入っているところまで同じである。さらに何軒か配達したが、ある家の前で私は立ち止まった。たしかこの家は近くに同じ名字の家がある。嫌な予感がした私は急いで束を調べてみた。…当たりだよ…。そこには私の予想通りの間違いがあった。
次の家から私は泣く泣く束ごとに総チェックを入れることにした。だって誤配があった場合下手すると私のところに文句がくるのだから。
結局今日は五十通近い間違いがあった。内勤!自分が配達するんじゃないからっていい加減な仕事するなっ!
一月四日 晴れ
元旦からの年賀状の組み間違いは楽に百通を越えた。今日などは朝に職員の人が、
「今日は僕が一通り確認しておいたから大丈夫だと思うよ。」とまで言っていたのにまだ二十通近い間違いがあった。それでもいつもより少ないのだから情けないが、もうさすがに文句を言う気力もなくなった。今私を動かしているのはバイト代への執着だけである。
ところで今日私の友人が配達中に年賀状を風で飛ばされてしまったのだが、彼は怒鳴られるどころか説教さえもされずに済んでしまった。本人も拍子抜けしていたが、これは職員の人が言うように、「まあ、飛ばされちゃったものはしょうがないからね。」で済むことなのだろうか。民間企業でお客様からの預かり物をなくしたらまずクビになると思うのだが…
そんなこんなで私は一月七日をもって郵便局のアルバイトを終えたのだった。今年に入ってから私は郵便局に対して怒りを覚えっぱなしである。最後の日に休憩室のホワイトボードに落書きをしてきたぐらいで許したのだから感謝してもらわなければ。
それはともかく、こうしてここまで私の郵便局アルバイト体験記を書いてきたわけだが、楽しんでもらえただろうか。長期休暇中のアルバイトは学院生活を送る上で結構重要な位置を占めている。特に新一年生の諸君に、この文章を学院性のアルバイトの実態を知る上での参考にしてもらえれば私としても本望である。
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