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ウィザーズブレイン学園
――星に願いを――
お初にお目にかかります
* * * 始まりの一言 * * *
「ねーねー、七夕祭りしようよ」
ファンメイにしてはいいこと言うなぁ、と錬は思った。
「七夕、ねぇ……」
シャオロンがうーんと唸る。
「俺らや天樹家ならともかく、ディーとかはどうすんだよ」
いい考えだけど、と顔に出しつつ、シャオが言う。
「ダメだなぁ、シャオ。教えてあげればいいんだよ。隅から隅まで」
これはファンメイ。
「いやまぁそりゃそうだろうけど、誰が教えるんだよ」
「それは決まってるじゃん。私がその役を――」
「カイとか真昼兄とかなら、任せていいと思う」
錬が口を挟む。
「……竹はどうするんだよ。このあたりに竹なんて」
と、現実主義なシャオ。
「あぁ、それはほら、サクラにお願いすればきっとなんとか」
うーん、とシャオが唸る。
「なら、いけそうだな」
いえーい、と拳を振り上げるファンメイ。
「よっし決まり! 早速こうちょうせんせーにご報告〜♪」
「「そこまで根回ししてたんかいっっ!!」」
見事にハモる錬とシャオ。
かくかくしかじかで、この学園に新たな行事が生まれることとなった。
というのが、今から三日前のこと。
* * * 話は飛んで * * *
「そういえば、ディーはなんで七夕知ってるの?」
「真昼さんと話してたら教えてくれたんだ」
「へぇ」
今は真夜中、夜の十二時。
WB学園の校庭では、ひっそりと幕が開けようとしていた。
暑い夏の夜、集まった生徒たちは皆、着物なりそれに順ずる服装で集まっている。
校庭の中心には、立派な竹。枝は切りそろえられていて、結構な高さもある。サクラが丁度持っていたものを、真昼がどうにか『盗って』来たものである。
脇には短冊の束が人数分より少し多いくらい積まれていて、横には月夜とフィアが。
「えっと、時間になったらこれとペンを配って、後は自由、ですよね?」
「そうよ、あと再説明も忘れずにね」
「はい!」
元気に返事をして、可愛らしい浴衣の袖をひらりと翻して準備を進めるフィア。それを手伝っているのは、大人な着物+軽い化粧でとっても美人に変身した月夜。
その少し奥では、薄手の浴衣の主人公三人組が、ベンチに腰を下ろしている。
「ふぁ〜ぁ。さすがに眠いや」
欠伸一つ、至って普通の浴衣を着た錬が言う。
「企画者の一人がなに言うか。眠いならカフェインだけ1kgでも飲んでどうにかしろ」
無茶苦茶なことを言ってのけるのは、中国っぽい浴衣のシャオ。
「まってシャオ。カフェインだけって麻薬みたいなものだよ。コーヒー位にしとこうよ、せめて。……出身国の伝統だからって張り切りすぎだよ」
長々と突っ込む、目立たないチェック柄のディー。
「伝統だからじゃなくてメイが言い出したからだ」
「「……」」
もう何も言うまい。
そんなやり取りから少しはなれたところでは、ヒロイン三人組がしゃべっている。
「……フィアは張り切ってるな」
これはサクラ。無論、浴衣は黒で統一している。
「それくらいじゃなきゃ困るんだけどね〜♪」
上機嫌なのはファンメイ。シャオと同じように中国らしさのある浴衣。
「七夕……いいお話です」
うっとりした声でセラ。群青に星のちりばめられた浴衣を着ている。
さっき、ファンメイのたどたどしい説明を受けたセラは、話の内容に深く感銘を受けたようで。
「セレスティ、目が明後日の方を見ているぞ……それとファンメイ、貴方は私の髪で何をしているんだ」
「んー、三つ編みー。似合うかなーと思って」
「……気持ちだけ受け取っておく」
ファンメイだって女の子。料理は殺人的でもそういうところはお上手です。だけどサクラはそんなことなどいざ知らず、最悪の可能性を想像してしまっているようす。
「えー、私のとりえは料理だけじゃないんだからー」
「……いや、私はツインテールでいい」
「彦星様……ディーくん……」
セラはまだ夢模様。
校庭の奥のほうには、でんっと鎮座している赤色の船。
「……ハリー、感謝しろよ。校長説得するのもこれ作るのも苦労したんだぞ」
赤基調の浴衣をだらしなく着て、江戸の遊び人のような風貌のヘイズ。肩には、カメラ+音声認識&発声装置+映像投射装置をひっくるめた真っ赤でいかめしい機械がついていて、ウィーンと小さく音を立てている。
『それについては何度もお礼を言ったはずですよ。それとも、ほかに何かお望みでも?』
嬉しそうに横線三本を折り曲げて受け答えをするのはハリー。着物のようにディスプレイの端を装飾してある。やはり芸が細かい。
「いや、別にそういうわけじゃ……ねーんだけどよ……」
その物言いに、ハリーがディスプレイを拡大してヘイズに迫る。
『ヘイズ、私に何か隠し事をしていますね?』
途端、ヘイズの体があからさまに引きつる。
「そそそそんなことねーよ……ほっほら! さっさと皆驚かしに行くぞ!」
『……了解です』
ヘイズは『ハリーを連れて』、船外へと出て行った。
さらにそこから左の方、竹を挟んで錬たちと向かいになるその位置では。
「おーおー、ちんけなこって。もう少し派手に飾ったりしねーのかよ」
「お兄ちゃん、そういうものなの。文句なら月夜先生に言えば?」
ウィズダムは紫、リューネは緑の浴衣を着て、竹を眺めているのはご存知世界兄弟。
「勝てる算段があるならな。俺たちはこれで十分なんだが」
「お星様に願い事なんて、なんだかロマンチック」
藍の浴衣を着ているのがレシュレイで、ピンクの浴衣がセリシア。いつもの事ながら、この後二人は自分たちだけの世界へ旅立っていきます。
「七夕、とは久しぶりですね。お願い事は何にしておきましょうか」
咲夜はやっぱり、普段と変わらぬ巫女姿。
「願い事といえば……今度こそ錬を張り倒し、フィアちゃんを僕のものにっっ!」
なんだかいきなり叫びだしたのはカルシェ。浴衣の上になぜか騎士剣を提げている。怪しいって。
その先、なんだか和風に備え付けられた縁側では。
「和風だねぇ」
「そうだな、ばあさん」
校長、七瀬静江と体育教師の祐一。静江は綺麗な着物を着ていて、祐一は黒基調の浴衣である。
その横では、
「どう? 今回のはかなり良いやつなんだから」
「あら、私だって負けてないわよ」
どちらが似合うか、着物合戦を繰り広げるマリアと雪。
マリアは金糸で刺繍されたり複雑な模様を描かれたりしている、白と金の着物を、雪は名前の通り雪のそれを豪奢に彩った着物を着ている。とりあえず高そうな着物であることは確か。
「ほら、やっぱり私の方が綺麗じゃない」
「何言ってるの、私の方が似合ってるじゃない。帯の結び具合とか最高よ」
永遠に続きそうです。
「エリザ、にあう」
「そうか? 私は服に興味などないのだが」
縁側の奥で会話するのはザイン親子。
「まぁ、悪いことではない、素直に喜ぶべきだな」
「はい」
エリザの顔がほころんだことが嬉しいのか、エドは小さく笑っている。
「んー、星がきれーやなぁ」
「そうね」
縁側に寝転ぶイルはこれまたヘイズに勝るとも劣らないはだけ方で、白と黒のスタンダードな浴衣。その横で座るクレアは眼帯を外していて、薄い水色の浴衣を着ている。
「……」
「……」
「会話のネタが思いつかん」
「あたしも」
静かに夜空を見上げるご兄弟なのでした。
「はい、王手」
「あー……負けてしまいました」
只今将棋で対局中のお二方は、教師の真昼と、PTA(暫定)のアニル氏。
「で、アニルさんはどうしてここに?」
「いや、新しい行事ということで視察に来させていただいたわけでして」
「会長のルジュナさんは?」
「今どこかを歩いていると思いますよ。さぁ、もう一局ですよ。勝ち逃げは許しません」
「受けて立ちます」
ぱちり、駒を差す音。
それと同時に、歩み寄る足音。
「兄さん! 視察に来たのなら遊んでばかりいないでください!」
「まぁ落ち着いて、ルジュナ。……今は真剣勝負中です」
真昼とアニル、二人の目には闘志の炎が。
ここもまた、二人だけの空間を作ってしまうペアだったようで。
「はぁ……」
ルジュナは、深々とため息をついた。
――全校生徒、および教師は中央の竹の前に集まってください――
――今から短冊を配布します――
カイとルーティのアナウンスが響いて、人々が中央に群がり始めて、フィアと咲夜、天樹家、龍使いの四人、それと臨時でリューネが短冊を配り始めて、
『はいはいあんたたちちゅうもーく!』
月夜の軽快な口調が、スピーカーから響いた。
『今日は七夕祭りで集まってるけど、ただお願いするんじゃつまらないわよね?』
めっちゃやな予感と、事情を知るもの以外の全員が後ずさる。
『だからちょっと短冊をいじってね、「書いた願い事をかなえるチャンスが一度だけ訪れる」ようにしたのよ』
は? と何人かが口をぽかんと開けている。
『だから、短冊に書いたお願い事をかなえるチャンスが必ず来る、ってそういってるのよ』
一瞬の静寂、そして喚声。
それぞれに何事かを叫ぶ学生+教師。
そうやって昼間のようなバカ騒ぎがあって、
『あー、言っとくけど、必ず叶うってわけじゃないからね。あくまでチャンスが来るってだけ……って、聞いてるやついないわよね』
月夜のぼやきがあって、
静かな夜の帳が、ゆっくりと開いた。
* * * それぞれの『お願い事』 * * *
手に短冊とペンを持って、エドはエリザの後ろにいた。
「何だ、書かないのか?」
「……いいえ」
首を横に振りながらも、エドは一行にペンを走らせようとしない。
「……ならなぜ何も書かない?」
エドは俯いて、
「ねがいごと……ない」
エリザはしばし逡巡して、
「なら、誰かの願いがかなうように願えばいい。誰かの為になりたいのだろう?」
エドの顔が少しほころんで、
「はい」
言うと同時にどこかへ駆け出していた。
シャオは走っていた。
「錬――!」
額に青筋を浮かべて、短冊はしっかりとポケットに入っていて、ペンはすでに返してある。
「勝手に人の願い事を見るなぁ――!」
視界に入った、黒髪の小さな少年目掛けて、思いっきり触手をぶつけてやる。
「痛ったぁ――!」
錬の痛烈な声を耳に収め、
「ごっごめんシャオ! もうしない! 二度としない! ちょっと腕が真っ黒に染まってるんですけど! あぁ刃が! 危ない! 死ぬってそんなの食らったらぁ――」
ぎゃぁぁぁぁぁ、響き渡る悲鳴。
「謝るくらいなら始めからするな!」
ったく、と悪態をついて倒れる錬に一瞥をくれたところで、短冊が消えているのに気がつく。
「あれ? これ誰のぉ?」
きょろきょろと視線をさまよわせていたシャオの体が、目に見えて硬直する。
ファンメイは、シャオの短冊を頭上に掲げてひらひらさせて、持ち主を探している。ほかに短冊を持っていないところを見ると、どうやらすでにつるしてきたらしい。
「フフファンメイ!?」
振り向きざまに短冊を奪おうと手を伸ばすが、ファンメイはそれを紙一重で避けてしまう。
「へぇ〜、シャオのなんだ〜」
「返せバカ女!」
慌てまくりのシャオ。
「そんなに、読まれたくないこと書いたんだ〜」
「メイちょっとまて! 読むなぁ!」
ファンメイの視線が、短冊に移る。
硬直。
「……シャオ」
短冊を下ろして、ファンメイが呟いた。
短冊に書かれているのは、『メイが料理上手になりますように』。
「かっ勘違いすんなよ! これはあくまでお前の殺人的な料理をどうにかしようと考えたからで――」
必死に弁明するシャオにファンメイは少しづつ近寄り、
「ホントに、そうなの?」
シャオ、再び硬直。
「私のためだとか、そういう理由じゃなくて、ただみんなのため?」
「メ、メイ」
いつの間にか、シャオの鼻先数センチにはファンメイの顔が。
「ホントは……その」
本当のことを言うべきだってわかってるのに、声が出ない。
「もしホントに皆のためなら……」
ファンメイが、目をつぶって、シャオの顔がみるみる紅潮して、
「わたしに謝れ――! このカニ男――!」
炸裂、ファンメイパンチ。
「――ってぇ! 何すんだこのバカ女!」
「うるさーい! なによこのわたしを馬鹿にしたお願いは――!」
喧々囂々、いきなりの大喧嘩。
「じゃあお前の願い事はなんなんだよ――!」
「あんたみたいなかに男に教えるわけ無いでしょ――!」
そんな大喧嘩が起こす風が、短冊を揺らす。
『シャオの誕生日においしいケーキを作れますように』と書かれた短冊が、竹の一番上で揺れていた。
後にファンメイはルーティと咲夜とセラとマリアにケーキの作り方を教えてもらうことになって、裏でシャオが手回しをすることになるのだが、それはまぁ、もっと後の話。
その頃、ディーはセラと二人きりで、竹に短冊をつるしていた。
「ディーくんは、何をお願いしたんですか?」
『ディーくんに告白できますように』と書かれた短冊を結び終えたセラが上目遣いにディーを覗き込む。
マリアにしこたま教えられた「男の子をゲットする方法」。
……今日は絶対、あの小姑にディーくんは渡しません!
この満天の星空の下で、幸せなひとときを過ごしてみせる! と、セラは随分と意気込んでいるのだった。
「そうだなぁ……秘密、にしとこうかな。セラは?」
来た、とセラは思った。
今こそ思いを伝えるとき!
小姑が来ないうちに早く、そう心をせかすのだが、こっちを見つめるディーの瞳と自分が言おうとする言葉の重みで、口が開いてくれない。
「わたし……は、その……」
何? とディーがこっちの顔を覗き込んでくる。
どきん、と心臓が高鳴る。
……がんばれ、わたし!
心の中で何度も呟いて、意を決して口を開く。
「……ディーくんと」
「待て待て待て待て待て待て――!」
土煙を巻き上がらせて走り来る『誰か』。
「あたしのディーとなにいちゃついてんのよ――!」
大声で怒鳴っているのはやっぱり、クレアだった。
「え、どうしたんですか、クレアさん?」
「ちょっとまってなんか今変な声が聞こえたんだけど?」
ありえない幻聴を聴いたらしいクレアは、怒りのボルテージをさらに上げていく。
「私は変なことなんて言ってないですよ?」
「っほらまた! ディー、今の聴いた?」
「へ?」
いきなり話題を振られてぽかんと口を開けるディー。
(……確かにセラの声に重なって凄い怖い声が聞こえた気が……)
「ほら、ディーくんだって分からないって言ってます」
「むむむむむ……」
頭の血管でもぶちきれそうなくらい怒っているクレア。頭から湯気が出ています。
「くそー! こうなったら武力行使よ! FA-307――!」
クレアが叫んだ瞬間、頭上に影。
クレアの声に反応してどこかから飛来したFA-307は、クレアを乗せて空中で翻り、セラに照準。
「流れ星に変えてやるです」
D3を従えて、セラも空中へ浮遊。
直後、七夕祭りの頭上にて花火代わりの荷電粒子砲が閃いた。
「……やっぱり正解だったかな」
空中にて大喧嘩を繰り広げる二人を見て、ディーは一人呟いた。
「『セラとクレアが仲良くなりますように』って書いておいて」
さて、とディーは呟いて、どこかへ歩いていった。
その直後、セラとクレアが放った荷電粒子砲が、正確にディーを捉える軌道を描いて、それを完璧なまでのコンビネーションで打ち落とした二人は、
「……ディーは渡さないけど、喧嘩は危なくないところでしましょ」
「賛成です」
まるで青春映画のように手を取り合って、握手を交わす二人でした。
「……ま、祭りに喧嘩はつきもんだしな、ハリー」
『そうですね。ヘイズも巻き込まれないようにしてくださいよ?』
「わーってらぁ」
投げやりに答えて、ヘイズは適当にあるいていた。
「お、いたいた。錬! 頼んどいたの、手に入れたか?」
「一応ね。……ばれたら僕、殺されかねなかったからね。感謝してよ?」
ヘイズに呼び止められた錬は、懐から一枚の長方形の紙を取り出す。
『……短冊、ですか』
「そうそう。ヘイズがどーしても欲しいって言うから……ってハリー!?」
『左様で御座います』
平面のディスプレイをひらりと折り曲げ、お辞儀をするハリー。
『今日はヘイズが私にと開発した……名称不明の機械を介して、本艦からここにお邪魔させていただいております』
機械合成にしてはやたら抑揚の効いた声を発する、ヘイズの肩のいかつい機械。
「そーいうこった。祭りくらい、みんなでやろうと思ってな」
『……多分、ファンメイ様のお計らいでしょうと私は推測させていただいております』
「……随分信用ねーなぁ、俺は」
ヘイズが、がっくりと肩を落とす。
「でだ、錬。お前の頼みって何だ?」
ヘイズの肩の機械をしげしげと眺めていた錬は、ああそうだった、と呟いて、
「このお祭りの間だけ、カルシェをどうにかしておいて欲しいんだけど。あいつ、絶対にフィアに手を出すと思うから」
「……青春てのはいいもんだねぇ」
ヘイズが一人で頷いて、
「いいぜ、今日だけでいいんだな?」
「ありがと、ヘイズ」
錬は、とたとたとどこかへ行ってしまった。
『ヘイズ、少しよろしいですか?』
「んあ? なんだよ」
『自分だけ願い事を二つかなえる、というのはいささかお勧めできないのですが』
ヘイズが、はぁとため息をつく。
「……ホントに、俺って信用ねぇなぁ……」
わしわしと頭を掻いて、ヘイズは顔をあげる。
「ハリー、お前の願い事ってなんだ?」
『私、ですか? そうですねぇ……』
そこで横線三本のマンガ顔が驚きを表現して、
『ヘイズ、まさか』
「いいから、お前の願い事は?」
ヘイズが、強引に通す。
『……ヘイズの願い事が、叶いますように』
ハリーが、小さく呟く。
「は? あ、あのなぁ、これはお前の願い事なんだぞ? 俺の願いなんざどうでもいいからお前の願い事を……」
『私には、ヘイズの心遣いだけで十分です』
今度はハリーが、強引に通す。
「はぁ……全く」
悪態をつきつつも、ヘイズがさらさらと短冊に文字を書く。
『ありがとうございます、ヘイズ』
ヘイズは無言で、二人分の短冊をつるす。
『ところで、ヘイズの願い事、はなんですか?』
「ん?」
ヘイズはぼりぼりと頭をかきむしり、
「Hunter Pigeon、まるっと洗えりゃ十分だ」
ヘイズは、ぶっきらぼうに言った。
「あーあいつ、なんで俺に預けんのや……」
二枚の短冊をひらひらと振って、イルは呟いた。
「ま、しゃーないわな。一応は姉貴なわけやし」
弾みをつけて体を起こし、ついでに縁側から降りる。
「『ディーが自分のものになりますように』か、あいつもようやるわ」
願いは叶わんと思うでー、と空を踊る飛行艦艇に告げて、竹に短冊をくくりつける。
「願い事、叶いますように……や」
パンパン、と手を打ち合わせてお辞儀をするイル。
結ばれた短冊には、『俺に春が来ますように』と殴り書きされていた。
「さて、もう一眠りや」
かったるげに呟きながら、イルは縁側へと戻っていった。
「って、なんで俺の話はこんな短いねん」
……気にしない気にしない。
さてさてこちらでは、バカップルが揃いも揃っているわけで。
「ルーティ、君のお願い事はなに?」
カイが尋ねる。
「私? ……カイと一緒に居られれば、お願い事なんていらないわ。カイは?」
「僕はね」
真っ赤な瞳を閉じて、カイは一呼吸おく。
「君を悲しませるもの全部、どこかへ消えてしまえって、そう書いたよ」
「カイ……」
「ルーティ」
熱い抱擁を交わすお二人さんの、その隣では。
「さて、何を願おうか」「えーと、何をお願いしようかな」
同タイミングで呟いた二人は、同タイミングで相手を見つめて、同タイミングで短冊に文字を書いた。
「セリシアの願い事が叶いますように」「レシュレイの願い事が叶いますように」
どちらも小さく呟いて、
「……こういうのを、以心伝心というのか」
「きっと、ね」
二人で手を繋いで、中央の竹に向かう二人でした。
で、そのさらに後ろでは。
「『マイシスターが俺のことを「お兄様」と呼んでく」
「万象融解」
……死傷者一名、確認です。
縁側では教師陣。
「ばあさん、何を書くんだ?」
祐一は筆ペンを短冊の上で走らせつつ、横の静江に問いかける。
「歳を食った母親が願うことなんて、大体想像つくだろうに」
静江は短冊を下ろして、星の輝く空を見上げている。
「……まぁ、そうだろうな」
祐一もそれに習って、星を仰ぐ。
「ねーねー祐一! 私とこの親ばかと、どっちが着物似合う〜?」
「親バカとはなによ!」
振り返ると、先ほどから言い会いを続けている、雪とマリア。
「そうだな……」
考えるふりをして、静江の短冊を見る。
『祐一と雪が、幸せに暮らせますように』
少し顔を赤らめて、
「やっぱり、雪かな」
「ほぉらー! やっぱり私のほうが綺麗なのよ!」
拳を振り上げて高らかに笑う雪。その横で歯軋りをするマリア。
(マリアも……同じだろうな)
なんたって、母親なのだから。
「ばあさん、あんたの短冊も、吊るしてこようか」
「あぁ、すまないね。この歳になると立ち上がるのもきついからねぇ」
静江の短冊を受け取って、一瞬自分のと見比べる。
「『雪が幸せになれますように』なんて、ありきたりだろうな」
頬を赤らめつつ、短冊を吊るす。
縁側では、まだ雪とマリアは言い合っている。
その光景に小さく苦笑し、風に揺らめく竹を見上げる。
「願いが叶うのは、いつだろうな」
呟いた声は、自分でもよく分かるくらい、遠い目をしていた。
「王手です」
「あっ」
真昼とアニルは、未だ対局中。
「はぁ……『この二人の勝負に、決着がつきますように』」
ルジュナは、一人ため息をついた。
「「……ついにこのときが来た」」
悪魔使い二人が、声をそろえて唱えた。
「「生まれたときから我らに付きまとう、忌まわしきこの成長の遅さともこれで、お別れだ」」
只今完全同調中、錬とサクラ。
全く同じ速度、同じ位置で、短冊に願い事を書き込む。
「『身長が平均くらいまで伸びますように』」
「『胸が大きくなりますように』」
悲しき定め、悪魔使いのコンプレックス。
『小さい』でひとくくりできる思春期の成長速度の遅さを、いま二人は乗り越えようとしている。
書き込んだ文字が光り輝くほどの強い願いを、丁寧に丁寧に、傷などつけてしまわぬように慎重に、竹に結んでいく。
「……忘れてはいないと思うが、私たちは自分たちの願いが叶うまで、互いを助け合う。いいな?」
「悪いわけないよ」
丁度結び終えたところへ、フィアとエドが並んで歩いてきた。
「れん」
「錬さん」
はたから見ると姉弟に見えなくも無い二人は、錬にゆっくり歩み寄って、
「れんのねがいごと……ぼくもねがう」
「私たちはお願いすることが無いので、錬さんのお願い事を応援することにしたんです」
口をそろえて言う二人。
「え、あっありがとう」
これは思わぬチャンス。
願いをかなえるチャンスが増える、というのは、今の錬にとってとても嬉しいことだ。
だが。
「……そういうことなら錬、協力の件はなしだ」
「……へ?」
ちょっと待て。
「当たり前だろう。貴方はすでに確率三倍ではないか。それ以上を望むのは傲慢というものだぞ」
「う……」
言われてみればそうだ。自分を手伝ったところで、サクラの得るメリットは自分が得るメリットに及ばない。
即ち、損。
普通に考えればこのまま手を切るべきなのだろうが、同じ悩みを抱える同士を見捨てるわけにもいかない。
「じゃ、じゃあさ! エドはサクラのことを応援してあげて! そうすれば僕らの確率は同じだよね?」
人の欠点をからかう真昼を一緒にぶちのめしたこともある。「○○が無い」事で朝まで愚痴りあったこともある。
自分だけ、というのは嫌。
「……いいのか? エドワード」
サクラが、エドに尋ねる。
「どっちも、いっしょ」
「……そうか」
サクラはこちらに向き直り、
「ならば、手を組もうか」
「そうこなくっちゃ」
二人して頷きあい、しっかと握手をして、
「お二人とも、今日はプレゼントがあるのですよ」
――悪寒と共に振り返ると、咲夜がにっこりと笑っていた。
「貴方たちは『○○が無い』事をひじょーに、ひっじょーに嘆いておられますよね?」
……これ、チャンス、なの?
「そこで私ともう一人、貴方の姉様方と一緒に開発してみたのです。『急性成長促進剤』を」
月夜の名が出てきたことで、不安がさらに広がる。
第一、咲夜が自分たちの体のための薬を作って、一度たりとも成功した覚えが無い。
「……具体的には、どうなるのだ」
サクラが多少どもりつつも問う。
「そうですねぇ……少なく見積もっても」
「錬なら+15、サクラならアンダー+10、ってとこね」
「「うわっ!」」
後ろからいきなり現れた月夜は、うんうんと頷いて。
「大丈夫よ今回は。今までで最高の出来だもの」
(その『最高の出来』に、今までさんざん苦しめられたんだけどなぁ……)
心の中で小さくため息。
「って、+15cm!?」
錬の身長速度から概算して、三年とちょっと分の身長である。
あんぐりと口を開けて、すぐに正気に戻って何事かを言おうと再度口を開いて、
「アンダー+10だとっ!?」
サクラの驚愕の声に遮られる。
「そうよ」「そうなのですよ」
口々に呟く開発者。
悪魔使いたちは眼を輝かせて、
「「その話乗った!!!」」
錬とサクラは同時に叫び、
「――サクラが」
錬が、小さく付け加えた。
「っふざけるな天樹錬! 私たちは協力関係を結んだはずだ! なのに何故私だけが毒見のような扱われ方を受けなければならないのだ!!」
「や、レディーファーストは大事だと思って」
激昂するサクラなどそ知らぬふりで、錬は言う。
「そういうところだけ兄に似るな――!!!」
外套の裏からナイフをつかみ出すサクラ。
「サクラ、ナイフなんて構える暇があったら、心構えをしておいたほうがいいと思うよ」
錬が顔を引きつらせつつ答える。
「さーくーらー?」
サクラの動きが止まる。
「毒見とは、どういうことなのですかー?」
サクラの頬を、汗が一滴伝い落ちる。
「い、いや私は決してその薬が『危険物』だといっているわけではなくてだな……」
「なら、選択肢は一つですよね?」
う、と言葉に詰まるサクラ。咲夜はそんなことなどいざ知らず、ビンから薬を一錠取り出す。
「さぁ」
咲夜がサクラに一歩詰め寄る。
「さぁ」
サクラが後ずさるのにあわせて、さらに一歩咲夜は踏み出す。
「さあ!」
とうとう抗しきれなくなったサクラが、白い錠剤を受け取る。
奇妙な緊張感。
サクラは錠剤を口に運び、水も無しで一息に飲み干す。
「――――――――――――んんんんっっっッッっッっ!!!」
声にならない悲鳴をあげて、サクラはそのままばったりと倒れた。
顔から精気がどんどん抜けて……って瞳孔開ききってる気が……。
「……ぇぇ……」
あからさまに後ずさる錬。
(勢いで飲まなくてよかったぁ〜。サクラありがとう。それとごめん)
心の中で感謝と謝罪。
「あらあら錬、そんなに怯えなくて結構ですよ。これはいわゆる……『副作用』ですから♪」
「『死』が副作用の薬はもはや薬じゃないっっっっ!!!!」
「いえいえ、世の中には『毒薬』なるものがちゃぁーんと存在しているではありませんか」
「……今遠まわしに殺害予告したよね?」
小さく呟く錬。
「大丈夫よ錬。きっと」
咲夜に代わって話を告ぐのは月夜。
「『きっと』ってやめてくれない? せめて確定させておいてよ」
「じゃあ絶対」
「……もう、いいです」
深々とため息をつく錬。
「……で、ほんっっっっとうに身長が伸びるんだね?」
覚悟を決めて、錬が訊く。
「えぇ、そりゃあもう♪」
にっこりと微笑む咲夜。
すでに、錬の退路は断たれた。
「……神様お願いしますっっ!!!」
咲夜から白い錠剤を受け取って、一気に飲み下す。
「――――――――――――んんんんっっっッッっッっ!!!」
全くサクラと同じ反応を示した錬は、そのまま仰向けに倒れた。
「あら、錬もサクラものびちゃってるじゃない。せっかくシャオに頼まれて成長促進剤作ってきたのに」
薄れゆく視界の中で、あらあらと呆れるルーティ、それと走りよるシャオとディーの姿を見た。
錬! これ飲め! 俺とディーで試して大丈夫だったんだから!
「シャオ……もう少し…………早く、きて……ほし…………」
そのまま、深い深い意識の底へと、錬は堕ちて行った。
「やった! これで錬は動けない! 後はフィアちゃんを……」
隅っこでガッツポーズをしているのは、ご存知カルシェ。
願い事とはもちろん、『錬を痛い目にあわせること』。
後はフィアちゃんを慰めるなり励ますなりしてフィアちゃんの気を引いて、にっくき錬からフィアちゃんを奪い取って……
「よぉ、カルシェ」
後ろから声がして、振り向くと真っ赤な人影が。
「ヘイズ先生、どうしたんですか? いま僕は一世一代のチャンスを」
「校長に言われちまってなぁ、お前の出席日数の低さをどうにかしろって、そういうこった」
ヘイズはにやりと笑って、
「悪りぃが、来てもらうぜ」
あっと思ったときにはカルシェは襟首をつかまれ、そのままずんずんと引っ張っていかれて。
「フィィィィィアちゃぁぁぁぁぁぁぁん!!!!」
奇怪な悲鳴が、どことも無く響いたのでした。
「ヘイズ……ありが、と……」 ガクッ。
錬の身長は3pほど伸びましたとさ。
あとがき。
始めましての方もおられるかと思います。
デクノボー、と申します。
このたびはレクイエムさんたち三名による加入テストを無事にパスしまして、こうして学園編を書かせていただいております。
以後お見知りおきを。
今回は七夕を題材に書いたのですが。
〆切ぎりぎりで書き終えたものです。
何せ七夕ですから、七月の更新には間に合わせないとまずいですよね。
なのでろくに見直しも出来てませんし文章にも乱雑さが目立ってしまいました。
このようなことが無い様に気をつけていこうと思います。
それでは。
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