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[スケバン刑事α」
スケバン刑事α・少女阿修羅伝説(6)
作.響アスカ
第6話 双龍秘伝・後編
警察車両で我が子を迎えに行った美弥子を見送って、
改めてサキを見る平蔵
「中で話ましょう」
と玄関前の応接室へサキ達を連れて行く。
「どうぞ」
といってソファに座らせた平蔵。
「驚きました。あなたが刑事だなんて」
「じゃが、スケバン刑事はおりの父上を殺し母上を連れ去った
闇の組織に戦いをいどむ手段なんじゃ」
「いろいろ事情があるんですなあ」
「父上殿。朱美と玲子がおりの仲間になるといってきかんのじゃ。
親として止めてほしい」
「そうですなあ・・・・」
「おやじ!うちを止めても無駄だからな!」
と叫ぶ我が子が妙に大人びて見え、つい眼を細めてしまった。
しかし、その大人びたと見えた我が子を厳しい表情で見つめるサキと見比べると
やはり見劣りは否めない。
だがこのサキに付いていくと決めた子供の決意に対しては
何故か心が躍ってしまう。
「朱美!わしは昔からお前が連れて来る友人達のことを否定したことがあったかな」
「じゃあ」
頷く父に久しぶりの笑顔をおくる朱美。
「あのマリーという少女、あの少女もたいしたものだ。
そしてこのサキさん。朱美が友人を選ぶ眼は昔から信用している。
いや、お父さんがもっと若かったらと思うと残念でたまらない」
やれやれという声で
「父上殿も変わったお人じゃ・・・じゃが、母上殿はどう思うかな?・・・」
だが平蔵の思わぬ言葉に驚いた。
「いや、美弥子に朱美がどうのという事言えんですよ。
実は美弥子も高校時代は番を張っていたスケバンだったんです」
とこんな話をしたのだ。
「そうそう、美弥子が言ってましたけど同級生にライバルがいて
衝突ばかりしていたがいつのまにか行方不明になった人がいたそうです。
爆発事故で亡くなったとかいう噂もあったそうですが
その人の名前が『麻宮サキ』・・・サキさんと同姓同名ですねえ」
サキは思わず朱美の顔を見た。朱美も呆然と見返していたが
「サキ!うちってサキとは因縁でつながっているんだ。
だっておふくろが初代のスケバン刑事『麻宮サキ』と同級でライバルだったなんて」
「何!初代のスケバン刑事!」
「そうよ、おやじ。初代スケバン刑事『麻宮サキ』は海槌麗巳の仕掛けた爆発で
行方不明になってるの」
「朱美!どうしてそこまで」
「うち調べたの。間違いはない」
『ガタン』扉の外で音がして皆振り返る。
『ギー』と扉が開いていき呆然と立っている美弥子がいた。
「あっ、私ね未紅の肌着を取りにきたの。今日1日入院させなさいって先生が・・」
といいながら摺り足のように進んできて朱美に取りすがる。
「ねえ、ねえ、朱美ちゃん。今のお話本当なの?ねえ?・・・」
母親に身体を揺さぶられ
「ほ・・本当よ・・・」
その言葉に
朱美の横に座り込む美弥子。
「サキ・・・サキ・・・がスケバン刑事だったなんて・・・
鷹乃羽学園を海槌三姉妹からとりもどしてくれたのがサキだったのね。
噂はあったけど信じなかった・・・・・」
「朱美ちゃん!私あなたを失いたくない・・・
いつも心配してたけど私も同じことしてたから何も言えなかった。
・・・わかったわ・・・お母さんの分までサキに付いていきなさい。
私がサキにした仕打ちが消えると思わないけれど、サキの手を離しては駄目よ」
といって急いで部屋を出て行った。
ドアの向こうにばあやが待っているのだ。
「さて、サキさん。わしは今、不思議に思うことがあるんですよ」
と平蔵が切り出した。
「どうして当家の誘拐事件をご存知だったか」
「言わんと駄目じゃろうな」
「ええ、お願いします」
平蔵はこの麻宮サキという少女に凄く興味を持っている。
「ちょっと長くなるが・・・」
「ええ、いいですよ。時間はたっぷりあるからね」
「実は・・・・」
と話を始めたのがどうして麻宮サキに任命されたかということからだ。
そして『飛騨丸』『鬼怒良の秘宝』『緋龍』と思いがけない言葉で
眼を白黒させる3人。
そして『緋龍』を吹いていて『青龍』の共振を感じこの屋敷に
たどり着いたことを話す。
「悪いとは思ったが忍びこませてもらった。
誘拐は風魔の者が床下から聞き込んできたのじゃ」
「風魔というと、あの・・・」
と言って口を閉じた。その先は口にしてはいけない。
この少女は違う世界に生きているのだから。
「その『青龍』という横笛が当家にあったのかなあ」
と平蔵は頭を切り替え、聞いた横笛のことを考え首をかしげている。
「わしの父や祖父からそういうことを聞いたことがないが」
「父上殿、ここで『緋龍』を吹いてもいいだろうか」
とサキは頼んでみた。
「いいですよ。ぜひ、わしも聞いてみたい」
「狭霧さん」
「はい」
と破れた硝子窓から姿を現す。
「乙葉さんと花梨さんは?」
「何かあってはいけないので、この屋敷のガードを!」
頷いたサキに頭を下げ消える。
狭霧に渡されたディバックを開けて『緋龍』を取り出した。
破れた硝子窓の前で立ち『緋龍』を口に当てた。
澄んだ高い音色が流れてきて清廉で清々しい空気が部屋の中を包んだ。
今日あった嫌なことが遠い過去のように心の負担が軽くなる。
多少音曲のことがわかる平蔵はサキの達者ぶりに唖然とし、
ロックンロールが好きな現代っ子の朱美と玲子でも何故か心の底から
揺さぶられるようで、自然と流れる涙に気づきもせず
呆然と聞いているのだ。
笛の音色が消えた。平蔵はサキの手のうちの笛の震動を見た。
朱美と玲子は相手の顔を見て涙が出ているのを恥ずかしそうに
互いに拭き合っている。
平蔵はサキに近づいて
「サキさん!あなたは名人だ・・・・あっ、なんだ?」
「『緋龍』が共振しているんじゃ」
と言ってサキは笛に導かれて部屋を出ていく。
朱美と玲子があとに続くが
「待て!朱美!・・・念のため土蔵の鍵を」
頷いた朱美が2階へ走って上がる。
サキの後を追う玲子に平蔵、そして遅れて鍵を持つ朱美が
立ち止まったサキに近づいた。
横には狭霧が立っている。
「狭霧さん、ここだ」
真中の土蔵に狭霧が近づこうとすると
「霧子先生!これが鍵よ」
と言って鍵を渡す
「先生?」
といった平蔵に隣の玲子が
「あの人あたい達の保健の先生なんです」
と教える。
今の平蔵、非日常的なことを現実と素直に受け止める自分に驚きが走る。
土蔵が開けられ中に入ると北側の床のところがぽっかりと開いていて
階段が地下に伸びている。天命寺と同じ現象だ。
「どうしたんだ、これは。・・・・こんな階段があるなんて知らなかった」
平蔵が驚く位だから朱美も当然言葉もでない。
「サキさん!ここはそんなに深くない」
と狭霧が携帯していた懐中電灯を足元に当てた。
サキがフと壁を見ると
「狭霧さん、あれ蝋燭では?」
と灯りを壁に当てると点々と壁に蝋燭が取り付けてあるのだ。
「これを使いなさい」
と山登りをする平蔵の愛用の火縄ライターを狭霧に渡す。
風の強い日には便利なもので今も古い蝋燭のため点けるのに苦労するが
火縄の火は消えないので使い勝手が良い。
5mほど下った所で階段が終わった。
朱美は自分も持ってきた懐中電灯を地下の部屋中を照らす。
「何?これ」
と壁の奥に飾られている仏像を見上げていた。
というよりこの部屋にはこの仏像しかなかったのである。
サキは『緋龍』を持って仏像に近づく。
柄はりっぱだが作りはたいしたものではない。
「狭霧さん、この仏像の中だ」
狭霧がクナイを懐から取り出したが
「待て、このほうが早い」
と言ってポケットから出したヨーヨーを構える。
「わり達、下がって」
といってヨーヨーを投げる。
超合金のヨーヨーは回転をあげて体の中心を下から上へ掛け上っていった。
その結果仏像がグラグラ揺れて二つに割れだした。
その技に皆、息を呑む。
でももっと驚くことがあった。
中から出てきたのは見事な黄金の阿修羅像でその手に笛が握られている。
「あれ?これ手紙じゃないの」
と近づいた朱美が声をあげる。
その封書は阿修羅像の足元に貼り付いている。
「待て!」
とサキの声で手を引っ込める朱美。
「200年も経っているんじゃ、慎重にな」
頷いた朱美が恐る恐る剥がしていく。
封書が外れたかと思うとサキの手中にあった『緋龍』が誰かに持ち上げられたように
空中に舞い上がった。封書を剥がしたことにより封印がとけたのだ。
黄金の阿修羅像が持っていた『青龍』と思われる笛も空中に舞い上がる。
そして二本の笛が交わったかと思うと金色の光を発したのだ。
誰もが眼を開けていられないほどの光の輪が序々に収まり、
その中に1本の笛が浮いている。
金蒔絵が施された鮮やかな笛に生まれ変わっていたのだ。
笛が段々にサキの前に下りてくる。
そして不思議がまたおこった。
笛がサキの手のひらの乗ったかと思ったとたん、
再び笛が光輝き透明になり、光もろともサキの身体に入っていったのだ。
急に額が熱くなり思わず手で押さえたサキ。
「あっ熱い〜」
「サキさんどうしました」
狭霧がサキを覗き込んだ。
そのとたん狭霧に驚きの表情が・・・!
(あっそれは・・・)
額を押さえる右手の甲、金色に光る龍の紋章が輝いている。
そして右手を外したサキの額には・・・・・
「トウリ・ヴィドーヤ!」
それは三代目スケバン刑事の風間唯が最後の戦いで天臨聖王となるための
果心居士に吸い取られたはずの『カーンの梵字』であった。
額の梵字はサキも気づいていないし、狭霧が屈んで見ていたため
他のものは見えていない。
サキが立ち上がったときには、すでに額の梵字と手の甲の龍の紋章も消えていた。
この不思議を見守っていたのは狭霧ただ一人、
この場で話すようなうかつな人間ではない。
しかも『カーン』の梵字は風魔にとって限りなき大事な証であった。
狭霧は知らないふりで立ち上がった。
「信じられない!・・・ねえサキ!一体どうなってるの?」
サキはまだ両手を目の前にあげて呆然としていた。
当然、手の平の上にあるはずの『双龍』という横笛、その笛が無い。
実際、当事者のサキには何がどうなったのかはっきりと理解できていなかった。
ただ宙に浮いていた笛が目の前に舞い降りてきていきなり消えてしまった、
としか見えていなかったのだ。
「いったいどうしたんじゃ?」
「サキの身体の中にあの笛がきえてしまったのさ」
玲子の言葉に
「おりの身体に『双龍』が?」
「双龍?」
「『緋龍』『青龍』が引かれ合い交わると
『双龍』という名笛になるそうじゃ、そんなこと信じられんかったが
目の前で本当になってしまった。
でも、その『双龍』がおりの身体に入るなんて聞いちょらん・・・」
「サキさん!和尚に聞いたら?・・・」
「そうじゃ、早く帰って和尚に逢わなければ・・・」
「待ってください、その前にこの黄金の像はいかがされるつもりです?」
「父上殿!これはわりんとこで見つられたんだからわりのものじゃ」
平蔵は顔の前で手を振って
「とんでもない!こんなものがあったら夜もおちおち寝られなくなりますよ。
見てみると純金らしい。これも持って帰っていただけませんか」
「父上殿、欲がないのう。これを売って被害を受けた人の保障に当てられるんぞ」
「いえ、それは会社できちっとします。
この像・・・個人が売れるしろものじゃあない。
サキさん、先ほどお寺がどうのこうのと言ってられましたね。
じゃあこの像をそのお寺に寄進します。どうぞ、持って帰ってください」
「本当にいいんか?それで・・・・。朱美!わりはどう思う」
「うち?・・・うちはこんなこと口を出すことじゃない。
それにこんなものが家にあると思うとぞっとする。
第2の船村が出てきて家族のものが被害を受けるかと思うと
おちおち、サキのバックアップが出来ん!」
「やれやれ、揃って欲がないのう、・・・わかった!
狭霧さん、聞いた通りじゃ暗闇司令に連絡を頼む!」
狭霧が階段を上がっていく。
「サキ!なんじゃこれ!あたいにはミミズが這ったようにしか見えん」
先ほどの封書をあけた読もうとしていた玲子がサキに差し出す。
「ふ〜ん、途中から梵字なっておるが、
これも天海和尚の直筆じゃな。
盗難にあったと京に偽り『青龍』はわざと『緋龍』と引き離して、
あの張りぼての中にあの阿修羅像と共に秘蔵したと書いてある。
あとは梵字で読めん」
「サキさん。その書面も調査する必要があるようですなあ」
何か楽しげだ。
「誰だ!」
サキがいきなり顔を上げ声をかける。
「はっ!乙葉でございます」
「花梨でございます」
「どうしたんじゃ」
「狭霧殿にサキ様のもとに急ぐよう言われて参りました」
「乙葉さん、花梨さん。その言葉使いなんとかならんか?
おりは風魔の者じゃないし、ましてやわり達の頭でもない」
「いえ・・・今、狭霧殿に言われました。
サキ様は我等風魔にとって大事なお方、命を掛けてもお守りするようにと」
「やれやれ、狭霧さんも何を勘違いしているのか。
まあいい、ここにおりてきてほしい」
「はっ」
足音もさせずいつの間に・・・という風魔くの一の二人、
サキの足元にひざまずいていた。
迷彩服に顔は覆面で隠されている。
「すまんがAS部の人間が来るまで、二人してここを守っていてほしいんじゃが」
「はっ」
といってから
「今、庭は少し騒がしゅうございます。現場検証とかで警察の人間が大勢・・・」
「わかった。・・・・すまぬが後を頼む」
「はっ」
後を二人のくの一にまかせて、屋敷の応接間に落ち着いた頃、
警察関係者が玄関のベルを鳴らした。
玄関で応答する平蔵。
応接間のドアをあけて
「朱美、今からお父さん警察に調書を取りに行かなければならないので
留守を頼んだよ」
といってからサキを呼ぶ。
玄関で二人の刑事と向かい合うサキ。
今渡された名刺には『警視庁捜査第1係課長 警部 景山四郎』と記されている。
30歳前後であろうか非常に若々しく刑事にはとても見えない。
もう一人は
「若林です」
と挨拶しただけでサキを驚いたような目で見つめているだけだ。
二人の刑事、特に景山警部は先ほど警官隊を指揮していただけに
あの凄い体術とヨーヨー使いをしていた少女と
目の前にいる可憐で美しい少女が同じ人物とは思えないのだ。
先ほどは遠目だったので判らなかったが、こうして目の前で見ていると
そのショックは大きい。
「あなたが麻宮サキさんですね」
景山警部がサキに言った。
「はい、おりが麻宮サキじゃ」
「あなたのことは暗闇さんから聞いています」
「おりもさっき司令から、わりのことは聞いておった」
「しかし、見事なお手並みでしたなあ。1度お手合わせをいただきたいものです」
「そういう警部さんもかなりの手だれ・・・」
二ヤッと笑う二人。
「あっ、お待たせしました」
と平蔵が出かける準備をして現われた。
「じゃあサキさん、あとのことよろしく頼みます。・・・朱美のことも」
と言って二人の刑事と共に出て行った。
部屋に戻ったサキに玲子が
「サキ!この後どうすればいいん?」
「朱美の父上に後を頼まれた。いまはここを動けん。
それにあの像のこともある」
★
結局、朱美の父の平蔵が帰ってきたのは夜遅くなってきてからだった。
像の持ち出しもAS部の男達や警察の警備部が警備に来ただけで
明日の早朝に厳重な警備の中で行われるのだ。
というのも警察の依頼で国立美術館の館長と東大の美術教授が鑑定に来た際、
「これは・・・」と言ったきり口をあんぐり開けて魅入っていたのだ。
「これは○○○の作では?・・・」
「あっ、そうだ!・・・ここに銘がある」
二人の鑑定は微にいり細にいった。
その結果、
「素晴らしい!・・・これは国宝に指定されてもおかしくない」
その鑑定結果は直ぐ警察の上層部に伝えられ厳重な警備計画が立てられていった。
しばらく警察内での保管が考えられたが警察としてもこんなものがあったのでは
安心ができない。
結局、持ち主である相良平蔵の寄進する意向を考え、
天命寺に安置されることになったが法円和尚がこれまた、
「そんな大それたものとんでもない」
と固辞したのだが、
暗闇司令が法円和尚を押し切る形で天命寺の地下に安置されることになった。
こうすれば和尚も毎日この像にお経をあげることができる。
サキはそんな世俗的な問題の外にいた。
今こうして月明かりの下、昼間の逮捕劇が嘘のように静まり返った庭園、
あの噴水の前に立っていた。
時々、警備する警官が敷地内を巡回する姿が見えるが
サキにはもうどうでもいいことだった。
この夜も月明かりに誘われて手に『飛騨丸』を持ち屋敷を抜け出してきたのだ。
「狭霧さんか」
背中に気配を感じて呼びかける。
何か身体中の五感・・・いや六感が鋭くなったようだ。
「はい!」
「乙葉さんも、花梨さんもいるようじゃな」
「はい!」
「はい!」
「サキ様、像の警備は警察に引継ぎましたので、
これよりサキ様の警護につきます」
「なに!おりの?・・・狭霧さん、わり少しおかしいんじゃないか?
おりの警護じゃなんて」
「いえ、これは風魔鬼組ばかりでなく風魔全体の命令でございます」
サキは狭霧の顔を見つめる。
膝をついてサキを見上げる狭霧、さきほどまでの狭霧の態度ではない。
「どうしたんじゃ、狭霧さん・・・・」
といったが狭霧からは何も答えはない。
じっと顔を見るサキ、しかし狭霧は下を向いたままだ。
しかたなくサキはくるりと背中を見せ『飛騨丸』を口に当てる。
月の明かりにのって素晴らしい音曲が広い庭園内を流れだした。
警備の警官達も足を止め、
平蔵も朱美も玲子も床に入っていたが起きだして窓の外の
月明かりの中に立つサキの見事な笛の音に聞き入っていた。
狭霧とその後に膝をついて座る乙葉と花梨、
フと見るとサキの右手に光る『龍の紋章』が目に入り思わず
「あっ」
と声を出してしまった花梨。
一番年若く、未だ未熟な花梨にとって仕方がないことだが
何となくサキの面影を持ち姿も酷似しているのだ。
これが未熟な花梨をサキに付かせた般若の思惑だが
本人は勿論、サキも気づいてはいない。
曲が終わり、自分の右手に光る『龍の紋章』に気づくサキ!
左手でこすって落とそうとするが、そんなことでは取れない。
「な・・なんじゃあ、これ!・・・・」
と狭霧のほうに振向いたサキの額の文字。
知っていた狭霧もこうして再現した額に輝く梵字に愕然とする。
知らなかった乙葉も花梨も今度は声も上げられず呆然としているのだ。
だが直ぐに
「狭霧殿!・・・・あの文字は!・・・・」
「落ち着け!乙葉!・・花梨!」
と言ってからサキに
「サキ様、落ち着いてあの噴水の水にそのお顔を写して見て下さい」
手の甲のことなのにどうして?と不信げに狭霧を見ていたが
やがて噴水の下に溜まっている水に顔を写す。
「あっ!」
と額に手を持っていく。
水に写るサキも額に手を持っていく。
これは現実のことなのだ。
「狭霧さん!おりはどうなってしまったんじゃ」
「いえ、あなた様はどうなってもいません」
「じゃが、この印は・・・・」
「それは『カーン』という梵字。我風魔の守り神、不動明王様の文字でございます。
そしてそれは『トウリ・ヴィドーヤ』と呼ばれ、あの三代目スケバン刑事・・・
つまり風魔鬼組頭だった風間唯様の額にあったものです。
唯様が怒ると額に出現する『トウリ・ヴィドーヤ』、
でも先の果心居士との最後の戦いで失われたと聞いております」
「その梵字が、どうしておりの額に?」
「わかりません。でも先ほどの『双龍』の笛があなた様の身体に吸い込まれた時
現われたのでございます」
「じゃあ、狭霧さん。わりは・・・・」
「はい、その時見ていたのはわたし一人。
先ほどお頭の般若に報告してまいりました。
そして貴女様を守るのが我等の役目と言い遣ってまいりました」
「いらん・・・」
「はっ?」
「いらんというたんじゃ。おりには判るんじゃ。
狭霧さん!わり達はおりが何かあったとき、代わりに命を捨てるつもりじゃろう。
駄目じゃ、そんなこと・・・駄目じゃ」
「サキ様!」
「あかんのじゃ・・・・そんなことやったらあかんのじゃ・・・・
そんなことやったらおりは身体が動けんようになる。
戦えんようになる」
サキの言葉にガックリと項垂れる3人、
「命は尊いもんじゃ。だから大事にしてほしい」
しみじみ言うサキに
「ははあ」
と平伏してしまう3人。
「ときに、狭霧さん」
とガラリと明るい口調でいう。
「はい」
と不信そうにサキを仰ぎ見る狭霧。
「おりの右手には・・・」
「『龍の紋章』です」
「『龍の紋章』?」
「はい、不動明王様は動物でいうと龍なのです」
「額には『カーン』の梵字・・・・じゃあ、左手には何もないんじゃろか」
「左手?」
「そうじゃ、左手が開いているんじゃ」
考えても判らない。
「狭霧さん、おりはそういう方面にうといから聞く。
不動明王とは?」
「はい、世の中を明るくし、正しい道を歩み、平安な暮らしが出来るよう
災いから救う神で大日如来が姿を変えて現われたのが不動明王です」
「して、その姿は?」
「先ほど言ったように動物で現すと竜、物ならば両刃の剣、
色ならば金または青黒となります。
右手に持っている剣を利剣、迷いや邪悪な心を断ち切りることを現しています。
左手の綱は羂索(けんさく)、悪い心をしばり善心をおこさせることを現します。
背中の炎は迦楼羅焔(カルラえん)、
毒をもつ動物を食べるという伝説上の鳥の名前です。
毒になるものを焼きつくすことを現します。
足下の岩は磐石(ばんじゃく)といって、堅くて大きな岩を指します。
迷いのない安定した心を現します。お経では「金剛石に座し」と書かれていますから
巨大なダイヤモンドに座っていることになります」
「カルラ炎か・・・カルラという鳥・・・」
「はっ?」
「その鳥のこと調べてほしい」
「はい。でもカルラのことだけでよろしいんでしょうか」
「うん。狭霧さんは利剣と綱のことをいってるんじゃろ?
でもそれはあくまでも物、右手のこれは『龍』伝説上の生き物。
『カルラ』も伝説上の鳥・・・なんだか辻褄が合う」
「わかりました。ではさっそく」
「いや、明日からでいい。そして朱美と一緒に調査してほしい。
いいな!朱美!」
暗がりから朱美が飛び出してくる。玲子も一緒だ。その後から平蔵まで出てくる。
「ただし、学校は休んだらいかん。必要以外は学校を休むことはご法度じゃ・・」
「エエー!」
と声を上げる二人。
「父上殿!それでいいじゃろう」
「結構です」
「あっ!」
と声を上げる朱美。
「どうした?」
「サキのその額の文字が消えていく」
★★
「何!『双龍』がサキ殿の身体に吸い込まれてしまった?」
ここは天命寺の地下、パーテーションで仕切られ、
臨時に作られたAS部の応接室といっても良い。
日曜日でもあるので朱美と玲子もサキにくっついてきていた。
この二人、朝起きてからサキの傍から離れないのだ。
「霧子先生に頼まれたから」
という理由を口にしているのだが。
もの珍しげに周囲を見渡しながらこの地下に下りてきた二人、
朝早く厳しい警備の中運ばれていった黄金の阿修羅像を
天海和尚のミイラと同じ所に見つけて
「あっ、あの阿修羅像だわ」
と駆け寄る二人、少し見ていなかっただけなのに懐かしそうにしているのだ。
その二人も天海和尚のミイラには遠くはなれて気味悪そうに見ているだけ。
部屋の中には先ほど声を上げた天命寺の法円和尚のほか、
暗闇司令、狭霧、そして3人の女子高生がテーブルを前にしている。
「ふ〜む、まだ何か不足しているんじゃろうか」
和尚がいうには天命寺には『緋龍』と『青龍』しか言い伝えがないのだ。
「待て!サキ!・・カルラといったな・・・カルラ・・・・ふ〜む・・・
あっ、そうか!」
と暗闇司令が受話器を取り上げどこかにプッシュしている。
「ああ・・暗闇だ。・・・いや、そんなことはない。・・・・
貴様のところにあのカルラと係わり合いのある男がいると聞いたが
ああ・・・例の組織との戦いが始まっている。・・そうだ、そのために
必要だ。・・・わかった。一人の少女を向かわせる。
胸の中にしまっていて欲しい」
電話を置いた司令がサラサラとメモをして
「サキ!ここへ行ってこい」
メモを取り上げたサキ。
「司令!ここは?」
「サキと違った世界で人を守るために戦っている少女達だ」
「司令!じゃあ行ってくる。この二人を頼む」
「判っている。すでに調査部の小笠原に伝えてあるから心配するな」
サキが出て行こうとすると
「サキ!狭霧をつれていけ」
サキが狭霧な顔を見る。何故か必死に見つめる狭霧・・・・。
狭霧の顔をみながら
「わかった」
急に狭霧の顔が嬉しそうに崩れた。
★★★
狭霧の運転する赤いフェアレディZ、運転する狭霧は
風魔の狭霧でもないし、ましてや私立箕剣学園の保健の教師片桐霧子でもなかった。
ハンドルを握るとスピード狂と名前を変えたのである。
だからあっというまに埼玉県に着いてしまった。
さすがに高速を降りるとスピードを出さなかったが、
割り込まれると表情が変わってしまう。
「おりはもう二度と狭霧さんの車には乗らんからな」
と言いつづけるサキ、目的地に着いてほっとする。
その家は少し敷地面積の広い普通の住居だった。
開け放たれた門をくぐり敷石を歩いて玄関にたどり着く。
「ごめんください!」
という狭霧の声に
「はーい」
と奥からすぐに声がして玄関戸のスキ硝子に人影が写った。
『ガラガラ』と玄関の引き戸が開けられ、
薄い茶髪でポニーテールの少女が顔をだした。
不信げに狭霧とサキを見つめている。
黄色いパンツスーツの狭霧と赤いスカーフのセーラー服の少女。
「あのう、祖母は今用事で出かけています。もう少ししたら帰ってきますが」
「いえ、今日は扇翔子さんと舞子さんを尋ねてまいったのですが」
「えっ!私を?・・・あっ、失礼しました。私が扇舞子です。
どうぞ、お上がりください」
と通されたのが奥の応接間だった。
案内しただけで引っ込んだ舞子がお茶を持って出てきたとき
もう一人黒髪でオカッパ頭の少女が一緒だった。
「姉です」
「扇翔子です。よろしく。どうぞ、お茶を」
といって二人して並んで座った。
良く似ている。
「あのう・・」
と言ったところで、こちらの心を読んだのか
「私達、双子なんです」
と舞子が答えた。
「あのう、どういう御用でしょうか」
という声と共に
「その話、わしも聞きたい」
と廊下の方から声がして障子が開いて小柄な老婆が入ってきた。
「おばあちゃん!」
「翔子も舞子もいいな」
といってから
「わしが37代迦楼羅神教教主扇千景じゃ」
「私は片桐霧子・・・」
「違うな!お主・・・その名は仮の名じゃろう」
といわれさっ顔を紅潮させ殺気を放つが横のサキがその手首をつかみ
首をよこに振るとすっと殺気を消して
「風魔鬼組・狭霧」
といった。
「ほほう・・・これは面白い!風魔のくの一じゃとな」
翔子も舞子も狭霧の殺気に反応していたが『ほっ』と構えを解く。
扇千景はサキに眼を写す。
「お主!いい眼をしている」
サキは最初から正体を明かすつもりでポケットからヨーヨーを出し、
蓋を開けた。
「おおう・・・」
と千景は声をだしただけだが
翔子と舞子は
「それは・・・桜の代紋!」
と叫んでいた。
「私立箕剣学園1年B組 麻宮サキ。又の名を四代目スケバン刑事!
そして実の名は真田忍軍頭領・真田未夕」
と名乗った。
「お主、面白いのう」
「いえ」
「ところで不思議じゃ、お主の後に不動明王が見えるが、・・・翔子に舞子!
お前達には見えんか」
「はい」
「そうか、そうじゃのう。変幻せねば駄目か」
「すいませんが、おりの笛聞いてもらえませんじゃろうか」
そう言って、翔子と舞子を驚かせる。
いきなり家へやってきて、名を名乗ったかと思うと笛を聞けだと?
2歳も年下のくせにいい度胸だ。
サキは『飛騨丸』を取り出すといきなり吹きだした。
しかし、その笛の音はどうだろう、見える翔子の目に、そして翔子のそばにいるため
見えるようになっている舞子の目にも部屋の隅々にいる邪鬼どもが
消え去っていくのだ。清々とした空気が庭から部屋へ流れ込んでいる。
この麻宮サキって一体・・・・驚きの目で見ていると
その額にくっきりと光輝く梵字『カーン』が浮き上がって見えた。
サキが笛を下ろすとその右手の甲に見える『龍の紋章』。
最初に狭霧が三代目スケバン刑事麻宮サキこと風魔鬼組・風間唯の『陰』との戦い
果心居士が天臨聖王となる際、失われたこの『カーン』の梵字
『トウリ・ヴィドーヤ』が今のサキの額に出現したことを話す。
「ほう、そんな出来事が・・・そういえば一時陰星が現われたことがあったが・・。
あのときそういう戦いがあったのか」
聞いている翔子も舞子も自分達の戦い以外にも、
そんな戦いが繰り広げられていることに正直心が騒ぐ。
自分達も負けられないと闘士が沸いてくるのだ。
サキがいう。
「おりの行方不明の母は砂一族という闇の一族に攫われ行方不明じゃ。
母は鬼怒良一族の末裔、鬼怒良の秘宝を奪おうとして攫ったのに違いないのじゃ」
その鬼怒良の秘宝の一つを探すため寺に残されていた『緋龍』を吹き、
やっと見つけた『青龍』、その二つが交わって生まれた『双龍』が
サキの身体に消えて、現われたのが『カーン』の梵字と『龍の紋章』。
話を聞く翔子と舞子も手に汗を握っていた。
「おりはこの何もない左手、これはあくまでもおりの感じゃが
ここには『カルラの紋章』みたいな紋があらわれるんじゃないかと」
・・・と思って尋ねてきたと言った。
しばらく考えていた扇千景。
「翔子に舞子!道場で準備を」
と孫に何事かを言いつけたのだ。
しばらくして
「おばあちゃん!用意が出来ました」
と翔子が呼びに来た。
道場に入ったサキ達、狭霧は部屋の隅に座らされ言葉をかけてはいかぬと
命じられる。
サキは道場の真中で立禅を組まされ、眼は半眼で蝋燭の火に向けられた。
扇千景はサキの前に座り、カルラの呪歌を唱え始めた。
しだいにサキの心は空に、地にたっているはずなのに
寝ているのか立っているのか天地がわからなくなってくる。
狭霧の目にはただサキの身体がユラユラと揺れているだけなのに。
そのうち
「えいっ!!」
という気合が掛けられる。
ビクっとしたのは座っている狭霧だけでサキはその気合が身体をスーと
通り抜けるだけだった。
狭霧の目に虚の像がサキの身体の周りに見え始めた。
「眼を開けよ!」
ゆっくりと開けた目の前にあの『双龍』が浮いている。
手で掴もうとしてもつかめない。
「それは掴めぬ。虚の像じゃ」
千景はサキをじっと見つめ
「お主、この先の道ぞ、修羅の道じゃ、それでも行くか」
「おりには修羅の道しかないんじゃ」
「ふふふ、苦しいぞ、涙も出んくらい哀しみが待ってるぞ」
「それでも行く!おりのため、仲間のため、みんなのためじゃ。
苦しみなんかなんちゅうことはない。涙なんか流さん。
おりは何もせんのが一番嫌いじゃ」
「わかった」
といって組んでいた手の呪を解いた。
すると虚の像は一瞬にして消えてしまった。
「座りなさい」
サキは禅を組むように座り込む。
改めてサキを見る扇千景の顔は優しい。
「お主の中の不動明王は大日如来の仮の姿、龍は風雨を呼ぶがごとき
お主に取り付いた。じゃが、カルラはまだ眠っている。
何故だかわかるか?」
サキは千景をじっと見ながら首を横に振る。
「それはお主の修行がまだまだ甘いからじゃ。心がまだ未熟じゃからだ。
カルラは心が強くなければ起きんし、お主に操れん」
「ばばさま、おりは一体どうすればいいんじゃ」
そのサキに答える前に
「翔子!舞子!」
という声に答えて立ち上がり前に進み出る。
持っていた巻物を広げ声を揃えて
「迦楼羅神教 変幻!」
すると道場の空気が一気に変わっていく。まるで渦を巻いているように。
ストンと翔子の身体が崩れ落ちた。
舞子の身体が宙に浮き上がり、巻いていた渦の中心が広がり始めた。
「迦楼羅神教 迦楼羅飛翔!」
というとその空気で出来た穴が壁に取り付き、まるで洞窟の入り口になったのである。
「お主!あの中に入る勇気があるか。いっておくがあの暗黒の中には
人間の恐怖、憎しみ、哀しみ、そして嫉妬など人のあらゆる欲望が渦巻いておる。
あの中での修行並大抵のものではないぞ。出来るかのう」
サキはスッと立ち上がりなんの躊躇もなく穴の中に入っていった。
10秒・・・・20秒・・・・狭霧にとって気の遠くなるような遅い時間の流れ・・・
「キャー」
という叫び声が聞こえたのはどれほど時間が経ったときか。
「ギャー」
耳を覆いたくなるようなサキの叫び声、
そういえば三代目も恐ろしい洞窟に入って修行をしたと聞いている。
宙に浮く扇舞子も苦しそうだ。汗がにじみ出てきているのだ。
倒れている翔子からも同じ苦悶の表情が・・・・
それを見て千景が舞子に向かって祝詞をあげ出した。
舞子を助けているのだろう。
サキの叫び声が絶え間なく続いていた。
「サキ様!がんばって!」
それしか言えない狭霧、いつのまにかうろ覚えの般若心経を唱えていた。
どれ位たったのかサキのさけび声の間隔が開きはじめ、
全く聞こえなくなった頃、穴から押し出されるようにサキが
道場の床に倒れこんできた。
それと共に舞子が『どっ』と音を立ててこれまた床の上に倒れこむ。
「すまんが、狭霧とやら奥の居間にこの子らの母親がおるでのう。
呼んできて床に入れてやってくださらんか」
★★★★
サキ、翔子、舞子の3人が揃って気がついたのはそれから3時間経ったとき、
最初に気がついた翔子がその両隣に敷かれた床に眠る、舞子とサキに気づき
掛け布団の隙間から手を握ったことからサキ、舞子とめざめたのだ。
サキは少し驚いたが、
「おり、こうして人と横に寝るのは初めてじゃ」
その言葉にキューンとくる。
「おりは幼い頃から闇の世界で生きてきた。こうして見えるようになったのは
最近のことじゃ」
「えっ、嘘!」
と翔子の隣りの舞子の声、舞子も目覚めたらしい。
「おりは飛騨の山猿じゃ。友は山に住む動物達、見えぬ目で山の中を走って
遊んだものじゃ」
「じゃあ、友達は?」
「里のものは『おひいさま』といって大事にしてくれたが、
みんな臣下のようで友達じゃあなかった。だからおりはスケバンとなって暴れた」
しみじみという。
「おりに友達が出来たのは、攫われるようにこの都会に出てきてからじゃ。
番を張ってるビー球のマリー、紅鶴の可憐、そして朱美に玲子。
風魔のくの一の狭霧、乙葉、花梨。みんなおりの友達じゃ」
と嬉しそうに話すサキに、
「じゃあ私は8人目の友達ね」
「あっ、翔子ちゃんずるい。この舞子が8番目よ」
と兄弟喧嘩がはじまった。
「翔子さん、舞子さん。順番なんてどうでもいいじゃろう。
とにかくわり達はおりの友達じゃ」
3人で手を固く握り合った。
「サキ!戦いがいくら厳しくても死んだら承知しないからね!」
と舞子に
「わかっちょる。おりは死なん!死んでも死なんのじゃ!
さっき迦楼羅と約束したんじゃ。おりにはまだまだ使命があるそうじゃ。
死んでも生き返らせて使命をまっとうさすと言われた」
「えっ?迦楼羅が?・・・・」
「そうじゃ、龍も言うとった。南海龍王そんな名じゃった。
もう一つ言われた。剣を捜せ。綱を捜せとな」
隣りの部屋で聞いていて口をはさもうとしていた狭霧に
止めたのは千景だ。
サキの話を聞こうという心積もりで止めたのだ。
あの異空間であったことを話させるため。
「剣?」
「そうじゃ、不動明王が持つ利剣」
「綱?」
「不動明王が持つ羂索(けんさく)じゃ」
「でもそれはどこにあるの?」
「鬼怒良の黄金龍が知っとると言うとった」
「でもそれは『双龍』がなければいけないんでしょ」
「『双龍』はここにある」
といって右手の人差し指を額に当て左手で九字を切る。
すると額に『カーン』の梵字、右手に『龍の紋章』左手に『迦楼羅焔の紋章』
が現われ、右手に握る『双龍』の笛。
覗き込んだ二人に
「この笛、吹いて聞かせたいが今、ここでは吹けん」
「どうして?」
舞子が聞く。
「龍が現われるのは1度だけ、
しかも阿修羅の像のそばで吹かなければならないんじゃ」
「しかたないわね」
「あっ、紋章が消えていく」
「ほら、笛も消えてしまうんじゃ」
「じゃあ、サキが自分の意志で出来るのね」
「そうじゃ、わり達のおかげじゃ」
こうして体を休めたサキが再び狭霧の車に乗ったのは
もう日が暮れかかった時だった。
「翔子さん、舞子さん。ありがとう。ばば様もありがとう。おり負けんからね。
あっ翔子さん、舞子さん、『赤龍会』にはよく気を付けて欲しい。
あいつらは闇の一族、学校を食い物にする集団だから・・・・」
そういって車は走りさった。
いつまでも見送る3人の影、
「翔子ちゃん、私サキのことが好き!」
「私もだよ、舞子ちゃん」
「ふ〜む、たいした女子じゃ。大日如来様!どうかあの子にご加護を!」
サキの前に続く修羅の道を思い願わずにはいられない扇千景だった。
第六話・後編 了

