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エドガー・アラン・ポオ

Edgar Allan Poe (1809--1849)

そのテーブルの上には、もう一冊の本が広げられていた。何十回も繰り返し読まれた本である! 大部分のページは端が折られ、その欄外には鉛筆で無数の書き込みがされていて…。そしてその表紙には、まるで火の文字で印刷されたかのように、その題名が燦然と記されていた: 『アーサー・ゴードン・ピムの冒険』。

--- 『氷のスフィンクス』より

私は、エドガー・ポオがその溢れる想像力を思いのままに発揮した、あの奇妙な世界のなかに引き込まれてゆくような気がした。あの伝説的な人物ゴードン・ピムが、南極の何びとをも寄せ付けない大瀑布の向こうに見たような、「地上のどんな人間よりも遙かに大きな、経帷子を着た人間の姿」が今にも目の前に立ち現れるのではないかと思われてならなかった。

--- 『海底二万里』より

== Biography ==

一代で推理小説とSF小説の基礎を築いた天才作家にして、舌鋒鋭い評論家・編集者、そして幻想詩人。生前本国では芳しい評価を受けず、不遇のうちにその短い生涯を閉じたが、シャルル・ボードレールによる翻訳を通してフランスに一大ブームを巻き起こし、現在ではアメリカ文学を代表する作家として揺るぎのない名声を得ている。とりわけ、19世紀のフランス文学への影響は大きく、ポオに共鳴したフランスの小説家・詩人は枚挙に暇がない。ポオを知る以前から戯曲『シェヘラザーデの千二夜』や短篇『空中の悲劇』を書いていたジュール・ヴェルヌもそのひとりであり、評論『エドガー・ポオとその作品』(1864)や、『アーサー・ゴードン・ピムの冒険』の続篇『氷のスフィンクス』(1897)を初めとして、さまざまな作品の中でポオへのオマージュを捧げている。

その『ピムの冒険』はポオ唯一の長篇小説であり、帆船グランパス号に乗り込んだ主人公アーサー・ゴードン・ピムが、水夫たちの叛乱、南太平洋上での難船など波瀾万丈の冒険を経て、老水夫ダーク・ピーターズとともに南極の未知の海域の驚異を目にする物語である。とりわけ、この小説の謎めいた結末部分は、のちの小説家たちの想像力を大いに刺激し、さまざまな解釈がなされることとなった。ポオの創作の中心であった短篇小説の中では、暗号文書の解読をテーマにした『黄金虫』や探偵オーギュスト・デュパンを登場させた『モルグ街の殺人』が推理小説の嚆矢として知られており、また、気球による奇想天外な月世界旅行を描いた『ハンス・プファールの冒険』や西暦2848年の未来からポオの時代を顧みた『メロンタ・タウタ』などでSF小説の元祖ともなった。その他、ノルウェー沖の有名な大渦巻きの生還者の口から語られる恐怖譚『メールストロムに呑まれて』や、コールリッジ的な南の海で遭遇した《さまよえるオランダ船》を描いた幻想譚『壜の中の手記』、ルネ・マグリットが絵の題材に選んだことでも知られる風景小説『アルンハイムの地所』など幻想・怪奇小説の分野でもさまざまな傑作を書いた。

一方、詩作の中では、繰り返される《ネヴァモア》が厭世的な夜の雰囲気を醸し出す『鴉』が殊に有名な作品であり、ステファーヌ・マラルメによる翻訳へのエドゥアール・マネの挿絵や、ボードレールの翻訳に附されたギュスターヴ・ドレの挿絵でも知られる。その詩は、細部まで計算し尽くされた構成に特徴があり、作者自ら『構成の哲学』の中で詩作方法を赤裸々に明かしてもいる。しかし、その方面での最高傑作は何と言っても長篇散文詩『ユリイカ』であろう。カント・ラプラスの星雲生成説をはじめとする当時の天文学の知識は言うに及ばず、現代のビッグ・バン理論を見通したかのような大胆な理論が展開されるこの宇宙論は、まさにこの直観の詩人の独擅場であり、その後のカミーユ・フラマリオンやH. G. ウェルズ、そしてW. H. ホジスンやオラフ・ステープルドンらのSFを想起させる壮大なヴィジョンをもつ一大宇宙絵巻である。

== Bibliography ==

下線は『エドガー・ポオとその作品』に言及があることを示す。

  1. Charles Baudelaire (tr.), Histoires extraordinaires, 1856
    モルグ街の殺人 / 盗まれた手紙 / 黄金虫 / 軽気球虚報 / ハンス・プファールなる人物の無類の冒険 / 壜のなかの手記 / メールストロムに呑まれて / ヴァルドマール氏の症例の真相 / 催眠術の啓示 / 鋸山奇談 / モレラ / リジイア / メッツェンガーシュタイン
  2. Charles Baudelaire (tr.), Nouvelles histoires extraordinaires, 1857
    天邪鬼 / 黒猫 / ウィリアム・ウィルスン / 群衆の人 / 告げ口心臓 / ベレニス / アッシャー家の崩壊 / 陥穽と振子 / 跳び蛙 / アモンティラードの酒樽 / 赤死病の仮面 / ペスト王 / 鐘楼の悪魔 / 名士の群れ / 四獣一体 / ミイラとの論争 / 言葉の力 / モノスとウナの対話 / エイロスとカルミオンの会話 / 影 / 沈黙 / 妖精の島 / 楕円形の肖像
  3. William Hughes (tr.), Les Contes inédits d'Edgar Poe, 1862
    約束ごと / 楕円形の肖像 / 告げ口心臓 / 使いきった男 / 週に三度の日曜日 / スフィンクス / 眼鏡 / シンガム・ボブ氏の文学的生涯 / ポリシャン / 鴉
  4. Charles Baudelaire (tr.), Aventures d'Arthur Gordon Pym de Nantucket, 1862
    ナンタケット島出身のアーサー・ゴードン・ピムの冒険
  5. Charles Baudelaire (tr.), Euréka, 1863
    ユリイカ
  6. Charles Baudelaire (tr.), Histoires grotesques et sérieuses, 1865
    マリー・ロジェの謎 / メルツェルの将棋差し / エレオノーラ / イェルサレムの物語 / 不条理の天使 / タール博士とフェザー教授の療法 / アルンハイムの地所 / ランダーの別荘 / 家具の哲学 / 詩の原理 / 鴉 / 構成の哲学
  7. Le Grand Jacques (tr.), La Mille et deuxième nuit, 1868
    シェヘラザーデの千二夜の物語
  8. Félix Rabbe (tr.), Derniers contes d'Edgar Poe, 1887
    オムレット公爵 / シェヘラザーデの千二夜の物語 / メロンタ・タウタ / ブラックウッド風の記事を書く作法 / 純正科学のひとつとして考察したる詐偽 / 実業家 / 早すぎた埋葬 / ボンボン / 暗号論 / 詩の原理 / 雑誌刑務所の秘密

== Links ==

  1. À tous les vents
    ケベック電子図書館の電子テキスト集。ボードレールの翻訳したポオ作品が読める。
  2. Derniers Contes by Edgar Allan Poe
    『メロンタ・タウタ』のフランス語初訳を含む1887年の作品集のテキスト。

== References ==

last modified on 2005/07/24