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ヴェルヌ関連必携書

ミシェル・セール; 豊田彰[訳] :: 青春 ジュール・ヴェルヌ論 :: 法政大学出版局 1993
Michel Serres: Jouvences sur Jules Verne, Éditions de Minuit 1974
『皇帝の密使』、『チャンセラー号の筏』、『アンティフェール船長の冒険』など幾つかの作品を中心に据え、壮大なジュール・ヴェルヌ論を繰り広げた名著。ヴェルヌ作品はもちろんのこと、ヨーロッパの神話や伝説に関する各種の知識を必要とする難解な書ではあるが、勢いのある独特の文体は読者を魅了する。
ユリイカ 1977年5月号 :: 青土社
特集:ジュール・ヴェルヌ -- 空想冒険小説の系譜 -- と題して様々な評者による評論が掲載されている。まず冒頭に訳出されているのがヴェルヌの短篇『詐欺師』[HU]で、もちろん本邦初訳である。『夢想家ヴェルヌ』は日本におけるヴェルヌ研究の草分け的存在である私市保彦氏による、ヴェルヌの生涯からその作品、専門家による伝記や評論までも概観した、優れた紹介文である。特集の中でも特に目をひくのがフランス語からの翻訳文献の充実ぶりで、ミシェル・ビュトールの『至高点と黄金時代』をはじめ、マルセル・モレ、ミシェル・セールらの評論は、ヴェルヌ・ファン必読であろう。日本語で書かれた文章の中では何といっても面白いのが、『海底二万里』の翻訳者でもある花輪氏による『ノーチラス号と…』。『海底二万里』の中で主人公たちが目撃した日本山椒魚に着目し、ヴェルヌがどのようにしてこの貴重な生物を登場させるに至ったかを推論している。また、どちらも短文ではあるが寺山修司・岡谷公二両氏がヴェルヌとレーモン・ルーセルの関係を論じており、当時のルーセルの知名度を考えれば貴重な文章であっただろうと思われる。ヴェルヌについてのこれだけ大がかりな特集が組まれたことは、日本では残念ながら後にも先にもなく、現在でもこの特集号の価値は薄れていない。
杉本淑彦 :: 文明の帝国---ジュール・ヴェルヌとフランス帝国主義文化 :: 山川出版社 1995
奴隷制度の廃止や抑圧される少数民族の解放を熱心に訴えたヒューマニストのヴェルヌが、その一方で自国フランスの侵略と植民地支配を容認していた実情を、テキストを詳細に読み込んで明らかにした研究書。ヴェルヌの作品群に見られる帝国主義意識のみに的を絞り、執拗とも言えるほどにその記述をあげつらう本書はヴェルヌ愛読者には少々耳の痛いものである。これに対しては私市保彦氏がその書評(『比較文學研究』 1998(71), pp.138--142)の中で、「文学作品を問題にするのなら、例えば人種問題が物語の語りのなかでどのような位置を占めているかをテキストの総体のなかで位置づけ……ねばならぬのではないか」と書いており、そのような批判があるということも念頭において読むとよいだろう。本文の内容はともかくとして、巻末には70篇ものヴェルヌ作品のあらすじが掲載されており、評論などの書誌情報も加えてその資料的価値は非常に高いと言える。
W. J. ミラー[注]; 高山宏[訳] :: 詳注版 月世界旅行 :: 東京図書(上下巻) 1981; ちくま文庫 1999
W. J. Miller (Ed.): The Annotated Jules Verne, From the Earth to the Moon, 1978
集英社ヴェルヌ全集以外ではほとんど完訳のない『月世界旅行』[TL]に詳細な注と解説をつけてアメリカで出版された本の日本語訳。注釈者ミラーは兵器開発から宇宙開発への転換を主張したこの作品をアイロニカルな文明批評と捉え、初期の杜撰な英語翻訳を批判している。作品そのものの翻訳としては当然ながら重訳であるが、本書の性格からしてもその翻訳は信頼してよいであろう。注と共に付された図版の充実ぶりも本書の特徴であり、これからヴェルヌを読もうという人にも、またヴェルヌの邦訳はほとんど読んでしまったという人にもお薦めできる一冊である。
last modified on 2004/06/13