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ヴェルヌに関する評論(3)

== Roland Barthes (1915--1980) ==

ロラン・バルト; 花輪光[訳] :: どこから始めるべきか? :: 『新=批評的エッセー』(みすず書房 1977)
Roland Barthes: Par où commencer?, Poétique 1970(1), pp.3--9; In: Nouveau essais critiques, 1972
構造分析の方法を用いてこれから作品を読み解こうとする初心者(?)のために書かれた論説。題材として、下記のエッセーの中で「ほとんど完璧な小説」として挙げられた『神秘の島』を選び、どのように分析していくかを実地に解説している。
ロラン・バルト; 篠沢秀夫[訳] :: ノーチラス号と酔いどれ船 :: 『神話作用』(現代思潮社 1967)
Roland Barthes: Nautilus et Bateau Ivre, In: Mythologies, 1957
ヴェルヌの作品群が構造主義批評に適した対象であることを指摘した、短いながらも重要な示唆に富む批評的エッセー。秘密の地下洞や絶海の孤島、そしてノーチラス号に代表される船舶へのヴェルヌの愛好を「閉じこもりの連続的身振り」と表現し、そこに18世紀の百科全書派との共通点を見出す。表題はノーチラス号の「真の反対物」と規定されるランボオの「酔いどれ船」にちなむ。なお、現代思潮社版は原著の一部のエッセーを割愛した抄訳だが、このたびみすず書房から完訳版『現代社会の神話』(下澤和義[訳])が出版された。

== Eureka ==

『ユリイカ』のヴェルヌ特集号に掲載された記事。下記以外の記事は雑誌目次を参照のこと。

マルセル・モレ; 加藤晴久[訳] :: 地下的な革命家 :: ユリイカ 1977(9-5), pp.118--127
Marcel Moré: Un révolutionnaire souterrain, L'Arc 1966(29), pp.33--42
マルセル・ブリヨン; 有田忠郎[訳] :: 密儀参入の旅 :: ユリイカ 1977(9-5), pp.166--171
Marcel Brion: Le Voyage initiatique, L'Arc 1966(29), pp.26--31
ミシェル・フーコー; 篠田浩一郎[訳] :: 寓話性の背後に :: ユリイカ 1977(9-5), pp.172--179
Michel Foucault: L'arrière-fable, L'Arc 1966(29), pp.5--12
ミシェル・セール; 村上光彦[訳] :: 天と地との測地学 :: ユリイカ 1977(9-5), pp.186--196
Michel Serres: Géodésiques de la Terre et du Ciel, L'Arc 1966(29), pp.13--19
ミシェル・ビュトール; 及川馥[訳] :: 至高点と黄金時代---ジュール・ヴェルヌの若干の作品を通して :: ユリイカ 1977(9-5), pp.204--231
Michel Butor: Le Point suprême et l'Âge d'Or à travers quelques œuvres de Jules Verne, Arts et lettres 1949(15)
1949年に発表された記念碑的な評論。冒頭でまず『地底旅行』や『海底二万里』の美しい章句に注意を向け、エリュアール、ロートレアモン、ミショーらの名前を挙げて「現代のほとんどすべての〈幻想〉文学の地底にひそむ水源」であると指摘する。さらに四大元素をめぐる旅としての火の要素の重要性に着目し、『ハテラス船長の冒険』や『地底旅行』から『神秘の島』を経て『永遠のアダム』に至る作品群から、北極点や地球の中心といった「至高点」を指向する共通のテーマをあぶり出す。評論文にありがちな取っ付きにくさもなく、さまざまな作品からの引用が効果的に織り交ぜられた、読み物としても一級品のものである。

== Pacifica ==

パシフィカ版ヴェルヌ・シリーズの巻末に附された記事。下記以外の記事は出版リストを参照のこと。

ミシェル・ビュトール; 調佳智雄[訳] :: 少年期の読書 :: 『ハテラス船長の冒険[上]』(パシフィカ 1979)
Michel Butor: Lectures de l'enfance, L'Arc 1966(29), pp.43--45
マルセル・ルコント; 佐藤功[訳] :: 極北のテーマ :: 『ハテラス船長の冒険[下]』(パシフィカ 1979)
Marcel Lecomte: Le théme du Grand Nord, pp.66--67
マルセル・モレ; 山崎剛太郎[訳] :: 地下の革命家 :: 『氷のスフィンクス[上]』(パシフィカ 1979)
Marcel Moré: Un révolutionnaire souterrain, L'Arc 1966(29), pp.32--42
上記「地下的な革命家(加藤晴久[訳])」の別訳。
レイモン・ベルール; 調佳智雄[訳] :: 寄木細工 :: 『皇帝の密使ミハイル・ストロゴフ』(パシフィカ 1979)
Raymond Bellour: La mosaïque, L'Arc 1966(29), pp.1--4
フランシス・ラカサン; 調佳智雄[訳] :: 地球の難船者 :: 『永遠のアダム/エーゲ海燃ゆ』(パシフィカ 1979)
Francis Lacassin: Les naufragés de la Terre, L'Arc 1966(29), pp.68--80
ヴェルヌと同時代の空想科学小説作家には、もっと豊かな想像力を発揮した者も少なくない。それにも拘わらずヴェルヌが「SFの父祖」としての特権的な地位を得ている理由をその厳密な実証主義に求め、SFの形成過程におけるその位置づけを明らかにしようとする。ロニー兄やアンドレ・ローリー、ギュスターヴ・ル・ルージュらとかく忘れられがちな先駆者に光が当てられていることは重要だが、ウェルズを無批判に持ち上げ、E. R. バロウズをSFの開拓者として称揚する著者の言説には首を傾げたくなる部分も多い。『タイム・マシン』が傑作であることに異論はないが、『月世界最初の人間』は果たしてヴェルヌの月世界譚より優れているのだろうか。「『月世界最初の人間』ではその結末が曖昧であるために、読者は自分自身の夢想によってその続篇を補うことになる」という著者の言葉に対してはそのまま次のように返したい。『月世界一周』ではその月世界の姿が曖昧であるために、読者は自分自身の夢想によってその世界像を補うことになる、と。
ピエール・ヴェルサン; 山崎剛太郎[訳] :: 人工感情 :: 『洋上都市』(パシフィカ 1979)
Pierre Versins: Le sentiment de l'artifice, L'Arc 1966(29), pp.56--65
空想科学小説作家としてのヴェルヌの独創性に疑問を投げかけ、そのアイデアの多くが同時代の作家によってすでに発明されていることを指摘している。そのようなフランスのマイナーな作家については日本ではほとんど知られておらず、この方面の研究の入り口として役に立つだろう。ただ、訳注が豊富なのはよいが、年表に誤訳やミスプリントが散見される点が惜しまれる。

== Miscellaneous ==

T. A. シービオク; ハリエット・マーゴリス; 富山太佳夫[訳] :: ネモ船長の船窓 :: 『シャーロック・ホームズの記号論』(岩波書店 1981)
T. A. Sebeok; Harriet Margolis: Captain Nemo's porthole, Poetics Today 1982(3-1), pp.110--139
『シャーロック・ホームズ』に登場するさまざまな「窓」を分析する中で、ごく簡単ながらヴェルヌのドイルへの影響について触れられている。ドイルが少年時代からヴェルヌを原書で愛読し、同シリーズに「ヴェルヌ」と似た名前の人物が登場することや、書斎に閉じ籠もるホームズとノーチラス号の船室に閉じ籠もるネモ船長の類似性などが指摘されている。
A. B. エバンズ; R. ミラー; 食野雅子[訳] :: ジュール・ベルヌの意外な素顔 :: 日経サイエンス 1997(27-10), pp.102--108
A. B. Evans; R. Miller: Jules Verne, misunderstood visionary, Scientific American 1997(4), pp.92--97
アメリカでは翻訳の杜撰さのせいで正しく理解されていないヴェルヌの科学観を解説する。
last modified on 2005/05/20