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ヴェルヌ邦訳一覧

日本が高度経済成長期を迎え、アメリカ・ソ連が競うように月世界を目指した1960年代、ジュール・ヴェルヌの作品はまず児童書として多くの翻訳がなされました。この中には一般向けの現代語訳としては一度も出版されていない『黄金の流星』や『彗星飛行』なども含まれています。しかし、これらは子供向けの抄訳であるうえに英語からの重訳も多く、ヴェルヌの著作の本当の意味を伝えきれてはいませんでした。なお、『彗星飛行』は三種類のベルヌ全集には含まれていません。

児童書の中では福音館書店から「福音館古典童話シリーズ」として次の3篇が完訳されています。子供向けの本でありながらセンスの良い装丁と原著に基づく完訳という点で、高く評価されるべきものです。このうち後の2篇には原書の挿絵が全て収められています。

ようやく1967年になって集英社からヴェルヌ全集24巻が、フランス語からの完訳で出版されます。これほど大がかりな全集は後にも先にもなく、画期的なものと言ってよいでしょう。この全集はコンパクト・ブックスという新書判の叢書で、全面に印刷された風景写真と本文中の挿絵から抜いたカットの合成という表紙が特徴です。おそらく、Livre de Poche版のヴェルヌ全集を強く意識したデザインなのでしょう。原書のものを模した挿絵が入れられていますが、数が少ないうえに絵の出来栄えも大昔の森琴石のものと較べるとかなり見劣りがします。

文庫でヴェルヌ作品が多く出版されているのは創元SF文庫、旺文社文庫、角川文庫です。創元SF文庫は短篇『氷の中の冬ごもり』を除いて集英社版で既に訳されているものばかりで、翻訳そのものが同一のものもあります。しかしながらそのうちの多くが現在でも流通しているので、文庫本の中では最も入手しやすいと言えます。創元推理文庫から創元SF文庫に移行する際にカバーデザインが大幅に変更されています。

旺文社文庫はすでに絶版になっていますが、『グラント船長の子供たち』(翻訳は集英社版と同一)が入っているということと、原書の挿絵を収録している点でかなり貴重です。

角川文庫でもいろいろな作品が出ているのですが、現在ではメジャーな3作品以外は絶版になっています。絶版になっているものの中には『地の果ての燈台』や『少年船長の冒険』が含まれています。ただし角川文庫の問題点は完訳されているものとそうでないものとが混在していることです。特に『十五少年漂流記』は内容を半分以下に圧縮した酷い抄訳ながら現在まで重版されており、新潮文庫の同名書とともに最も拙い種類の翻訳と言えます。そこでこの文庫に関しては完訳であると確認できたものには完訳であると記しています。

単行本ではありませんが1977年に、『ユリイカ』でヴェルヌの特集が組まれました。本邦初訳の『詐欺師』 [HU] や、ミシェル・ビュトール、ミシェル・セールといった評論家たちの興味深い評論が多数掲載されています。

1979年には、集英社版に含まれていないものを中心に、パシフィカから「海と空の大ロマン」と題されて10冊ほどが出版されました。一般書サイズのソフトカバーで、この中には『氷のスフィンクス』や『ハテラス船長の冒険』という長篇が含まれ、上下二巻に分けて出版されています。また、『マルティン・パス』や『空中の悲劇』といった、ごく初期の作品も含まれていてとても貴重です。

そして1993年に集英社文庫から「ジュール・ヴェルヌ・コレクション」として13巻が出版されました。ほとんどはヴェルヌ全集に入っていたものをそのまま文庫化したものですが、『世界の支配者』と『チャンセラー号の筏』は現代語訳としては本邦初訳です。全集に入っていた挿絵はなくなり、表紙にはフランスの画家メビウスによる装画が描かれています。

また、偕成社文庫からも以下の3篇が完訳で出ています。このうち後の2篇には原書の挿絵が全て収められており、訳者による解説も非常に充実しています。

これ以外に単発で出されているものとしては、以下のようなものがあります。これらのうち『南十字星』は1991年ごろまで重版されていましたが、現在は品切れになっています。また、『地球から月へ』の翻訳(英語からの重訳)にW. J. ミラーによる詳しい注のついた『詳注版 月世界旅行』は、最初東京図書から出版されましたが、現在はちくま文庫に再録されています。岩波文庫の2作品には原書の挿絵が全て収録されているほか、『地底旅行』と『南十字星』にも一部が収録されています。


last modified on 2004/02/26