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ハテラス船長の冒険

Voyages et aventures du capitaine Hatteras / 1864--1865

[ハテラス船長の航海と冒険]

illustration by Edouard Riou

== Data ==

== Editions ==

illustration by Henri de Montaut

== Story ==

リヴァプールを出航した帆船フォワード号は奇妙な船だった。極地の海も航行できるほどの装備をしながら目的地は船員にも明かされず、すべてを取り仕切っている船長は出港後になっても姿を現わさない。---実はこれが、大胆不敵な冒険家、ジョン・ハテラス船長の周到な作戦だったのだ。彼が船員たちの前に現れたとき、ようやくこの旅の目的が告げられることになる。その目的とは、もちろん、前人未到の北極点踏破である。氷山の危険や船員たちの不和、石炭の欠乏など、度重なる困難を乗り越えたとき、ハテラス船長の一行の前についに異貌の北極が姿を見せる。

『気球に乗って五週間』に続いて発表されたデビュー第二作(ただし挿絵なし版初版の刊行は『地底旅行』のほうが先)。雑誌初出時には第一部のタイトル『北極のイギリス人たち』(Les Anglais au pôle Nord)および第二部のタイトル『氷の砂漠』(Le Désert de glace)がそのまま作品のタイトルとして用いられた。『地底旅行』と双璧をなす傑作だが、そのわりには知名度に乏しく、言及されていて然るべき以下のような著作からも等閑視されているのは嘆かわしい: 『世界の海洋文学』、『幻想文学ブックガイド』、『幻想の地誌学』等々。北極点に近づくにつれて次第に幻想味が増していくこの作品にはポオの『アーサー・ゴードン・ピムの冒険』の影響が濃厚に感じられ、その点では晩年の大作『氷のスフィンクス』よりも遙かにその「続篇」にふさわしいものと言えるだろう。『白鯨』のエイハブ船長を思わせるハテラスの狂気、『老水夫行』以来の伝統を受け継いだ重層的な《白》のイメージ、『地底旅行』を予告するかのような地球の中心についての夢想など、そこには《驚異》が満ち溢れている。なお、ここでは詳しく述べないが、編集者エッツェルの意向でクライマックスのシーンが変更されたことが知られている。

== Characters ==

  1. ジョン・ハテラス (John Hatteras)
    資産家の息子に生まれながら、北極点にイギリス国旗を掲げようという野望のために船乗りとなった冒険家。すでに一度北極への探検を企てたが隊は壊滅し、ただひとり生還したという過去を持つ。強すぎるほどの意志と冷徹な精神の持ち主。
  2. クロボニー医師 (Docteur Clawbonny)
    学術上の興味から探検隊に加わることになった有能な医者。自分の船室に本や実験器具や薬品を取り揃え、どんな過酷な状況でも旅そのものに楽しみを見いだす楽天家。北極探検の歴史にも精通し、該博な知識で船員たちを驚かせる。
  3. リチャード・シャンドン (Richard Shandon)
    ハテラスの間接的な指示によりフォワード号の艤装の一切を任された副船長。しばらくのあいだ船長に代わって船の指揮を取ることになるが、奇妙な方法でときおり指示だけを伝えるハテラスのやり方に次第に不満を募らせてゆく。
  4. ジョンソン (Johnson)
    フォワード号の水夫長で、極地の海の航海に精通した老練な船乗り。ハテラスの篤い信頼を受ける数少ない船員のひとりで、船長の不在の際には反抗的な船員たちの監督を任される。
  5. ベル (Bell)
    義務と規律に忠実な船大工。雪上での露営や越冬小屋の建設、廃材を利用したボートの建造などに大いに力を発揮する。
  6. アルタモント (Altamont)
    アメリカ船ポーパス号の船長。雪に生き埋めになり瀕死のところを偶然ハテラス船長の一行に救助される。ポーパス号の探検の目的がなんだったかを明かそうとしないため、ハテラス船長からはライバル視される。
illustration by Edouard Riou

== Excerpt ==

En ce moment, il y eut redoublement de la tempête, ce fut un déchaînement sans nom des ondes atmosphériques; l'embarcation, soulevée hors des flots, se prit à tournoyer avec une vitesse vertigineuse; sa misaine arrachée s'enfuit dans l'ombre comme un grand oiseau blanc; un trou circulaire, un nouveau Maëlstroem, se forma dans le remous des vagues,...

そのとき、嵐が一段と激しくなった。大気の波が名状しがたいほどの激しさで荒れ狂った。ボートは波間から持ち上げられ、目が眩むような速さで旋回しはじめた。前檣帆は、むしり取られて、巨大な白い鳥のように闇のなかに吹き飛んでいった。旋回する穴、新たなメールストロムが波の渦のなかに生じて、……

---第2部22章より、調佳智雄[訳]

last modified on 2005/07/21