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チャンセラー号の筏

Le Chancellor / 1874--1875

[チャンセラー号]

== Data ==

== Editions ==

== Story ==

大西洋を横断するチャールストン発、リヴァプール行の帆船チャンセラー号は、船長の不可解な気まぐれから通常の航路を外れ南寄りの進路を取る。乗組員たちのあいだにも不穏な動きがあり、乗客たちのあいだには不安が広がる。堅く閉ざされ防水布で覆われたハッチ、常時水を撒かないと歩けないほどに熱い甲板、これらが意味するものはいったい何であろうか? その間にもチャンセラー号は刻一刻と破局へ向かっていたのだった。

1874年末からル・タン紙に連載され、翌年刊行された作品。結末に用意された一つのアイデアのためにすべてが準備されるという点で、『八十日間世界一周』と同じタイプの作品と言えるだろう。ジェリコーの絵さながらの凄絶な場面の連続に編集者のエッツェルは嫌悪感を抱いたようだが、用意周到に計算された筋書きは見事と言うほかない。なお、本作品を鮮かに分析したミシェル・セールの『よろめき』は必読である。

== Characters ==

  1. J. R. カザロン (J.-R. Kazallon)
    この物語の語り手。チャールストンからはイギリス行きの蒸気船が出ていなかったため、たまたまチャンセラー号の乗客となった。
  2. ルトゥルヌール氏 (M. Letourneur)
    息子とともにチャンセラー号に乗り合わせたフランス人。どんなに苦しい状況でも自分よりもまず第一に息子のことを考える善意の人。
  3. アンドレ・ルトゥルヌール (André Letourneur)
    ルトゥルヌール氏の息子で、左足に生まれつきの障碍を持つ。明晰な頭脳と高邁な精神の持ち主。
  4. ミス・ハービー (Miss Herbey)
    富豪夫婦の身の回りの世話を焼く若い女性。漂流中も決して弱音を吐かず、死にゆく人を温かく看病する。
  5. ジョン・サイラス・ハントリー (John-Silas Huntly)
    チャンセラー号の船長。無気力な人間で、危機的状況にあって船長としての責任を全うすることができない。
  6. ロバート・カーティス (Robert Kurtis)
    チャンセラー号の副船長。船長とは対照的に決断力と不屈の精神を持ち、乗客乗員を守るために全力を注ぐ。
  7. ウィリアム・ファルステン (William Falsten)
    マンチェスター出身の技師。機械のことしか頭にない学者タイプの人間だが、チャンセラー号を岩礁から救出するのに一役買う。

== Excerpt ==

L'Irlandais est resté sur la hune de misaine.
«Embarque, vieux! lui crie le capitaine.
--- Le navire coule-t-il? demande l'entêté avec le plus grand sang-froid du monde.
--- Il coule à pic.
--- Embarque alors,» répond O'Ready, quand l'eau lui monte déjà jusqu'à la ceinture.

アイルランドの老水夫はまだ前檣楼に踏みとどまっていた。
「さあ、乗り移るんだ!」船長は彼に叫んだ。
「この船は沈むのかね?」頑固な老水夫はこのうえなく平然と訊ねた。
「まっさかさまに沈没する。」
「それでは、移るとしよう。」オレディがそう答えたときには、水はもうすでに彼の腰まで届いていた。

---29章より

== References ==

last modified on 2005/07/09