時計の歯車を精確に動かすための雁木車の発明者であるザカリウス親方は、ジュネーヴ市の一帯では右に出る者のいない時計職人だった。ところが、自らの製作した時計が原因不明の故障で修理に持ち込まれる出来事が頻発し、ついにはただ一つの時計を除きすべてが止まってしまった。その最後の一つの時計の持ち主は実に奇妙な人物で、度々ザカリウス親方の周辺に出没するのだが…。
1854年に雑誌『家庭博物館』に掲載された短篇で、のちに短篇集『ドクター・オクス』に収録された。ヴェルヌの20篇ほどの短篇作品のなかで最良のものであり、さまざまなアンソロジーに収録されている。ジュール・ヴェルヌに対して世間一般に思われているイメージとは全く正反対のゴシック調の幻想小説で、テオフィル・シューラーの強烈な挿絵とともに、一読忘れがたい印象を残さずにはおかない。
« Qui êtes-vous? demanda brusquement l'horloger.
- Un confrère. C'est moi qui suis chargé de régler le soleil.
- Ah! c'est vous qui réglez le soleil? répliqua vivement maître Zacharius sans sourciller. Eh bien! je ne vous en complimente guère! Votre soleil va mal, et, pour nous trouver d'accord avec lui, nous sommes obligés tantôt d'avancer nos horloges et tantôt de les retarder! »
「きみはだれだ」と、時計師は素っ気なくたずねた。
「同業の者です。太陽を調整するのがわたしの仕事です。」
「ああ、きみかい、太陽を調整しているのは」と、ザカリウス親方は眉一つ動かさずに、きびしい口調できき返した。「じゃ、きみをほめたりはできん。きみの太陽の調子はよくないからな。あれの調子に合わせようとしたら、こちらは時計を進めたり遅らせたり、いろいろしなければならないのだ。」
窪田般弥[訳]、句読点変更