十五少年

ジュウールスヴェルヌ 著

思  軒  居  士 譯

第一囘

大あらし ○太平洋心の一孤舟 ○只だ是等の童子のみ ○陸影 ○船首の叫聲

+oooo;たいへいやうしん;,こ,しう;た;これら;どうじ;りくえい;せんしゆ;けうせい

 一千八百六十年三月九日の夜、彌天の黒雲は低く下れて海を壓し、闇々濛々咫尺の外を辨ずべからざる中にありて、斷帆怒濤を掠めつゝ東方に飛奔し去る一隻の小船あり。時々閃然として横過する電光のために其の形を照し出ださる。

,せん,,ぴやく,,,ねん,,ぐわつ,こゝぬ,か;よ;+び,てん;こくうん;ひく;+た;うみ;あつ;あん,/\,もう,/\,+し,せき;ほか;べん;うち;だん,ぱん,ど,たう;+かす;とうはう;ひ,ほん;さ;,せき;せうせん;じ,ゞ,せん,ぜん;わうくわ;でん,くわう;そ;かたち;てら;い

 船は容積百噸に滿たざる、ヨットの一種にして、英國及び米國にて、スクーナーと稱する兩檣的なり。

ふね;よう,せき,ひやく,+とん;み;,しゆ;えいこくおよ;べいこく;しよう;りやう,しやう,てき

 船は名をスロウ號と呼ぶも、曾て其の名を記したる船尾の横板は、物に觸れてか、浪に洗はれてか、とく剥落し去りて、復た其の名を尋ねむに由無し。

ふね;な;がう;よ;かつ;そ;な;しる;せんび;よこいた;もの;ふ;なみ;あら;はくらく;さ;ま;そ;な;たづ;+よし,-な

 夜は已でに十一時を過ぎぬ、此の緯度にありて此ころは、夜甚だ長からざれば、五時に向ふ比ほひには、早やうす白き曉の色を見ることを得べし。然れども天明けなば、スロウ號は能く現時の危難を免るべき歟、風濤は能く靜止すべき歟。

よ;す;,,じ;す;こ;ゐど;この;よ,はなは;なが;,じ;むか;ころ;は;しろ;あかつき;いろ;み;う;しか;てんあ;がう;よ;げんじ;き,なん;まぬか;か;ふうたう;よ;せいし;か

 船の上には三個の少年、一個は十五歳、他の二個は各十四歳なるが、十三歳なる黒人の子と共に、各必死の力を戮せて、舵輪に取りつきをり。

ふね;うへ;,こ;せうねん;,こ;,,さい;た;,こ;おの/\,,,さい;,,さい;こくじん;こ;とも;おの/\,ひつ,し;ちから;+あは;かぢわ;と

 砰然たるすさまじき響きとともに、一堆の狂濤、來りて船を撃つと見えしが、舵輪は四少年が必死の力を戮せて取りつきたるにも拘はらず、忽焉逆轉して、四少年を數歩の外に擲ちたり。

+はうぜん;ひゞ;,たい;きやうたう;きた;ふね;う;み;かぢわ;,せう,ねん;ひつし;ちから;あは;と;かゝ;こつ,えん,ぎやく,てん;,せう,ねん;すうほ;ほか;+なげう

 一個「武安、船には異状なきや」。

,こ;+ブリアン;ふね;い,じやう

 武安は徐かに身を起して、再び舵輪に手をかけながら、「然り、呉敦」と答へて、更らに第三個に向ひて、「しかと手をかけよ、杜番、沮喪する勿れ、余等は余等の一身の外に、更らに思はざるべからざる者あるを、忘るべからず」、又た黒人の子を顧みて、「莫科、汝は怪我せざりしか」。黒人の子「否な、主公武安」。

ブリアン;+しづ;み;おこ;ふたゝ;かぢわ;て;しか;+ゴルドン;こた;さ;だい,,こ;むか;て;+ドノバン;そ,さう;なか;よら;よら;,しん;ほか;さ;おも;もの;わす;ま;こくじん;こ;かへり;+モ,コー;なんぢ;けが;こくじん;こ;い;しゆこうブリアン

 渠等の操る所は皆な英國語なりき、唯だ武安と呼べる童子の言ふ所に、著るしく佛國人のなまり有るのみ。是時、船室に通ずる梯子の口の戸、突然開けて、二個の童子の顏現はれ、之に續いて一個のやさしげなる犬の面現はれ出でぬ。犬は二た聲三聲高く吠えぬ、童子の年長なるかたは十歳ばかりなる可し、「武安、武安、何事なるぞ」。

かれら;+と;ところ;み;えいこくご;た;ブリアン;よ;どうじ;い;ところ;いちじ;ふつこくじん;+ooo;あ;このとき;せんしつ;つう;はしご;くち;と;とつぜんひら;,こ;どうじ;かほあら;これ;つゞ;,こ;いぬ;おもてあら;い;いぬ;ふ;こゑ,み,こゑ,たか;ほ;どうじ;としうへ;,さい;べ;ブリアン;ブリアン;なにごと

 武安「何事もなし、伊播孫、何事もなし、返れ、とく船室に返りてをれ」。

ブリアン;なにごと;+イ,バー,ソン;なにごと;かへ;せんしつ;かへ

 他の年少なるかたの一個「されども、余等はあまり恐ろしければ」。武安「他の諸君は」。「皆な均しく恐れをれり」。武安「憂ふる勿れ、返りて蒲團にくるまり、兩眼を閉ぢてをれ、しかせば恐ろしきこと無かるべし、何等の恐ろしきことも有るなし」。

た;としした;,こ;よら;おそ;ブリアン;た;しよくん;み;ひと;おそ;ブリアン;うれ;なか;かへ;+ふ,とん;りやうがん;と;おそ;な;なんら;おそ;あ

 莫科「氣をつけ、又た一個の巨濤來りたり」。

モ,コー;き;ま;,こ;+おほ,なみ,-きた

 言未だ訖らず、再び一個の崩濤あり、俄然船尾を來り襲へり、然れども幸ひにして潮水船室に走入するに至らず。

ことばいま;+をは;ふたゝ;,こ;ほうたう;が,ぜん,せん,び;きた;おそ;しか;さいは;てうすゐせんしつ;そうにふ;いた

 呉敦は少しく聲を勵まして、「返れ兩君、君等は余輩の言を聽かざるか」。

ゴルドン;すこ;こゑ;はげ;かへ;りやうくん;きみら;よ,はい;げん;き

 二個の童子の顏やう/\沒し去るや去らざるに、復た一個の少年の姿ありて、梯子の口に現はれ出でぬ、「武安、君等は余輩の力を須ひざるか」。

,こ;どうじ;かほ;ぼつ;さ;さ;ま;,こ;せうねん;すがた;はしご;くち;あら;い;ブリアン;きみら;よ,はい;ちから;+もち

 武安「否な、馬克太、君等は下方にありて、幼年諸君を看護しくれ、此處は余等四人にて十分なり」。

ブリアン;い;+バ,クス,ター;きみら;した;えうねんしよくん;かんご;こゝ;よ,ら,よ,にん;,ぶん

 然らば、斯の大洋中の最大洋なる太平洋の上に於て、斯の暴風怒濤の中にありて、斯の船の上には、唯だ是等少年童子の外、更らに一個の人無き歟。

しか;こ;たいやうちう;さいたいやう;たいへいやう;うへ;おい;こ;ぼう,ふう,ど,たう;なか;こ;ふね;うへ;た;これ,ら,せう,ねん,どう,じ;ほか;さ;,こ;ひとな;か

 然り、船は唯だ武安等十四個の童子と、給事のボーイ黒人の子一個とを載するのみ。船員として、少くとも一個の船長、一個の副船長、及び五六個の水夫を有すべき、斯の百噸のスクーナーに於て、船員と稱すべきは、唯だ一個の給事のボーイ莫科の在る有るのみ。是れ何を以てぞや、抑も船は何の目的あり、何地より何地に往かむと欲して、乃ち斯のあらしには遭ひたるや。若し他の船の洋上にて、スロウ號に邂逅するあらば、其の船長は必ず第一に之を怪しみ問ひたるべく、衆童子は必ず十分の説明をこゝに與へ得たりしならむ。然れども是時洋上には、四方幾百里の間スロウ號の外、復た一隻の船も見えず。

しか;ふね;た;ブリ,アン,ら,,,こ;どうじ;きふじ;こくじん;こ,,こ;の;せんゐん;すくな;,こ;せん,ちやう;,こ;ふく,せん,ちやう;およ;,,こ;すゐふ;いう;こ;ひやくとん;おい;せんゐん;しよう;た;,こ;きふじ;モ,コー;あ;あ;こ;なに;もつ;そもそ;ふね;なん;もくてき;いづち;いづち;ゆ;ほつ;すなは;こ;+ooo;あ;も;た;ふね;やう,じやう;がう;かいこう;そ;せん,ちやう;かなら;だい,;これ;あや;と;しうどうじ;かなら;,ぶん;せつめい;あた;え;しか;この,とき,やう,じやう;,はう,いく,ひやく,り;あひだ;がう;ほか;ま;,せき;ふね;み

 あらしは益す其の勢を倍せり、風は疾風烈風より一變して飆風となれり、スロウ號は今にも驚瀾怒濤の中に呑了されむとす、後檣は既に二晝夜以前に吹き折られて、甲板の上には其の本四尺許を留めて欹立するのみ、前檣は幸ひにして猶ほ全きを得たるも、風勢益す猛くして、童子等の力もて其の帆を卷收する能はざるがため、其の滿帆の風に吹き撓められて、其の根接の處より絶えず左右に搖るぎ動くを見る、若し前檣にして一たび倒れむには、船は坐ながら風濤の恣まゝに弄ぶ所に任して、童子等は手を束ねて、覆沒を待つの外、復たせむすべ無かるべし。

+ooo;ますま;そ;いきほひ;+ま;かぜ;しつぷうれつぷう;,ぺん;へうふう;がう;いま;きやう,らん,ど,たう;うち;どんれう;こう,しやう;すで;,ちう,や,い,ぜん;ふ;を;かんぱん;うへ;そ;もと,,しやく,ばかり;とゞ;+い,りつ;ぜん,しやう;さいは;な;まつた;え;ふう,せい,ますま;+たけ;どうじら;ちから;そ;ほ;けんしう;あた;そ;まんぱん;かぜ;ふ;+たわ;そ;ね,つぎ;ところ;た;さ,いう;ゆ;うご;み;も;ぜん,しやう;ひと;たふ;ふね;+ゐ;ふうたう;+ほしい;もてあそ;ところ;まか;どうじら;て;つか;ふくぼつ;ま;ほか;ま;な

 渠等は皆な兩眼を睜開きて、前方を瞻つめたるが、只だ是れ闇々濛々として、一寸の陸影、半點の火光をだに見るべからず。

かれら;み;りやうがん;+み,ひら;ぜんぱう;+み;た;こ;あん/\もう/\;,すん;りくえい;はんてん;くわ,くわう;み

 午前一時に及ぶ比ほひ、忽ち一道の物すごき響き、高く風聲怒號の上に聞えぬ。

ご,ぜん,,じ;およ;ころ;たちま;,だう;もの;ひゞ;たか;ふう,せい,ど,がう;うへ;きこ

 杜番「前檣倒れたり」。

ドノバン;ぜん,しやう,たふ

 莫科「否な、只だ其の帆の吹き斷られしのみ」。

モ,コー;い;た;そ;ほ;ふ;+ちぎ

 武安「さらば其の帆を截り去らざるべからず、呉敦、君は杜番と倶に留まりて舵輪を看れ、莫科、汝は來り余を助け」。

ブリアン;そ;ほ;+き;さ;ゴルドン;きみ;ドノバン;とも;とゞ;かぢわ;+まも;モ,コー;おんみ;きた;よ;たす

 莫科はかねて船中の給事をつとめて、自然多少航海上の經驗を得、武安は曾て歐洲より濠洲に來るとき、大西太平兩洋を航行して、幾分か操舟上の知識を學び得たる所あり、衆童子が兩個を推して斯のスクーナーの指揮を委ねしは是がためなり。

モ,コー;せんちう;きふじ;し,ぜん,た,せう,かい,じやう;けいけん;え;ブリアン;かつ;おうしう;がうしう;きた;たい,せい,たい,へい,りやう,やう;かうかう;いくぶん;さう,しう,じやう;ち,しき;まな;え;ところ;しうどうじ;りやう,こ;お;こ;しき;ゆだ;これ

 兩個の伎倆は、斯の新らしき厄難に逢ひて、亦た其の一證を示したり。渠等は前檣の下に來りて、其の破損を檢するに、帆は上邊の索を吹き斷られて空中に翩翻せるが、幸ひにして其の下邊は、猶ほ依然として帆桁に結ひ着きをり、渠等は先づ上邊の索を全く截り去りて、下邊の帆桁を甲板を離るゝ四五尺までひき下し、初め帆の上邊たりし布の二隅を把りて、之を甲板の上に緊と約し着けぬ、渠等は此の如くして、却て前よりも更らに安全に、風を趁ひて進みゆくを得べし。

りやう,こ;ぎ,りやう;こ;あた;やくなん;あ;ま;そ;,しよう;しめ;かれら;ぜん,しやう;もと;きた;そ;は,そん;けん;ほ;じやうへん;なは;ふ;ちぎ;くうちう;+へんぽん;さいは;そ;か,へん;な;い,ぜん;ほ,げた;ゆ;つ;かれら;ま;じやうへん;なは;まつた;き;さ;か,へん;ほ,げた;かんぱん;はな;,,しやく;おろ;はじ;ほ;じやうへん;ぬの;ふたすみ;+と;これ;かんぱん;うへ;+しか;+くゝ;つ;かれら;かく;ごと;かへつ;まへ;さ;あんぜん;かぜ;+お;すゝ;う

 渠等は此の間に、絶えず甲板を飛越せる巨濤のために其の身を洗ひ去られむと欲しては、纔かに自から支へ得たるもの、啻に五七囘のみならず、兩個は滿身づぶ濡れとなりて、舵輪の下に歸り來るに、恰かも同時に、梯子の口再び開けて、武安の弟弱克の頭現はれ出でぬ。武安「何用あるや、弱克」。

かれら;こ;あひだ;た;かんぱん;とびこ;おほなみ;そ;み;あら;さ;ほつ;+わづ;みづ;さゝ;え;+たゞ;,,くわい;りやう,こ;まんしん;ぬ;かぢわ;もと;かへ;きた;あた;どうじ;はしご;くち,ふたゝ;ひら;ブリアン;おとゝ,+ジャ,ック;かうべあら;い;ブリアン;なによう;ジャック

「來れ、來れ、とく來れ、船室の中に海水漏入しはじめたり」。

きた;きた;きた;せんしつ;なか;かいすゐろうにふ

「眞か」と叫びつゝ武安は、直ちに船室に下りゆけり。船室には一個の吊りラムプ中央に懸り、うす暗き燈光の下に、十個の少年、或はソーファ、或は臥棚の上に、己がじゝに横はりをり、八歳乃至九歳なる最も穉きは畏れ怖れて、互に相抱擁せるもあり。武安は「余等は既に陸に近づきつゝあり、復た恐るべきなし、憂ふる勿れ」と一同に力をつけつゝ、蝋燭を點して、熟ら室内を檢するに、少許の海水ありて、船の搖動するにつれて、座上を一往一反するを見る、然れども遍ねく室内を索むるに、海水の漏入すべき罅隙あるなし、更らに其の濕痕を追ひて、次の艙房に至るに、初めて其の由來を發見するを得たり、蓋し絶えず甲板を洗ふ所の海水の餘滴、甲板の艙口より艙房に流下して、此より船室に流入せしなり。

しん;さけ;ブリアン;たゞ;せんしつ;くだ;せんしつ;,こ;つ;ちうあう;かゝ;くら;とう,くわう;もと;,こ;せうねん;あるひ;あるひ;ぐわほう;うへ;おの;よこた;,さい,ない,し,,さい;もつと;+をさな;おそ;おそ;たがひ;あひはうよう;ブリアン;よら;すで;りく;ちか;ま;おそ;うれ;なか;,どう;ちから;らふそく;とも;つらつ;しつない;けん;せうきよ;かいすゐ;ふね;えうどう;ざ,じやう;,わう,,ぱん;み;しか;あま;しつない;+もと;かいすゐ;ろうにふ;+か,げき;さ;そ;しつこん;お;つぎ;さうばう;いた;はじ;そ;ゆ,らい;はつけん;え;けだ;た;かんぱん;あら;ところ;かいすゐ;よ,てき;かんぱん;さうこう;さうばう;りうか;こゝ;せんしつ;りうにふ

 武安は船室に返りて、諸童子に之を語り、其の恐るべきもの無きよしを告げし後、再び甲板に上り來るに、夜は既に二時に垂むとせり、一天墨を溌せる如く、風勢は依然として、猶ほ少しも衰へず、時に鞺鞳たる風濤の響きを破りて一聲頭上を叫過するは、是れ海燕乎。

ブリアン;せんしつ;かへ;しよどうじ;これ;かた;そ;おそ;な;つ;のち;ふたゝ;かんぱん;のぼ;きた;よ;すで;,じ;+なんな;,てん,すみ;はつ;ごと;ふうせい;い,ぜん;な;すこ;おとろ;とき;+だうたふ;ふうたう;ひゞ;やぶ;,せい,づ,じやう;けうくわ;こ;うみ,つばめ,か

 然れども海燕を聞けるがために、陸に近しとは斷ずべからず、渠等は屡ば遠く洋心に翺翔することあればなり、既にして又た一時間を過ぐるほどに轟然として、大砲を發てる如き響き、高く空中に揚りぬ、蓋し前檣二つに折れしなり、寸々斷々となりし碎帆布片は、一團の鴎の如く、紛然として空中に散飛せり。

しか;うみ,つばめ;き;りく;ちか;だん;かれら;しばし;とほ;やうしん;+かう,しやう;すで;ま;,じ,かん;す;ぐわうぜん;たいはう;はな;ごと;ひゞ;たか;くうちう;あが;けだ;ぜん,しやう,ふた;を;すん/\だん/\;+ほのきれ;,だん;かもめ;ごと;ふんぜん;くうちう;さんぴ

 杜番「余輩は復た帆を挂くる能はず」。武安「何ぞ憂へむ、余輩は帆無きも、猶ほ帆有るの時の如く、疾走することを得べし」。莫科「幸ひにして船は正さに浪を背に負へり、船は一直線に前進することを得べし、唯だ屡ば浪のために、追ひかぶせらるゝことを免れざるべければ、余等は自から身を舵輪に縛りて以て、浪のために洗ひ去らるゝことを、防がざるべからず」。

ドノバン;よ,はい;ま;ほ;+か;あた;ブリアン;なん;うれ;よ,はい;ほな;な;ほあ;とき;ごと;しつそう;う;モ,コー;さいは;ふね;ま;なみ;せ;お;ふね;,ちよく,せん;ぜんしん;う;た;しばし;なみ;お;まぬか;よら;みづ;み;かぢわ;くゝ;もつ;なみ;あら;さ;ふせ

 莫科の言未だ全く訖らざるに、一堆の奔濤あり、高く其の頭を船尾の上の擡ぐると見る間に、すさまじき響きを作して、甲板の上に崩下しつ、艙口の一半を缺き取りて、救命艇二隻、短艇一隻と、羅針盤函とを洗ひ去り、餘勢更らに船邊を碎裂して、海中に流れ落ちぬ、幸ひにして船邊を碎裂されぬ、若し其の此の如くして速かに海に流れ落つるなかりせば、船は其の重量に耐へ得ずして直ちに沈沒したるならむ。

モ,コー;げんいま;まつた;をは;,たい;ほんたう;たか;そ;かしら;せんび;うへ;もた;み;ま;ひゞ;な;かんぱん;うへ;ほうか;さうこう;,ぱん;か;と;+ライ,フ,ボート,,-せき;+ヤウ,ル,,-せき;ら,しん,ばん,かん;あら;さ;よ,せい,さ;ふなべり;さいれつ;かいちう;なが;お;さいは;ふなべり;さいれつ;も;そ;かく;ごと;すみや;うみ;なが;お;ふね;そ;ぢゆうりやう;た;え;たゞ;ちんぼつ

 武安、杜番、呉敦は船室の梯子の口に擲つけられしも、こゝに捉まりて、僅かに海に運び去らるゝことを免れしが、莫科はかの巨濤とともに姿見えずなりぬ。

ブリアン;ドノバン;ゴルドン;せんしつ;はしご;くち;なげ;-つか;わづ;うみ;はこ;さ;まぬか;モ,コー;おほなみ;すがた,み

 武安はやう/\語を發するを得るやうなるや否や、「莫科、莫科」。杜番「海中に運び去られしか」。呉敦は忙がはしく船邊に倚りて、海中を俯瞰しながら、「何等の影も見えず、何等の聲も聞えず」。

ブリアン;ことば;はつ;う;いな;モ,コー;モ,コー;ドノバン;かいちう;はこ;さ;ゴルドン;いそ;ふなべり;よ;かいちう;ふ,かん;なんら;かげ;み;なんら;こゑ;きこ

 武安「余輩は必ず渠を救はざるべからず、浮嚢及び索を投ぜ」といひつゝ、又た更らに聲を高くして、「莫科、莫科」。

ブリアン;よ,はい;かなら;かれ;すく;+うき,ぶくろ,-およ;+なは;とう;ま;さ;こゑ;たか;モ,コー;モ,コー

「助け、助け」と、かすかなる聲ありて、答へ叫べり。

たす;たす;こゑ;こた;さけ

 呉敦「渠は海中に陷りしならず、聲は船首のかたより來れり」。

ゴルドン;かれ;かいちう;おちい;こゑ;せんしゆ;きた

 武安「余往て渠を救はむ」。いふより早く、動もすれば失脚跌倒せむと欲する、甲板の上をつたひ/\て、船首のかたに走せゆきぬ。

ブリアン;よ,ゆい;かれ;すく;はや;やゝ;しつ,きやく,+てつ,たう;ほつ;かんぱん;うへ;せんしゆ;は

 武安はやう/\艙口のほとりまで來りて、復た高く給事の名を呼ぶに、答へなし。武安は反覆せり、かすかなる應聲、再び武安の耳に到れり、武安は更らに其の聲をたよりて、船首なる絞車盤と舳頭との間に來り、頻りに闇中を摸索するに、終に聲さへ得出ださず煩悶しをる童子の體に摸着れり、蓋し莫科は嚮の巨濤のために、推されて此に至り、帆索に喉を纏はれて之を脱さむと欲して、掙扎けばもがくほど、愈よ喉を緊約られて、今は呼吸も絶え/゛\となれるなり。

ブリアン;さうこう;きた;ま;たか;きふじ;な;よ;こた;ブリアン;はんぷく;おうせい;ふたゝ;ブリアン;みゝ;いた;ブリアン;さ;そ;こゑ;せんしゆ;+まきろくろ;+み,よし;あひだ;きた;しき;あんちう;も,さく;つひ;こゑ;えい;はんもん;どうじ;からだ;+さぐりあた;けだ;モ,コー;+さき;おほなみ;お;こゝ;いた;ほ,なは;のど;まと;これ;+はづ;ほつ;+もが;いよい;のど;+しめ;いま;いき;た

 武安は忙がはしく、其のナイフを取り出だして、帆索を斷りて、莫科を救ひ出だせり、莫科は數多たび武安に救命の恩を謝したる後、相挈へて舵輪の下に返りぬ。

ブリアン;いそ;そ;と;い;ほ,なは;+き;モ,コー;すく;い;モ,コー;あまた;ブリアン;きうめい;おん;しや;のち;あひ,+たづさ;かぢわ;もと;かへ

 武安の豫言に反して、船は帆を失ひてより、其の速力頗る著るしく減少し、浪は船を追ひこし/\疾走すれば、船は今にも浪のために、追ひかぶせられ、覆翻されむとす。今は何等か帆に似たる者をさへ挂くるに由なき童子等は、如何にして能く此の危難を避くべきか。

ブリアン;よ,げん;はん;ふね;ほ;うしな;そ;そく,りよく,すこぶ;いちじ;げんせう;なみ;ふね;お;しつそう;ふね;いま;なみ;お;ふくほん;いま;なんら;ほ;に;もの;か;よし;どうじら;いか;よ;こ;き,なん;さ

 南半球に於ける三月は、余輩北半球に於ける九月と相同じ、故に午前五時に向ふ頃ほひには、早く曉の色を望むことを得べし、天明けなば、風威或は少しく衰ふことあるべし、或は更らに幸ひにして、何等かの陸影を望むことあるべし、若し幸ひにして、是等二者の一を得ば、童子等は尚ほ九死の中に一生の望みあることを得ると謂ふべし。

みなみはんきう;お;,ぐわつ;よ,はい,きた,はん,きう;お;,ぐわつ;あひおな;ゆゑ;ご,ぜん,,じ;むか;ころ;はや;あかつき;いろ;のぞ;う;てんあ;ふう,ゐ,あるひ;すこ;おとろ;あるひ;さ;さいは;なんら;りくえい;のぞ;も;さいは;これ,ら,,しや;;え;どうじら;な;きうし;うち;,しやう;のぞ;う;い

 既にして四時半を過ぎぬ、うす白き曙光は、徐ろに東方地平線上より起りて、次第に天心を射照せり、然れども不幸にして、煙霧猶ほ深く洋上を鎖したれば、童子等は三町の外を見る能はず、仰ぎ看れば、雲は皆なすさまじき速力をもて、驀然東方に飛行しつゝあり、風勢は毫も減退の色あらず、眸を展べて更らに前方を望めば、眼の屆く限り、渾べて是れ混々として一樣の沸泡飛沫のみ。

すで;よ,じ,はん;す;しろ;しよ,くわう;おもむ;とう,はう,ち,へい,せん,じやう;おこ;し,だい;てんしん;しやせう;しか;ふ,かう;えんむな;ふか;やう,じやう;とざ;どうじら;,ちやう;ほか;み;あたは;あふ;み;くも;み;そく,りよく;ばくぜんとうはう;ひ,かう;ふうせい;すこし;げんたい;いろ;ひとみ;の;さ;ぜんぱう;のぞ;まなこ;とゞ;かぎ;+す;こ;こん/\;,やう;ふつ,はう,ひ,まつ

 四少年は空しく四邊の狂瀾怒濤を瞻りて、彳立せり。渠等は各自、心の中に、其の運命の次第に望少くなれるを思ひたり。

,せう,ねん;むな;,へん;きやう,らん,ど,たう;まも;+てきりつ;かれら;かくじ;こゝろ;うち;そ;うんめい;し,だい;のぞみすくな;おも

 とたんに、忽ち莫科の聲を聞けり、「陸、陸」。

たちま;モ,コー;こゑ;き;りく;りく

 渠は、是時忽焉破開せる煙霧の間より、一帶の陸影を瞥見したるやう覺えしなり。然れども是れ果して陸なるか、是れ渠の眼花にあらざる無きを得むや。

かれ;この,とき,こつ,えん,は,かい;えんむ;あひだ;,たい;りくえい;+べつけん;おぼ;しか;こ;はた;りく;こ;かれ;がんくわ;な;え

 武安「陸と」。莫科「然り、前方即ち東のかたに」。杜番「汝はたしかに錯らざる歟」。莫科「煙霧の再び破開せむとき、舳頭より少しく左を看よ」。

ブリアン;りく;モ,コー;しか;ぜん,ぱう,すなは;ひがし;ドノバン;おんみ;+あやま;か;モ,コー;えんむ;ふたゝ;は,かい;み,よし;すこ;ひだり;み

 言未だ訖らず、煙霧は再び破開せり、未だ幾ばくならずして、四邊幾マイルの間、忽ち了々として明かに見るべくなれり。

ことばいま;をは;えんむ;ふたゝ;は,かい;いま;いく;,へん,いく;あひだ;たちま;れう/\;あきら;み

 武安は叫べり、「然り、陸なり、實に陸なり」。

ブリアン;さけ;しか;りく;じつ;りく

 今は復た疑ふべくもあらず、スロウ號の舳頭にあたり、東方地平線上に、一帶の陸影あり、長さ五六マイルに亙るべし、若し目下の速力もて駛せ行かば、スロウ號は一時間を出でずして、彼處に到ることを得べし。風勢は益す加はれり、船は驀然一直線に、陸を望みて走せすゝみぬ。

いま;ま;うたが;がう;み,よし;とう,はう,ち,へい,せん,じやう;,たい;りくえい;なが;;わた;も;もくか;そく,りよく;は;ゆ;がう;,じ,かん;い;かしこ;いた;う;ふうせい;ますま;くは;ふね;+ばく,ぜん,,-ちよく,せん;りく;のぞ;は

 漸やく近づきて之を視るに、岸上には百數十尺の岩壁聳起し、岩壁の前面には、黄色の沙嘴平衍し、沙嘴の右方は、一簇の喬木ありて之を限れり、是れ内地なる茂林の端なるべく見ゆ。武安は舵輪を他の三個に委ねて、獨り船首に來りて、岸邊の光景を熟察し、船の錨を投ずべき處を心計するに、岸邊には、一個の港灣らしきものも有るを見ず、且つ最も不便なるは、沙嘴の外は一面の鋸齒の如き岩礁、海底に蜿蜒し、其の起伏の迹、黒く海波の上に隱顯せり。

やう;ちか;これ;み;がん,じやう;ひやく,すう,,しやく;がん,ぺき,+しよう,き;がんぺき;ぜんめん;くわうしよく;+さ,し,へい,えん;さし;う,はう;,+ぞく;けうぼく;これ;かぎ;こ;ないち;も,りん;はし;み;ブリアン;かぢわ;た;,こ;ゆだ;ひと;へ,さき;きた;がんぺん;くわうけい;じゆくさつ;ふね;いかり;とう;ところ;しんけい;がんぺん;,こ;かうわん;あ;み;か;もつと;ふ,べん;さし;そと;,めん;きよし;ごと;がんせう;かいてい;+ゑんえん;そ;き,ふく;あと;くろ;かいは;うへ;いんけん

 武安は之を熟察し畢りて、則ち一同を甲板の上に召び集めおきて不虞に備ふることの得策なるべきを思ひたれば、返りて船室の梯子の口を開きつゝ、「來れ、一同」。最先に上り來りしは犬なり、之に續いて十一名の童子跫然相踵いで上り來りぬ。最も幼年なるは、四邊の光景を一目するよりも、早く畏怖極まりて啼哭するも多し、蓋し是時陸に近づくに隨ひて、海底次第に淺くなるほどに、其の怒濤洶湧の状の、物すごく恐ろしきは、却て洋心に在る時に倍せしなり。

ブリアン;これ;じゆくさつ;をは;すなは;,どう;かんぱん;うへ;よ;あつ;ふぐ;そな;とくさく;おも;かへ;せんしつ;はしご;くち;ひら;きた;,どう;まつさき;のぼ;きた;いぬ;これ;つゞ;,,めい;どう,じ,+きよう,ぜん,-あひ,+つ;のぼ;きた;もつと;えうねん;,へん;くわうけい;,もく;はや;ゐ,ふ,きは;+ていこく;おほ;けだ;このときりく;ちか;したが;かい,てい,し,だい;あさ;そ;ど,たう,+きよう,ゆう;+さま;もの;おそ;かへつ;やうしん;あ;とき;ばい

 午前六時の數分前、船は岸邊に達したり、武安は早くも上着を脱ぎすてゝ、何人にもあれ、海中に陷る者あらば、之を救はむと身がまへたり、蓋し船は必ず岩礁に衝突して、粉碎せむこと、十中の八九なるべく見えたればなり。

ご,ぜん,,じ;すうふんぜん;ふね;がんぺん;たつ;ブリアン;はや;うはぎ;ぬ;なんぴと;かいちう;おちい;もの;これ;すく;み;けだ;ふね;かなら;がんせう;しようとつ;ふんさい;,ちう;;み

 俄かにして船は一種の撞觸を感じたり、スロウ號は暗礁の上に坐りしなり、船の外皮は勿論いたく損傷を蒙りたるべきも、未だ海水の直ちに漏入するほどに至らず、既にして第二の奔濤は船を驅りて、更らに五十尺前進せしめぬ、かくてスロウ號は左舷のかたに傾欹したるまゝ、居然止まりて、復た動かずなりぬ。

には;ふね;,しゆ;どう,しよく;かん;がう;あんせう;うへ;すわ;ふね;そとがは;もちろん;そん,しやう;かうむ;いま;かいすゐ;たゞ;ろうにふ;いた;すで;だい,;ほんたう;ふね;か;さ;,,しやく,ぜん,しん;がう;さ,げん;+けいい;きよぜんとゞ;ま;うご

 船は此の如くして、幸ひに終に覆沒の災を免れたりと雖も、猶ほ沙嘴を去る三町の外に在り。

ふね;かく;ごと;さいは;つひ;ふくぼつ;わざはひ;まぬか;いへど;な;さし;さ;,ちやう;ほか;あ

 武安と呉敦とは、船室及び艙房を檢して、船體の損傷の海水を漏入するに至らざるを知りて、大に心を安じつゝ、甲板に返りて、一同に之を語り、「恐るゝ勿れ、船體は恙無し、且つ陸は目前に在り、暫く少しく待て、余輩は徐かに上陸の計をなすべし」。

ブリアン;ゴルドン;せんしつおよ;さうばう;けん;せんたい;そん,しやう;かいすゐ;ろうにふ;いた;し;おほい;こゝろ;やすん;かんぱん;かへ;,どう;これ;かた;おそ;なか;せんたい;+つゝが,-な;か;りく;もくぜん;あ;しばら;すこ;ま;よ,はい;しづ;じやうりく;はかりごと

 杜番「何が故にこれを待つや」。

ドノバン;なに;ゆゑ;ま

 韋格と呼べる十三歳なる一童子、之に和して、「然り、何故に之を待つや、杜番の言是なり、余等は爭で之を待つを須ひむ」。武安「何となれば、浪尚ほ此の如くあらければ、若し強て之を渉らむと欲せば、余輩は恐らく岩礁の上に擲たれて、身を韲くに終るべし」。乙部と呼べる韋格と略ぼ同齡の一童子「とかくする間、船體粉碎し了らば如何」。武安「余はそを恐るゝの謂れ無きを思ふ、少くとも潮の退きつゝある間は、船體の粉碎すべき憂ひ無しと思ふ」。

+ヰル,コクス;よ;,,さい;,どう,じ;これ;わ;しか;なにゆゑ;これ;ま;ドノバン;げんぜ;よら;+いか;これ;ま;もち;ブリアン;なん;なみな;かく;ごと;も;しひ;これ;わた;ほつ;よ,はい;おそ;がんせう;うへ;なげう;み;+くだ;をは;+ウェッブ;よ;ヰル,コクス;ほ;どうれい;,どう,じ;うち;せんたいふんさい;をは;い,かん;ブリアン;よ;おそ;いは;な;おも;すくな;しほ;ひ;うち;せんたい;ふんさい;うれ;な;おも

 武安の説是なり、太平洋の潮の進退、割合ひに著るしからずと雖も、而も進潮と退潮との間には、猶ほ判然差別あり。武安の説の如く、更らに幾時間を待たば風波の或は靜止せざるを必すべからざるのみならず、幸ひにして岩礁の背は潮全く落ちて之を歩行し得るの便あるやも亦た料るべからず。

ブリアン;せつぜ;たいへいやう;しほ;さしひき;わりあ;いちじ;いへど;しか;しんてう;たいてう;あひだ;な;はん,ぜん,さ,べつ;ブリアン;せつ;ごと;さ;いく,じ,かん;ま;ふうは;あるひ;せいし;ひつ;さいは;がんせう;せ;しほ,まつた;お;これ;ほ,かう;う;べん;ま;はか

 然れども杜番及び他の數子は、尚ほ嗷々として、武安の説に從ふを肯ぜず。蓋し杜番、韋格、乙部、及び虞路等が事毎に、武安の意見を奉ずるを快しとせず、之に逆はむと欲したるは、從來其の例一二に止まらず、然れども其の默して此に至りしは、唯だ武安が航海上の知識ありて、之に一船の指揮を委ねざる能はざるが故を以てのみ、然れども渠等は今既に陸に達したり、故に乃ち必ず其の行爲の自由を己れに得むことを主張するなり。

しか;ドノバンおよ;た;すうし;な;がう/\;ブリアン;せつ;したが;+がへん;けだ;ドノバン;ヰル,コクス;ウェッブ;およ;+ク,ロース,-ら;ことごと;ブリアン;い,けん;ほう;こゝろよ;これ;さから;ほつ;じゆう,らい,そ;れい,,;とゞ;しか;そ;もく;こゝ;いた;た;ブリアン;かう,かい,じやう;ち,しき;これ;,せん;しき;ゆだ;あた;ゆゑ;もつ;しか;かれら;いますで;りく;たつ;ゆゑ;すなは;かなら;そ;かうゐ;じ,いう;おの;え;しゆ,ちやう

 杜番、韋格、乙部、及び虞路の四個は他の諸童子に離れて、一方の船邊に集處して、洶湧泡沸する海の面を凝視すること、之を久くせしが、到底其の泳過すべからずして、武安の言の如くするの已むを得ざるを見て、再び一同の處に返り來るに、武安は呉敦及び諸童子に向ひて、今に及びても尚ほ、一同一處に在りて以て、緩急相救ふことの必要なるを、諄々として諭しをり、「若し互に相離れば、是れ即ち亡滅の道なり」といへり。

ドノバン;ヰル,コクス;ウェッブ;およ;ク,ロース;,こ;た;しよどうじ;はな;,ぱう;ふなべり;しふしよ;きようゆうはうふつ;うみ;おもて;ぎよう,し;これ;ひさし;たうていそ;えいくわ;ブリアン;げん;ごと;や;え;み;ふたゝ;,どう;ところ;かへ;きた;ブリアン;ゴルドンおよ;しよどうじ;むか;いま;およ;な;,どう,,しよ;あ;もつ;くわんきふあひすく;ひつえう;じゆん/\;さと;も;たがひ;あひはな;こ;すなは;ばうめつ;みち

 方さにこゝに來りて、此の語を聞きし杜番は、叫びたり、「君は敢て余等の上に、法律を制定し、施行するの權利ありと謂ふか」。

ま;きた;こ;ことば;き;ドノバン;さけ;きみ;あへ;よら;うへ;はふりつ;せいてい;し,かう;けんり;い

 武安「何ぞ此の如き權利ありと謂はむ、唯だ、共同の安全を保つがために、余輩は互に相離るべからずと謂へるのみ」。

ブリアン;なん;かく;ごと;けんり;い;た;きようどう;あんぜん;たも;よ,はい;たがひ;あひはな;い

 常に深慮ある呉敦は之に和して、「武安の説是なり」。かねて武安を信頼する幼年の二三子は、「然り、然り」と應呼せり。杜番は默して再び言はざりき、然れども渠は其の黨の三子と偕に、獨り怫然として、一方に引去せり。

つね;しんりよ;ゴルドン;これ;わ;ブリアン;せつぜ;ブリアン;しんらい;えうねん;,,し;しか;しか;おうこ;ドノバン;もく;ふたゝ;い;しか;かれ;そ;たう;,し;とも;ひと;ふつぜん;,ぱう;いんきよ

 抑もこの陸は、大陸か、島か、岩壁の下に半月形をなせる黄色の沙嘴は、兩端各丘隆の地に至りて而して盡く。其の北なるは高峻にして、其の南なるは稍や低くして夷かなり。武安は望遠鏡を把りて、良や久しく、陸のかたを望視しゐたりしが、又た之を置きて、「陸上には一條の煙も見えず」。莫科「且つ濱邊に一隻の舟もあらず」。杜番は傍らより之を嘲りて、「既に灣港なし、何ぞ舟あるを得む」。呉敦「そは未だ以て濱邊に舟無きの十分の理由となすべからず、或は漁舟の出でゝ、此處に魚を打つこともあるべきなり。蓋し舟無きは頃來のあらしに恐れて、皆な各其の避所にかくれをるを以てなるべし」。

そ;りく;たいりく;しま;がんぺき;もと;はんげつけい;くわうしよく;さし;りやうたんかくきうりう;ち;いた;しか;つ;そ;きた;かう,しゆん;そ;みなみ;や;ひく;+たひら;ブリアン;ばう,ゑん,きやう;と;や;ひさ;りく;ばうし;ま;これ;お;りく,じやう;,でう;けむり;み;モ,コー;か;はまべ;,せき;ふね;ドノバン;かたは;これ;あざけ;すで;わんかう;なん;ふね;え;ゴルドン;いま;もつ;はまべ;ふねな;,ぶん;り,いう;あるひ;ぎよしう;い;こゝ;うを;う;けだ;ふねな;けいらい;+ooo;おそ;み;おの/\,そ;ひ,しよ;もつ

 之を要するに此地此邊は、人の居住する者無き荒寥の境なるを知る。

これ;えう;この,ち,この,へん;ひと;きよぢゆう;ものな;くわうれう;さかひ;し

 是時、風は勢少しく衰へたるが、次第に北西に吹きまはりて、退潮を支へたれば、潮の退きかた極めて遲々なり、童子等は時至らば直ちに上陸せむと欲して、皆な手に/\、必要の物件を甲板に搬び上ぼす、船中には乾餅、乾菓、鹽、罐づめの肉類、饒く有りたれば、先づ是等を包束して以て、負荷携帶に便なるやうす。既にして七時となりぬ、岩礁の上の海水は、著るしく減落したりしが、是がために、船は益す左舷に傾欹して、若し此の如くしもてゆかば、或は遂に横ざまに覆へるに至らずやとの恐れさへ生じたり、蓋し速力の快利ならむを欲して、其の龍骨を高くし、船底を尖削せる、此のスクーナーの如き構造にては、之を恐るゝも、亦た宜なり。

このとき;かぜ;いきほひ,すこ;おとろ;し,だい;ほくせい;ふ;たいてう;さゝ;しほ;ひ;きは;ちゝ;どうじら;ときいた;たゞ;じやうりく;ほつ;み;て;ひつえう;ぶつけん;かんぱん;はこ;の;せんちう;+かたパン;かんくわ;しほ;くわん;にくるゐ;+おほ;あ;ま;これら;はうそく;もつ;ふ,か,けい,たい;べん;すで;,じ;がんせう;うへ;かいすゐ;いちじ;げんらく;これ;ふね;ますま;さ,げん;けいい;も;かく;ごと;あるひ;つひ;よこ;くつが;いた;おそ;しやう;けだ;そく,りよく;くわい,り;ほつ;そ;+キール;たか;せんてい;せんさく;こ;ごと;こうざう;これ;おそ;ま;むべ

 童子等は、是に於て、深く昨夜のあらしの爲めに悉く其の短艇を奪ひ去られたるの不幸を悲めり、若し是等の短艇だに有らしめば、渠等は或は今直ちに、此を藉りて、濱邊までこぎ去くことも得たるならむ、又た上陸の後に及びても、容易に此の船に往來して、現時にては渠等が携帶上陸する能はざる諸種の有用物件を、此に載せて以て、運び去るを得るならむ。

どうじら;こゝ;おい;ふか;さくや;+ooo;た;こと/゛\;そ;ボート;うば;さ;ふ,かう;かなし;も;これら;ボート;あ;かれら;あるひ;いまたゞ;これ;か;はまべ;ゆ;え;ま;じやうりく;のち;およ;ようい;こゝ;ふね;わうらい;げんじ;かれら;けい,たい,じやう,りく;あた;しよしゆ;いうようぶつけん;これ;の;もつ;はこ;さ;う

 時に忽ち船首のかたに、常ならぬ叫び聲有り。

とき;たちま;へ,さき;つね;さけ;ごゑあ

     *    *    *    *    *     

戸戶:説說:内內:黒黑:横橫:歳歲:撃擊:歩步:呉吳:絶絕:脱脫:頼賴:溌潑:倶俱:嚢囊:即卽:既旣:渉涉:毎每:状狀:剥剝:蝋蠟:屡屢:鴎鷗:黄黃:呑吞:飆颷
E-text prepared originally by osawa on 21 Jan. 2004 and revised by syna on 24 Dec. 2006: notes for the e-text
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