3人の神  だからこそ国際人になってほしい人のためのコラム 1




 「天の時は地の利に如かず。地の利は人の和に如かず」。孟子の一節
である。
 実際にこういった順番が本当かどうかは別として、およそものごとを
なしとげるのに、「天」「地」「人」という三つの要因を考えるという
のは、古人の有益な知恵であるといえよう。
 そういえば、三国志で孔明が玄徳に奏上した基本戦略も、世界(中国)
を三分割するという計とともに、「天の時を得た魏と、地の利を得た呉
に対し、わが蜀は人の和で対抗する」というものであった。もっと卑近
な例では、麻雀でも天和、地和、人和なんていうのがある。

 面白いのは、これがフランスの言語・神話学者ジョルジュ・デュメジ
ルの唱える三機能体系によく対応していることだ。
 三機能体系とは、インド・ヨーロッパ語族の神話の多くに共通して見
られる構造。そこでは神は、社会を構成する人間の身分に対応する形で、
3つに分類されるという。すなわち、祭司に代表される第一身分、戦士
に代表される第二身分、そしてそれ以外の庶民という第三身分。第三身
分は農業や工業はもちろん、商業従事者も含めた「生産者」と考えられ、
当然ながらもっとも数が多い。いわば「豊饒」の神であり、その連想か
ら「性的魅力」もここに入るという。
 そして神の世界で繰り広げられるストーリーも、基本的には同一だ。
支配的身分(ネル)である第一身分と第二身分が連合し、被支配的身分
(ウィロ)の第三身分との間で争う。最初はウィロ側が、富と性的魅力
を利用して優勢に戦っていたが、その後ネル側が魔術によって挽回し、
最後に和解して単一の神界を創ったのだという。

 古代ローマで最も高い地位を占めていた聖職者は、大フラメンと呼ば
れる。大フラメンは3人おり、ジュピター、マルス、クイリヌスという
名の神をそれぞれ祭っていたという。
 この3神は、デュメジルモデルの古代ローマにおける発現であり、ま
さに第一身分、第二身分、第三身分に対応する。
 このうちジュピターは木星、マルスは火星に名をとどめているくらい
有名な神だが、クイリヌスというのはあまり聞かない。もっともこれら
の呼称はその後変化し、エトルリア人が造ったカピトリウム丘神殿では、
ユピテル、ユノ、ミネルヴァとなっているという。ミネルヴァなら有名
だ。ギリシア神話のアテナに対応する知恵の女神であり、トランプのス
ペードのクイーンのモデルといえば、途端に親しみがわくだろう。

 デュメジルが調べたのはこういったインド・ヨーロッパ語族の神話で
あり、その中の共通の構造やストーリーを探った訳だが、最初に見たよ
うにインド・ヨーロッパ語族どころか、中国においても似た体系が現わ
れているのである。
 いや、代表的な神を3人考えるというのは、実はかなり一般的な発想
のような気もする。例えば仏教。ここでは釈迦を中心に、普賢と文殊と
で三尊像を作り上げている。また、仏教と関連の深いヒンズー教におい
てもやはり、創造神、維持神、破壊神が代表神となっているという。

 日本の神話ではどうだろう。アマテラスを第一身分、スサノオを第二
身分、オオクニヌシを第三身分に見立てると、デュメジルと同じような
ストーリーがそこに見えてくるという説もある。
 しかし日本の神話には、それよりももっと面白い特徴がある。アマテ
ラスらのさらに上位に、やはり3人組の神がいるのだが、その中のまさ
に最高神、これをアメノミナカヌシという。この神様、実は神話(日本
書紀など)では、最初にチラリと登場するだけで、あとはまったく姿を
現わさないのだという。それなのに、はっきりと最高神とうたわれてい
るのである。
 他の神話では、大体一番偉い神様は、実際に一番活躍するのである。
うーん、日本的だな...こう感じるのは私だけだろうか。

                〈クラブ4WD〉加藤良平


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