明治・大正期
日本軍艦 機関部データ集

第3章 主機(タービン機関)



戦艦 山城。ブラウン・カーチス式高中低圧並列タービン2基・4軸を搭載。


3-4. 基本構成


3-4-1. 戦艦

Name Ty Pe Fwd Ast Dp Vs RG
C H I L H L Z1 Z2
Dread-
nought
P 13.0 6 - 6 1.749 29.3 - -
72 36 2.433 40.8
安芸 C 17.6 - 7 2 3.658 48.8 - -
22 8
North Dakota
(BB29)
BC 17.6 - 3.658 46.9 - -
河内
摂津
BC 17.6 - 6+9(d) 2 3.658 46.9 - -
19+19 9
Rivadavia
Moreno
(アルゼンチン戦艦)
BC 3.353 48.3 - -
Orion P 12.0 - 2.083 35.0 - -
2.769 46.4
扶桑
山城
BC 17.9 - 3 2+d 2+d 15 2+d 1+d 2.896 42.5 - -
10 4+6 4+30 30 7+6 3+12 3.048 44.7
伊勢 BC 17.9 4 6 4+3 - d 2 1+d - -
9 12 15+22 33 9 3+12
日向 P 13.0 2 4 6 - 6 4 4 2.365 37.1 - -
22x2 17+15x3+14x2 7x6 8x4 6x4 3.099 48.7
Queen
Elizabeth
P 12.3 - - -
長門
陸奥
KT 16.2 - 1+3d - 2x2d 1 33 392
2+14 2x(7+6) 3 33
加賀 BC 16.2 - - 33 393
38
土佐 PIR - - 33 393
38

Name: 艦名
Ty: タービン型式、P: パーソンズ式、IP: 改良パーソンズ式、C: カーチス式、BC: ブラウン・カーチス式、KT: 艦本式トリプルフロー、PIR: パーソンズ・インパルス・リアクション式を示す
Pe: 機関使用圧力 [kg/cm2]
Fwd: 前進タービン、C: 巡航タービンまたは巡航段落、H: 高圧タービン、I: 中圧タービン、L: 低圧タービン、2段併記の上段は段落数(dは胴車部分drum part)、下段は動翼列数を示す
Ast: 後進タービン、H: 高圧タービン、L: 低圧タービン、2段併記の上段は段落数(dは胴車部分drum part)、下段は動翼列数を示す
Dp: 翼車ピッチ円直径 [m]、初段落、2段併記の上段は高圧タービン、下段は低圧タービンを示す
Vs: タービン周速 [m/s]、初段落、2段併記の上段は高圧タービン、下段は低圧タービンを示す
RG: 主減速歯車、Z1: 小歯車歯数、Z2: 大歯車歯数

<解説>
蒸気タービンには大別して衝動タービンimpulse turbineと反動タービンreaction turbineが有ります。
衝動タービンとは、動翼の断面形状が三日月形をしており、作動蒸気がノズルまたは案内翼を通過する間は圧力が降下する一方で速度が増大し、その運動エネルギーを動翼(回転翼)に与えて翼車を回転させるもので、動翼を通過する間は作動蒸気の圧力は不変で速度のみが低下します。
反動タービンとは、案内翼と動翼の断面形状がともにノの字形をしており、作動蒸気は案内翼と動翼の両方を通過する間に圧力が降下し、前者を通過するときは速力を減じ、後者を通過するときは逆に速度を増して、主にその反動で翼車を回転させるものです。蒸気ノズルが無く、翼車の全周から均等に給気されるので作動は円滑で、翼の剛性が比較的小さくて済む反面、段落内の圧力降下が小さいため翼列数が多くなってタービン全長が増大し、また動翼に加わる蒸気圧ベクトルによりタービン軸に大きなアキシャル荷重が発生するためバランス・ピストンが必要となります。

パーソンズParsons式は、英国人パーソンズ卿Sir Charles Parsonsの考案(1884年特許)になる舶用主機として最初のタービン機関で、反動タービンの一種です。パーソンズ卿はこの採用を英国海軍に進言したものの、頑迷な官僚の受け入れるところとならず、ならばと実験艇タービニアに搭載、1897年のスピットヘッド観艦式において衆人環視の前に威力を実際に示した故事は有名です。なお、改良パーソンズImproved Parsons式は後述のブラウン・カーチス式に対抗して考案されたもので、初段に衝動式のカーチス段落Curtis stageを付加し、この部分での圧力降下(=発生出力)を大きくすることによって段落数を減じ全長を短縮した、混式タービンcombination turbineの一種です。
舶用パーソンズ式タービンの周速度は、直結式の場合、高圧タービン初段で35〜37m/s (115〜120ft/s)、最終段で37〜40m/s (120〜130ft/s)、低圧タービン初段で46〜52m/s (150〜170ft/s)、最終段で最大58m/s (190ft/s) とされていました。ドレッドノートでは、これよりやや低目となっています。

カーチスCurtis式は、米国人カーティスC.G.Curtisの考案(1896年特許)になるもので、スウェーデン人ド・ラヴァルDr.Gustaf de Lavalが考案した単段落式single stageの衝動タービンを改良し、1段落内の動翼を2列以上としたものです。1段落内の圧力は不変ながら速度のみ低減するので(単圧多速)、これを速度複式velocity compoundと称します。
カーチス式はもともと米国のゼネラル・エレクトリック社General Electric Co.が発電用に実用化したもので、舶用主機として最初に採用したのは1903年ドイツ汽船カイザーですが、主力艦への最初の採用者は日本海軍の宮原二郎造機大監でした。舶用主機としてのカーチス式は、米国のフォアー・リヴァー造船会社Fore River Shipbuilding Co.が初めて製造したもので、蒸気を1基で初圧から大気圧以下まで膨張させるため、通常7前後の段落を有する多段落multi-stageの圧力速度複式pressure-velocity compoundとなっています。

ブラウン・カーチスBrown-Curtis式は、低速時の蒸気消費率改善や推力軸受の小型化などのため、カーチス式の段落数を増加し、前部(高圧)を段落ごとの翼車構造、後部(低圧)を各段落共通の胴車構造としたものです。この胴車部分は、当初は翼車部分に準じた圧力速度複式の衝動式でしたが、流入部の蒸気圧が初圧の1/10前後のため、扶桑級より反動式となりました。ちなみに、胴車部分の鏡板の前後の圧力差により、推力の一部を釣合わせ、推力軸受の負担を減じています。
ブラウン・カーチス式は英国のジョン・ブラウン社John Brown & Co.の考案で、わが国では川崎造船所が製造権を取得しており、自社建造艦への搭載としては榛名、伊勢などが有ります。なお、河内級の主機(胴車部分は衝動式)は公式にはカーチス式となっていますが、わが国への情報伝達が米国経由であることと、川崎のブラウン・カーチス式製造権の正式契約締結が1911年と河内進水の翌年であることが関係しているものと考えられます。
米戦艦ノース・ダコタ(BB29)、河内級、アルゼンチン戦艦リヴァダヴィア級のブラウン・カーチス式は姉妹設計で、前後軸受の中心間距離はそれぞれ22ft6in(6858mm)、22ft9in(6934mm)、22ft(6706mm)でした。

艦本式トリプルフローは、米国ウェスティングハウスWestinghouse社の考案になるトリプルフローtriple flow式に範を採ったもので、特に巡航タービンまたは巡航段落を設けることなく低速時の蒸気消費率改善を図っています。蒸気は初め高圧タービン内のカーチス段落を通過したのちに分流し、一方は高圧タービン内の第2段落以降、他方は双流式(二分流排気式)dual flowの低圧タービンに赴き、結局三つに分流するためこの名が有ります。長門級では分流比を31:69とし、低速時は低圧タービンへの交通弁を閉じ、高圧タービンでのみ少量の蒸気を膨張させていました。ちなみに双流式は、反動式に特有のスラストの発生を無くすため前後対称としたものです。なお、歯車減速装置は、長門が全部ウェスティングハウス社製、陸奥が同社よりホブ盤を購入し、横須賀工廠で歯車の切削を行ったものです。

土佐に搭載を予定されたパーソンズ・インパルス・リアクションParsons impulse reaction式(別名・三菱パーソンズ式)は、オール・ギヤードとなったブラウン・カーチス式に対抗して考案されたもので、高圧タービンを全翼車構造の圧力複式衝動タービン、低圧タービンを同じく全翼車構造の双流式反動タービンとして小型軽量化を図ったものです。


3-4-2. 装甲巡洋艦/巡洋戦艦

Name Ty Pe Fwd Ast Dp Vs RG
C H I L H L Z1 Z2
Invincible P 13.0 - 2.337 33.6 - -
2.921 42.0
伊吹 C 10.9 - 7 2 3.658 48.8 - -
22 8
Indefati-
gable
P 13.0 - 2.489 35.7 - -
2.667 38.4
Lion P 12.0 - 2.692 38.7 - -
3.581 51.5
金剛
比叡
霧島
IP 14.4 1+C2+5 - 6 1+2 4 2.261 34.5 - -
4+22x2+12x5 6x6 4+4x2 5x4 3.251 49.3 - -
榛名 BC 16.2 - 6+7(d) - 19(d) 1+5(d) 1+6(d) 3.505 53.1 - -
19+15 38 4+10 4+12 3.505 53.1 - -
Tiger BC - - -
Renown BC - - -
Furious BC - 1+5 - 9 2
2+5 9 3x2
Hood BC - -
天城
赤城
G - 1+2x5 - 2xd 1
2+2x5 2x7 3
愛宕 BC -

Name: 艦名
Ty: タービン型式、P: パーソンズ式、C: カーチス式、IP: 改良パーソンズ式、BC: ブラウン・カーチス式、G: 技本式
Pe: 機関初圧力 [kg/cm2]
Fwd: 前進タービン、C: 巡航タービンまたは巡航段落、H: 高圧タービン、I: 中圧タービン、L: 低圧タービン、2段併記の上段は段落数(dは胴車部分drum part)、下段は動翼列数を示す
Ast: 後進タービン、H: 高圧タービン、L: 低圧タービン、2段併記の上段は段落数(dは胴車部分drum part)、下段は動翼列数を示す
Dp: 翼車ピッチ円直径 [m]、初段落、2段併記の上段は高圧タービン、下段は低圧タービンを示す
Vs: タービン周速 [m/s]、初段落、2段併記の上段は高圧タービン、下段は低圧タービンを示す
RG: 主減速歯車、Z1: 小歯車歯数、Z2: 大歯車歯数

<解説>
榛名のブラウン・カーチス式は、高圧タービンの翼車部分が全部衝動式、胴車部分が初段のみ衝動式で他は反動式、低圧タービンは全部が胴車で反動式です。

ブラウン・カーチス式は、オール・ギヤードとなった際に後部段落の胴車構造を廃し、1段落当り動翼1列(ラトー式、ツェリー式と同様)とした全翼車構造となっています。初段のカーチス段落は速度複式(単圧多速)、それ以外は各段ごとに圧力隔壁diaphrugmで仕切られた圧力複式(多圧単速)ですから、圧力速度複式の組合せ衝動タービンの一種というわけです。「カーチス」の名は圧力隔壁の構造が原型を踏襲しているためでしょうか。なお、後年の艦本式オール・インパルスはこれをベースとしたもので、中・低圧タービンもすべて衝動式となっています。

技本式は、艦本式トリプルフローの低速時の蒸気消費率が良好でなかったことより、さらなる改善を図ったもので、高圧タービンは衝動式、低圧タービンは反動式です。蒸気は初め高圧タービン内のカーチス段落を通過したのちに分流比1:4で分流し、前者(1/5)は高圧タービン内のA段落部分(5段落)、後者(4/5)は同じくB段落部分(同)を通過したのちに合流して双流式の低圧タービンに赴きます。なお、低速時はA段落とB段落との間の交通弁(双座)を直列側に開放し、少量の蒸気を高圧タービンカーチス段落→同A段落→同B段落→低圧タービンと、より多段落で膨張させることにより、燃費の低減を図っていました。つまり部分パラレルとシリーズの切換式というわけです。


3-4-3. 軽巡洋艦

Name Ty Pe Fwd Ast Dp Vs RG
C H L H L Z1 Z2
Amethyst P - -
Salem
(米偵察巡)
C 17.6 - 7 2 3.048 55.8 - -
22 6
筑摩、平戸 BC 17.5 - 6+9(d) 2 2.743 48.8 - -
19+19 9
Nino Bixio
Marsala
(伊偵察巡)
BC 18.2 - 5+11(d) 2 2.032 47.8 - -
16+23 9
矢矧 P 14.1 1.194 29.4 - -
1.702 41.8
Arethusa BC - -
天龍 BC 16.2 1 1+5 7 1 41 301
3 2+5 7 3 67
球磨級
(除大井)
G 16.2 - 1+2x5 2x2 1 45 (54) 328 (395)
2+2x5 2x9 3 55 (66)
大井 BC 16.2 2 1+5 9 1
5 2+5 9 4
那珂、川内 PIR 2+1 1+5 2x2 1
4+3 2+5 2x10 3

Name: 艦名
Ty: タービン型式、P: パーソンズ式、C: カーチス式、BC: ブラウン・カーチス式、G: 技本式、PIR: パーソンズ・インパルス・リアクション式、
Pe: 機関使用圧力 [kg/cm2]
Fwd: 前進タービン、C: 巡航タービンまたは巡航段落、H: 高圧タービン、L: 低圧タービン、2段併記の上段は段落数、下段は動翼列数を示す
Ast: 後進タービン、H: 高圧タービン、L: 低圧タービン、2段併記の上段は段落数、下段は動翼列数を示す
Dp: 翼車ピッチ円直径 [m]、初段落、2段併記の上段は高圧タービン、下段は低圧タービンを示す
Vs: タービン周速 [m/s]、初段落、2段併記の上段は高圧タービン、下段は低圧タービンを示す
RG: 主減速歯車、Z1: 小歯車歯数、Z2: 大歯車歯数、( )内は異説

<解説>
軽巡のタービン主機は、小型軽量化のため翼車径と段落数を減じ、その分回転数を高く設定して、タービン周速があまり小さくならないようにしています。この傾向は、後述の駆逐艦ではさらに顕著となります。

米偵察巡セイラムの主機は、伊吹や安芸の主機と同じく米国のフォアー・リヴァー造船会社が製造したもので、同一形式ながら回転数は350rpmと高く、翼車径は2ft(610mm)小さくなっています。前後軸受の中心間距離は18ft6in(5639mm)で、伊吹や安芸の21ft9-1/2in (6642mm) より約1m短くなっていました。
筑摩と平戸の主機は、河内級の主機と同一形式ながら回転数を340rpmに増やし、翼車径を3ft(914mm)小さくしたものです。
伊偵察巡ニーノ・ビクシオとマルサラの主機は、フォアー・リヴァー造船会社との技術提携により、同国内でインチサイズで製造されたもので、河内級の主機と同一形式ながら、回転数を450rpmに増やし、翼車径を5ft4in(1627mm)小さくするとともに、翼車部分の段落数を減じ、胴車部分の段落数を増やしており、前後軸受の中心間距離は16ft(4877mm)でした。なお、ニーノ・ビクシオ級の機関部全体配置は、艦首寄りから缶(6基)−機(翼軸)−缶(4基)−機(翼軸)−缶(4基)−機(中央軸)と、究極のシフト配置とも言えるものでした。


3-4-4. 駆逐艦

Name Ty Pe Fwd Ast Dp Vs RG
C H L H L Z1 Z2
Afrdi
(Trival)
P - -
海風
山風
P 0.889 32.6 - -
1.108 40.6
浦風 BC 15.8 - 4+d(27) 2+d(4) 1.905 64.8 - -
11+27 7+4
天津風
時津風
BC 14.1 - -
磯風
浜風
P 14.1 0.889 34.9 - -
1.156 45.4
桃、樫 KI 15.5 - -
檜、柳 BC 15.5 - -
BC 16.2 - -
谷風 BC 16.2 1 1+5 7 1 41 301
3 2+5 7 3 67
樅、カヤ、梨、竹 BC 16.2 1 1+4 6 1 37 301
3 2+4 6 3 53
楡、柿、栗、栂 PIR 16.2 32 299
40
菱、蓮 IP 16.2
菫、蓬 Z 16.2 2 3 4 2
4 3 4 3
若竹 BC 16.2 1 1+4 6 1
3 2+4 6 3
峯風 PIR 14.4 1 6 9 40 299
48
神風(2代) PIR 14.4 2 6 10

Name: 艦名
Ty: タービン型式、P: パーソンズ式、IP: 改良パーソンズ式、PIR: パーソンズ・インパルス・リアクション式、BC: ブラウン・カーチス式、Z: ツェリー式、KI: 艦本インパルス式
Pe: 機関使用圧力 [kg/cm2]
Fwd: 前進タービン、C: 巡航タービンまたは巡航段落、H: 高圧タービン、L: 低圧タービン、2段併記の上段は段落数、下段は動翼列数を示す
Ast: 後進タービン、H: 高圧タービン、L: 低圧タービン、2段併記の上段は段落数、下段は動翼列数を示す
Dp: 翼車ピッチ円直径 [m]、初段落、2段併記の上段は高圧タービン、下段は低圧タービンを示す
Vs: タービン周速 [m/s]、初段落、2段併記の上段は高圧タービン、下段は低圧タービンを示す
RG: 主減速歯車、Z1: 小歯車歯数、Z2: 大歯車歯数

<解説>
初期のタービン駆逐艦は、主機に関するデータの少ないのが残念です。

桃と樫に搭載された艦本式オール・インパルスは、ブラウン・カーチス式に範を採り、動翼に独自の改良を施したもので、高(中)低圧とも衝動式です。出力の割に小型で、蒸気消費率も比較的良好なため、のちに日本海軍タービン主機の主流に定着しました。

菫と蓬に搭載されたツェリーZoelly式は、スイスのエッシャー・ヴィス社Escher Wyss & Cieの技師ツェリーZoellyが、フランスのラトー教授Rateauの考案した圧力複式(多圧単速)衝動タービンを改良し、翼車の径を大として段落数の減少を図ったものですが、陸用が主体で舶用はあまり多くありません。わが国では石川島造船所が1921年にエッシャー・ヴィス社と契約を締結し、ライセンシーとなっていました。蓬の主機はエッシャー・ヴィス製、菫は石川島製でしたが、ともに故障を起しやすかったようです。翼列数が少ないと翼列当りの圧力降下が大きく、比例的に負荷も大きいわけで、翼車径の大きなこととあいまって動翼のストレスが大きかったのが原因と考えられます。


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