心タンポナーゼ(心嚢に水が溜る)と腹水(横隔膜に水が溜る)、
さらに肝硬変(肝臓が硬くなる)を患っていた笑太が、
2001年5月19日午後2時10分、丸1年にわたった闘病生活に幕を降ろしました。
享年9歳8ヶ月。
前々日に排便のため小屋から数m歩いたのが彼の最後の歩行となりました。
その日の朝、眼はうつろとなり、呼んでもなにも反応することなく、
指に浸した数滴の水を口に流し込むと舌で舐めるのが精一杯でした。
すでにそのとき肺水腫(肺に水が溜り、酸素供給ができなくなる)が出始めていた彼にとって、
呼吸することすら苦痛を伴うものであったはず。
いわんや水分を体内に吸収することなど不可能だったと思われます。
人間なら人工呼吸器と点滴がなければ生命を維持することができない状態……。それが数日来の笑太でした。
「命」というのは凄いです。笑太は約2ヶ月前からドッグフードを食べなくなっていました。
半月ほどまえからはあれ程好きだったパンやプリンも嫌々ながら口にするようになり、
10日ほど前からは数尾のニボシ、一切れのジャーキーしか食べてくれず、
数日前からはいっさいの食物を拒否するようになりました。
初期の頃の食事の変化は、笑太の体調がすでに栄養価の高いものを消化するには
負担(栄養分を吸収するにはエネルギーを必要とする)がかかるようになっていたためであり、
食事をまったくしなくなったのは、心臓への負担を少しでも軽くしようとする
身体に組み込まれた生命維持装置の指令によるものです。
水を摂取しなくなったのもしかり。生命維持のための優先順位が、
栄養/水分補給より酸素供給に比重が傾いた証拠です。
最後の力を振り絞って呼吸する力だけを残していたのに、とうとう肺水腫も出始めてしまった。
おそらく肝臓の機能も壊滅状態となり、正常な血液を体内に送ることができなくなっていたことでしょう。
それがわかったとき「もういいよ、そんなに頑張らなくても」と思いました。
心嚢/横隔膜から1週間〜10日ごとに2、3リットルの水を抜かなければ、
去年の夏を前にすでに天寿を全うしていたはずです。
ぱんぱんに膨張した肝臓は、相当の痛みを伴っていたはずなのに……
それを1年にもわたって頑張ってくれたのでした。
いままでどうもありがとう。天国の草原でいつまでも走り回ってください。
キミを失って、時折ものすごく寂しい思いに耽ることもあるでしょう。
ふいにキミが時折見せた何気ない表情や仕種を思い出しては、
心が優しく(同時に寂しく)なることもあるでしょう。
キミがいてくれたおかげで、ずいぶんと慰められました。
キミがいてくれたおかげで、心がとても豊かになれました。
キミからボクは、いっぱいの愛をもらいました。いっぱいの笑いも……。どうもありがとう。
2001.05.19 記


 

………He is as constant in his love as the sun in its journey through the heavens.
1870年 ジョージ・ヴェストという弁護士(後に上院議員)が
愛犬が馬車に轢かれた飼い主の訴訟で陪審員の前で行った最終弁論のその一部の引用です。
「彼の愛はさながら天空を旅する太陽のように変わることはない」。
キミが臨終を迎えようとしているいま、思い出すのはこの言葉でした。
永きにわたり楽しい時を分かち合い、沈んでいるときは励ましてくれてありがとう。
最愛の友と呼べるキミを失う現実を前にして、
ボクはなすすべきこともなく、黄泉の湖に棲む白鳥の歌声に耳を澄まそうとしています。
願わくは、キミが苦しむことなく逝きますように……。
そうそう裁判の結果だけど、弁護士の最終弁論に感動した陪審員が出した判決は、
もちろん馬車の持ち主への有罪。
15ドルの賠償請求にたいし、150ドルを飼い主に支払えと命じたそうです。
キミほどのユーモアを持ち合わせてはいないにしろ、人間のユーモアも捨てたものじゃないだろ?

 

犬に贈る賛辞

 この利己心にみちた世界にあって、唯一利己心とは無縁に友となすことのできる存在、
それは犬である。
けっして見限ることも恩を忘れることもなく、裏切りをも知らぬ真実の友、
それは犬である。
主人が富めるときも貧しきときも、健やかなときも病めるときも、犬は彼の主人につき従う。
ただ主人の傍にいられるならば、たとえ冬の風が吹きつけ、
吹雪の荒れ狂う冷たい地面の上にも、安んじて眠るだろう。
あたえるべき食物を持たぬその貧しき手にも口づけをし、
この残酷な世界との対峙のなかで生じた、主人の傷口を癒そうとするだろう。
富が消えうせ、名声が地に落ちほかの友がみな去りようとも、彼だけはつねに傍らにとどまり、
さながら天空を旅する太陽のように、変わらぬ愛をたもちつづけ、
まるで王子につかえる従者のごとく主人の眠りを守るのだ。
ジョージ・ヴェスト上院議員、1870年
D・クーンツ:作 『ウォッチャーズ』より一部T-Shota改訳引用
 

Tribute to a Dog

The one absolutely friend that man can have in this selfish world,the one that never deserts him,
the one that never proves ungrateful or treacherous, is his dog.
A man's dog stands by him in prosperity and in poverty,in health and in sickness.
He will sleep on the cold ground,
where the wintry winds blow and the snow drives fiercely,if only he may be near his master's side.
He will kiss the hand that has no food to offer;
He will lick the wounds and sores that come in encounter with the roughness of the world.
He guards the sleep of his pauper master as if he were a prince.
When all other friends desert, he remains.
When riches take wing and reputation falls to pieces,
he is as constant in his love as the sun in its journey through the heavens.

 

−Senator George Vest, 1870
2001.05.14 記