インジェクター考

エンジンの調子を大きく左右し、チューニングする上で重要な役割を果たすインジェクター。センサーやメーター類では確認できないインジェクターのバラツキについて研究した。

特に低年式車や走行距離の長いエンジン、チューニングエンジンでは噴射のバラツキによるエンジン不調やエンジンブローが発生していると考えられる。あまり知られていない実態を解明してみた。

噴射信号通りにインジェクターが動作しないのには幾つかの現象がある。
一つはインジェクターから燃料の漏れである。これは、インジェクターの弁が閉まっているにも関わらず弁の着座が悪くなりそこから燃料が漏れることである。

もう一つは、燃料噴射中は霧状に噴射するのが正常であるが噴射状態が悪くなり、よい混合気ができない現象である。燃料の漏れは、漏れる量が多ければ燃圧計を取り付けることで発見できるであろうが漏れる量が少なければ燃圧計で発見できない。

そこで、インジェクターの漏れと噴射状態を簡単に点検できる装置を考えることにした。自動車メーカー発行の修理書や整備要領書などにもインジェクターの点検方法が記載されているが簡単に単体でのテスト(目視)ができない上、ガソリンを気化するため大変危険な状態でのテストを強いられる。今後この様なインジェクターを点検する作業が増えると思いインジェクターの漏れと噴射状態を簡単にそして正確に計測できる装置を試作することにした。


  • 仕様:ノーマル
  • 吐出量 :444cc/min
インジェクタ1
構想

できるだけ走行状態に近い性能を測定するために、

1.燃圧(燃料の圧力)を車両搭載状態にして噴霧状態を確認できる事
2.インジェクター停止時の漏れをチェックできる事
3.連続噴射量が規定どおり噴射しているか確認できる事
4.間欠噴射量(パルス噴射量)が各気筒ばらつきがないかチェックできる事

以上の確認ができるように構想をたてた。(図1)

構想図


エンジンからインジェクター6本を取り外し装置にセットする。噴射量を計測するために噴射したガソリンを透明なメスシリンダーに溜める方式とし、上部で噴霧状態を目視できるエリアを設け、下から抜き取れるようにドレインコックを取り付けた。

テストに必要なガソリンは揮発性が高く非常に引火しやすいため、インジェクター製造メーカーで完成検査で使用しているテスト液を入手し、使用することにした。テスト液はガソリンに近い粘度で、揮発性が低くインジェクターに使用している材質を侵さないものである。

FUELポンプ、FUELフィルター、FUELプレッシャーレギュレータは、市販のRB26用のものを使用し、できるだけ装着状態に近い条件でテストできる装置にした。

上記構想にマイコンで負荷条件を変更してそれぞれの噴射状態が適正かどうか判断できるものを製作した。

連続噴射----------ガソリンの気化状態を目視する
噴射間隔設定------低回転から高回転までの回転毎のバラツキを測定
噴射パルス幅設定--低負荷から高負荷までの負荷毎のバラツキを測定

この目的を達成し、操作性を考え、操作盤を製作した。


操作盤


デリバリーパイプ、板金等を製作し、完成したインジェクターテスター


全体写真


テスト

テスト項目は、噴霧状態チェック、後たれチェック、連続噴射テスト、間欠噴射テストを実施した。インジェクターは愛車のH3年式、中古H4年式、新品6本を比較テストした。テスト車は、アイドリングの不調と燃費が悪い(4.0km/l)等の不具合があった。

1.噴霧状態

H3年式の1番、4番シリンダーのものが偏りがある(円錐状態の一部に筋を発生する)が、ほかの16本は、正常に噴射している。

(図2)正常・・・・・・・・・・・・・・・・・偏りあり・・・・・・・・・・・・・均等に噴霧しない
噴霧状態


2. 後だれ(インジェクター停止中の漏れ)

全インジェクターとも後だれの症状はなかった。後だれが発生すると(図3)のように燃圧がかかった状態で噴射停止中にノズルの先からガソリンが雨だれの滴のように落ちてくるので目視確認できる。

(図3) 後だれの状態
後だれ


3.連続噴射テスト

連続噴射テストは、インジェクターを20秒間連続で開弁させて、噴射量を測定した。測定は6回行い、最大値と最小値を外した4回の平均値を噴射量とした。(表1参照)
この結果からもH3年式の1番と4番は、他の平均値より多い噴射量であることが確認できる。

4.間欠噴射テスト

間欠噴射テストは、4.5[ms]の間、開弁信号を与え、それを900回噴射した時の噴射量を測定した。(表1参照)
この結果もH3年式の1番と4番が他の平均値より多かった。注目するのは、偏差の割合(新品の平均値とのバラツキ)は、連続噴射より大きな値になっていることから、間欠噴射テストの重要性がわかる。

表1 H3年式インジェクター
テスト項目 シリンダー 1 2 3 4 5 6
連続噴射テスト 1回目 165 157 157 160 154 154
20秒 2回目 166 158 156 160 154 154
[cc] 3回目 166 156 156 160 154 155
  4回目 164 157 157 160 154 155
平均値 [cc]   165.3 157.0 156.5 160.0 154.0 154.5
偏 差 [cc]   9.3 1.0 0.5 4.0 -2.0 -1.5
偏差の割合   5.93% 0.64% 0.32% 2.56% -1.28% -0.96%
間欠噴射テスト 1回目 50 47 47 48 48 48
900回4.5[ms] 2回目 50 46 48 49 48 48
[cc] 3回目 50 47 47 48 48 48
  4回目 50 47 46 48 48 48
平均値 [cc]   50.0 46.8 47.0 48.3 48.0 48.0
偏 差 [cc]   3.8 0.5 0.8 2.0 1.8 1.8
偏差の割合   8.11% 1.08% 1.62% 4.32% 3.78% 3.78%


表2 H4年式インジェクター
テスト項目 シリンダー 1 2 3 4 5 6
連続噴射テスト 1回目 154 155 154 155 156 156
20秒 2回目 153 154 154 154 156 156
[cc] 3回目 155 156 154 155 154 154
  4回目 154 156 154 154 154 154
平均値 [cc]   154.0 155.3 154.0 154.5 155.0 155.0
偏 差 [cc]   -2.0 -0.8 -2.0 -1.5 -1.0 -1.0
偏差の割合   -1.28% -0.48% -1.28% -0.96% -0.64% -0.64%
間欠噴射テスト 1回目 48 48 47 48 44 46
900回4.5[ms] 2回目 47 48 47 48 44 46
[cc] 3回目 48 48 47 48 44 46
  4回目 48 48 47 48 44 46
平均値 [cc]   47.8 48.0 47.0 48.0 44.0 46.0
偏 差 [cc]   1.5 1.8 0.8 1.8 -2.3 -0.3
偏差の割合   3.24% 3.78% 1.62% 3.78% -4.86% -0.54%


表3 新品インジェクター
テスト項目 シリンダー 1 2 3 4 5 6
連続噴射テスト 1回目 156 158 158 156 156 158
20秒 2回目 156 156 156 155 157 157
[cc] 3回目 157 157 158 157 158 156
  4回目 156 157 158 156 156 158
平均値 [cc]   156.3 157.0 157.5 156.0 156.8 157.3
偏 差 [cc]   0.3 1.0 1.5 0.0 0.8 1.3
偏差の割合   0.16% 0.64% 0.96% 0.00% 0.48% 0.80%
間欠噴射テスト 1回目 47 48 47 47 46 46
900回4.5[ms] 2回目 46 47 47 47 46 46
[cc] 3回目 47 48 47 47 46 46
  4回目 47 48 47 47 46 46
平均値 [cc]   46.8 47.8 47.0 47.0 46.0 46.0
偏 差 [cc]   0.5 1.5 0.8 0.8 -0.3 -0.3
偏差の割合   1.08% 3.24% 1.62% 1.62% -0.54% -0.54%


結果

以上の結果と症状から考えると、愛車のH3年式のものはバラツキが大きく、アイドリングが振る原因が1番及び4番シリンダー用インジェクターであることがわかった。結果で一番良好だったのは、当然、新品であった。

測定後、車両に装着すると低速からトルクアップし、かなりエンジンフィーリングが向上した。感覚的には、点火時期を早めたROMチューンのコンピュータを装着したものよりトルクアップが体感できる。また、燃費もリッター0.5km向上した。

これは、新品でなくても、インジェクターの噴射量をバランス取りすることによっても得られる。走行距離の多い車両や、低年式の車両ほどインジェクターの噴射のバラツキが多くなり、バランス取りによってパワーが蘇ることがわかった。フルチューンエンジンはもとより、ブーストアップ、ROMチューン等、燃料をシビアにセッテイングした車両では今回実施したノーマルエンジンよりもっと体感できるはずである。また、一歩間違えればエンジンブローに直結する原因のひとつなので、調子が悪くなくても低年式車は、ぜひ実施したいテストである。



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