シリンダーヘッド加工

ヘッド面研とポート研磨


●シリンダーブロックの加工は内燃機屋さんに任せますが、シリンダーヘッドは自分のほうでも

加工できるのでヘッド面研と軽く鋳肌を取る程度のポート研磨をしました。

 

●ポート研磨

↑これはノーマルの状態。見てもわかりますがバルブシートリング挿入穴加工の際の非常に大きな

段差があります。さすがにこれは何とかしたいところです。

しかしK6Aのこのシートリングの段差は最近のエンジンとしてはちょっとお粗末な気がします。

せめてボールエンドミルでさらうなどして段差にならないようにはできなかったものかと。

というわけで今回は形状として弄る(変える)のはこの段差修正のみで、あとは基本的にポートの

形は変えずに全体に鋳物肌を軽く落とす程度の研磨にします。

よほどのノウハウのある人なら別ですが、最近のエンジンのポート形状は純正の時点で十分解析

されており形状はよくできていますので、あまりよく解らないまま思い込みと浅はかな知識だけで

いたずらにポート形状を変えるのはかえって性能ダウンに繋がるので避けたほうが良いでしょう。

 

↑作業環境はこんな感じです。 使用する先端ビットは段付き修正のみ球形の超硬カッターを使用し

その他はゴム砥石とペーパーフラップになります。 ペーパーフラップは粗削りで#120、中仕上げ

で#320〜#400、最後は#600を使用しました。ゴム砥石も同様の番手です。

ペーパーフラップのお薦めは「イチグチ」というメーカーのマイクロフラップという製品が個人的に

かなり良いと思います。 ホームセンター等で売っている安いものでも使えないことはないのですが、

寿命が短くすぐ磨耗してダメになってしまいますが、マイクロフラップはかなり「持ち」が良いです。

リューター本体ですが、多くのチューニングショップの方の場合は6mm軸のリューターが多いよう

ですが、私は仕事柄細かい作業が多いので昔から3mm軸あるいは2.35mm軸のリューターを使用して

います。とくにこういった軽自動車やバイクのエンジンのようにポートが細いエンジンの場合は3mm

軸のほうが作業がやりやすいと思います。

写真にあるリューターはNSK(ナカニシ)というメーカーのもので、エアー駆動のわりにトルクの高い

モデルなので負荷の大きいペーパーフラップでもそうそう止まることはあまりありません。 その他

に電動モーター駆動の本家リューター(リューターというのはもう代名詞になってしまっていますが

本家のリューターというのは日本精密機械工作の商品名です)も所有しています。 本当にトルクの

必要な重切削や研磨作業の場合は電動モーターのほうが良いです。

 

●ポートの表面仕上げについて

手間をかけられるのであれば当然ながら表面はツルツルに光るまで磨くほうがより効果は得られます。

よく「吸気側は燃料の霧化を促進させるためにツルツルにしないほうがいい」という方がいますが

これは私に言わせれば眉唾モノです。 むしろザラツキを残すほうがその部分に燃料が付着し停留する

ことにより燃料の到達遅れが生じることでレスポンスの悪化など性能低下につながりますし、そもそも

壁面の境界層というのは流速がゼロなのですからそこにザラツキを残したところで境界層をさらに厚く

し有効ポート径を減少させるなどのマイナス要因ばかりでプラスになる効果は何もないかと。 もし

壁面にわざと細かい渦を起こして空気の剥離を防いだり混合気の撹拌を狙うというのなら、たとえば

ゴルフボールの表面のような細かいディンプル状の仕上をするほうがまだ理にかなっているのではと

思います(私は賛成しませんが)。 ゴルフボールは表面の細かい凹みで非常に小さな渦を表面に作る

ことで気流の剥離を防ぎ、結果として空気抵抗を減らしています。 魚の鱗も同様の理屈です。

しかしこのゴルフボールも魚の鱗もそれ自体の表面は滑らかなツルツル仕上げとなっていることに注目

しなければなりません。 これはいうなれば「滑らかな凸凹」とでも言いましょうか。

これはただペーパー目を粗くしてザラツキを残したり、サンドブラストをかけて梨地にしたり艶消し

(マット加工)にすることとは根本的に異なる現象だということを理解する必要があります(これを

混同している人がけっこう多いと思います)。

つまり同じ凸凹でも「マクロ的な凸凹」(ディンプル)と「ミクロ的な凸凹」(ザラツキ)は違うの

です。 ただ、ではこの「最適な凸凹の大きさ」の境目がどのへんのサイズになるかというと流れる

流速などによって変わってくると思いますし、まだ専門的にも解明されていない点も多いと思います

ので一概に言えるものではないと思います。 (余談ですが、これと同じことはエンジンブロックの

シリンダーホーニング仕上げ面のクロスハッチ加工にも言えます。あれも「滑らかな凸凹仕上げ」で

あり決してザラついているわけではありません)

しかし結局のところこのディンプル仕上げも結果として壁面に小さな渦を作りますからそのぶんポート

径が一回り小さくなったのと同じことになってしまいますので、結果としてポート断面積の有効径を

減らして無駄な吸気抵抗が増えるだけなので私はチューニングとしては意味がないものと考えます。

それならまだポート研磨などせずにノーマルの鋳肌のままにしておいたほうが適度な凸凹が残っている

わけですので、むしろ何も弄らないほうが良いのでは?…とさえ私は思います。

また、霧化効率を上げたいというのであればポート内面で小細工するよりもインジェクターそのものを

霧化効率の良いものに替えるなどのチューニングもあるかと思います。 たとえば私のJA22世代のK6A

エンジンは1ホールインジェクターですが、現在のK6Aエンジンは12ホールインジェクターとなってい

ます。 それがそのまま流用できるかどうかは別としても技術の進化とともにチューニングの選択肢も

多様になっているものと思いますので、より根本的に対処できるならその方法を選ぶべきかと。

以上、いろいろと異論はあると思いますが、少なくとも現時点での私の考えはこのような感じです。

とくにターボエンジンで高過給時(高風量域)での性能を重視する場合、ポート内を流れる空気はNA

エンジンより高密度かつ高粘度になりますので、その粘性抵抗を減らすという意味ではなおさらで、

やはり吸気側も排気側もコンパウンド研磨までおこないツルツルにするのが理想ではないかと考えます。

ではなぜ今回はツルツルになるまでやらなかったのかと言うと、単にそこまでやっても体感的な変化が

ほとんど得られないだろうからです。 最後にこれを言ってしまったら身も蓋もないのですが(笑)

今回、私は#600までで止めましたが、やっても#1000程度の仕上げ面で充分ではないかと思います。

とはいえもはやこれは自己満足の世界ですので、徹底的にやりたい人は納得できるまでピカピカになる

まで磨いて良いと思います。それがDIYの楽しみでもあると思いますし。

 

<蛇足ですが…「鏡面」という言葉について>

よくツルツルに仕上げることを「鏡面」仕上げとか書く人が多いですよね。しかし私のような職の世界

(ゲージなど高精度な機械加工の世界)ではただ光っている面は鏡面とは呼びません。ただ光っている

だけの仕上げはあくまでバフ仕上げとか光沢仕上げと呼ぶだけです。

では「本当の鏡面」とはどういう面かというと、まさに鏡のように「歪みのない光沢面」のことを鏡面と

呼ぶのです。 具体的には平面ではラップ仕上げ面、円筒ではスーパーフィニッシュ仕上げされた面が

それにあたります。 つまり、いくらピカピカに光っていても、いくら顔が写るくらいに輝いていても

その面に歪みがあったらそれは鏡面ではないのです。 一般の人にはあまり関係ないことかもしれません

が、専門的には「鏡面仕上げ」という言葉はそう簡単に使われるような軽々しいものではなく、超高精度

な仕上げを施された面の事を言うのです。(例:ブロックゲージの測定面やピンゲージの外径部など)

ですので今回のポート研磨の場合は、リューターで手作業でおこないますのでどうしても面に歪みが出る

ことは避けられませんので、いくらピカピカに光っていたとしても私には「鏡面」とは呼べないのです。

↑完成した吸気ポートです。 よくこの2つのポートの間の柱部分を尖らせる「ナイフエッジ」

加工をすることがありますが、たしかに見た目にはそのほうが効率が良くなりそうに見えるの

ですが、これもよく考えずに下手にナイフエッジにするとその部分のポート断面積が急激に広がる

ことで気流が剥離、乱流が発生することで実質的な吸気流路面積が減ってかえってパワーダウン

してしまうので、ここはあくまでもノーマルの形状を維持し、表面の磨きだけに努めます。

これは昔からよく言われているコブラポートにするとかえって性能が低下するのと似た理屈です。

このような管状の空気の通路は一定の断面積か、絞っていくようにしなければならず、途中で

断面積が膨らんだりしている場所があるとそこで気流の剥離が起きて壁面で空気が大きな渦を巻く

ために実質的な有効流路面積が減ることでかえって吸入抵抗が増加しロスが大きくなるのです。

一見、良さげに見えるナイフエッジ加工にも落とし穴があることを理解しなければなりません。

こういうふうに書くと「ターボの場合は空気を押込んでいるんだからあまり影響ないのでは?」

と言う意見も出そうですが、ターボ(過給機)は空気を押込むための装置ではなく、気圧(密度)

の高い空気を作るための装置です。 ターボやスーパーチャージャーは圧縮機(コンプレッサー)

であって送風機(ブロワー)ではないのです。 この2つは明確に分けて考えないとなりません。

つまり、空気を吸込んでいる「気圧差」がNAより大きいというだけ(解りやすく大雑把に言うと

ブースト1kg/cm^2のターボエンジンは2気圧の環境で動かすNAエンジンと同じ)となりますので

ポートの考え方はNAでもターボ(スーパーチャージャー含む)でも同じか、むしろ過給エンジンの

ほうがそれだけ密度の高い空気(=粘性が高い空気)が流れるわけですのでポート形状に性能が

左右されやすいとも言えるのです。 「ターボなんてブーストかけてガンガン押し込んじゃうんだ

から細かいことは関係ない」などと甘く考えるべきではないと私は思います。

↑完成した排気ポートです。 こちらも形状は変えずに鋳肌を軽く研磨しただけです。

ただ排気側は流れるガスの温度も圧力も吸入側よりはるかに大きいため、吸気側よりは拡大する

メリットはあるかもしれません。 ですが私はやはり下手に形状を変えるのは避けました。

なお、排気側もナイフエッジはしないほうが良いです。 これは吸気側とは違う理由で、排気側

は温度が非常に高いためナイフエッジにするとその尖らせた先端部が高温で溶けてしまう恐れが

あるためです。 シリンダーヘッドは所詮アルミですので境界層がなければ660度あまりで溶けて

しまいますので、とくに排気温度の高くなるターボエンジンでは要注意…いや、厳禁と言えます。

↑燃焼室側から見たポート。 シートリング付近にあった段差はできるだけ取り除きました。

まあ、この程度の加工で体感できるほど変わるのかと言われると微妙なところですが。

ちなみに今回は燃焼室には手をつけませんでした。 最初は磨く程度のことはしようかと思い

ましたが、たしかに磨けば表面積の減少によって冷却損失が減り熱効率は上がるのですが、

今までこれでノッキングは起こしていなかったわけですので下手に手を加えてかえって悪化

させたら(表面の性状が変わることで圧縮行程後半で生じる混合気の細かい乱気流の発生に

変化が生じる可能性がある)逆効果になってしまいますし燃焼室容積および形状のバラツキを

生んでも嫌なので今回は自重しました。

それにしてもこのK6Aエンジンの燃焼室は角度も浅くペントルーフとして「非常にいい形状」

をしています。 これならたしかにハイブーストかけてもノッキングが起きないわけです。

「たかが軽自動車のエンジン」とバカにしてはいけません。 私が見た限りでは日産のSR20

エンジンなどの燃焼室より実に理想に近いペントルーフ形状をしています。

なお、よくポートの形に沿ってバルブガイドの出っぱっている部分を削り取る加工をすること

がありますが、使用時間の限られているレースエンジンならまだしも、ある程度耐久性を確保

したいストリートチューンのエンジンではやらないほうが吉です。 ここを削り取ると考えて

いる以上に耐久性が低下してしまいますので。

参考までに今回のこのポート研磨にかかった時間はだいたい5〜6時間というところです。

 

<注記>

これまで書いたポートの表面仕上げやナイフエッジをはじめとする形状に対する考察はあくまでも

私の個人的な考えであり、数値的根拠や実証結果に基づいたものではありませんので、異論や反論

はあって当然だと思いますし、今後、また新たな実験結果や成果が出てくれば私自身の考えも変

わっていくものと思いますので、「こういう考え方の人もいるんだ」程度に受け取ってください。


●ヘッド面研

通常のヘッド面研というとフライス盤にておこなうのですが、私は平面研削盤(研磨機)にて

おこないました。 もちろん理由はより高精度を求めたからです。

↑NC平面研削盤(実際にヘッド面研をしたのはこれではなくもっとベッドの大きな研磨機です)

一般的なフライスによるフェイスカッター使用のヘッド面研では出せる精度はせいぜい2/100mm程度

ですが、研磨機による研磨ではその10倍以上、1/1000mm単位、つまりミクロンオーダーでの精度が

出せます。 しかもフライスとは比較にならないほど綺麗な面となるので、とくにメタルガスケットの

ように相手に高精度な仕上面を求められる場合には効果的です。

このことにより、通常のフライスの面研よりも密着度が上がるため、よりガスケットの吹き抜けに強く

なるとともに熱伝導性も向上するためヘッドからブロック、ブロックからヘッドへの熱の逃げも良く

なるので、結果としてアンチノック性も向上します。

ただし、こうしたアルミ鋳物の研磨を綺麗に仕上げるには「熟練職人の技」が必要です。 技術のない

人がやってもアルミ研削は表面にカジリやムシレが生じてなかなか綺麗に仕上がってくれません。

↑研磨加工後のヘッド。 研磨量は0.045mmとなりました。

↑研磨面のクローズアップ。 一般的なフライスによる面研との差は歴然だということが

解ると思います。 研磨機による面研は面精度、面粗度ともにまったく格が違います。

なお、この面研およびポート研磨加工後は超音波洗浄機にて洗います。

 

これでヘッド側の加工はすべて完成となります。


※今回の研磨機によるヘッド面研に興味のある方はご相談いただければ当方でお引き受けでき

ますが、通常の内燃機屋さんでおこなうヘッド面研の3倍〜5倍ほどの金額がかかります。

また、研磨機は1/100mm単位で削っていくので、フライスのようにコンマ何mmという単位

になるとかなり時間もかかり大変な作業になりますので、研磨量が多くなればなるほど単価も

高くなるという性質があります。

ですので、おこなう場合は基本的に面修正程度(0.1mm以下)くらいを基準としてください。

それ以上の場合、たとえば0.3mm面研の場合はまずフライスで0.25mm程度削り、残り0.05mm

を研磨にて仕上げ加工するという手順をとることもあります。

また、機械の大きさの関係であまり長いヘッドはできませんので直6エンジンくらいになると

ちょっと難しいかもしれません。 4気筒エンジンまでなら問題はありませんが。

なお、シリンダーブロック側の研磨機による研磨は機械の寸法の関係で当方ではできません。

 

ただ、現実的にはそこまでして精度を出したからといってエンジンの性能にどう影響が出るかと

問われるとハッキリ言ってほとんど意味はないです。 通常の内燃機屋さんで行っているヘッド

面研でも必要十分な精度は出せますので。ここまでやるとまさにただの自己満足の世界です(笑)


えんいー! ヽ(´ー`)ノ~~~