イニシャル点火時期の調整。
確認を兼ねてちょっといじってみました。
●K6Aエンジンのイニシャル点火時期はBTDC(上死点前)5度±1度/950rpmとなっています。
K6A(旧規格)はオーソドックスなディストリビュータなので、これを回すことで調整します。
ちなみにJB23などの新規格K6Aエンジン(ダイレクトイグニッション仕様)では、この点火時期
のイニシャル調整はレジスタの差し換えによる抵抗値の変更によっておこなうようになっています。
私のクルマは以前にECUを交換した際に一度、自分で点火時期は確認したのですが、なぜか私の
エンジンははじめから2度ほど進角した状態、つまり新車状態からBTDC7度になっていました。
まぁ、遅れているわけではないので、これはこれで構わないのでそのままにしておりました。
別段、不都合もありませんし、タイミングチェーンが伸びてくればそのうち遅れる方向に向かう
わけですので、それを見越して予め進めてあるのかもしれません。
ですが、今回はこのイニシャル点火時期をちょこっといじってみて、エンジンの様子が変化するか
どうか試してみることにしました。
●実際にいじる前に
まず、このイニシャル点火時期について書きますが、通常は点火時期の進角はECUがおこないますが
それの基準となるのがこのイニシャルポイントです。 ECUはこのポイントを基準として、相対的に
何度進角させるかということをおこなってます。
ですので、このイニシャルを調整するということは、全回転域で同じ分量だけ進角/遅角するという
ことになります。
またディストリビュータのベースにはクランク角/気筒判別センサーもついていまして、ディストリ
ビュータを回すということは、ECUがすべての判定位置としているクランク角度の基準をずらして
しまうことになります。
ですので、たとえばインジェクタの噴射タイミングにも影響を与える(多少のずれなら大きな問題は
ありませんが、K6Aはシーケンシャルインジェクションなので、あまりずれると空燃比に影響が出て
きます)ことになりますのでほどほどの調整にしておいたほうがいいです。
●ノックセンサーについて
K6Aエンジンにはノックセンサーがついています。 これは文字通りノッキングを感知すると、安全
を見てそれ以降の点火時期を遅らせて、エンジンの破損を防ぐ働きをします。
もちろん、このノックセンサーからのフェールセーフが働くとエンジンパワーもダウンします。
ですので仮にノッキングが出たとしても、そう簡単にはエンジンが破損しないようにはなっているの
ですが、このノックセンサーは全回転域で有効なものではありませんのでご注意ください。
一般にノックセンサーは高回転での周波数による誤動作を防ぐために、6000rpm付近までしかフィード
バックが働かないようになっているのが普通です。(※K6Aエンジンについては未確認ですが)
たとえば、6000rpmまではノッキングの兆候がなく、6000rpmを超えたところでノッキングが出ても
ECUは点火時期を遅らせてくれない可能性があります(A/R12クラスのタービンですと、パワーバンド
は常に6000rpmより上になりますので、そう考えると本当に危険な領域ではノックセンサーはほとんど
意味をなさないことになります)ので、この状態で踏み続けると、最悪はエンジンが破損することに
なります。 確認はしておりませんが、いちおうご留意ください。
●実際に点火時期を変更してみます。
↑このような工具を用意するとやりやすいです。
JA22のデスビはバルクヘッドのすぐそばで非常に作業性が悪い位置にあります。 ですので、通常
のL型レンチですと高さ方向の力点のずれがあり力の入り方があまりよろしくなく、無理におこなう
とネジ穴を舐めてしまそうになります。 それで私は上の写真のようなかたちでおこないました。
なお、デスビの位置決めに使われているネジはトルクスヘッドで、40サイズです。
↑このように使用します。 このネジ1本緩めればディストリビュータは回ります。
●タイミングライト
↑タイミングライト。 1番シリンダーのプラグコードに繋ぎます。
●ダイアグノーシスカプラの短絡
↑マスターバッグのそばにあるダイアグノーシスのカプラ。 普段はゴムキャップが被っています。
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↑このC-D間を短絡(直結)することにより、ECUの進角がキャンセルされますので、イニシャル
位置になります。 この状態で点火時期を確認します。
●エンジンは充分に暖機して、アイドリングが950rpm±50rpmであることを確認します。
●調整後はダイアグノーシスカプラの短絡を解除して、ECUによる自動進角がされることを確認します。
●実際に試した結果です。
☆ノーマル基準位置:BTDC5度
これが標準位置です。
私のクルマのECUはスズキスポーツのN1ECUですので、ハイオクガソリン専用ということですでに
ECU本体のマップのほうですでにノーマルに対して平均5度程度進角させてあることになっています。
ですので本来はこの状態で乗るのが理想です。 たしかに実際に乗りやすく、自然な感じでいいです。
ただ、この標準位置にすると今までと比較して排気温度はやや上がり気味になりました。
これは前述しましたように今までのイニシャルがBTDC7度付近だったもので、それを基準にする
と、相対的に2度遅角させたわけですから点火時期が遅れたぶん排気温度が上がると言うセオリー
通りの結果となりました。
☆ノーマルより6度進角:BTDC11度
一気にここまで進めてみました。 感じとしては4000rpm付近までのトルク感は向上しました。
これは、2000rpm〜4000rpm付近での点火時期の遅れが改善されたことによるものです。
一般に実用域のこの領域はわざと点火時期を遅らせていることが多いです。 これは、ブースト
の立ち上がりでのノッキングを防止することと、最高燃焼温度を抑えてNoXの発生を抑制するため
です。 ですので、この領域をノッキング寸前まで進めてやることは実用域でのトルク向上に
たいへん効果があります。
とくにEGRのついていないK6Aエンジンは、こうしたことでNoX値をクリアしていますので、ここ
の部分によって抑えられているトルクは大きいと思われます。
K6A以外でも、エンジンのトルクカーブを見ると4000rpm付近で不自然に落ち込む「トルクの谷」
が見られることがありますが、この理由はこのことによる場合も実は多いのです。
話がそれましたが、このセットだとなぜか高回転域ではそれほどパワー感は感じられません。
ノッキングこそ出ませんが、高回転で軽く回るわりにはトルク感が薄いといった感じになりました。
とくにパワーが下がったという感じではないのですが、比較的フラットな伸びに感じられます。
それと、この状態では5速全開だと空燃比がえらく濃くなります。
点火時期により空燃比にも影響が出ることはありますが、もしかしたら事前にノックセンサーの
フィードバックが働いて、点火時期および燃料マップをフェールセーフ方向にしているとも考えら
れます。 ただ、そのわりには最高速の伸びはさほど変化ないのが気になりますが…
あるいはインジェクタの噴射タイミングがずれてきたとも考えられますし、原因は不明です。
ただ、どっちにしても体感的にはパワー的にややダウンしていると考えて良いと思います。
また遅角とは逆に排気温度もかなり落ちました。 結論としてこのセットはあまり良くありません。
これ以上進めたらどうなるか…も興味ありますが、今回は試すのはやめました。
☆ノーマルより3度進角:BTDC8度
結局、このあたりが一番いい感じです。 低速から高速までちょうどいいバランスで回ってくれます。
排気温度、空燃比もバランスがよく、試しにブーストを1.5kまで上げて5速全開してみましたが高速
の伸びもよく、このへんが妥協点ではないかと思います。
↑わかりにくいかも知れませんが、調整中にタイミングライトで照らしながら撮ったものです。
(何枚も撮ったのですが、うまく撮れたのはこの1枚だけでした)
この写真ではクランクプーリの合いマークはBTDC7度〜8度付近になっています。
●とりあえずこんな感じになりましたが、電子制御エンジンでのデスビ回しによる点火時期進角
は本来の方法ではありませんので、自信のない方はあまり気楽な気持ちではいじらないほうが
いいと思います。
詳しくは空燃比セッティングのほうでもまた書きますが、K6Aはエンジン回転数とインテーク圧力
からエンジンにかかる負荷を推測していますので、同じブースト圧/回転数の場合、たとえば3速で
ノッキングが出なくても5速ではノッキングが出る可能性がありますので、安全を優先するなら確認
は5速全開でする必要があります。
(ジムカーナ等で3速までしか使わない等という場合は、3速までで合わせてもいいかと思いますが)
NAの場合はすぐにエンジン破損につながる可能性は低いかも知れませんが、ターボの場合は
簡単にピストンが棚落ちするなどのトラブルになりますので注意してください。