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何だかわからない機械のピーッという音で目が覚めた。
今日から以前の平日のメニューに戻る。部屋のお年寄り達は「今日は500だ」「今日は1000だ」と雑談、高校生君は手術前で食事が取れず、家族が来ているのに、落着かない様子でうろちょろしている。高校生君に「がんばれよ」と声を掛けてリハビリへ。
先生には新しい患者さんがついて、私が数日前にしてもらったことをしている横で、前回と同じメニューをこなす。始めは少し慣れてきたかとも思ったが、最後はやはり前と同じく汗と疲れ。
戻ってきてみると高校生君のベッドも片づけられており、すぐに代わりに一見元気そうなお年寄りと呼ぶには若い人が個室から移ってきた。隣の部屋からお年寄りもやってきて、みんなで井戸端会議。お互いに何回もの入院経験者で、顔見知りなのである。
「500だ」「1000だ」というのは、心臓関係の人のテストのことらしい。この第2病棟の廊下には、25M、50Mなどと印がついている。この印の付いた廊下を心電図の発信機を付けて歩いて、25Mで問題あればベッドの上の生活。50MでOKならトイレは行って良し。500MでOKなら病棟内は移動OK。地下の検査部の100Mの廊下を10往復して問題なければ、退院への基準クリアというわけである。午前中に同室の2人のお年寄りが1kmをクリア、もう一人のお年寄りが先日500をクリアできず、今日再挑戦とのこと。
隣の部屋のお年寄りは、年相応だが元気そう。盲腸以外昭和60年まで医者に手を握られるようなことはなかったのだが、仕事中に突然胸が押さえられるように痛くなり、その時は寝ているうちに直ってしまったのだが、翌年にまた突然痛くなり、翌日に病院に行ってみると心電図を取ろうとしたときに心筋梗塞の前兆が、エレベータで運ばれているうちに本当に心臓発作が発生し、そのとき18回も心臓発作が起きていたんだそうな。痛くなるのは狭心症で、心筋梗塞は痛みはなく、意識が遠くなるだけだが、その時には脈も心臓も止まっている。意識が戻ったときに「胸のこのやけどはなんなの?」と聞くぐらい、電気ショックを与えられるんだそうな。その後も脳拘束にもなってしまったが、幸い後遺症はほとんどなく、今年になって旅行しようとしている直前で、また発作が出て入院になっているとのこと。
今日この部屋にやってきた人は、実は60才とかで、一度狭心症で入院して、退院したけど4日ほどで再び発作が出て入院することになってしまったそうな。なんでも心臓の片側の3分の1が壊死してしまっているらしく、有効な手術がないとのこと。薬か、血管に管を入れて内側から広げる通称"風船"という方法で血管の通りを良くするんだそうな。狭心症と心筋梗塞は同じようなもので、狭心症が進んで血液の成分に影響が出ているのが心筋梗塞だそうな。前の入院中のときは、体を拭いているときに、お見舞いに来た人がちょっと窓を開けただけで、発作が出てしまったそうな。みなさん元気そうに陽気に話しているけど、すごい経験をされている。(なんでこんなに詳しく知っているかというと、井戸端会議が終わって、みんなお昼寝してしまった後も、ベッド上では元気なお隣同士で、会話が一方的に続いていたのであった。)
胸にひどい痛みが来たときは、落ち着いて直ってしまったと思っても、ちゃんと医者に見てもらうべき、ということだそうで...
さて、困ったことに、この一方的な会話が止まらない。昼食後に
「どこに勤めてらっしゃるの」
の答えを最後に、私はしばらく「へぇー、そうですか。」しか言えない会話になってしまった。ヤマハのバイクの第1号の赤とんぼの試作に関わったという話で始まり、そのままバイクの話なら私もついていけたのだが、工作機械の製作が仕事だったようで、バイクそのものにはあまり興味がないらしく、本田宗一郎と一緒に写っている写真や原辰則と一緒に写っている写真が出てきて、今ではこんなに立派になった人と知り合いだとか息子の嫁の兄がどうのとか自慢話が止まらなくなってしまった。私はこういうのに弱く、言葉が右から左へぬけるのみで、詳しくは全然覚えていない。
その人の体を拭くなどの中断のきっかけはあったのだが、それでも止まらず、やっと4時前に隙間が。ベッドで座っているのは結構尻が痛くなるので、その隙に横になったら、聞きつかれたのか本当に寝てしまった。
これでは夜に眠れなくなると、4時すぎには目を覚まし、トイレに行って戻ってきて、ちょっとぼーっとしながらLibrettoに向かいはじめると、
「仕事は何をしていらっしゃるの?」
を皮切りに、「私が入った頃に真空管をいっぱい使ったエレクトーンの前身の音を聞かせてもらった」から始まって、また止まらなくなり始めたので、寝ぼけているふりをして「はぁ。」と相づちを打ちながら頃合いを見計らい、どういう流れか話が「退職後に趣味でやっていた観音竹が評判良くて、最近はこれを商売にしている」という話題になったのをきっかけに「そりゃぁ、入院している場合じゃないですね。早く元気になると良いですね。」と言って話をそれとなくまとめてLibrettoに向かい、切り抜けてしまった。
良さそうな人なんですけどねぇ。今まで個室にいた反動ですかねぇ。他のお年寄りとなら、お互い経験豊富で会話になっているようだが、未熟者の私では聞くのみになってしまう。
失礼があって、発作を起こされてもたまらないし...
ベッドの間にはカーテンがあって、寝るときと服を脱ぐようなときや診察のときは閉められるが、普段は明るいように、普通にベッドにいるとお互いが見えない程度にちょっとだけ引かれている状態。でも、隣の人は反対に座ってたりするから、いつでも攻撃される態勢になってしまう。どうしたもんかねぇ。
このせいではないと思うが、今日も微熱が残っていた。
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