
- 3月8日(月) 「抜釘」
7時に目覚しをかけていたが、実際に目を覚ましたのは7時20分。危ない危ない。しかし飯を食うわけでもないので、慌てる必要もない。本当は入院患者は車で行ってはいけないのだが、車に乗って出発。
約束の8時半にちょっと遅れて入院受付けへ。書類を出して受付けを済ませるが、栄養士が来るのが9時なので、少し待っているように言われる。栄養士は入院中の食事の内容の相談をしてくれるのだが、1泊2日の私はどうでもいい。昨日の電話でわざわざ30分も早めて受付けを済ますように言われていたので、念のために確認。ちょっと待っていると栄養士よりも先に病棟からお迎えが来た。
お迎えのおばさんは、私の顔を憶えていてくれた。引き継いだ看護婦さんもやはり憶えてくれていた。やはり何週間も居ただけのことはある。:-)
案内されたのはなつかしの16病棟。病室に入る前に処置室で書類と足(の剃り具合:-)の確認と一通りの説明を受け、抗生物質に対する反応を見るための注射をされる。手術後は痛み止めの注射でなく浣腸をするんだそうな。前の時は注射だったので注射の方がいいなぁと言ったら、注射はきついですからと言われた。今日のお昼は当然ながら抜き。食事は夜からだ。
やがて病室へ。以前居た部屋とは違うがほとんど同じ部屋だ。すぐに隣のベッドにも患者が入って来て満室。病院の増築工事のために16病棟自体が少し狭くなったようだが、全ての部屋がほぼ満室状態のようだ。
病衣に着替えて手術に呼ばれるのを待つ。ベッドに着いたときに、看護婦さんにカーテンを半分閉められたので、わざわざ開けるのもためらわれて部屋の人達と会話する機会を失ってしまう。入り口近くのおじさんは愛想良く挨拶をしてくれたが、向かいの兄ちゃんらしき人は布団の中のままだ。
手術は11時頃からなので、あまりにも暇。雑誌を持ってこようと思っていたのに忘れてしまったので、下の売店から仕入れてくる。
11時を過ぎてやっとお呼び出しがかかる。看護婦さんに連れられて手術室へ。ベッドもなしに歩いて行く。何だか妙な気分。手術室の入り口で看護婦さんが手術の受付けを済ませる。受付けの横には手術を終えたときに横になったまま通る出口が2つ見える。病棟の看護婦さんとはここでお別れ。帽子を被らされ、手術室のサンダルに履き替えて、いわゆる手術をする格好をしたお兄さんに連れられて、手術室の中へ。と思ったら、更衣室と書いてある場所へ連れて行かれる。前の手術が終わったばかりなので準備中なのだそうな。診察のときに私の前にいた高校生の手術だろうか。
壁の向こうからはテレビのアニメらしい音が聞こえてくる。と同時に子供の泣き声が聞こえてくる。何やら先生のあやすような声も聞こえて来て、どんどん泣き声が大きくなってくる。と思っていたら急に静かになった。
別の手術の格好をしたお兄さんが現われて、こんどは本当の手術室へ連れて行かれる。その時さっき泣き声をしていた部屋を覗いたら、待合室のような所だった。ここで麻酔をうたれて手術室へ行ったのだろうか。
いよいよ手術台へ乗る。大きな時計が11時半を指している。前のときと同じように先生の姿は見えないが、一人、二人と私の周りに手術の格好をした人が集まってくる。みんな結構若い。タオルケットを掛けられて、病衣を脱がされる。心電図の電極を付けられる。向こうの方にはビデオとテレビが見える。準備をしながら、やたらと話し掛けられる。()は私。
「利き手はどちらです?」(右です。)
「あっ、こっちは左手でしたね。逆から見てると間違えちゃった。ハハハ。」(苦笑)
「ボルト全部抜くんですよね。」(いえいえ、内側だけですよ。)
「前の手術はいかがでした?」(眠っている間にあっというまでした。)
「手術のあと食事は食べられました?」(ちょっと遅くなったけどおいしく頂けました。)
「健康的ですね。これ、痛くないですか?」(いいえ。)
「この1年の思い出は?」(えっ、思い出ですか?もう最後じゃあるまいし。)
「痛くないですか?」(いいえ。)
「麻酔のされたときの気分は?」(気持ち良くすうっと眠れました。)
「痛くないですか?しつこいかな」(......)
この会話の間に左手に点滴をつけられ、何も言わずに麻酔を入れられていた。どうやら冗談半分で気分を落ち着かせようというのと麻酔の効き具合を試されていたような気がする。
しばし時間が過ぎて目が覚める。声を掛けられたのかどうかは憶えていない。ちょうど時計が見えた。ほぼ1時間経った12時半。「体温計入れますね。もう少ししたら病室に戻りますからね。」まだもうろうとしながら、「はい。」と返事をする。脱がされたはずの病衣をちゃんと着ている。体温は35.2度。びっくりするぐらい低いが、麻酔が効いていたからか。
やがてベッドが動かされる。リカバリールームという表示が見えた。手術室のベッドから病棟のベッドへ移るベルトコンベアのようなものへ体がずらされた。と思ったらそこでストップ。まだお迎えが来ていないようだ。もうはっきりと目が覚めて来た。見覚えのある、ちょうど手術室の中と外との壁の所で止まった状態になる。でもほどなくベッドに移ってガラガラと病室へ運ばれる。
麻酔は下半身以外は覚めて来た。意外と早い。戻ってきて数時間後、薬局の人がやってきて、飲み薬などの説明を受ける。浣腸もしっかり入っている。水などはまだ口に出来ないが、化膿止めのなめ薬を口に入れる。急にお腹が減ってきて鳴り出した。腸が動いている証拠だ。これで安心して晩飯にありつける。
点滴がつけられて、足首をときどき動かすように言われる。動かすように言われるのは前の手術のときと同じだが、痛みもしびれもほとんどなく、ちゃんと足先の感覚も戻っており、前の手術のときと比べものにならないぐらい楽だ。
点滴がついているのを忘れてウトウトとしていると、隣の人が手術から帰ってきたようだ。私の後に受けていたようだ。テープを渡しておきますので明日のリハビリのときに持っていって下さいねと言われている。そう言えば私のテープはないんだろうか?
5時頃、「浣腸入れますからね。」と看護婦さんがやって来た。私は生まれてこのかた浣腸をした覚えがない。だからもの凄く抵抗があったのだが、極めて事務的に、何も入れられたような感覚もなく、あっというまに終わってしまった。さすがプロ:-)。お腹の動きも確かめてもらい「お水は飲んでいいですよ、食事は点滴が終わってからにしますね。」ということになった。
食事のお茶のポットが置かれた。取りに行けるかなと初めてベッドから立ち上がってみる。意外と不安はない。一安心。トイレにも行ってみる。前の入院のときとはえらい違いだ。
2本目の点滴を受けながらお茶を頂いていると、汗びっしょりの先生が入ってきた。
「きれいな靭帯が出来てましたよ。ボルトはもらった?看護婦さんに聞いてみて。ビデオは撮ってなかったかもしれないね。」
手術室にテレビとビデオが見えて、しかも準備をしていたからてっきり撮っていたものと思っていたら、あくまで作業用のモニターだけで、テープは回っていなかったようだ。
念のため点滴を外しに来た看護婦さんにボルトとテープの件を聞いてみる。もう手術担当が帰ってしまっていて、わからないという。私のボルトは処分されてしまったのだろうか?
みんなよりちょっと遅い夕食を頂いて、しばらくしたらもう消灯の時間。昼間にあれだけ寝た筈なのに、あっさりと寝てしまった。
ちなみに「抜釘」は「ばってい」と読むんだそうな。