
ZX−9R
『武・勇・伝』伝説すべてはあの日から始まった…
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かっ飛びね〜ちゃん「ゆっこ」の、壮大な大型自動二輪絵巻 |
ツーリングでのお騒がせ談
・その1.取り残される
・その2.無茶ないろは坂
・その3.懲りないライダー
彼女は焦った。
晩秋に入りかけたばかりの涼しくも暖かい11月1日。箱根ターンパイクの下りの坂道を、気持ち良く下りながら横目で景色を眺めていた時のちょっとした隙だった。目前に、石垣のあるコーナーが迫っていたのだ。彼女の遅すぎるミスだった。気づいてからのその距離、目測わずか約100m。時速、推定60Kmは裕に超えていたことだろう。その時の彼女には、スピードメーターを見ている余裕などなかった。心は「石垣にぶつかりたくない。」それだけ。それほど直前に石垣が迫ってきていたのだ。エンジンブレーキでスピードを落とし、前輪・後輪ブレーキを掛けた瞬間、「ずるっ。」後輪が滑った。その直後、リッターバイクにしては小柄ながらも厚みのある“ZX−9R”が音を立ててふらついた。後輪ブレーキを強く掛けすぎてしまったのだ。「危ない・・・。」
車体が暴れ馬のようにふらつくZX−9Rが転倒しないよう、自分が吹き飛ばされないようにまっすぐ車体のバランスを取っているだけで彼女は精一杯だった。そして・・・。
「×××!!!」
プラスチックが割れる音と、木と石垣が擦れる音とが交わった今までに聞いた事の無い凄まじい無気味な音を彼女は遠くで聞きながら、ヘルメットを被った頭をアスファルトに叩きつけ、そのまま道路の端にある小さな下水道に体を埋ずめたのだった。***このような事故を起した彼女の、バイクに出会ってから事故をするまでの少ないバイクライフを辿ってみることにしよう。何故なら彼女にとって「バイク」は、人生の転換となるほどの心の大きな源となったからだ。***
彼女がバイクに乗ることがなれば、事故ることもなかったのかもしれない。しかし彼女には、親に反対されても乗りたかった理由があった。“バイクに乗りたい”ただそれだけの純粋なものだ。根拠は無い。確かにバイクに憧れていたのは事実だろう。しかし、「カッコイイ。」という見た目だけではなかった。
「男の子になりたい。」
そう憧れてた時期があった。それはずっと昔の物心がついた頃の彼女の思いだ。Tシャツ、またはトレーナーにズボンという姿がいつもの格好だった彼女が、晴れた日になると自転車で遠出をし、そんな時いつも「ペダルを漕がなくても走れる乗り物があればいいのに。」と思うのだった。幼い頃から車の車内が彼女にとって第2のベットだったこともあるのだろう。お人形さん遊びよりも乗り物に興味があったのは間違いない。そんな彼女が“バイク”という乗り物へ心を惹かれていったのは、中学生の時。当時、赤石路代という漫画家を好きな彼女が揃えていた、マンガ本の主人公の女の子が、オフロードに乗って北海道から東京にある、宗教団体を潰しにいろいろな危機を乗り越え、その目的を果たすという内容のものだった。少女漫画というのは必ずスマートなかっこいい男性が出てくるもので、その本にも1300ccに乗った渋い男の人が出てきていた。彼女はその時何を血迷ったのか、「私も1300ccに乗る」と心に決めたのだった。
さて、「1300cc」のバイクを乗ると心に決めた彼女の夢は、そのままずっと高校を出て社会人となるまで幾度となく遮られてきたのだが、その度、心の中でその夢を温めつづけてきた彼女。そしてやっと、その夢を実行に移す時がとうとう来たのだ。あれは4年前の春真っ只中。太陽の日差しがジリジリと肌に痛くて暑かった、5月のゴールデンウィーク。知り合いの“GPZ−900R・ニンジャ”で湘南までタンディムしてもらった時のことだ。その時の彼女は嬉しくて、バイクの風が気持ち良く、サイコーな気分だったことだろう。しかしここで不満が募った。「怖い」と思ったのだ。しかも、後ろに乗ってること事態が「怖い」のだ。乗り方が悪かったと言えばそれまでだが、彼女は非常に「怖かった」のだ。そう思った彼女は「後ろに乗るくらいなら自分で運転する。」と新たに夢への思いをはせ、とうとうその4ヶ月後、普通自動二輪免許を取りに教習所へ足を踏み入れたのだ。そう。彼女の“バイク乗り”、そして“ZX−9R”でのことはすべてここからが始まりだったのだ。
4年前の残暑の厳しい8月の終り。彼女は流れる汗を拭きながら一人、都内にある教習所へ訪れた。目的はもちろん「普通自動二輪免許」の取得。最初に400ccの引き起こしをどこを持って起すなどと教わったのち、彼女はそれに取り掛かった。ところが教官は彼女の引き起こしのダイナミックさに、驚きの顔を隠しきれていなかった。「初めてだよ。そんな所を持って引き起こしをした人は。」今となっては彼女自身、どこを掴んで引き起こしをしたか定かではないが、彼女の後ろの手が、シート下のプラスチック部分を掴んでいたのだろうと曖昧だが記憶している。
その後本格的に「普通自動二輪免許」の教習が始った。卒業検定までに12時間という教習時間で済むはずが、4時間オーバーの16時間となる。誰しも一度は教習にめげた人がいたことと思う。彼女もさほどの事が無い限りめげる事がないのだが、この時ばかりはバイクに乗ることを甘く見ていた自分の愚かさ・バイクのバランスや重さなどで一段階からしょげたものだった。しかし長年の夢の為、台風の雨で路面が滑りやすくなっていても、教習所に通った。「自分にとって教習は、これからのバイク人生においてなくてはならないものだから。」そう思えば辛くても、たとえ1時間の教習に4・5回立ちコケしそのたびに引き起こしをしても、前のように落込む事もめげることもなかった。そしてついに卒業検定をするまでに進んだのだ。しかし、最初の検定で思いも寄らなぬ所で失敗し「検定中止」となってしまう。急制動で脇にあったポールを倒したのだ。結果を聞けば「それさえなければ合格だった」と告げられたが、彼女はめげることなく補習の教習を喜んで行い、その後2回目の卒業検定では見事合格、その週に免許の書換えをした。ところが、彼女はその免許が不満だった。何故なら彼女は車の免許を取得していたが、その免許の但し書の欄に「眼鏡あり」と一緒に「中型免許とする」と記載されていたのだ。彼女の夢には一歩ずつだが近づいたものの、まだまだ「1300cc」には果てしなく遠かったのである。
さて、彼女がバイクに乗れるようになったまでの話しをここまで進めてきたが、読んでいる方にとってはきっと、疑問が出てきている事と思う。「たかだか一度のタンディムで、後ろが“怖い”と感じたというだけで、自分でバイクを運転したいと思った、それだけじゃないだろう。」そう思ってる人も、中にはいる事だろう。男性がバイクに乗るということは、そう不思議がられる事ではない。しかし、女性ともなると話は別だ。周りは思うものだ。「なんで女性が乗るんだ。」と…。「危険だ。」とも…。ではなぜ、女性がバイクに乗るか。「それにはだいたい三つのケースがある。」と彼女は思う。
一つ目は「好きな人(彼氏、もしくは旦那)が乗ってるから。」という、ごくごく女性らしい思いからのもの。二つ目は「周りが乗っているから。」という家族・友人・親戚その他の、周りの影響から来るもの。そして三つ目は「ようやく乗れる状況になった。」という乗ることへの夢を、タイミング見計らって実行に移すというもの。さあ、彼女はどれに当てはまるのだろうか。彼女の場合は、三つ目の「ようやく乗れるタイミングが来た」となることだろう。確かに一つ目の(彼氏)の影響もあったかもしれない。それも事実だ。しかし、バイクに乗ると決断したその頃には、影響されることのない生活になっていたのだ。彼女は言う。「もし影響されてただけだとしたら、別れた以降必要ないと思えば、バイクに乗る事はなかったであろう。しかし、そうはしなかった。それは、“夢”だったからだ」と…。意地ではない。ホントに「彼女がバイクに乗ろうとするのに、いいタイミングが訪れた。」これも事実だったのだ。
話しを、彼女の免許書換えのその後へ戻そう。
やっとのことで“400cc”ではあるが、バイクの免許を取得したということで、希望に燃えていた彼女。教習所へ通っている間にバイク雑誌を買いあさっては、「何を買うか。」と、選ぶことに心を弾ませていた。が、ここで手堅い壁が彼女の夢を遮っていた。そう。実は彼女、自動二輪免許の取得はおろか、その為に教習所へ通っていたとは両親には話していなかったのだ。そして尚且つ、免許書換えの時に車で免許センターまで行った彼女は、その理由を「車の免許の更新」と嘘の理由を言っていたのだ。
「どこまで嘘が通るだろうか…。キット閻魔様に舌を抜かれることだな…。しかし、自分の夢はどうしても捨てられない。」そう彼女は自分の胸にもう一度確かめた後、とうとうバイク購入への道を歩み始めたのだった。彼女が乗りたいと直感で思ったバイクは“YAMAHA XJR400R”通称「ぺけじぇ〜」と呼ばれるネイキッド型のバイクだった。近くのバイク屋へ両親に内緒で車で出かけたり、会社帰りに、バスでそこまで足を運んだりと、着々とバイク購入への道のりを縮めていった。
そしてついに、自動二輪免許取得から3週間後。親に内緒で“YAMAHA XJR400R”を現金一括払いで支払。その3日後、彼女は母と一緒に車で、バイク屋へ足を運んだ。購入したバイクを家へ乗って帰るのだ。もちろん、両親には最後の最後、バイクを家へ乗り着ける前日まで内緒でいた。彼女の今までの経験上、反対され「お金を返してもらってきなさい。」と言われるのが目に見えて分かっていたからだ。親か、夢か…。彼女はバイクを家へ乗り着ける前日まで、両親に事実を話す日まで悩んだあげく、「自分の夢へ、力一杯進んで行こう。」と決めたのである。唖然とした両親の反対を押しきって…。
「教習所で路上運転したかった…。」
母と一緒にバイク屋に来た彼女は、初めて運転するXJR400Rの感覚が掴めずに、半クラでの発進にも、今にもウイリーしそうなほどにアクセルをふかしていた。その様子を見た彼女の母はさぞ、冷汗モノだったことだろう。そんな心配そうな顔をして見送る母の顔を振りきって、彼女は教習所を卒業してから初めての路上走行中にそう思ったのだった。
そして、その2日後。彼女は自分自身の運転に不安を持ちながら一人、6時過ぎの涼し気な風と、オレンジ色の朝焼けを背に受けながら、慣らしの終わっているXJR400Rで国道を走っていた。彼女の購入した愛車、XJR400R愛称「かずさ」は、購入した時にはすでに900kmを走り終えていて、初めて乗る彼女のような初心者には実に丁度良いシロモノであったのだ。空いている国道を我が物顔で走りながら、これから初めて会う人と、これまた初めてのツーリングへ不安と期待を胸に、待ち合わせ場所へ向かっていた。
「がっしゃぁ〜ん!」
「あぁぁぁぁ〜あぁぁぁ〜!!!」
「やっちまった。」心の中でそう思った彼女。半クラが上手くいかずに立ちコケしたのだ。すでに初めてのツーリングが始まっていて、峠を目指してどんどん山の方へ向かってる時だった。その時集まった人数11名ほど。バイクの車種はそれぞれで、彼女を除いてはみんなバイク経歴の長い人ばかり。すでにバイクを倒すまでに、免許を所得してから運転日数が少なくいろんな意味で危ない為、先頭から2番目に走っていた彼女は、信号待ちをしている間に教習所で馴らしたバイクを乗っている人と、バイクを換えた。後ろから見ていて彼女の運転に危険を感じたらしい。しかし、乗り換えたバイクを乗っている彼女の運転は、それほど危なくないと20分ぐらい運転を見守られ判断される。そして彼女の「かずさ」での半クラが悪い事を指摘し、「クラッチのつなぎが悪くエンジンの回転数が高い」と調節してくれたりと、初めて会う仲間の人達に心配させていた直後のことだった。
しかし、彼女のお騒がせはそれだけでは納まらなかった。彼女を含めた11人はようやく目的地まで行く為の最初の峠に差し掛かった。リーダーは言う。「この峠を越えると小さな駐車場があるから、そこで待ち合わせしよう。」と…。彼女ともう一人バイクを乗り換えした人を残し、他のメンバーはそれぞれの走り方で去っていった。さて彼女といえば、もう一人の人を先頭にこわごわと峠の上りを走っていた。初めての峠であった為、シフトチェンジが上手くいかず、そのうち今まで見えていた先頭の人が見えなくなってしまった。しかしその人に言われた「マイペースでいいんだから。」を自分に言い聞かせながら、馴れないバイクで登ってっている彼女の目の前に、最悪の事態が広がっていた。峠が突然、砂利道になっていたのだ。ビックリした彼女はとにかくそのままゆっくりと走っていたが、シフトチェンジが上手くいかない彼女はそれが祟って、とうとうエンストを起してしまった。「このままどうすればいい?半クラで砂利道走るの?ワタシにできる?でも誰も通らない、誰もこない…。」
自動二輪教習でめげて以来の半泣き状態になった彼女は、数分こそで立ち往生。「けど、みんなが待ってる!」ようやくがんばらなきゃと彼女の少しのファイトで動き出す「かずさ」。無我夢中で砂利道をとにかくコケないようにと、ガタガタ揺れる車体を必死にバランス取ながら、アスファルトの平地になるまで登っていった。いかし、いくらいくら登ってもアスファルトは見えてこない・・・。滅多にめげる事のない彼女は、この時ばかりはさすがに「参った」と、彼女はこの時の事を振り返ってみてそう語った…。そして、まだまだ彼女の苦労は続く。
「ぎゃっしゃぁ〜ん!」
「かずさ」の2度目の転倒だ。今度は、ようやく峠を登りきり、みんなの待つ小さな駐車場に着いた後に起こったことだ。相当遅れて到着した彼女を、仲間の人達は笑顔で迎えてくれた。「びっくりしただろう?俺らもびっくりしたよ。なんせ、この前来た時は舗装されていたはずなのに、今日来たら突然砂利道だろう〜…。焦ったよ。けど、無事に君も着いてよかった。」と励まされ彼女の心は次第に落ち着きを戻していった。そして全員揃った所でこれから目的地へ向かおうとしたそんな矢先だ。またもや半クラで立ちコケを起したのだった。しかし今回ばかりは軽くでは済まず、右ウインカーを割り、右クラッチバーを曲がらし、タコメーターのカバーをも外してしまうほど、今回の転倒は派手に転んだ。そこまでバイクが破損したのだ、もちろん彼女の体にも影響はあった。右膝下と両方の手のひらを路面で擦り、少々なりとも血を流す怪我を負った。むろん、すぐさま休憩となる。そしてまたもや彼女は落込みかけた。「またみんなに迷惑かけてしまった。」と…。そんな彼女の落ち込みをよそに、仲間の人達はにぎやかにバイクの補修を行なっていた。「けっこう曲がるもんなんだね、クラッチバーって。折れなくて良かったよ。」「このウインカー、あのコケ方でよく形が残ったもんだね。」などと彼女の気持ちを知ってか知らずか、楽しそうに彼女に話しかける人達。彼女もその楽しそうな輪の中で、いつのまにか笑っていた。彼女はのちに、この時の体験から「初めて乗るバイクでのツーリングは、一人より大人数で一緒に行った方が絶対」と、そして「バイク乗りの仲間意識は強い」と感じたと言う。
「かずさ」の傷の手当が終わった一向は、目的地である“日光”を走っていた。すでに先ほどの峠で日光へ足を踏み入れていたが、有名どころの中禅寺湖や戦場ヶ原は立寄らずに、横目でその場を走り去っていた。そこに着いたのが、お昼をとうに過ぎていたからだった。しかも10月中旬の日光。夕方になると昼の気温と一変して急激に寒くなる。それを避ける為、できるだけ夕方前に日光を下りるのが賢明の策と、休憩中に決めたからだ。紅葉もキレイな日光には数多くの旅行客と観光客で込み合っていた。そしてもちろん道路も…。
いろは坂の下りへ向かうまでなんどか渋滞を抜けてきた。彼女にとっては初めてのすり抜けだった。その道は狭く、両車線渋滞中。センターラインに添りながらのすり抜けもままならないそんな道は、両方とも下水道が蓋がされていなく、その穴にはまらないよう、横の渋滞にはまった車とぶつからないよう、車の内側をすり抜けるのに気を使い、しかも馴れない「かずさ」でバランスを取る。先頭を見逃さないようにと気も配り、先頭との車間にも気をつける。彼女の頭の中はあれもこれもと気を使うのにパンク寸前。そんな中、いろは坂入り口に着く。小学校の時に遠足でバスの中で「い〜、ろ〜、は〜、に〜」と大声で楽しく下りていった坂を、自分のバイクでこれから下って行くのだ。不思議な感覚に捕らわれた。しかし、そんな悠長な事を言っていられない。いろは坂も渋滞しているのだ。そして一向は坂にもかかわらずすり抜けを続けていた。もちろん彼女もすり抜けしながら下って行く。のんびり走っている車を内側から抜いたり、外側から抜いていったりと・・・。時には観光バスの内側を抜いて行く事もしばしばあった。しかし彼女は、そんな行動に逆に楽しさを覚え始めていた。「つぎはどう抜こう。」すり抜けの楽しさを知ってしまった彼女に考えさせられる事がいろは坂の途中で起きた。仲間の一人がいろは坂で転倒したのだ。原因は車の強引な割り込みだった。しかし運良く後ろの車が止まった為、その人に大きな怪我はなく、バイクも多少の傷で済んだ。その瞬間は見なかったものの、もし車が止まってなかったらもし自分だったらと考えると、身が引き締まる思いがした。「無茶な運転をしたものだ。」彼女はそう自分の運転を振り返りそう自覚した。そして今も、その時の事を振り返りながら、彼女はそう再び呟いたのだった。
日光での衝撃的なツーリングデビューを飾った10月から早、1ヶ月。彼女は怖い思いをしたのにもかかわらず、その時の仲間と一緒に峠を目指して走る事となる。今回は奥多摩周遊道路だ。11月の半ばという事もあり、多少まだ暖かいと思われる、近くの山でのツーリングとなったのだ。もちろん彼女は奥多摩周遊道路を走るのは初めて。いつのまにか彼女の指定場所となりつつある先頭から2番目を、いまだに危なっかしく走っていた。しかも「ガソリンスタンドに行きたい!」と心配をしながら…。
それはその日の早朝だった。全員集合場所へ向かうのに、その中のメンバー4人と地元付近で待ち合わせをしていた。先に着いていた1人と一緒に、彼女はバイクから降りて話しを弾ませているころに、残りの2人がようやく到着。さていざ出陣とバイクから少し離れたその時だ。彼女のバイクがゆっくりとふわぁ〜っと倒れた。「がしゃ〜ん。」なんだかやる気のなさそうな音がした。それもそのはず、バックミラーにヘルメットを掛けたまま倒れ、犠牲になったのはバイク自体ではなくヘルメットだったからだ。しかし、倒れたものは倒れたのだ。せっかく前日に満タンにしてあったガソリンは虹色に輝きながら、彼女の「もったいないことを。」の気持ちをよそにゆっくりと流れていた。周りは笑った。「どうしたの?」と彼女に聞くが彼女本人、何故倒れたのかを周りに教えて欲しいと思った。しかしその間、ガソリンは有無も言わさずにゆっくりと相変わらず流れ出ていた。4人もいれば心強いもので、ものの数秒で倒れた“かずさ”はようやく立つ事が出来た。しかし今度は、彼女が歩道の段差に足を引っかけて躓き倒れそうになる。また周りは笑う。「きっとかずさもその歩道の段差で倒れたんだね。」自分の体を張って“かずさ”が倒れた理由を知った彼女は苦笑いをしながら、てっぺんがバリカンに剃られたようなカタチで傷ついたヘルメットを被り、4人で全員の集合場所へと向ったのだった。
「左・ひだり」
先頭で走っていた人がガソリンスタンドを見つけた。彼女はホッとした。そしてどのくらい朝の立ちコケで溢したのか楽しみでもあった。それは空ぶかしのすごい彼女の事だ。リッター17kmは走るといわれる「XJR400R」ではあるが、彼女の場合は12,13kmくらいしか走れないのだ。どのくらい入ったかは定かではないが12リットルは入ったと思われる。そして、キレイに整備されている橋を渡り一向は奥多摩周遊道路へと足を踏み入れた。
「ずずずずず…・。」
彼女はうどんをすすりながら笑っていた。「悪運強いねぇ〜。」朝一緒に待ち合わせ場所に向った人に彼女はそう言われ、苦笑いをした。「対向車がそのあとに来てたしさぁ。」「本当に危なかったよね。」と周りの仲間に言われ、今ここにいてよかったと彼女は胸をなでおろしていた。そんな危険な出来事は奥多摩周遊道路に入って、登りの峠を上っている途中の頃に起こった。相変わらずのマイペースと上手くいかないギアチェンジ、タイミングの悪いブレーキで、おっかなビックリ運転していた彼女は、左カーブを曲がりきれずに、勢いよく反対車線に出てしまったのだ。おりしも、その道路の真ん中には一定間隔に開けられたポールが並んでいる道路。と、いうことは…。そう簡単に、反対車線には出れる道路ではなかったのである。その道路からどうやって反対車線に出たのか…。彼女の気持ちでその時の様子を再現してみよう。
「わっ!!!曲がれない!!!げっ、ポールがぁ〜〜!!!どうしてこんな所にポールなんか立ってんだよォ〜!!!どうかポールにぶつかりませんように!!!ありゃ!?反対車線に出てしまった…。戻る時もポールにぶつからないようにしなきゃ!!!お願い!!!ぶつかりませんように!!!」
こんなところだろうか。「マジメに、その時は神にもすがる思いだった。」彼女は言う。そしてその様子を後ろから見ていた、バックミラーで見ていた仲間は「事故るなよ!」とビックリして無事を願ったという。そしてこの悪運の強さはまだ続いた。というのも、彼女がようやく反対車線から戻ってきたその直後、対向車がそのカーブを曲がってきていたからだった。彼女には「あっ、対向車が来た。」とそれほど重要には思っていなかったが、周りはその様子を「間一髪。」といい表す。それほど危なかったらしいのだ。またも運が味方してくれたことに有難く思った彼女のハプニングは、これだけでは終わらなかった。
それは奥多摩周遊道路を無事事故も無く降りてた帰りの事だ。彼女の運転は前にも話したように、あまり燃費のいいものではない。となると、もちろんガソリンスタンドに寄る回数も多くなる。そんなガソリンスタンドに寄った何度目かの時に、彼女はあるものを無くした。それも今いる奥多摩から帰るのに、重要なものだ。それは…。「コンタクトレンズ。」しかもハードコンタクトレンズ。彼女の裸眼は0.05ととても悪く、初めてツーリングに行った時も彼女は眼鏡ではなく、コンタクトレンズをしていた。眼鏡は枠の内(矯正度数)と外(裸眼)の差がとても疲れるのでという理由から、日ごろつけているコンタクトレンズを、そのままバイクに乗る時にも装着していた。その時はゴミが目に入ったように痛くて仕方の無かった彼女は、ガソリンスタンドで水道を借りた。コンタクトはなかなか外す事が出来ず、苦難を強いられていた。そんな最中…。「コロン〜。」水道に栓がなかった為、彼女のコンタクトレンズは下水へと落ちていってしまった…。唖然。どうするすべがない。呆然とその場を離れ、眼鏡を持ってこなかった彼女は片方をコンタクト、片方は裸眼で何事もなかったようにバイクに乗り込んだ。そしてその日の家へ着くまで「がちゃ目」で帰る事となったのだ。しかしその事は、一緒にツーリングに来ている仲間には言わかなった、というよりも言えなかった。これ以上迷惑を、赤っ恥を見せたくなかったという、彼女のプライドが許さなかったからだった。
「がちゃ目」の運転は辛かった。両目を開けると視界が一定しなく車体が多少ふらついた。しかしそれを悟られるのを恐れた彼女は、今度は片目をつぶりながら運転し始めた。しかしこれの方が余計にアブナイと判断。彼女は仕方なく「がちゃ目」で運転することにした。
やがて日も落ち、夕食を食べて帰る事になった一向は国道沿いのファミレスへと入っていった。席に着き息抜きをしているそんな時だ。「目が赤いけど大丈夫?」誰かが彼女に聞いた。「それほど人に分かる程、目が充血しているのだろうか。」そう彼女は思い化粧室へと向った。すると…。両目が“うさぎさん”になっていた。真っ赤っ赤となっている自分の目を鏡で見ながらテレ笑いをした。「恥ずかしかった。とっても。」そう、その両目を見た瞬間の思いを彼女はそう語る。体を休めた休憩も終わり彼女は仲間達と、夜のイルミネーションの光の中へ「夜の国道を「がちゃ目」で走った人はいるだろうか。」そう思いながらバイクを走らせていった…。
2度目のツーリングも結局何事も無く終わる事はなかった。そして、そこからまたも彼女は学ぶ。「カーブを曲がる時は対向車に気を付ける事」とそして「バイクを乗る時はソフト・ハードを問わずにコンタクトをせず、眼鏡を装着する事。」と…。そんな彼女は、今でもパイロンのある道路は気に入らないと言う。彼女はその理由をこう話してくれた。『この時の様子を走馬灯のように思い出してしまい、圧迫感を感じてしまうからだ。』と…。