●シェイプアップして健康的になった8代目カローラ

1995年5月、AE110型と呼ばれる8代目カローラがデビューした。 開発の基本コンセプトは 『Value for Moneyを追求した、新時代のベストコンパクトカー』であった。 先代カローラは、バブル崩壊直後に発表されたが、急な時代の変化に付いていけず苦戦してしまった。 バブル期の贅沢な時代から一転、消費者のモノを見る目は一層厳しくなった。 価格破壊時代という言葉からもわかるように、世の中もモノの価格が段々と下がっていった。 スーパーマーケットにおいては自社開発により中間マージンを廃し、低価格を実現した 「プライベートブランド」商品が店頭に並び始めた時代である。 トヨタでは94年発売のセルシオ、カムリ/ビスタやターセル/コルサ/カローラ||から 車作りのテイストを大きく変えた。特に実用車では豪華すぎて車両価格が高くなりすぎた バブル時代を反省し、価格破壊を意識した車作りが行われカローラもこの流れに沿って開発されている。

8代目カローラを開発するに当たって、まず行ったことは、トータルコストオブオーナーシップの低減である。 トータルコストオブオーナーシップとは、自動車にまつわるあらゆるコストを合計したものである。 つまり新車の価格を安く、そして維持費を安くすることで「手のかからない車」になろうと したのである。そのために安全性の確保、環境への配慮を行った上で徹底的な低燃費化、コストダウンを図った。 これを開発担当の本多孝康チーフエンジニアは 「シェイプアップしてスリムに健康的に」というわかりやすいテーマに置き換えて表現した。 つまりバブルで少々贅肉がつきすぎた部分を徹底的なシェイプアップで 健康的な筋肉を身につけるというもので、最終的に車重はセダンで最大50kg軽量化に成功している。 衝突安全性を向上させつつこれほどの軽量化を実現することは容易ではないが、 このあたりは4年間の技術の進歩が可能としたことである。 この他に様々なコストダウンを行った結果、新車価格はセダンで15万円程値下げすることができた。 また維持費を安く抑えるため燃費の向上が図られ、 1500cc4速AT車の燃費は10・15モードで12.8km/lから16km/lへと大幅に向上した。 またバンパーを擦った時の修理費用削減とリサイクル性を考慮し、 上下二分割のバンパーを採用して話題を集めた。 このようにカローラは経済的な実用車としての要点をしっかりと押さえる事で 大衆車として再び強い支持を得ようとした。

ボディサイズは、大きくなったと言われた7代目よりも更に大きくなった。 これは主に衝突安全性の確保のためであり、全長で15mm、全幅で5mm、全高で5mm大きくなっている。 全長が増加したのは二分割バンパーの上面の張り出しを10mm程とった事が主な原因であるという。 このことから、やみくもに車体を大きくしようとは考えておらずに必要最低限の サイズアップであったということがわかる。 室内スペースはヘッドクリアランス+5mm、ヒップポイント+5mm、室内幅+15mmとなった。 ちなみにホイールベースと前後トレッドは変わっていない。 エクステリアデザインは、トヨタのデザイントレンドに沿ったシャープなものとなった。 エッジのきいた面を見せるデザインとなり、従来よりも引き締まった印象である。 プロポーションを健康的に見せるためにAピラーを20mm前に出して乗降性を高め、 キャビンを広く見せたほか、ロワーボディは四隅を絞って引き締めた。 このとこで車体が踏ん張って見える他に、取り回し性の向上を図っている。 取り回しといえば、8代目カローラではデザイン面からも検討した結果、 ドライバーから車体の端部が見えるようにボンネットの端を盛り上げたり、 トランクリッドをダックテール風の処理を行っている点が新しい。 前からの印象は、丸いバンパーなどから決別し、全体的にシャープでスリムな雰囲気になった。 サイドは保護性能を高めるために幅を広く、素地色としたサイドプロテクションモールが目を引く。 これが二分割バンパーとつながったイメージで黒帯を連想させる。 また従来よりキャラクターラインを下げることで低重心感を強調している。 リアはトランクスペースを確保するために従来からのハイデッキを継承しているが、 ガーニッシュを廃止したが、個性的ですっきりとしたデザインとなった。 またトランク開口部を一層下げたことで使い勝手を向上させている。

インテリアは軽量化とコストダウンの影響が最も現れた部分となった。 先代ではボリューム感が若干あり過ぎたとして8代目カローラでは すっきりとしたインパネを目指してデザインされている。 従来型はフルソフトパッド一体成形であったために豪華な印象を与えていたが、 リサイクル性と重量に難があるとして「トヨタスーパーオレフィンポリマー」という 新型低比重ポリプロピレンを採用した分割式インストゥルメントパネルとなった。 この硬質樹脂は手触りのときの感触が良くないため、手前側にはソフトパッドが採用された。 このソフトパッドは空調の送風ダクトを兼ねており合理的な設計である。 オーディオが最上段にある美点は継承されたつつ、先代の数少ない不満点であった ハザードスイッチの位置はドライバーに近い位置に移された。 内装色はグレーのほかに暖かみのあるオークという新色が採用された。 シートは従来のSバネとウレタンを併用したものから一転し、ウレタンのみを 用いたものとなった。ヘタリが欠点であるが、ウレタンの材料を高密度・高弾性にすることで ヘタリが出にくいものとした。これによってコスト削減効果と2.8kgもの軽量化を実現したという。 合理的な設計を徹底することで軽量化と低コスト化を実現したほか、リサイクル製にも配慮した 内装となったが、パーツ間の分割線が多く見た目品質は大きくダウンしたといわざるを得ない状況であった。

レビンは「シェイプアップしてスリムに健康的に」と合わせて「僕らのレビン」を合言葉に開発された。 先代は特にボディサイズの拡大により 重量がアップしてしまい、ライトウェイトスポーツと呼びにくくなっていた。 確かに、20バルブの4A-GE型エンジンやスーパーストラットサスペンション(SSサス)は 絶対性能としては高かった。しかし、性能を活かしきるにはボディをもう少し軽量化する必要があった。 また、価格が高くなり過ぎたことを反省してコストダウンを推進し、 従来のエントリーユーザーを呼び戻そうという狙いに加え、 女性ユーザー比率の高まりに対応して女性へのアピールも行うこととなった。 セダン同様に徹底的な軽量化を行った結果、最大で70kgもの軽量化に成功した。 更に4A-GE型エンジン自体への改良も加わりパワーウェイトレシオは GT-APEXグレード同士の比較で6.81から6.18へと一割程度低下した。 そして価格面でも若者の手に届きやすいように最大で25万円程度の値下げを断行した。

レビンのデザインはセダン同様シェイプアップを表現している。 丸みのあったボディからナイフで余肉を切り取ったようなデザインで フロントマスクはレビン伝統のグリル付き(トレノに対して)。グリルレスのトレノと ボンネットとフェンダーが共通化されたが、内側に巻き込んだヘッドランプが 没個性的になるのを抑えている。 サイドビューにはプレスラインを斜めに配してウェッジシェイプを表現している。 また、レビンに二分割バンパーは採用されずに車体との隙間を縮小したスタイリッシュなバンパーが採用されている。 豊かな面を見せていた先代から一転して少し痩せた感じのするデザインとなったが セダン同様タイヤが踏ん張ったものとなってスポーティな印象は一層強くなった。 インテリアはセダンとは異なり、高級な表皮一体成形が継承されたが加工方法は スラッシュ成形から真空射出成形へ変更された。従来型は低重心であったが 黒一色の重苦しい雰囲気となってしまっていたので、 今回はグレーの内装色とし、更にスイッチの位置を全体的に見直すなど使い勝手を 向上させている。そのため、スパルタンな印象は薄れたがエントリーユーザーには 親切な方が良いとの判断のようである。またハードユーザー向けには 販売店装着オプションでカーボン風パネルが設定された。

エンジンはカタログ値を追いかけたものから、より大衆車らしく 実用域でのトルクや燃費を意識して改良を加えられた 4E-FE型、5A-FE型、4A-FE型、2C-|||型というラインナップになった。 なお、レビンに設定のあったスーパーチャージャー搭載の4A-GZE型は廃止された。 シャーシに目立った変更は無いが、一部部品の構成を見直すなどして軽量化を図ったほかは、 4WD車が初めからラインナップに加わっている程度の変更しかない。 先代から真剣に取り組み始めた安全性は一層向上し、 従来のモデル後期から謳われていたCIASボディをはじめ、 ABSの全車オプション化を行っただけではなく、 一部グレードには運転席SRSエアバッグを標準化し、 残りのグレードではオプション価格が引き下げられた。 また、リサイクルへの真剣な取り組みも見られた。 従来から各部品にマーキングを施してはいたが、 更に解体性を高めて解体作業性を向上させた。 またリサイクルしやすい樹脂部品、再生プラスチックを開発して採用するなど モデルチェンジを機にリサイクル性を大幅に高めている。

このように8代目カローラは7代目カローラの商業的失敗を反省し、 徹底的なコストダウンを行った上、安全性・環境性への回答を行い、 消費者にとって身近なカローラに生まれ変わろうとした。 しかし、今回も蓋を開けてみれば販売台数は伸び悩んだ。 それは、目まぐるしく変化する世の中の変化のスピードの早さが原因なのである。 価格破壊が行われ、たくさんの低価格品が出回り始めるにつれて消費者は、 ただ安いだけの商品は買わなくなり、value for moneyの高いもの を選ぶようになっていたのである。 8代目カローラは、虚飾を捨てて経済的な車となった。しかしながら、一度 7代目カローラの豪華さを知ってしまった人々から見れば、 例え軽量化したにしろ燃費が向上したにせよ安っぽくなった印象は拭い去れなかった。 モデルチェンジの目玉だった二分割バンパーも黒バンパーは格好悪いという、 自動車メーカーが自らユーザーに浸透させた常識によって否定された。 特に内装はリサイクル性の向上、コスト削減を叫ぶあまり質感ダウンが目で見てわかるほどだった。 インパネには生産性を重視して分割線が目立ち、それを触るとかつてのような 柔らかな感触から程遠い硬いプラスチック然としたものになっていたのだ。 このほか、廉価グレードのワイパースイッチといった手で触る部分の質感が大幅に低下したのである。 トヨタとしては「ユーザーは経済性の高い車を求めていたはずだ」と考えたかも知れない。 事実、7代目カローラのときの不満はそこに集中していた。 そこで8代目カローラは一生懸命に軽量化、合理化を推し進めた上に コストダウンを重ね、トータルコストオブオーナーシップの低減に努めた。 しかし、そうした努力の跡はショールームや、カタログでは伝わりにくい。 その一方でショールームやカタログではモデルチェンジによるコストダウンばかりが 目に映ってしまったのである。 カローラという車は単に経済性を追い求めただけではダメで、 豊かさを感じさせながらも、使いやすく経済的な車で無ければならない。 カローラとはこのような厳しい命題を持っている車なのだと、 改めて考えさせられるモデルチェンジであった。

8代目カローラ目次
トップページ
8代目カローラのチーフエンジニア語る