●大河のような存在―9代目カローラの開発

8代目カローラは後期型で盛り返したものの商業的には失敗作のレッテルを貼られかねないモデルだった。 リサイクル、環境負荷の軽減、トータルコストオブオーナーシップの低減等々時代の要請に応えはしたが、 時代が大きく変わる中でカローラは取り残されようとしていた。 9代目カローラのCEを任せられた吉田健氏は、直前までタイで生産・販売されるソルーナを開発していた。 吉田氏はターセルをベースとして開発されたソルーナはリーズナブルで豪華でいて廉価な車作りを実現して見せた。 東南アジアでは気象条件が厳しいのでエアコンが標準装備されていなければならないが、ソルーナでは クーラーのみに装置を簡略化することでコスト上昇を抑えた。更に国内生産車ではコストがかかりすぎて 採用されなくなった吊り天井を採用している。これは現地労働者の労働コストが安いことに目をつけて採用された 方法である。このようにして生み出されたソルーナはタイでも好意的に受け入れられている。 ソルーナの仕事を終えてカローラのCEになった吉田氏はクラスの概念を打ち破りデザイン、性能、品質を より高い水準を目指すべく、ゼロからスタートする、カローラの名前を忘れることを提案した。 吉田氏の提案は時代が違えば一蹴されそうなものであったが、社内の危機感が彼の主張を後押しした。

カローラの開発は月に一回、関係する役員が合同ミーティングを開くという開発体制をとった。 懸案事項はその場で担当する役員が決定することが出来て作業が非常にスピーディに進んだという。 開発の目標も昔ながらの「従来型より●●%アップ」などと言ったものから、 あるべき姿を想定して操縦安定性、燃費、安全性などを追求していったと言う。 そして現場では初代プリウスで初めて行われた「大部屋開発」が採り入れられた。 開発スタッフや工場、デザイン部、協力メーカーの担当者が集まって仕事をする方式である。 こうすることで意思の疎通がスムースになり、畑違いの20人ほどの中で仕事をするので、 担当者が責任をもって自分の仕事の主導権を持つようになり、 設計や工場側にとっては「やらされ感」が無くなるというメリットもあった。

最も難航したのはデザインの決定である。 当時の和田副社長により「これからは背の高い車だ、1500mmくらいでやってみろ」という支持が下った。 デザイナーもチャレンジしたが、最終的に1480mmの全高でエクステリアが決まった。 ホイールベースは従来型より90mm長い2550mmであった。 まず国内仕様をデザインして仕向け地によってデザインを変えるという手法を採っていた。 エクステリア開発には本社河津スタジオ、トヨタ系デザイン会社のテクノアート、 アメリカのCALTYも加わった競作となったが、最終的には河津スタジオ案が選ばれた。 運転席から見てボンネットの端が見えるように、 フェンダーの峰が高くされていたのが印象的なシャープなデザインである。 これに合わせて、パッケージングが組まれた。ヒップポイントを高めて550mmとした。 これを役員審査会でプレゼンテーションしたところ、最初は 同時期に開発中のセルシオを意識させならがも プレーンで健康的なスタイルが好評であったが、ある役員が 「これでは今までのカローラと変わらないではないか」と発言した後には、「イメージが古臭い」と いう意見が多数を占めるに至り、再度デザインをやり直すように指示が下された。 開発にはラインオフまでに間に合わせなければならないと言う納期があるが、 その点でもデザインのやり直しは厳しいというのが事実であった。 しかしそうも言っていられず、二次エクステリア開発がスタートした。 今度は世界共通ボディを目指して地球規模で支持されるデザインを目指して欧州スタジオのEPOC、 東京デザイン部、河津スタジオ、CALTYが競作を行った。この結果、EPOC案が選ばれた。 このモデルは全高を1470mmと下げてベルトラインを上げることでキャビンをコンパクトに見せつつ、 塊感のある今までに無いカローラのイメージを持ったモデルとなった。 インテリアデザインも進められ、当初のものより寸法的には狭くなったものの 質感や骨太感を出すために寸法を使いボリュームのある内装となった。 ただし基本的なパッケージングは既に一次エクステリア開発モデルを基準に決められているため、 乗員をアップライトに座らせているにもかかわらず包まれ感が強い。

吉田氏が重視したのは品質感の向上である。今までは欧州製ライバル車と比較して内装という面では国産車に 一日の長があった。それは自動車を財産ととらえる国民性が、内装の豪華さを必要としたからである。 しかし、従来型カローラのモデルライフ中盤ごろに欧州製ライバル車も驚異的なクオリティアップを図り国産車、カローラを脅かしている。 そこでライバル車の徹底した研究を行い、実際に内装を切断して合わせ面を観察するなどしたという。 パーツ間の隙間を限界まで縮め一体感を出し、出っ張りやくぼみも極力少なくしている。 インストゥルメントパネルのコーナーRは5.5mmから0.5mmまで小さくして全体の面一感を演出している。 また、グローブボックスにはエアダンパーが装着され、グローブボックスを開けた瞬間に 中身がガタンと落ちてくることは無い。このほかにもエキゾーストパイプの末端部を 下向きにしてすっきりと見せるなど、徹底的にこだわった。 外装も、ボンネットとグリルの間の隙間を従来の8mmから3mmに縮小しているが、大量生産される自動車で それを行うことは非常にコストがかかり、難しいことなのである。 何故なら、隙間を少なくすることでパーツの形状誤差を少なくしておかないと、 部品同士が干渉してモノにならないからである。 しかし、技術の進歩がこれを可能としている。 従来からカローラは室内の高級感には定評があったが、ライバル車の急成長によってより一層その 魅力を高めることに成功したと言えるだろう。 エンジニアリング面でも様々な面でレベルアップが図られ、装備品も豪華になった。 そして品質感の向上も図られつつ、コスト削減によって車両原価を大幅に引き下げることができたと言う。 (例えば図面精度の向上とシミュレーション技術の成長で ワゴンは試作車ゼロで開発を終えている。) これで利益幅を大きく取れるのだが、トヨタではユーザーのためにその1/3程度を、 車両価格などでユーザーに還元したとコメントしている。

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