●ユーザーとともに歳を重ねる決意―10代目カローラ

2006年8月、カローラがフルモデルチェンジされた。 先代モデルはNCVを名乗り、ワイドバリエーション政策を採ったが、 10代目はまず、セダンとワゴンのみのフルモデルチェンジとなった。 カローラの歴史上の重大なトピックはセダンにアクシオというサブネームが付いた事が挙げられる。 アクシオとはギリシャ語のアクシア(品質)にちなんで付けられた造語である。 トヨタ自動車の生命線は品質であり、その生命線と同じ名前が付けられていると言う点において カローラセダンの重要性が見て取れる。サブネームが着いた時点で カローラの名前を消すつもりではないかとの推測は各方面でなされたが、 トヨタではカローラの名前は絶対に消さないとコメントしている。

セダンの開発コンセプトは「ACTIVE & PREMIUM」
若々しさと上質さを併せ持つパーソナルセダン。
インパクトのある先進性で時代をリードするコンパクトセダンの創造。
安心感とスタイルで団塊世代を吸引。

ワゴンの開発コンセプトは「STYLISH UTILITY WAGON」
新鮮さと、クラスを超えた車格感・実用性の両立
インパクトのある先進性で時代をリードするコンパクトワゴンの創造。
走りの美しさ・実用性とスタイルでアクティブライフを演出。

この当時のカローラセダンの主要な顧客である50代以上の高齢者である。 フィールダーは90年代後半以降で随分と若年層を取り込んだこともあり、 もう少し平均年齢が若いが、いずれにしても国内向けカローラの企画そのものとしては、 この頃定年を迎えた団塊の世代を確実に吸収するためのフルモデルチェンジであると言える。 このため、5ナンバーサイズの死守は絶対命題であった。 一方で、海外市場を考えると欧州車を中心に車幅をどんどん拡大する傾向が見られた。 1700mmを超えるとナンバー枠が変わるという条件はあくまでも日本国内のみのものであり、 税金自体も2000ccを超えない限り5ナンバーが3ナンバーになったとしても、金銭的には変化は無い。 このロジックで他車では欧州車との競合を考えて車幅の広い車を販売し始めていた。 グローバルカーであるカローラも例外ではない。先代では車幅1695mmで世界中の市場に送られていたが、 トヨタはついに大きな決断をした。海外仕向けのカローラは1700mmを超える全幅で仕立てる事にしたのだ。 国内向けには先代で使用したMCプラットフォームを採用した。ところが、海外仕向けのカローラには 新たに新MCプラットフォームを起こして幅広のカローラを作る事にした(詳細は後述)。 この決断によりグローバル市場のノウハウが生かされた日本向けカローラという構図は崩れて、 あくまでもガラパゴス化した国内向けのカローラになった。まるで大河から切り離された三日月湖のような 寂しさを古来のカローラファンは感じ取ったようだ。厳密にはオセアニア地域向けにセダンとフィールダーが ほぼ国内仕様に準じる形で投入されているが、実質的には日本専用と見てよい。

日本人の為にこだわり抜いたボディサイズは全長4410mm(従来比+45)、全幅1695mm(従来比±0)全高1460mm(従来比-10)と 全長がついに4400mmを超えることとなったが、ホイールベースはプラットフォームが共通であるので2600mmと従来型変わらない。 特筆すべきはフィールダーも全長が4410mmである点である。一般的にはセダンに対してワゴンは リアのフロアを延長する事が多いが、今回はワゴンを主体として開発した事でセダンとワゴンが共通の全長になった。

10代目カローラの外形デザインコンセプトはこの頃、トヨタがデザインテーマとして言語化した “J-Factor〜世界的な価値に昇華した日本発の独創(二律背反を絶妙に両立する巧みさ)〜” をセダンワゴン共通のデザインテーマとした。従来はあまりデザインを言語化する事は公にされてこなかったが、 この頃から「トヨタはこんなデザインにしたい」というメッセージを先に言語化してそれを各モデルに反映していった。

セダンは先代のセダンと比べるとエレガントに見えるようにデザインされている。 フロント回りはフードとバンパーカバーの縦基調の流れとフロントフェンダーとフロントバンパーの 流れを挟み込んだ構成となっており、サイドはコーナー部のフロントオーバーハングをそぎ落とし、 取り回しに配慮するとともに、彫りの深いキャラクターラインをベルトライン下に通す事で 低重心感とハリを与えている。さらにクオーターピラーの意匠にスイープカットラインと呼ばれる 下凸のラインを通す事で実際には短いトランクリッドを長く見せ、セダンの持つ優雅さを失わないようにしている。 リア回りは逆L字型のコンビランプでヘッドランプとの連続性を持たせ、 最上級グレードにはリップスポイラーが標準装備される。 総じてセダンのエクステリアは「大きく立派に見えるカローラ」を地で行く保守的なものとなった。

フィールダーは基本をセダンと共用するもラジエーターグリルやスモーク加飾のヘッドランプなど 若々しさをアピールする専用部品で差別化されている他、 リア回りはハリのあるバックドアの意匠としている。 先代と比較するとセダン同様にエレガントさが付与されている。 これにより、ライバルの商用車ベースのステーションワゴンに対して 道具感を抑えて車格感を訴求している。

室内は先代よりも丸みのある柔らかいものとなった。 カーナビ画面をセンターレジスターよりも低い位置に配置する事で センターコンソールをスリム化し、両サイドはシルバー塗装のフィニッシュパネルを全車に設定。 また、直接手で触れる機会が多いセーフティパッドは完全にソフトパッド化され、高級感がある。 更に、デフロスター部は別体ガーニッシュにする事で経時劣化による めくれ上がりに配慮した良い設計をしている。 収納は先代と比べて飛躍的に増加した。特に助手席アッパーボックスはティッシュボックスが収納でき、 利便性が高まった。 計器類は先代同様タコメーターなし/ありとオプティトロンメーターの3種類の設定がある。 ただし、タコメーターと速度計の配置が先代と反対になっている。 タコメーターあり仕様には平均燃費や航続可能距離を表示するドライブモニターを装備、 オプティトロン仕様は先代同様にマルチインフォメーションディスプレイを装備した。 シフトレバーは全車ゲート式のセレクターが採用された。永らく愛されたストレート式 セレクターはここで完全にゲート式に取って代わられた。

フィールダーの内装はスポーティグレードがあるため、 黒を基調とした内装色となりスポーツシートの設定もある。 ワゴン特有のリアシートは基本的に6:4分割のシートであるが、 リクライニングは簡略化されてニュートラル位置から後方にのみしか リクライニングできないように改悪されてしまった。 従来モデルはニュートラル位置よりも前にリクライニング出来て快適性・利便性が高かった。 その代わり、10代目ではダブルフォールディングをワンタッチで行える機構が追加された。 これはリアのデッキサイドトリムのハンドルを操作すると自動で座面が持ち上がり、 その後でシートバックが倒れるという複雑な動作をワンタッチで操作できる。 非常に利便性を高めているが、一つ欠点があり、ダブルフォールディング操作をした後で シートベルトのバックルがフロアに落ちてしまい、使用後に座面を再セットすると シートベルトが着用できなくなってしまうという安全上問題のある欠点があった。 法規としては何の問題も無いが、レイティングでシートベルトの使用性が評価される時代になり、 後のマイナーチェンジで自立式バックルに変更された。

メカニズム面では先代踏襲ながら幾つか変更点がある。 ディーゼルエンジンやスポーツツインカムエンジンはカタログ落ちし、 さらには1977年以来親しまれてきた1300エンジンをもカタログ落ちさせ、 カローラのエンジンは1500の1NZ-FE型エンジンと新開発された 1800の2ZR-FE型エンジンの二種類となった。 1300はヴィッツベースのベルタがあり、カローラとベルタを住み分けたものである。 組み合わされる変速機は1500に辛うじて残された5速MTを除き、SuperCVT-iが全面展開された。 足回りは基本的に従来のキャリーオーバーだが、ジオメトリーは見直されている。

この当時の自動車業界では定年を迎える団塊の世代のもてはやされていた。 日本の消費文化を牽引し続けてきた団塊の世代が定年を迎える。 もはや経済の中心ではなくなるが、この世代特有のパワフルさに期待し、 自動車産業だけではなく、他の業界も団塊の世代向けの商品・サービスを打ち出していった。 カローラも特にセダンは開発コンセプトで歌われている通り、 彼らに振り向いてもらえるような車に仕立てていった。

精神的には若くとも、肉体的にな衰えが垣間見られるようになりつつある団塊世代には 運転しやすいように運転支援を手厚くする、これが10代目カローラの+αである。 具体的にはセダン全車バックモニターを標準装備した。 これは5.8インチ異型サイズのTFT液晶つきのオーディオを開発して法人向けグレード以外の 全グレードに標準装備した。これまでセダンにバックビューモニターは過剰との声も聞こえたが、 10代目カローラセダンでは敢えてこれに挑戦した。 また、駐車支援の目的で車が自動でステアリングを操作して一発車庫入れを行ってくれる IPA(intelligent parking assist)をオプション設定した。 そして最先端のミリ波レーダーを活用した全車との車間距離を一定に保つ レーダークルーズコントロールと、 ミリ波レーダーで前方の障害物に衝突しそうな時にドライバーに警告を行い、 衝突が回避できない時はブレーキをかける(衝突の速度を少しでも下げる) プリクラッシュセーフティシステムを最上級グレードに標準装備した。 これらの装備は当時としては一部の高級車に採用されていたものであったが、 一気にカローラに採用するというのは非常に思い切った決断である。

今まではカローラユーザーの高齢化に手を打とうとして来た開発陣だったが、 ターゲットを定年を迎え比較的裕福な団塊の世代にターゲットを定め、 彼らに喜ばれるであろう運転支援装備を奢った。 この10代目カローラはセダン、フィールダーで月間販売目標台数が6000台ずつ、 合計12000台であったが、実際の販売は振るわなかった。 高齢者にはセダンのアクシオ、若者にはワゴンのフィールダーをという作戦であったが、 セダンがたくさん売れる時代でもなく、若者も「車離れ」と呼ばれる時代に突入した。 実際の団塊の世代はダウンサイジングと称してセダンではなくコンパクトハッチバック車や 軽自動車、或いはようやく一般化し始めたエコカーに流れていた。 実際にカローラセダンを購入するユーザーはもはや「車はセダンじゃなくてはいけない」という 後期高齢者の人たちにシフトしつつあった。しかもそういったユーザーは 高速道路も走らない。そもそも車は買い換えるがそんなに使用しない人が多くなっていた。 つまり、先進の装備も本当のターゲットユーザーには無駄な装備になってしまっており、 角に大きくしなかったとはいえ、車体の大きさも災いした。

更に2008年にはリーマンショックに見舞われ経済がめちゃめちゃになった。 小さな高級車というコンセプトで、更に装備品を奢った影響で価格も高くなってしまった 10代目カローラは団塊の世代に当て込んで少々浮き足立ってしまったようだ。 全車にRrスピーカーを装備したり、バックビューモニターを標準装備するという 仕様にそのものが、ユーザーニーズに合致しているとは考えにくく、 標準化した事により販売価格に転嫁されたことが原因であった。 一方、海外仕向けのワイドカローラはそこそこの販売量を確保し、 ワイドボデーの正当性が証明されてしまった。 これでいよいよ日本向けのカローラはガラパゴス化が決定的になった。

生産工場はカローラ専用工場として生まれた高岡工場製ではなく、 セダンはセントラル自動車、ワゴンは関東自動車工業が生産を担当する。 高岡工場はグローバルカローラの生産のみとなり、 生産工場だけでも、国内向けカローラが既に本流ではなくなった事に寂しさを感じる。 (もちろん、これまでもボデーメーカーに生産が委託されたことがあるので これによって品質が保たれない、などの不利益はない)

一方、グローバルカローラも国内に投入された。 セダンこそ投入されたなかったものの、 比較的若い人をターゲットにしたHBのオーリス、 ビッグスペース系HBのルミオン、或いはダウンサイジング層へ向けた 高級車ブレイドは3ナンバーであるが、カローラ系の派生車である。 (詳細は10代目カローラのバリエーションにて紹介)

後の一部改良やマイナーチェンジで過剰装備が見直されたが、 それだけでは勢いを取り戻せなかった。 これが11代目カローラの企画に大きく影響を与える事になる。

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まず無国籍カローラから―10代目カローラの開発