●カローラに新しい主力エンジン−パッションエンジン

1970年10月に追加されたT型エンジンは排ガス規制が厳しくなるにつれて、 パワーに余裕のあるエンジンを持つべきであるという経営的判断から開発されたエンジンである。 新開発のT型エンジンは意欲的な新機構が数多く採用されており、日本初のスペシャリティーカー「セリカ」と トヨタ店扱い初の小型乗用車「カリーナ」に搭載するために開発された。 このエンジンは当時のハイパワー化できる技術を最大限活用して開発された。 T型エンジンには3つの技術的なポイントがある。 その3つのポイントとは、クロスフロータイプの吸排気機構、半球型燃焼室とセンタースパークプラグ、ダブルロッカーシャフト方式の動弁機構である。

クロスフロータイプの吸排気機構というのは、吸気と排気が燃焼室を一直線に横切る (これをクロスフローという)ようにバルブを配置する事である。 従来はカウンターフローといって、吸気から排気へいたる流れがU字型になっていて 排ガスが残ったまま吸気が行われるなどの問題点があった。 このクロスフローの採用により、燃焼室内の残留ガスを少なく抑えることが出来る 他、インテークマニホールドがエグゾーストマニホールドの熱の影響を受けないために、 吸気温度が下がるために充填効率的にも有利になる。 そして半球型燃焼室とセンタースパークプラグというのは、燃焼室の形状を文字通り半球型にすること、 センタースパークプラグというのはプラグを燃焼室のほぼ中心に配置することである。 燃焼室を半球型にすると従来の燃焼室形状よりも高圧縮比を得やすく、 ノッキングも起きにくい。 さらにスパークプラグを半球型燃焼室の頂点に配置することにより、 爆発力がムラなくピストンに伝わり、ススの発生も少ない。 ダブルロッカーシャフトというのは通常一つしかついていないロッカーシャフトを吸気用と排気用に 専用のロッカーシャフトを与えることである。 ロッカーシャフトとはロッカーアームがついている棒のことで、ロッカーアームとはカムからの運動を 受けるプッシュロッドとバルブの間にある部品のことである。 OHVを採用した上でクロスフローを実現するにはダブルロッカーシャフトが 必要不可欠である。 ダブルロッカーシャフトよって高速域でもバルブの追従性が向上し出力ロスが防げるのである。

T型エンジンはこのクラスの従来型OHVエンジンと比較すると、かなり 贅沢なメカニズムが採用されていることがわかる。 1960年代後期からはOHC機構を採用したエンジンも発売されはじめていたが、 OHVを採用したT型のほうがシリンダヘッドがコンパクトになるというメリットがあった。 半球型燃焼室などの技術自体はは1967年にデビューしたセンチュリーの3V型エンジンに既に採用されていた ものの流用ではあるが、その技術をたった3年でカローラクラスにまで展開するという発想はいかにもトヨタらしい。 後に述べる5段フロアシフトも含めて、トヨタは高級技術を大衆化することが本当に上手な会社なのだと 感心させられる。 T型エンジンはカタログや広告で『パッションエンジン』という愛称がつけられ、 カローラ1400はたちまち人気モデルとなった。 当時のカタログには・・・
トヨタ7、トヨタ2000GTの心臓を開発した技術陣が新たに設計したハイパワー1400ccエンジンです。
最高出力90ps/6000rpm、最大トルク12.0kgm/3800rpm。0発進400m17.2秒のすさまじい出足。
さらに、中高速出の豪快な加速性能を発揮。そのハイレスポンスはダイナミック・フィーリングを生み、痛快そのもの。
またトルクが高く、実用回転域で高出力が得られるのが大きな特徴です。
しかも、クロスフロー機構、半球型の燃焼室などの採用により、抜群の燃焼効率を示し、
きれいさについても十分な配慮がなされ、街を汚しません。
・・・と書かれていた。当時としては非常にハイパフォーマンスなエンジンであった。 同じ時期の1500ccOHVエンジンである2R型エンジンは、最高出力が85ps/5500rpm、最大トルクが12.5kgm/3800rpm であった。100cc近く排気量が違うT型エンジンと比較して同程度の性能を発揮する点からもその優秀性が わかる。

蛇足だがT型エンジンや3V型エンジンのモデルとなったのが、 1950年代にアメリカのクライスラーが展開した有名な「ヘミ・ヘッド」である。 ヘミとは「半球型燃焼室」という意味である。この半球型燃焼室を持つエンジンは ヘミエンジンが出るまでは航空機や大型高級スポーツカーなど、限られた用途でしか実用化されていなかった。 もともと戦車用エンジンなど半球型燃焼室を持つエンジンを生産していたクライスラーは その優秀性にいち早く気づき、一般車にも搭載できるよう小型エンジンの開発を進めた。 当初はDOHCで開発されていたがコスト面の制約からOHVへと変更された。 クライスラーが行ったテストではDOHCからOHVにする事で致命的なデメリットは発生しなかったからである。 様々なテストが行われた末に、一番メリットのあるV型8気筒エンジンにヘミヘッドが組み合わされた 「ファイヤパワー」エンジンは1951年に実用化された。従来のくさび型燃焼室を持つエンジンとの 性能差は圧倒的であったが1950年代末には従来型エンジンの改良が進み性能的な差が無くなった上に、 そのコスト高(それでも高価だった)からヘミヘッドはクライスラーのエンジンラインナップから姿を消すこととなる。 しかし1960年代中期にレース界においてヘミヘッドは再び評価されるようになった。 フルチューンされたヘミヘッドエンジンはその底力を発揮しNASCARで優秀な成績を収めた。 チューニングされた新開発ヘミヘッドエンジンは当時人気があったマッスルカーにこぞってオプション設定されて 人気を博したのだが、保険料の問題等により1971年に完全に姿を消してしまった。 ヘミエンジンは現代でもその人気は高く根強いファンがいるというマニア向けのエンジンである。

このようなヘミヘッドを手本としたパッションエンジンは、 オリジナルの1400に加えボアアップした1600もラインナップされ、同じ排気量でもシングルキャブや ツインキャブ、高圧縮比バージョンなどを選ぶことができた。そのなかでもっともスポーティな性格を 与えられたエンジンは、セリカGTに搭載されていた2T-G型エンジンである。 これは2T型エンジンにヤマハが開発した専用のシリンダヘッドを組み合わせたものである。 この手法は2000GTの3M型エンジンや1600GTの9R型エンジンなどで確立した手法であるが、 T型エンジンは最初からDOHC化する事を前提に開発が進められており、最大限 OHVのT型と共通の部品が数多く使われている。 こうしたことで月産千台を誇る世界的にも稀な量産DOHCエンジンが生まれた。 この2T-G型エンジンにはベースエンジンよりも高回転型となり、 7000rpmまで力強く回った。(2T-G型エンジンのヘッド自体は アルファロメオのエンジンをお手本にしているとも言われている) トヨタはマニア向けのヘミヘッドを手本としたエンジンを一般大衆車に載せただけではなく、 最終的にはヘミヘッド開発時に最も理想的とされながらも、そのコストから採用を断念した DOHCを採用したエンジンまでも量産化するに至った。 単に模倣で終わることなく更に高いところへ昇華させているところがすばらしい点である。

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