●快適経済車カローラ30

カローラは1974年4月にフルモデルチェンジして30系となった。 カローラとスプリンターのセグメントを明確化するためにクーペがカタログから落とされたが、 それに伴いハードトップが追加された。バリエーションはセダン、ハードトップ、バンの3種類である。

エンジンは従来型から大きく変化はないがハイパワー化した3K系、冷却性能を向上させたT型系 そして2T系にはツインキャブのハイパワー版だけではなく、シングルキャブの2T型が新たに加わった。 また、レビン/トレノ専用の2T-G型が用意されていたのも従来型と同様である。

3代目カローラが生まれたこの時代は自動車にとってとても辛い時代となっていた。 その直前までは 高度成長の波で消費生活が定着し「消費は美徳」とさえ言われるような時代になっており、 自動車業界は車種やバリエーションを増やし、消費者の意識を煽り続けた。 その反面、交通事故による死者が増加し続けたことで、 憧れの対象だった自動車に対する風当たりが徐々に強まっていた。

そんな中で東京都で鉛中毒事件が発生し、排出ガスに含まれる鉛に注目が集まった。 これはガソリンに添加されていた四エチル鉛が原因である。 この時代は、ガソリンに含まれている鉛成分が酸化鉛となりバルブとシートの間に付着して 潤滑、緩衝の役割を果たしていることから、有鉛ガソリンが当然のように販売されていた。 もし鉛成分が無いと溶着(バルブリセッション)が起こりバルブの密閉性が損なわれると同時に バルブが破損するという問題があった。 この問題は自己潤滑性に富んだ素材によって対策を施してクリアした。その後有鉛ガソリンは販売を中止されている。 しかし、それでも排ガスの毒性についての指摘は続いた。大気汚染が問題化したアメリカではマスキー上院議員により 自動車の排出ガスに含まれるCO、HC、NOxの量を5年後には十分の一にするマスキー法案が出された。アメリカ国内では ビッグ3の猛反対により数値の手直しや規制延期が実施されたが日本では、マスキー法に準じた厳しい目標が掲げられ 日本版マスキー法とも呼ばれた。この時期、公害が社会問題になっていたため世論の厚い支持も得られた。 こうして昭和50年度から昭和53年まで3年間かけて段階的に排出ガスの規制を実施することになった。

更に第四次中東戦争によりオイルショックが起こり、その結果ガソリンが値上がりし不足した。石油の輸入に頼って 経済成長を遂げてきた日本はたちまち混乱に陥った。原油価格が上がったためにガソリンの市場価格は 二倍近く値上がり(レギュラーガソリンで95円〜115円程度になった)し、 それに次いで材料費も値上がりしたため自動車の価格も値上げせざるを得なくなってしまった。 そうした中、モデルチェンジを繰り返し購買意欲を煽り続けた自動車業界は槍玉に挙げられた。 3代目カローラが発売される一ヶ月前の昭和49年3月27日に社会党(当時)の上田議員が近々行われるカローラの モデルチェンジに触れて 「運輸省、通産省が行っているモデルチェンジは安全、公害対策の最小限度にとどめるという行政指導は どうなっているのか」 と発言したのである。これを受けて中曽根通産相も「総需要抑制の方針に逆行することは好ましくない」と同調し、 一気に「モデルチェンジは無駄な消費を生むのでけしからん」という風潮になってしまっていたのである。 名指しで攻撃されたカローラであるが、もともと1970年にデビューした先代の安全面、公害対策を充実させて いるので、むやみにモデルチェンジをしているわけではないのだが、周囲の批判を避けるように 先代のカローラもバリエーションを縮小して「にーまる」として継続販売され、 新型カローラは「さんまる」という追加車種という形で発売することになった。

このようにシビアな環境の中、3代目カローラは誕生した。 厳しい時代を乗り切るために3代目カローラは、国際商品としての品質向上、 1クラス上の快適性・安全性を確保、という時代の要請を満たしつつ 大衆車としての最重要課題である経済性をよりアップさせている。 3代目カローラの主査である佐々木紫朗氏は3代目を開発するにあたって、徳川 『3代目』将軍・徳川家光について調べたという。その結果家光は家康と家忠のあとを受けて 徳川300年体制を固めたという功績があり、それだけに3代目は非常に重要な時期であるという事 を改めて確信した。そうした認識の上で佐々木氏は3代目の基本構想を練ったといわれている。 その構想とは 『いまカローラに必要なのは動力性能以外のフィーリング性の向上だ。つまり、車格とか居住性とか 静粛性の向上、操縦安定性の向上、あるいは室内のグレードを高め、換気性といった機能面での充実 をはかる必要がある』 というもので、これは販売側のデータからも裏付けられていたので、 この線に沿って具体的に開発を進めたという。

カローラはモデルチェンジの度にボディを拡大したが、あまり大きくなりすぎると 上級車種であるカリーナやコロナと変わらないサイズになってしまう。 しかし、三代目では全長をそれほど大きくせず、全幅を拡大した。 快適性を追求するためには、室内は広いほうが良い。 この時トヨタは有効フロア面積という考え方で3代目カローラのボディサイズを考えた。 車の居住空間の広さを考えたとき、単純化するとホイールベースとトレッドを掛け合わせたものを 計算する。これを有効フロア面積は居住性をはかるバロメータと位置づけた。 2代目カローラの有効フロア面積を求めると2.93m2、 カローラの上級車種(カリーナクラス)の有効フロア面積は3.10〜3.16m2であった。 3代目カローラはトレッドを広げた効果が大きく、全長は拡大されていないにも関わらず、 その有効フロア面積は3.07m2を確保することに成功している。 ボディーサイズは全長3995ミリ、全幅1570ミリ、全高1350ミリ、ホイールベース2370ミリ、 トレッド前/後で1300ミリ/1285ミリとなった。 先代と比較すると 全幅は65ミリ、ホイールベースは35ミリ、トレッドは40ミリ拡大されワイドになった事になる。

ボディースタイルは全体的に車幅が広がったことから堂々とした落ち着きのあるものとなり、 ベルトラインを下げることによって、室内をルーミーに見せ一段と現代的なものとなった。 セダンは初代から伝統のセミファーストバックスタイルだが、 流行を過度に追わず落ち着いたデザインとなっている。 オイルショックのこの時代は、なによりも長く付き合えるデザインが求められたのであろう。 しかし、機能面を充実させるためのデザインは活発に行われ、 特にリアウインドーは居住性を確保する目的で逆ぞり形状になっているのが目を引いている。 後に述べるハードトップやスプリンタークーペではデザイナーはやりたいように その実力を発揮したが、セダンではこれまでのスタイルを尊重しながらすっきりと、 それでいてハイグレードな感じを与えることが難しかったと当時のデザイン部主査は語っている。 新規追加されたハードトップは大衆車としては初めてセンターピラーの無い本格的なハードトップスタイルである。 ハードトップは一クラス上の車格を持つ車では多くの採用例があるが、カローラクラスでは 世界的に見ても例がなく、グレードアップしたカローラをアピールするには最適と判断されラインナップに 加えられることになった。 クーペがスプリンター専用となってしまっていたため、レビンもこのハードトップボディをまとって モデルチェンジされた。フロントフェイスはセダンと共通であったが、サイドビューはサッシュがなく、 更にクオータパネルで切れ上がったベルトラインが軽快であった。セダン同様ベルトラインを下げたため、 グラスエリアも広がるのだが、あまりにもそれが過ぎると、パーソナル感を大切にしたいハードトップにそぐわない。 切れ上がったベルトラインもそのためのデザインであると思われる。 (強度を保つためにクオータパネルの骨格を強化したとも言われている) ハードトップはクーペよりもラグジュアリーなイメージであった。窓を全て下ろすと ハードトップでしか得られない独特の開放感があり好評であった。

セダンをベースにバンも同時にフルモデルチェンジされた。2代目バンと比較して荷室スペースに 変化はないが、セダンの改良に準じた改良が施されているので特に安全面や快適性の向上が見られる。 エンジンはセダンと同様の改良が加えられた他、1400シリーズが追加された。 ボディカラーもセダンのように明るいメタリック色も用意されワゴンとしても使えるように配慮されている のは従来から変わりはない。一部、内装トリムがセミトリムになることと、天井が貼り天井であることがセダンとは 異なっている。

兄弟車のスプリンターも同時にフルモデルチェンジしたが、 こちらはカローラ−スプリンタの距離を離したデザインとなった。 これは販売店からの要請で、この2車の間の距離をもっと離してほしいという意見を採り入れたからである。 この結果、カローラが親しみやすさを、スプリンターが更なる豪華さやスポーティさを狙ったデザインとなり、 ボディバリエーションもシリーズ別に分けられた。 カローラにはクラス初の本格的なHTが設定され、スプリンターにはカローラHTの代わりにクーペが 設定された。クーペは対米輸出を狙ったボディでより低く、スポーティさを追求している。 外装は比較的大きく変えられているが内装もわずかではあるが変更されている。 スプリンターではカローラの計器版をアレンジしてコックピット風のものにしている。

3代目カローラの室内はそれまでと比べ、特に大きな進化を遂げている。 快適性を高めるという目標のため、 やや高めの位置にあるダッシュボードは一体成型となり、明るいオークの内装色も用意された。 その形状も人間工学によって、灰皿・ラジオ・ライター・ヒーターの装備を、 3点式シートベルトを着けていても操作できる様に パネル面をドライバーが手を伸ばして円弧を描いた曲線にあわせてデザインされていたりと 人間工学的な配慮がなされていた。

また、安全も依然より増して配慮がなされるようになった。キャビンには衝撃吸収構造が採用されて、 骨格が強化されている。シートベルトも3代目カローラからは連続ウェビングタイプという方式が 新採用されている。これは今日のシートベルトとまったく同じ形式であり、これによってシートベルトが 飛躍的に使いやすくなっている。

モデルチェンジ批判の時代に周囲に気兼ねしながらデビューした3代目カローラであったが、 この‘力作’は日本国内のみならず世界中で大ヒットすることとなり、 カローラ史上最大の生産台数である3755030台が生産された。

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