●クリーンな低公害車をめざして

3代目カローラが発売された1974年4月は『50年度排出ガス規制』の始まる 前だった為、3代目カローラ発売の時にはまだ低公害エンジンにする必要が無く、 49年規制をクリアしただけに過ぎなかった。 しかし、いずれは対策をする必要があるのであらかじめエンジンルームを広く余裕を持たせて レイアウトし、フロアパネルの形状も排ガス浄化用触媒コンバータを取り付けるためのスペースが設けてあった。 改良を加える前のエンジンも後々のパワーダウンを見込んでできるだけ出力向上を図った他、 可能な限り余裕を与えようという狙いで、リザーバタンク付き密閉式ラジエータを採用し、 エンジンオイルの規定容量も3割ほど増やした。こうすることによって、 将来の排ガス規制対策エンジン&装置を設置する隙間、性能代を確保しておいたのだ。 3代目カローラ開発途中、排ガス規制クリアのために全社を挙げて排ガス対策の研究を行っていたが 最終的にどのような対策デバイスが取り付けられるのかはっきりと決まっていないようだからである。

50年規制は50年4月1日以降に新しく生産される新型車に、あるいは50年12月1日以降生産さ れる新造車に適用される事からトヨタをはじめとする全メーカーはエンジン部門を中心に 不眠不休の努力が続けられていた。 エンジン数の少ないメーカーでは、開発も集中的に行えるが、 フルラインメーカーのトヨタは期限までに全ての車種に基準をクリア する事さえも危険な状態だったという。 たとえエンジンが基準値をクリア出来たとしても それを搭載した車が総合的にバランスが取れているかという問題が残されていた。 それはエンジンのトルク変動によって前後方向にガクガク揺れるサージングやノッキングといった特異な現象や、 エンジンブレーキをかけたと時にガクガクするといったドライバビリティまで含めた トータルバランス全ての面で解決しなくてはならなかったからだ。 たとえ低公害だからといって、 エンジンパワー、燃費や運動性能の悪化の問題、対策部品の装着による振動や騒音、サービス性、 コスト問題等を同時に解決できなければそれは商品としては失格である。 市場に出す商品としてこれらの問題をある程度のレベルで両立する事に時間がかかった。 排ガス規制前に国会や記者会見などで各自動車メーカーのコメントを求められることがあった。 その場で「技術的に未だにできません」などというと一斉に袋叩きに会うこともあったという。 もちろん、技術的にクリアできようとも商品レベルに達していないという意味であるが 「トヨタは汚い車を大量生産して儲けている」と、当時の世論はそれを許さなかった。

排ガス浄化技術の研究自体は昭和45年から行われてきたが、その技術開発は困難を極めた。 規制当初、アメリカでは排ガスの濃度でその規制値を決めていた。アメリカの某メーカー では二次空気を送るポンプを取り付け、排ガスの熱を利用して完全燃焼させる装置を取り付けていた。 対米輸出のためにトヨタでも同じものを取り付けるべく研究を進めた。コスト削減のためポンプを一種類にし、 クラウン、コロナ、カローラでオリフィスの径を変えて対応する予定で進められた。 そうやって実験を進めていくと、ポンプから空気を送り出す量が増えるに従って排ガスが 浄化されていくことが分かった。より完全燃焼に近づいているのだと考えられたが、 異常だったのはポンプから送られる空気の量を増やすと増やしただけ排ガスの有害成分は 減っていったのである。 そのうち社内の技術者の中でもこれはおかしいんじゃないかという意見が出た。冷静になって考えると ポンプから空気を送って排ガスが綺麗になったものと勘違いしたが、実際は薄まったに過ぎず有害成分は 期待したほど減っていなかったのだ。(ある程度は完全燃焼に近づけることができた) 結局規制値自体がおかしいということになり、濃度ではなく排出量で規制することに改められた。 手探りで始められた排ガス規制であったので規制する側にも勉強不足があり、 対策する側もよくわからずに使っていたようだ。 そのような紆余曲折を経て現在の主流となった触媒方式にトライした当初、専門メーカーに開発を依頼した。 触媒にはモノリス型とペレット型があり、両方とも並行して開発が進められたが、ペレット型の方が 実用化の可能性が高くなった。 ペレット型は小球に触媒材をコーティングしたものである。その小球をたくさん入れておき排ガスを浄化する (小球にすることで表面積を稼ぐ)。アメリカでもその方式の触媒が使われているが日本では なかなか上手く行かない。アメリカ車は多気筒の為にトルク変動や吸気の脈動が少ないが 4気筒が多い日本の場合、その脈動でコンバータ中の触媒が摩耗し効果が落ちてしまうのである。 製造元に改善を要求しても要求には応じてくれず、やむなく自社開発に切り替え悲鳴を上げながら 規制値クリアを目指した。モノリス型は格子状の構造材(触媒)に排ガスを通すもので、格子状にするのも 表面積を増やし、より多くの排ガスを反応させるためであるが、技術が確立していなかった当時は 衝撃で触媒が割れてしまうトラブルの解決の目処が立たなかった。

様々な問題を技術によって解決し、いよいよ50年10月下旬にカローラ1600シリーズを50年度排出ガ ス規制適合車として発売へ踏みきった。 続けて11月下旬に、1400シリーズにも50年規制の対策を施し発売した。(1200シリーズは51年まで生産中止) 浄化システムとしては酸化触媒を中心とした『TTC-C』というものでエンジン型式名の後に 『U』の文字がついた。 最高出力は1600ccの2T-U型で90ps、1400ccのT-U型で78psと若干ダウンした。 TTCとは『Toyota-Total-Clean-System』という意味で、TTCの後にCが つくと触媒方式を用いた排出ガス浄化システムでVがつくと複合渦流方式、Lがつくと希薄燃焼 方式を意味している。

当時の取扱説明書この排ガス規制対策デバイスの説明に数ページを割いて説明している。 (以下はその文面を引用した)

トヨタ車の触媒装置は長年の研究開発により完成した、すぐれた排ガス浄化装置です。
★触媒とは
それ自体は変化しませんが化学反応を比較的低い温度で起こさせたり、反応速度を早めたりする性質を 持った物質です。排出ガス浄化装置に使われる触媒は排気ガスに含まれるCO(一酸化炭素)、HC (炭化水素)を酸素と反応させてCO2(炭酸ガス)とH2O(水蒸気)に変えて浄 化する働きを持っています。
★触媒装置の特徴
触媒装置はエンジン自体を従来のものと基本的には変えずに排気ガスに含まれるCO,HCを触媒の作用に よって酸化反応させる方式なので高い信頼性とすぐれた燃料経済性、運転性が得られます。触媒は十分 な耐久性とすぐれた浄化能力を持っていますが、長い使用期間中には付着物などで浄化性能が衰えてきま すので、整備手帳にもとづい て触媒の定期交換(自家用4年ごと、レンタカー2年ごと、事業用等6か月ごと)を行ってください。

トヨタ・カローラでは次のような排出ガス浄化装置を取り付けて公害防止に万全を期しております。
■T-Uエンジン
1.触媒装置
排気ガス中に含まれるCO,HCを触媒の作用により酸化反応させて浄化する装置です。
2.二次空気供給装置
空気ポンプによりエキゾースト・ポートに二次空気を供給する装置です。 エキゾースト・マニホールド内でCO,HCの一部を再燃焼させるとともに触媒装置でさらに酸化反応させます。
3.点火時期制御装置
点火進角装置を制御して、HC,NOxの発生を低減する装置です。
4.燃料蒸発ガス抑止装置
燃料タンクから蒸発するHCをエンジンの燃焼室に導いて燃焼させる装置です。
5.ブローバイ・ガス還元装置
クランクケース内で発生したブローバイ・ガスを燃焼室に導いて燃焼させる装置です。

■3K-U,2T-Uエンジン
1.触媒装置
2.二次空気供給装置
3.点火時期調整装置<3K−Uエンジンのみ>
4.燃料蒸発ガス排出抑止装置
5.ブローバイ・ガス還元装置
6.排気ガス再循環装置
排気ガスの一部を吸入混合気に再循環させて,NOxの発生を低減する装置です。
7.減速制御装置
[3K-Uエンジン]
減速時にスロットルバルブが急激に閉じるのを防止し,未燃焼ガスの排出をおさえることにより CO,HCの排出を低減する装置です。
[2T-Uエンジン]
長期減速時に燃料を一部カットして,CO,HCの低減と燃料消費の向上,減速時の触媒過熱の防止をしています。

■12Tエンジン
1.希薄燃焼方式
インテークマニホールドから燃焼室に入った薄い混合気は圧縮行程で乱流生成ポットに押し込まれます。 乱流生成ポットに入り口付近に設けられたスパーク・プラグにより点火されると,乱流生成ポットでの 燃焼ガスは強力な火炎となって燃焼室内薄い混合気の燃焼をスムーズに行います。
排気ガス中のCO,HC,NOxを低減させます。
2.保温型エキゾースト・マニホールド
排気ガスを保温し排気ガス中のCO,HCを再反応させます。
3.その他の制御装置
エンジン温度および車速に応じて各機構を作動させ,排出ガス中のCO,HC,NOxを低減させます。

この時期はカローラをはじめとするあらゆる乗用車のエンジン出力は落ち込んでしまい、更に燃費も悪化した。 ユーザーも排ガス規制のために諦めざるを得なかった。排ガス規制の時期に スーパーカーブームが訪れたのもそうした閉塞状態にあった国産車を あざ笑うような、ずば抜けた高性能、奇抜なスタイルが子供たちの心を掴んだからではないかとも言われている。 そのような状況下で国産車メーカーは存続をかけて排ガス規制に取り組んでいき、技術を高めていった。

昭和51年規制の後は最終的な排ガス浄化基準である昭和53年規制が待っている。 それまで複眼の思想として様々な排ガス浄化技術にトライしてきたが、最終的には3元触媒を用いて 排ガス規制をクリアすることになった。今までの酸化触媒はCOとHCを減らすのみであったが、 三元触媒はNoxの還元作用も同時に行えるという特徴がある。 カローラのような小排気量車では従来の対策で53年規制にパスすることは可能であったが、 排気量2000ccを超える場合、三元触媒でないと規制をパスすることができなったのである。 この技術は比較的新しく開発を始めた方式だったが 一つの触媒で三成分を同時に低減できるというすばらしい触媒技術である。しかしガソリンと空気の混合比を 数パーセントの誤差内に収めるような高精度のコントロールが必要だという課題があった。 燃料を精密にコントロールするためには電子制御により燃料噴射と排ガス中の酸素濃度を 検知する02センサーが必要である。電子制御燃料噴射装置は 既に上級車のエンジンで採用実績があるが、02センサーに関しては製造法や機能がさっぱり分からず、 悪戦苦闘した。他メーカーとは違い自前で02センサー開発に挑んだものの、 試作品は高温に晒されると割れたり、電極が剥がれたりと困難を極めた。 そのような中、豊田英二社長は「53年規制適合車を一年前倒しの52年に発売せよ」との指示を出した。 豊田英二社長は自身が技術者であり、53年規制が困難なものであることは技術者と同じように理解していたが、 国会や記者会見など外部に対しては「大変難しいことだ」と声を大にして発言してきた。 しかしそうした袋叩きの状況に耐えかね技術的に難しいと承知の上、ただでさえ厳しい日程を更に一年早めたのである。 不断の努力の結果、開発から二年足らずで02センサー実用化の目処が立ち02センサーと 三元触媒による対策技術の見通しが立ったのは1976年の春であった。豊田英二社長もついに「トヨタは53年規制への対応が 可能となった」と表明、それからしばらくの後他メーカーも同様の発言をしたところ、「過去に不可能と唱えながら、 本当は始めからできたのではないか?けしからん」と非難を浴びた。結局のところメーカー側は良い商品を送り出し黙って耐えるしかなかった。

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