●空力に真剣に取り組んだ4代目カローラ

4代目カローラが燃費に力を入れていたことはこれまでに述べてきたとおりである。 特に、軽量なFF車の低燃費に対抗するため軽量化に力をいれ最終減速比も高めている。 しかし空力的に考慮されたボディでなければその効果は全く意味を成さないと言ってもよい。 4代目カローラではそのエクステリアデザインにおいて初めて本格的な 空力対策を施した大衆車の一つである。 空気抵抗を少なくするには、抵抗を受ける面積を減らす(前方投影面積を減らす)か、 気流を上手く受け流す形にする(空気抵抗係数(CD) を減らす)かのどちらかが有効である。 空気抵抗が少ないと、駆動力のロスが減り、同じ条件ならばより少ない燃料で走ることが出来る。 同じエンジンであれば、よりスピードを出すことも出来る。 後者の目的でスポーツカーでは空気抵抗を減らす努力が行われてきた。 例えばトヨタでは1965年にパブリカをベースとしたスポーツ800という軽量スポーツカーを 世に出しているが、断面モデルに水流を流して渦を観察する実験を行い、 空気抵抗を低減することにトライした。 こうして抗力係数(CD値)0.35という当時では最高レベルの空力ボディを造り上げたことがある。 このスポーツ800以降、スポーツカーにおいては国内でも空気抵抗低減への取り組みを 本格化し、カム理論が適用されたスタイルが採用され始めた。しかしながら、

一般車ではそれほど重視されておらずまだまだ見栄えが重要視されていた。 何故ならば、真剣に空気抵抗を減らそうとするならば、前方投影面積を減らす 必要があるからである。そうすると車体を小さくせねばならず室内の広さを犠牲にしてしまう。 またCD値を減らそうとするにも、当時の知識では ボディを流線型にすること程度しか、CD値を減らす手立てがなかった。 流線型はVWなどに採用されているが、空気抵抗が少ない代わりに 揚力が大きいというデメリットがあった。このため同じ流線型のボディをもつ ハイパワー車であるポルシェは巨大なリアウィングをもっている。 戦後、一般的な乗用車では無理に空気抵抗を減らそうとせずに、機能を最重要視した デザインが主流となっていた。またデザインを魅力的なものにするためにも空力を無視した デザインが行われてきていた。 一例として初代カローラでは車体を堂々と大きく見せるため、前後のしぼりこみが皆無で 車体先端が尖った形状になっていた。 これが、後々検証するとその部分で気流が剥離するため 空力的に非常に劣ったものであったことも分かっている。

空力と燃費の関係に関しては1976年にVWのフーコー博士らのグループが「部分最適化」という考え方を発表した。 部分最適化とは、従来の流線型のように様式化する必要はなく、車体の各部分を、各部分で最適化して 全体で大きく空気抵抗を減らすことが出来るという考え方である。 この考え方は各メーカーで実験により効果を確認し、 すぐさま開発中の車種にも生かされた。 現在生産中の車種では一部改良を機に少しずつ取り入れられた。 例えば、1976年にカローラをマイナーチェンジした際にエアカットフラップを追加した呼ばれる処理を施している。 これは現在で言うところのフロントスポイラーであり、ボディ前端のバランスパネルという部分を フロントスポイラー風にプレスしたものである。この処理により車体が浮き上がる力を抑え燃費に貢献する。 それまでは、バランスパネルは滑らかに流れるようにするのが良いとされてデザインされていただけに ユーザーやセールスマン、そしてデザイナー自身も戸惑った。このエアカットフラップも最初は 出来るだけ目立たなくデザインされたが、「フロントスポイラーの有無や大小が時代性を表す」と 分かると、たちまち大型化したという。この他、ボディ後端にリアスポイラーを付けると 揚力や空気抵抗を減らすことが出来ることがわかった。この処理は「暴走族」のイメージから 一般的に敬遠されたが、トランク面をスポイラー風に積み上げると違和感なく受け入れられたという。 この部分最適化で最も重要なことは、車両の先端で気流を剥離させないことである。 先端で気流が剥離するとそれ以後、どんなに空気抵抗を減らす努力を施しても全く無意味といってよいからである。 気流を剥離させないためには、前端の角に適度な丸みが必要である。そのほか飛び出したレインガターや ヘッドランプのひさしも空力的には不利となる。

4代目カローラは、最初から部分最適化の考え方を活かしてデザインされた。 4代目カローラをデザインした畔柳俊雄氏は、これまで主に高級車をデザインしてきたデザイナーである。 彼はそれまでの丸みを帯びているが空力的に好ましくないデザインから脱却を図り、 新しいデザインのトレンドを造ろうと大いに意気込んだという。しかし大ヒット車のモデルチェンジは難しい。 また社内の期待も大きいということでデザイナー達は常に大きな期待にプレッシャーを感じていた。 デザイン案を他のチームのデザイナーが見るなり「つまらん」「かわり映えしない」等と遠慮のない批判もされた。 追い詰められた担当デザイナー達は「何だと!」と本気で言い返したというが、正直なところ彼らの批評は どれも当たっていたのである。 そんな中、畔柳氏はヨーロッパへの出張を命じられた。そしてフランクフルトモーターショーを見学したが、 彼はある新型車に心を動かされた。爽やかな面が新鮮であったが線が細く、ひ弱な雰囲気が気に入らなかったという。 この新型車のおかげで彼の進むべき道は決まった。畔柳氏は室内を目一杯広く取れるシャープでダイナミックな 造形にしようと考えたという。その矢先に空力の専門家から丸みを帯びた造形にするように要求された。 ボディ設計部門からは全体を丸くして軽量化するように迫られた。なぜなら平面は張り剛性が弱く、 その分重くなるからである。0.1mm板厚を上げてしまうと数キロ重量が重くなる計算であった。 そこで空力への対応を全体形状と部分処理の二つに分けることにした。スペシャルティ系(クーペ、ハードトップ、 リフトバック)の全体形状はエンジンフードを低く、トランクを思い切って高くした、シャープなウエッジシェイプ とした。セダン系は保守的なユーザーが拒否反応を起こさないようにフード、キャビン、トランク面と 階段状に高くしていった。平面視で側面に丸みを持たせ(平面絞り)前後で絞り込む。 伸びた円弧的な面や線分(放物面より面剛性が高い)を使った。しかし、丸いという印象を持たれないように フード先端やコーナーの丸みは気流が剥離しない最小の丸みを与えた。 出来上がったデザインは前が低く後ろが上がった独特のスタイルで後ろは滑らかに 下がるのが常識であった当時、とても斬新で時代の先端を行くデザインとなっていたが、 社内の反対意見もあって結局リアを30mm程削って低くすることになった。 また小さく見られるのを嫌って後側のオーバーハングはあまり絞らなかった。 こうして生まれた4代目カローラのエクステリアは高級感のあるシャープなデザインと 新しい部分最適化の考え方に沿って空力的に正しい形状を両立させた。

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