●日本のエンジンを変えたハイメカツインカム

6代目カローラを語る上で忘れてはならないのがハイメカツインカムエンジンの存在である。 ハイメカツインカムとは一体何なのか?従来のエンジンとどのように異なるのであろうか?

真っ暗な排ガス規制時代を乗り越えた1980年代、新世代の軽量で低燃費な エンジンの出現が一段落ついたころには各社から魅力的なエンジンが次々とデビューした。 スポーティな乗用車に載せられたエンジンもターボチャージャーやDOHC、電子制御や 可変吸気システムといった最新鋭のメカニズムが次々と商品化されてきた。 そしてその波は大衆車クラスへと波及した。 大衆車のエンジンは丈夫に、そして安く手軽に作るもの、という常識を破り次々に 高級なメカニズムが採用されてきたのは1980年代中ごろからである。 このころすでに動弁系はOHVからOHCに切り替えられていた。そこにマルチバルブの波がやってきた。 つまり、吸気をたくさん取り入れるためにバルブの面積を増やしたい。そのために 吸気バルブを一気筒あたり2本持つことで性能向上を図るという目的であった。 トヨタではまずベーシックエンジンの2E-LU型に一気筒あたり3バルブの方式を採用していた。 従来のエンジンよりも高性能なイメージを与えることができ、実際に性能も高くなっていた。 他社でもどんどんマルチバルブ化が主流となってきていた。

その流れの中でトヨタは一気筒あたり4バルブのDOHCエンジンを 大衆化するため、ハイメカツインカムという特殊な方式である。 従来のDOHCのように2本のカムを直接タイミングベルトで動かすのではなく、 一方のカムシャフトのみをタイミングベルトで駆動し、もう1本のカムシャフトを 駆動側に付いている歯車によって隣のカムシャフトを駆動するシステムである。 この歯車は、ガタをなくすためにスプリングが取り付けられており、 シザーズギアという名前が付いている。 このシザーズ・ギアによってコンパクトな燃焼室の実現やエンジンの外形寸法も抑えられる為、 軽量・コンパクトなDOHCエンジンにする事が可能となっている。 DOHCには、一気筒あたり4バルブのエンジンが容易に実現できるという長所があるが、 量産性、コストの面での短所も持っていた。 それらの短所をトヨタの創意工夫によって解消したものがトヨタ・ハイメカツインカムなのである。

一気筒あたり4バルブのエンジンのメリットとは一体何なのであろうか。 4バルブエンジンについて説明を加えておく。 OHC方式でも一気筒あたり4バルブのエンジンは実現できる。しかし ロッカーアームやプラグの配置が複雑にならずにすむことから DOHCの方が有利であると言われている。4バルブのメリットは、 従来の2バルブ(OHVやOHCの多く)よりも 4バルブの方が吸排気ポートの断面積を広くとれるので、それだけ多くの混合気を吸い込める。 さらに、ガスの通路が広くなったことでピストンのガスを吸ったり吐いたりするロスも減少する。 (こういうのをポンピングロスの低減と言う) また、4バルブだと燃焼室の中央にプラグを配置する事ができ、燃焼が中心から広がり それだけ効率が良い。つまり効率が良いから燃費も良いという訳である。 つまり、4バルブは吸排気効率を上げることができ、ポンピングロスの減少、燃焼効率の向上に一役買っているのである。 また摩擦損失が少ないエンジンにすることもできる。 DOHCはカムがロッカーアームを介さずに直接バルブの開閉をするという非常にシンプルな構造の為、 高回転まで正確に回り、またOHCやOHVのようにプッシュロッド、ロッカーシャフト、ロッカーアームといった パーツを必要としない為、バルブ1本当りの慣性重量が小さくなりバルブスプリングの荷重を小さくする事が出来る ために摩擦損失を大幅に低減できるという事である。 エネルギーの損失が減ったのでそれだけ燃費向上に寄与している。 そして、シザーズギアで2つのギアを回転させるという構造上、2つのカムシャフトは接近していてバルブ挟み角も 必然的にスポーツツインカムの50°に対しハイメカツインカムでは22°〜25°と約半分の角度になっている。 これによってコンパクトな燃焼室が実現し、その結果スキッシュと呼ばれる部分が拡大できて、燃焼速 度が一層速くなり高出力と低燃費を両立できる。 今までのDOHCのメリットを生かしつつ、更に発展させたのがハイメカツインカムである。 ハイメカツインカムは従来のDOHCのようにスポーツ性を優先するのではなく、ある程度のパワーを 確保した上で低燃費などの実用性を重視した味付けが施されて高性能メカニズムを大衆化することを実現した。

このハイメカツインカムエンジンは、1986年にフルモデルチェンジを受けたカムリ/ビスタに初めて搭載された。 3S-FE型と呼ばれる2000ccのエンジンは、対好評となった。 これに続き、V型6気筒の1VZ-FE型がカムリ・プロミネントに採用された。 コンパクトなエンジンにできたためにFF車にも容易に搭載できるV6エンジンであった。 このエンジンに続いて第三弾として生まれたのがカローラ系車種に搭載された5A系エンジンである。 この5A型はそれまでのハイメカツインカムと異なり、吸気側ではなく排気側を駆動する以外は 3S-FE型や1VZ-FE型と同じ思想で作られている。燃料系では5A系にはVキャブを採用した 5A-F型が用意されている点が、EFIしかなかった上級エンジンとの違いがある。 ちなみに、コロナ/カリーナに搭載された4S-Fi型では、5A-F型、3S-FE型との 中間という性格で電子制御燃料供給装置ではあるが、コスト的に有利なCi(セントラルインジェクション)が採用されている。

この流れを作り上げたのが、トヨタ自動車取締役(当時)の金原淑郎氏とエンジン技術部の小西正巳氏である。 両氏は実用性を重視した車に至ってもDOHCエンジンを搭載していくことを提案した。 金原氏は排気対策に取り組む中でエンジンの進化に必要な方向を見定め、 妥協やまわりみちをすべきではないと考えていた。 エンジンの設備投資は非常にコストのかかることで、実用性を重視した車までDOHCに することに対し反対意見が続出した。 しかし金原氏の意向は変わらなかった。将来的にそうするのであれば、一挙にDOHCにしてしまうべきだと主張した。 確かに、カムシャフトが二本になって一気筒あたり4バルブとなれば、部品点数が増えてシリンダヘッドも複雑になる。 しかし、バルブのように高速で移動する部品は軽くなる方が慣性の法則から言っても楽に運動できるため、 エンジンの性能向上に対して有利であった。2バルブが4バルブになったとしても重量は倍にならず、製造コストの 問題も、量産効果によって重量が増えた分に近い原価増で済む。そして燃費も向上するために迷う必要が無いという 主張である。 ところが、当時会長であった豊田英二氏もDOHCの全面展開をためらったために、一度は提案が退けられた。 諦められない金原氏は半年ほど待った後再び提案した。この当時トヨタは日本一の売上高と利益を維持しており 設備投資にまわる資金が増えてきたことから、この際思い切ってやるべきだと考えたのだ。 そんなに言うならやってみよう、と豊田英二会長からこの提案が認められることとなったのだ。 そうしてハイメカツインカムエンジンによって、一斉に16バルブDOHCエンジンが普及した。

ライバルメーカーにとってはこのハイメカツインカムは正に脅威であった。 それまでの3バルブエンジンもハイメカツインカムの前では、 色あせたものになってしまったのも事実である。 実際のハイメカツインカムエンジンは、実用性を重視したものであったために、 高回転まで一気に回るようなスポーティなフィールは持っていなかったので、 ハイメカツインカムのコンセプトを正しく理解できなかった 雑誌などから「ニセモノのDOHC」などと悪口言わることもあった。 今では、実用DOHCというジャンルが確立されているが、 当時はDOHCはスポーティカーのためのメカニズムであるという固定観念で 支配されていたのである。 結局のところ、原理的には圧倒的に高性能なハイメカツインカムエンジンは ユーザーの間にも好意的に受け入れられることとなった。 ライバルメーカーもエンジンの進化を推し進めて新開発のDOHCエンジンを搭載するなどして、 カローラを追った。 それから何年もしないうちにスポーティカー以外でもDOHCを採用する車が増え、 商用バンにもDOHCを採用する車が当たり前になり、 日本では、高効率追求型ツインカムエンジンが主流となった。

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