※熊谷信太郎、早稲田司法試験セミナー、現代民法研究会 編著  『デバイス 民法U 債権総論・債権各論』  1997年  p411-p418から無断転載

事務管理


第697条[管理者の管理義務]
  義務なくして他人の為めに事務の管理を始めたる者は其事務の性質に従い最も本人の利益に適すべき方法に依りて其の管理を為すことを要す
A管理者が本人の意思を知りたるとき又は之を推知することを得べきときは其意思に従いて管理を為すことを要す

第698条[緊急事務管理]
  管理者が本人の身体、名誉又は財産に対する急迫の危害を免れしむる為めに其事務の管理を為したるときは悪意又は重大なる過失あるに非ざれば之に因りて生じたる損害を賠償する責に任ぜず

第699条[管理者の通知義務]
  管理者は其管理を始めたることを遅滞なく本人に通知することを要す但本人が既に之を知れるときは此限りに在らず

第700条[管理者の管理継続義務]
  管理者は本人、其相続人又は法定代理人が管理を為すことを得るに至るまで其管理を継続することを要す但其管理の継続が本人の意思に反し又は本人のために不利なること明らかなるときは此限りに在らず

第701条[委任の規定の準用]
  第645条乃至第647条〔受任者の権利義務〕の規定は事務管理に之を準用す

第702条[管理者の費用償還請求権]
  管理者が本人のために有益なる費用を出したるときは本人に対して其償還を請求することを得
A管理者が本人のために有益なる債務を負担したるときは第650条第2項〔受任者の負担債務弁済請求等〕の規定を準用す
B管理者が本人の意思に反して管理を為したるときは本人が現に利益を受くる限度に於てのみ前2項の規定を適用す

1.事務管理の意義
(1) 意義
  事務管理とは、義務なくして他人のためにその事務(仕事)を管理(処理)することをいう§697-T)。

△例えば、隣人の留守中にその屋根が暴風雨で壊れたのを見て頼まれてもいないのに修理しておくことなどである。この場合、それが隣人の利益になり、その意思に反しないならば、事務管理として、一定の保護(修理代の請求など)が与えられる。事務管理は、フランス法では「準契約」、ドイツ法では「委任なき事務の処理」と呼ぶ。事務管理は「義務はないが、好意で他人の事務を処理した場合、それがその人の意思と利益に適合しているならば、その結果、その人との間に何らかの債権関係が発生する」というものであり、「本来他人の支配領域の事務を(委任がないのに)処理する」という点に着目したのがドイツ法であり、(契約ではないがそれに準じて)債権関係が生じるという点を重視して表現したのがフランス法の「準契約」である(詳しくは、池田「スタートライン債権法」P124以下参照)。

△事務管理は、社会共同生活における相互扶助の理想から無視しえない行為であるが、他方、それが個人の生活に対するいきすぎた干渉となるおそれがある。そこで、わが民法は、事務管理を、もっぱら本人の利益のために道徳的な動機から、奉仕と心得てなすべきものだと考えている。換言すると、民法の個人主義の立場から、事務管理を積極的に推奨するのでなく、消極的に他人の財産への違法な干渉にはならないととらえている。

(2) 性質
  事務管理は、準法律行為である。
△事務管理は意思表示ないし法律行為ではないから、これらに関する規定は事務管理には適用されない。


2.事務管理の成立要件
(1) 事務管理の成立要件

@他人の事務jを管理すること
A他人のためにする意思ががあること
B法律上の義務ないこと
C他人の意思ないし利益に反することが明らかでないこと
△@〜Bの要件は、明文上(§697)明らかであるが、Cは明文の規定はない。

@ 他人の事務jを管理すること(§697

△「事務」とは人の生活に利益をもたらす一切の仕事をいい、法律行為でも事実行為であってもよい。

△「他人の事務」には、(i)事務の性質上当然に他人の事務となるもの(客観的他人の事務−ex.他人の債務の弁済)と、(ii)事務自体として中性であるが管理者が他人のためにする意思をもって管理するときは他人の事務となるもの(主観的他人の事務−ex.物品の購入行為)とがある。

A他人のためにする意思ががあること(§697
△「他人の為めに」事務を管理することとは、他人の為めにする意思、すなわち、他人の利益を図る意思をもって事務を管理することを意味する(通説)。事務管理の法律効果は、この管理者の管理意思に基づいて生ずるものではない(準法律行為)が、管理者にこの意思があることで初めて、他人の領域に介入することが正当化され、一定の法律効果を与えられる根拠となることから、これが成立要件の1つとされる。
a) 他人に事実上の利益を与えようとする意思が必要である(通説)
b) 主観的な意思は必要ではなく、管理の結果が社会通念上本人の利益になることでよい(少数説)

△a)説は、主観的意思を要求することにより、事務管理の成立について消極的な態度をとり、b)説は事務管理を助長・促進する態度をとる。例えばa)説では、客観的他人の事務を自己の事務と誤信して管理しても事務管理とならない。

△他人のためにする意思は、、自己のためにする意思と併存してもよい。例えば、倒れようとする隣人の家を修理することは、それが同時に自己の家に被害が及ぶのを防ぐことを目的としていても事務管理たりうる。

B法律上の義務ないこと
△管理者が法律の規定(ex.法定代理人)又は契約によって本人に対してその事務を管理すべき義務を負担するときは、事務管理は成立しない。
C他人の意思ないし利益に反することが明らかでないこと
△これを事務管理の成立要件とするのが通説である。
(理  由)
  700条但書の反対解釈による。すなわち、途中で本人の意思ないし利益に反する場合は管理を継続すべきでないと規定していることから、事務の管理が最初から客観的にみて本人の意思ないし利益に反することが明らかな場合は、たとえ管理者が本人の利益を図る意思であっても事務管理は成立しないと解すべきである。

△但、この場合の本人の意思は適法なものであることを要する。事務の管理を欲しない本人の意思が強行法規又は公序良俗に反するときは、それに適合しなくとも事務管理の成立を妨げない。(大判大8.4.18, 通説)
(理  由)
  事務管理という制度そのものが社会共同生活の理想から認められたものであることにかんがみれば、かような本人の意思は尊重するに値しないからである。

(2) 準事務管理
  事務管理は他人のためにする意思があることを要件とするから、他人の事務を自己のためにする意思をもって管理したときは、事務管理は成立しない。この場合に、その他人(本人)は、不法行為に基づく損害賠償や不当利得の返還を利得者に対して請求しうるが、あくまでそれは本人が損害を被った範囲に限られるから、利得の一部が違法な利得者の手許に残ってしまう。そこで、準事務管理という概念を認め、事務管理の規定を類推適用できないかが問題となる。
  義務なくして他人の事務を管理したものであるが、他人のためにする意思を欠く場合には事務管理は成立しない。この場合に利得を違法な行為者に残すべきではないとして、準事務管理の概念を認め、事務管理の規定を類推適用する見解がある。
  しかし、準事務管理の概念を認める必要はないと解する。なぜなら、事務管理という本来利他的な行為として管理者を保護することを目的とする制度を準用することは筋違いであり、また管理者の得た利得の償還については、不当利得ないし不法行為の問題として処理すれば足りるからである。

a) 準事務管理否定説(我妻、松坂など通説)

(理  由)
(i)   民法に規定のない制度を認めることは慎重たるべきである。
(ii)  不当利得または不法行為として処理すれば足り、本来利他的な行為を保護するための事務管理制度を準用するのは筋違いである。
(iii) 本人の損害額の算定については、管理者が既に現実に利益を得ている以上、本人が実際にそれだけの利益を上げられるか否かを問うことなく、一般にそれだけの利益が得られる客観的可能性があればその範囲で本人に得べかりし利益の損失があったと解すれば、不当な結果を招致することなく公平の理念にも適する。他方、管理者が特殊の才能や機会に恵まれて通常以上の利得を得た場合には、それはむしろ返還させない方が公平に適する。
(iv) 悪意の侵害者からはすべての利得を返還させるべきだとの意見も、悪意の不当利得においてはそうしていない。(本人の損害の限度)のであり、合理性を欠く。
b) 準事務管理肯定説(鳩山、末川)
(i)  事務管理は適法行為の場合で、この場合は不法行為ちう違いはあるとしても、他人の事務の管理・干渉という点で共通するものがあり、類推する基礎がある。
(ii) 悪意の侵害者に侵害行為による何らかの利得を保有させることは、それを被害者に帰属させるよりもはるかに不当性が大きいし、いわば泥棒をして利益配当にあずからしめるという発想であり、妥当ではない。
c) 近時の学説
(イ) 介入権説(平田)
  商法上認められている介入権が民法上一般に認められ、本人は介入権を根拠として利得の返還を請求できる。
(ロ) 制裁説(好美)
  他人の排他的・独占的に保護される権利領域を悪意で侵害する者に対しては、権利者はこうむった損害の有無・程度に関わらず、その侵害行為により取得した利益の引渡を請求できる、というテーゼを解釈上主張するもの。
△特許法には、無断で特許権を実施した者に対して特許権者が損害賠償を請求する場合には、相手方がその実施によって得た利益は特許権者の受けた損害の額と推定する旨を定めている。著作権法、実用新案法等にも同様の規定がおかれている。
3.事務管理の効果
(1) 対内効果
@違法性の阻却
  管理行為は違法性が阻却され、たとえ本人に損害を与えても不法行為とはならない。この点、明文はないが、事務管理を利他的目的と社会的共同生活の相互扶助の理念から認めた以上、当然である。
△但、管理者が管理義務を怠り、故意・過失により本人に損害を与えれば、697条違反として債務不履行責任を負うべきである。債務不履行責任と不法行為責任の競合を認める立場では、この義務違反が同時に不法行為の要件を具備する場合には、不法行為も成立する。
A管理者の義務
(i) 管理者が本人の意思を知り又は知りうべきときは、その意思に従って管理しなければならない。(§697-U)。本人の意思を知りえないとき、又は本人の意思が強行法規もしくは公序良俗に反しこれを尊重すべきでんばいときは、事務の性質に従って最も本人の利益に適すべき方法で管理しなければならない。(§697-T)。

(ii) 管理者は、原則として善良な管理者の注意をもって管理しなければならない善管注意義務。但、本人の身体・名誉又は財産に対する急迫の危害を免れさせるために事務管理緊急事務管理をなした場合は、悪意又は重過失についてだけ債務不履行の責任を負う(§698)。

(iii) 管理者は、管理を始めたことを遅滞なく本人に通知しなければならない。但、本人がすでに知っているときは通知は要しない(§699

(iv) 管理者は、本人もしくはその相続人又は法定代理人が管理することができるようになるまで、管理を継続しなければならない。但、管理の継続が本人の意思に反し、又は本人のために不利なことが明らかなときには、管理を中止しなければならない(§700)。

(v) 管理者は、委任の規定に従って計算義務を負う(§701)。

(イ) 本人への管理状況・終了報告義務§645準用)
(ロ) 管理に当たり受取った金銭その他の物・収取した果実の引渡義務、自分の名義で取得した権利の移転義務§646準用)
(ハ)  本人に引渡すべき金銭を自己のために消費した日以降の利息支払義務、損害賠償義務§647準用)
管理者の権利
(i) 管理者が本人のために有益なる費用を支出したときは、管理者は本人に対して償還を請求することができる(§702-T)。管理者が本人のために有益な債務を負担したときは、本人は、管理者に代わってそれを弁済し、あるいは相当の担保を供与する義務を負う(§702-U、§650-U準用)。

民法(抜粋)
第645条[受任者の報告義務]受任者ハ委任者ノ請求アルトキハ何時ニテモ委任事務処理ノ状況ヲ報告シ又委任終了ノ後ハ遅滞ナク其顛末ヲ報告スルコトヲ要ス
第646条[受任者の受取物引渡し等の義務]受任者ハ委任事務ヲ処理スルニ当リテ受取リタル金銭其他ノ物ヲ委任者ニ引渡スコトヲ要ス其収取シタル果実亦同シ
A 受任者カ委任者ノた為メニ自己ノ名ヲ以テ取得シタル権利ハ之ヲ委任者ニ移転スルコトヲ要ス
第647条[受任者の金銭消費の責任]受任者カ委任者ニ引渡スヘキ金額又ハ其利益ノ為メニ用ユヘキ金額ヲ自己ノ為メニ消費シタルトキハ其消費シタル日以降ノ利息ヲ払フコトヲ要ス尚ホ損害アリタルトキハ其賠償ノ責ニ任ス
第650条[受任者の費用償還請求権等]受任者カ委任事務ヲ処理スルニ必要ト認ムヘキ費用ヲ出タシタルトキハ委任者ニ対シテ其費用及ヒ支出ノ日以降ニ於ケル其利息ノ償還ヲ請求スルコトヲ得
A 受任者カ委任事務ヲ処理スルニ必要ト認ムヘキ債務ヲ負担シタルトキハ委任者ヲシテ自己ニ代ハリテ其弁済ヲ為サシメ又其債務カ弁済期ニ在ラサルトキハ相当ノ担保ヲ供セシムルコトヲ得
B 受任者カ委任事務ヲ処理スル為メ自己ニ過失ナクシテ損害ヲ受ケタルトキハ委任者ニ対シテ其ノ賠償ヲ請求スルコトヲ得
昭和58年度
【第2問】 
  A会社の工場が爆発し、付近を通行中のBが重傷を負い、通行人CがタクシーでBを医師Dのものに運んだ。Bは、治療のかいもなく、間もなく死亡し、あとに、長期間別居中の妻E、内縁の妻F及びB・F間の子でBに認知された幼児Gが残された。 
  右の事実関係の下において、次の問いに答えよ。 
1.Cがタクシー料金及び汚れた衣服のクリーニング料金を支出した場合におけるその費用並びにDの治療代に関し、C及びDは、だれに対してどのような請求をすることができるか。 
2.E、F及びGは、A会社に対してどのような請求をすることができるか。

一.小問1
1.Cのタクシー代、クリーニング代
(一)E・G=妻・認知された子
     →相続人(民法887T、890、779、784)
     →Bが債務を負担すれば、E・Gは相続分に応じ相続(民法896、900)
     →BはCに債務を負担していたか否かが前提
          
        Bの依頼の有無により構成

(二)Bの依頼がある場合
 (1)運搬行為の依頼
     →事実行為と依頼
     →準委任契約
 (2)必要
     →民法650T
        事務処理に伴う損害→民法650V
     →クリーニング代、タクシー代=必要性→民法650Tにより、Bに債務(受任社の費用及び損害)
        クリーニング代=B(重傷者)の運搬
     →通常重傷者を運搬すれば血液が衣服に付着して汚れる
     →損害

(三)Bの依頼がない場合
 (1)C通行人→義務なくしてBを運搬
     →事務管理(民法679)
 (2)有益なる
     →必要費を排斥しない点は、問題なし
     →問題は損害も含むか?
     →事務管理=私的自治の例外
          
     民法702Tは民法650Vを準用していない以上、認めるべきではない
     もっとも、趣旨は、当然予想される損害は含まれる

(四)B上記債務負担
    →金銭
    →E・Gの相続分に応じ、1/2づつ相続負担
    →E・Gに対し、1/2づつ請求可


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