Books & Cinema


最近のホットな感想は「コラム」に書いています。

Books
『銀のキス』
著者:アネット・カーティス・クラウス  訳者:柳田利枝
徳間書店  2001年3月発行  1400円


本書はたぶん児童書のコーナーに並んでいるだろうが、10代向けの内容で、大人が読んでも面白い。
孤独な少女が闇夜に出会った美青年は、実は心やさしい吸血鬼だった・・・。全編に死の匂いがたちこめながらも、成長していく少女の姿が清々しい。
萩尾望都の『ポーの一族』がお好きな方(私は大ファンです)には、特におすすめ。小ぶりな本の装丁も洒落ている。

『須賀敦子のミラノ』
文/写真:大竹昭子  河出書房新社  2001年4月発行  1800円


須賀敦子という作家をご存じだろうか。書名に惹かれて『コルシア書店の仲間たち』を読んだとき、なんて美しい文章を書く人だろうと思った。
本書は、98年に亡くなった須賀敦子の軌跡を、写真とエッセイでたどったもの。
写真は観光案内レベルにとどまらず、町のたたずまいを静かに伝えていて美しい。
イタリアに関心のある方には是非、手に取っていただきたい。本書を読む前に、須賀敦子の著書を1冊でも読むと、何倍にも楽しめると思う。

『バレエ入門』 
著者:三浦雅士   新書館  2000年11月発行  1600円


バレエを鑑賞する人、習っている人たちに、バレエがどれほど深い奥行きをもっているか感じてほしい。著者は前書きでそう述べている。
長年バレエ鑑賞を楽しんできた私は、本書の内容に共感すると同時に感動すら覚えた。今までおぼろげに感じていたことが、明確な言葉で表現されていたのだ。そう、そうなんですよね!と思わず口に出したくなるほど嬉しかった。
深い内容をやさしい言葉で表すことは、とても難しい(その逆は簡単にできるけれど)。著者は、最も古い芸術である「舞踊」の魅力を誰にでもわかるように語っている。

「舞踊の感動は厳密に1回きりのものです。その日その場にいなければ、その感動は味わえません」
「生きている生身のダンサーが心身ともに充実してその日その場に」いて、「観客もまた心身ともに充実してその日その場に」いてこそ、感動が味わえる。「ダンサーはその観客の気迫に応えて踊るのです」
「観客はダンサーのなかに自分自身を見ます。自分自身の生命の圧縮された姿を見る」
「バレエにとっては、刻一刻と過ぎてゆくその瞬間のすべてが、作品です」
著書のこうした言葉は、バレエに限らずダンス(もっと広く言えば舞台芸術)に興味をもつ人たちの、深い共感を呼ぶことだろう。
『バレエの魔力』 
著者:鈴木晶   講談社現代新書  2000年5月発行  680円


バレエを愛する大学教授が、「おじさんたちにバレエを見てもらいたい」という切なる願いから書いたという。おばさんや若い女性たちはもうしっかりバレエの「蜜の味」を味わっているから、取り残されているおじさんたちにその魅力を教えたいのだとか。
著者のユーモアに富んだ絶妙な語り口と、モノクロの美しい舞台写真のおかげで、面白くて実用的な入門書になっている。新書サイズだから軽いし、お値段も安いし、おじさんでなくとも(笑)バレエにちょっと興味のある人にとっては格好のガイドブックだ。
「15分ですべてわかるようにまとめた」バレエの歴史。何をどう見たらいいのか。バレエの本質とは・・・。など、内容は充実している。
Cinema
「エトワール」  2002/06/16  
http://www.etoiles-movie.com/
監督:ニルス・タヴェルニエ 
出演:マニュエル・ルグリ、ニコラ・ル・リッシュ、オーレリ・デュポン、ローラン・イレール他

「エトワール」とは、フランス語で「星」という意味。世界最高のバレエ団ともいわれるパリ・オペラ座バレエは、完璧な階級社会であり、その頂点を表す最高位を「エトワール」と呼ぶ。
300年以上の歴史をもつパリ・オペラ座の舞台裏に初めてムービーカメラが入り、公演風景や練習風景、ダンサーや振付家へのインタビューをとらえた、ドキュメンタリー映画。

3月末から公開され今(6月)も続いているロングラン。世の中にバレエファンがたくさんいるとも思えないから、リピーターが多いのかもしれないが、これは劇場でバレエを観たことのない人でも楽しめる映画だ。演劇やミュージカル、はたまたスポーツ(!)好きの人にもお薦めする。
芸術にしろスポーツにしろ超一流といわれる人たちは、おそらく私たちの知らないところで血の滲むような努力を積み重ねているに違いない。ひと握りの選ばれた人たちが、さらに上をめざして鍛錬する。そうした普段は目にすることのできない世界を、この映画は垣間見させてくれる。

ダンサーたちがとてもフランクにインタビューに答えているのには驚いた。美しいイメージが大切なバレリーナにとって、汗まみれの姿や血豆のつぶれた足を写されるのは嫌なものだろう。もちろんカメラは、そうした部分を強調したりはしない。ごく自然に、ダンサーたちの日常を写している。その「自然に」というのがすごい。アーティストでもあるタヴェルニエ監督の熱意や真摯な人柄が、ダンサーたちに好意的に受け入れられたのかもしれない。4年越しの交渉と審査の末、3ヶ月間の撮影が許可されたというから、監督の熱意も相当なものだ。

タヴェルニエ監督は、パリ・オペラ座のダンサーは「自己を鍛練する詩人たち」だと語っている。
子供の頃から徹底した自己管理を要求されることについて、あるダンサーはこう答えていた。「”犠牲”とは思わない。多くのことをあきらめる一方で、至上の幸福を味わえる。”犠牲”ではなく”努力”なの。大きく報われる努力だわ」

監督の賞賛の目はエトワールだけに注がれているわけではない。群舞をうけもつダンサーたちにも、ダンサーを夢見るバレエ学校の生徒たちにも、敬意に満ちた眼差しが向けられている。
キャリアよりも母親になることを選ぶダンサー。引退を決意するダンサー。代役のチャンスを狙って黙々とレッスンを続けるダンサー。カメラはさまざまなダンサーの姿を映し出す。
舞台上の数分間のために、人生のある一時期のすべてを賭ける。その潔さと情熱に、目頭が熱くなった。
「キシュ島の物語」  2001/08/26

映画を観る楽しさって、日常から離れて未知の世界を垣間見られることじゃないだろうか。この映画はまさに、そうした楽しさを満喫させてくれる。
キシュ島は、ペルシャ湾に浮かぶ小さな島で、イスラム革命前にはパーレビ国王のリゾート地になっていたという。本土では規制されいている娯楽が開放され、ビザなしで入国することができるイランで唯一の島だとか。
この映画の誕生過程が面白い。キシュ島観光局が、島の魅力を芸術的な方法で世界にPRしようと考え、イランを代表する監督に映画製作を依頼した。
依頼を受けたマフマルバフ監督は、ほかの監督たちにも参加してもらい、自由に題材を選んで短編集を作ろうと提案した。イランでは原則としてシナリオを検閲にかけなければならない。監督は観光局に2つの条件を出した。
”シナリオを検閲官に渡さない”そして”制約なしに自由に撮る”。こうして、イランであってイランでない島で、不思議な映画が作られたのだ。

第1話 ギリシャ船  監督:ナセール・タグヴァイ
第2話 指輪     監督:アボルファズル・ジャリリ
第3話 ドア     監督:モフセン・マフマルバフ

会話はほとんどないし、親切なナレーションもない。観る者の想像力をかきたてられる映像だ。最初はあっけにとられた感じだったが、だんだん引き込まれてしまった。場内ではときどき、笑いも起きた。けっこうユーモラスだ。
観光局が作る映画なら、青い海・白い砂浜--地上の楽園キシュ島へ行こう!という感じかなと思っていたら、ぜんぜん違う(笑)。いやー、まいった。やられました。PR映画なんて次元の低いものじゃなかった。
ちょっと疑問に思ったのが、シナリオを検閲官に渡していたらどこがカットされたか、ということ。イランを知らない私には、想像もつかないのだが。
「マンボ!マンボ!マンボ!」   2001/07/22

脚本/監督:ジョン・フォルト  製作総指揮:ガブリエル・バーン
主演:ケリー・ラッセル 、ウィリアム・アッシュ


高校生ダニー(ウィリアム・アッシュ)はサッカーに夢中。学校の成績も容姿もいまいちでガールフレンドはいないが、プロのサッカー選手になるという大きな夢がある。サッカーにはリズムが大事と聞いて、ラテンダンスを習おうと思いつく。ダンス教室で出会った美少女ルーシー(ケリー・ラッセル)に一目惚れしてしまうが、強力なライバルがいた。はたしてダニーの思いは彼女に通じるのか?・・・

ストーリーはよくある青春ラブコメディだが、舞台が北アイルランドのベルファストという点がひと味違う。町のいたるところに武装した兵士がいたり、ダニーの兄は「英国国歌は歌わない」と言い張ったり、芸能人が「危険地域だ」という理由で出演を断ってきたり、プロテスタントのサッカーチームにカトリック教徒が入ってきて大騒ぎになったり・・・。そんなエピソードがさらりとユーモラスに描かれる。
ルーシーも、彼女のボーイフレンド(お金持ちの優等生)も、「この町には未来がない」と言って、卒業後はロンドンに行こうと考えている。でもダニーはこう言う。「僕はここにいるよ。母さんがいるし。友達もいるからね」。ダニーの父さんは蒸発してしまった。プロのサッカー選手になって金を儲けて、母さんのために家を建てるのがダニーの目標なのだ。

こういうけなげな(そしてちょっとドジな)男の子に私は弱い(笑)。ダニーを演じるウィリアム君はほんとに人がよさそうで、茶目っ気たっぷり。ルーシーに認めてもらいたい一心でレッスンに励む姿がいじらしい。
勝気で上昇志向のルーシーを演じるケリー嬢は、スタイル抜群でダンスも上手い。それにすっごく可愛い。どんなに生意気なことを言っても、憎らしく見えない。美人は得だな。
裕福で勝気な金髪美少女ルーシーと、貧乏でガッツのある黒髪少年ダニーの恋の行方(始めはダニーの一方的な片思い)には、にんまりさせられた。ダニーと踊っているうちに、ルーシーの表情がだんだん柔らかくなっていく。ダンスのパートナーって、ほんと不思議なものですね。