舞 台 雑 感


印象に残った舞台、演奏会についてのメモ。日付順。
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最近のホットな感想は「コラム」にも書いています。


2003年  観て(聴いて)よかった公演・コンサート
「リチャード三世」 
2003年12月5日〜28日  日生劇場
★詳細レポートはタータン・ルームへ 

原作:W.シェイクスピア   翻訳:松岡和子   演出:蜷川幸雄
出演:市村正親、夏木マリ、香寿たつき、瑳川哲朗、高橋長英ほか


エフゲニー・キーシン  ピアノ・リサイタル
2003年12月1日  サントリーホール

ディミートリー・ホロストフスキー  バリトン・リサイタル
2003年11月19日  東京オペラシティ

リバーダンス
2003年11月9日  東京国際フォーラム ホールA

ブロードウェイ・ミュージカル 「WEST SIDE STORY」
2003年9月7日  オーチャードホール

ローラン・プティの世界 「ノートルダム・ド・パリ」
2003年8月23日  オーチャードホール

出演・・・ルシア・ラカッラ、ジェレミー・ベランガール、バンジャマン・ペッシュほか

世界バレエフェスティバル Bプロ 
2003年8月10日  東京文化会館

出演:シルヴィ・ギエム、アレッサンドラ・フェリ、オレリー・デュポン、アニエス・ルテステュ、タマラ・ローホ、
 ウラジミール・マラーホフ、マニュエル・ルグリ、ニコラ・ル・リッシュ、ジル・ロマン、アンドレイ・ウヴァーロフほか

「草原の風〜白い馬の伝説〜」
2003年7月21日  ゆうぽうと簡易保険ホール

原案・映像:椎名誠   構成・演出:荻田浩一   振付:インバル・ピント、平山素子   音楽:斉藤恒芳
出演:吉本真悟、三木雄馬、橋本拓也、NIRO、森山開次ほか

TSミュージカル  「天翔ける風に」 
2003年6月19日〜7月1日  東京芸術劇場 中ホール 
★詳細レポートはタータンさん&宝塚

構成・演出・振付:謝珠栄   作曲:玉麻尚一
出演:香寿たつき、立川三貴、福井貴一、畠中洋、平沢智、伊東恵里、大谷美智浩、大峯麻友ほか

シルヴィ・ギエムによるプロデュース 「三つの愛の物語」 
2003年6月17日  東京文化会館

出演:シルヴィ・ギエム、アンソニー・ダウエル、ジョナサン・コープ、マッシモ・ムッル、斎藤友佳理、首藤康之ほか
演目:「三人姉妹」「カルメン」「マルグリットとアルマン」

ドミニク・ヴィス  カウンターテナー・リサイタル
2003年5月31日  東京オペラシティ 

映像&一人芝居「ゼルダ」
2003年5月21日  ラフォーレ・ミュージアム原宿

出演:月影瞳   作・演出:荻田浩一   映像:奥秀太郎   音楽:斉藤恒芳

ローラン・プティ グラン・ガラ
2003年4月12日  赤坂ACTシアター

出演・・・マニュエル・ルグリ、マッシモ・ムッル、ニコライ・ツィスカリーゼ、イルゼ・リエパ、上野水香ほか 
演目 「アルルの女」「ノートルダム・ド・パリ」「枯葉」「カルメン(ソロ版)」「スペードの女王」ほか

AMP(アドベンチャーズ・イン・モーション・ピクチャーズ) 「SWAN LAKE」
2003年3月14日  オーチャードホール

演出・振付:マシュー・ボーン
出演・・・白鳥:ジーザス・パスター   王子:トム・ワード   女王:エマ・スピアーズ 

宝塚歌劇 星組公演  「ガラスの風景」・「バビロン」 
2003年2月14日〜3月23日  東京宝塚劇場    香寿たつき退団公演
★詳細レポートはタータンさん&宝塚



2002年 観て(聴いて)よかった公演・コンサート

2001年 観て(聴いて)よかった公演・コンサート







エフゲニー・キーシン  ピアノ・リサイタル

ピアノ好きの方なら、キーシンの名前はよくご存じだと思う。10代でデビューして神童と騒がれた彼も、今は32才。「神童も大人になればただの人」とよく言われるが、キーシンは、ただの人にはならなかった。
私は幸運にも、キーシンの日本デビューのコンサートを聴いた一人だ。可愛らしい少年の体からあふれでるような音楽に、ただただ驚き感動し、天才って本当にいるんだと実感したものだった。
彼がどう成長していくのか楽しみで、機会があればできるだけ聴きに行くようにしている(チケット完売で買いそびれたこともあったけど)。

今回のプログラムは、シューベルトとリスト。
◆ピアノ・ソナタ第21番  (シューベルト作曲)
◆歌曲集「白鳥の歌」より”セレナーデ”、”わが宿”
「美しき水車小屋の娘」より”さすらい”、”どこへ?”  (シューベルト作曲、リスト編曲)
◆「巡礼の年」より”ペトラルカのソネット第104番”
メフィスト・ワルツ第1番  (リスト作曲)

歌曲王と呼ばれるシューベルトの曲をキーシンがどう弾くのか、ワクワクしながら出かけた。
ステージに登場したキーシンは、また一回り大きくなった感じ。フワフワした髪型やピョコッとお辞儀をするしぐさに、まだ少年時代の名残りがある気がしたけれど、ピアノを弾き出した彼は、風格すら漂う、堂々たる音楽家だった。

キーシンのピアノのどこが好きかと聞かれたら、私は、ピアノが歌うからと答える。もちろん、完璧なテクニックや、力強いタッチ、繊細なピアニシモ、オーケストラにもひけをとらない壮大な音色・・・と挙げればきりがないのだが。技術と知性と情感を、これほどバランスよく持ち合わせているピアニストはちょっといないんじゃないだろうか。それもあの若さで! 上手すぎる演奏家はともすれば技巧だけになりやすいが、キーシンのピアノはいつも歌っている。観客を至福の気分にさせてくれる。

その素晴らしさが特に表れたのが、シューベルトのセレナーデ。この曲を演奏するのに、人の声に優るものはないと思っていたが、キーシンのピアノは極上の音色で歌ってくれた。客席は静まり返り、観客がうっとりと聴き惚れているのがわかった。
リストの超絶技巧といわれるワルツも、キーシンが弾くとロマンティックに聞こえた。

熱烈な拍手と「ブラボー」が飛び交う中、一人の女性がキーシンに花束を渡した。彼はその花束をピアノの上にそっと置いた。まるで「この花束は君に」とでもいうように。キーシンから花束をもらったピアノは、その後なんと1時間も歌うことになるのだ。
アンコールに出てくるたびに、たくさんの女性ファンが彼に花束やプレゼントを手渡していた。握手をしてもらった人もいた。いいなあ、キーシンの手に触ってみたい(笑)。

アンコール1曲目はシューベルトの即興曲。大好きな曲だ! 流れるように美しい。この曲をCDで聴いた時、私も弾いてみたいと思った。耳で聞くとそれほど難しい曲とは思わなかったので、練習すれば弾けるかなと楽譜を買ってきてビックリ。指使いはどうやるの? 私にはとても無理だとわかって、今は聴くのみ。あの曲を、キーシンは易しそうに(彼にとっては易しいんだろう)楽しそうに弾いた。

キーシンが弾き終わると、観客はまた立ち上がって熱烈な拍手を送る。彼は丁寧にお辞儀をして舞台袖に引っ込むが、拍手が鳴り止まない。キーシンが再び登場してピアノの前に座ると、どよめきが起こり、拍手がぴたりと止む。
客電はとっくに点いているのだが、キーシンが弾くたびに客席は盛り上がり、アンコールはとどまるところを知らない。クラシックのコンサートで、観客が熱狂して総立ちになるのは珍しいと思う。

時計を見ると、プログラムが終わってから既に1時間が経っていた。おいおい、キーシン君は大丈夫なのか? アンコールを何曲も聴かせてもらう私たちは嬉しいけど、彼にはまだ公演が残っているはず。あんなに弾いて疲れないんだろうか。
客席から見る限り、その演奏を聴く限りでは、キーシンは全然疲れていないようだった。それどころか、実に楽しそうに弾くのだ。ピアノに触るのが嬉しくてたまらないといった感じで。

たしか9回目のアンコールの時だったと思う(これがラストになった)。キーシンがピアノの前に座ると、1度止んだ拍手がまた湧き起こった。観客の「ありがとう」の気持ちが自然に湧いたような、あたたかい拍手だった。
キーシンはにっこり笑い、右手を左胸に当てて頷いた。彼もまた観客に向かって「ありがとう」と言ったに違いない。心からの感謝をこめて弾きます、と。
ブラームスのワルツが静かに響き、観客をやすらかな夢へといざなってくれた。

たっぷり2回分の公演を聴かせてもらったような、満ち足りた気分でホールを出た。今夜はとびきりいい夢がみられそうだ。キーシン君、ありがとう。

ディミートリー・ホロストフスキー  バリトン・リサイタル

銀髪をなびかせて歌うすごいバリトンがいる、と何かの雑誌だったかチラシだったかで見かけて、ちょっと気になっていた。彼のまばゆいプラチナブロンドと美声に魅了された女性ファンが急増しているという。テノールに比べて地味な役どころの多いバリトン歌手が、ビジュアルでも注目されているのは面白いと思った。

彼の名は、ホロストフスキー(なかなか覚えられないんだな、これが)。
シベリアの出身で、イタリア・オペラを得意にしているがロシア・オペラもよく歌うそうで、キーロフの来日公演に参加するという。オペラに出演する他にリサイタルも開くとのことで、これは聴きに(観に)行かなくちゃと思った。

プログラムは、前半はロシア系で後半はイタリア系。
◆リムスキー・コルサコフ作の歌曲から 「波は砕け、打ち寄せしぶきをあげる」他
チャイコフスキー作の歌曲から 「死」、「狂おしい夜」、「夜」、「昼の光が満ちようと」他
ルビンシテイン作の歌劇「デーモン」より ”泣くな愛しきものよ”他
◆ヴェルディ作の歌劇「スティッフェリオ」よりアリア2曲
「エルナーニ」より”若き日々よ”
「仮面舞踏会」より”お前こそ心を汚すもの”
「オテロ」より”無慈悲な神の命ずるままに”
◆ナポリ民謡から 「夜の声」、「マリウ、愛の言葉を」、「君に告げて」、「恋する兵士」

ステージに登場したホロストフスキー、確かにまばゆいプラチナブロンドだ。背が高くて体格がいい。あれならどこにいても目立つだろうなあ。声量もありそう。
リムスキー・コルサコフの歌曲を歌い出した。なんていい声! 私はどちらかといえば低い声が好み。彼がどんな風貌だろうと、もう関係ない。目を閉じてうっとりと聴いていたい声だ。

高声のテノールが太陽に向かって高らかに歌うイメージなら、低声のバリトンは夕暮れから夜にかけて秘めた想いを歌う、というイメージだろうか。ホロストフスキーの声は重く深く、そして限りなくロマンティック。
オペラ「デーモン」は初めて聴いた。堕天使デーモンが人間の王女に恋して我がものにしようとするが、天使に阻まれるというストーリーだそうだ。「私は誰にも愛されない者、自然の悪」と歌うホロストフスキーの声は凄味がありシニカルだが、深い嘆きが胸に迫ってくる。こんな美声の堕天使に切々と愛を歌われたら、たいていの女性は誘惑に負けそう(笑)。

ヴェルディのオペラはドラマティックに、ナポリ民謡は明るくソフトに、ホロストフスキーは見事に歌い分けていた。美声と歌ごころを持った人は、何を歌っても上手いということかな。
アンコールでは、アカペラ(無伴奏)でシベリア民謡を朗々と歌った。広大な雪原が目の前に浮かぶような感じがした。初めて聴いたのに、郷愁を誘う美しいメロディーだった。

ドミニク・ヴィス  カウンターテナー・リサイタル

ヴィスの声を聴いたのはCDが最初だった。カウンターテナーが武満徹の曲を歌う、というのに惹かれて買ったCDが素晴らしくて、いつかライブを聴いてみたいと思っていた。
声楽ファン(特にカウンターテナー好き)の間では、ヴィスの名前はよく知られているらしい。彼は独特のスタイルを持ち、茶目っ気たっぷりの演技派なんだそうだ。

そのヴィスが、東京オペラシティの「タケミツメモリアル」と名づけられたコンサートホールで、武満の曲を歌う。台風接近という空模様は気になったが、ワクワクしながら出かけた。

ピアノ伴奏はCDと同じ、フランソワ・クテュリエ。頭を丸坊主にしていたのでビックリ。体格はなかなかいいし、腕まくりをしてピアノに向かう姿は、どうもピアニストには見えなかった(笑)。でも演奏は素晴らしかった(外見で判断しちゃいけないな)。彼はジャズピアニストだそうだ。なるほど。

ヴィスは、ワカメのような長髪をひらひらさせて登場した。黒ずくめの洒落たスタイル。タキシードや燕尾服で歌うクラシックの歌手とはかなり雰囲気が違う。
パーセルの「ああ、孤独よ」に始まり、ヘンデルの「泣かせてください」、サンチェスの「悲しみの聖母」、ヘンデルの「愛は風のように」、そしてパーセルの「つかの間の音楽」と、一気に歌った。

カウンターテナーは、男性のファルセット(裏声)とは違う。女声の真似をしているのでもない。女性の低声が歌う音域を、男性が美しい発声で歌うのだ。
目を閉じて聴いていると、天井から声が降ってくるような感じがする。気持ちがいい。

武満の曲からはCDでもお馴染みの「さようなら」、「小さな空」、「燃える秋」など10曲を歌ってくれた。中でも「小さな部屋で」と「島へ」がとてもよかった。
ピアニストとの息もぴったり。軽やかに、切なげに、やさしく語るようなヴィスの歌声に酔いしれた。まるでシャンソンを聴いているようだった。

最後に特別プログラムとして、マリー・アントワネットの作といわれる歌曲「それは私の恋人」を、本邦初披露。これがお目当ての観客も多かったりして(笑)。
可愛らしい曲だが、特に印象には残らなかった。こういう歌を当時の貴族は歌っていたんだなぁ、という程度かな。

アンコールは3曲。ヘンデルの「オンブラマイフ」、プーランクの酔っぱらいの歌(題名は忘れたが、とても上手かった!)、そして武満の「明日ハ晴レカナ、曇リカナ」。
ヴィスの上手さ、武満の素晴らしさを再確認した夜だった。



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