オラトリオ  森の歌
全楽章の歌詞(日本語訳詞)をこのページの下に掲載しています。


 ソルジェニチンやロストロポーヴィッチなどすぐれた芸術家たちを追放し、次いでショスタコーヴィッチの作品を5年間
も演奏禁止さえしたスターリンであったが、自然改造計画に対しては賛成と情熱を燃やしたショスタコーヴィッチは次の
ように述べている。

作曲者 ショスタコーヴィッチのことば

 私は北部でそだった。だから多分、北部と中央ロシアの美しさは晴ればれした南部のそれよりも、、私にはいっそう近
く親しい。・・・・りっぱな森、目のとどくかぎりつらなる野、そしてふたたび森、そのゆたかな濃緑色、びっしりまじった枝
の天蓋と、厚くて香り高い葉と幹・・・・すでに少年時代から、これらは私の印象であり、記憶であり、たえざる不滅の情
熱であった。
 私はいつも夏はゼレノゴルスクから遠くない、カレリア地峡の小住宅ですごした。いきずくような美と荘厳にあふれた
森のささやきが、われわれのまわりに何マイルもひろがる。この森のふしぎな音楽はいつも私を酔わせた。私は私の芸
術において、人間の知覚のプリズムをとおしてそれを描写し、偉大な創造の過程における力にあふれた作品をつうじ
て、自然のためのことばを発見しようと望んだ。
 政府の森林改造計画は、このテーマをいっそう活力にみちたものにした。私は、私のオラトリオを「森の歌」となづけ
た。この中で私は単純な描写的なもの、単なる音響の模倣を避けようと試みた。森の詩的な歌を創造することが私の
望みであった。そこでは、自然の環境を征服し、改造しつつある人間の強い声が、何にもまして高らかにひびきわたる
だろう。
井上頼豊 「ショスタコーヴィッチ」 音楽の友社(1656.1) より

【森林改造計画】:
 カスピ海とカラ・ムーリ砂漠から吹き荒れる熱風と砂嵐に農耕を拒否されている国土に、大陸を縦断して、青森から下
関までの約2倍の距離に、幅60mの大防風林を3本から4本平行して造り、旱魃をなくして不毛の土地を沃土に変える
という大計画であった。


私と「森の歌」

 今から50年近く前、今は亡き井上頼豊氏から「森の歌」の話を伺い、その貴重な楽譜を拝見した私は、異常な興奮
を覚えないわけにはいかなかった。未だ敗戦の傷あとの濃い中で日本再興に励む老若男女の姿は、今日安泰の日々
を送る人々には想像もつかない位すばらしいものであり、この「森の歌」の音楽こそ当時の人々の心にいっそうの拍車
をかけるにふさわしいとの感動を禁じ得なかったのである。
 当時京都で紫明合唱団の指揮者であった私は、時を待たず「森の歌」上演の決心をし、合唱団のメンバーたちもそ
の意欲に燃えたのである。そして当時おそらく日本に一冊しかなかった貴重なスコアを全部写譜することから作業は始
まった。(それはまたオーケストラの経験のない私にとっての勉強でもあった)
 やがて、独唱はテノール竹内光男、バスは佐々木行綱、児童合唱は「スターリン万歳の歌詞さえなければ・・・・・・」、と
いう条件で梅屋小学校の合唱団、オーケストラは京大OBを中心とした「こんせえる・ぬうぼう」の積極的協演ということ
で上演への条件は着々と進み、ついに1953年京都の弥栄会館において、ショスタコーヴィッチのオラトリオ「森の歌」
は、1949年11月26日のモスクワ音楽院における初演から4年後日本ではじめての「森の歌」が響きわたったのであ
る。
 それから芥川也寸志氏らの努力によって「森の歌」は燎原の日の如く日本中にひろまったのである。
櫻井武雄 今なぜ「森の歌」を(2001.2.12) より


今なぜ「森の歌」を

 「森の歌」がかつてのスターリン政府の自然改造計画に基づいて始まっていたことから、今日の上演に反対の意向も
耳にするが、たといスターリン政府にせよ何にせよ

1.自然改造計画に誤りはなく、またそれを実践するまでの人々のすばらしい努力の姿が私た  ちを勇気づけており、
その結果人々の生活が向上していること。
2.何よりもショスタコーヴィッチの作品が良い意味の大衆性を持っているために、素晴らしい   音楽となっているこ
と。
3.日本の政治の誤りが、国民の生活意識を沈滞させている今日、それに強い警鐘を送り、私  たちに新しい生活へ
の勇気を与えてくれる音楽であると思われるから。

 以上の理由から、日本初演から50年近い時を経た今日(そして現在ほとんど上演されることのない今日)私自身に
よる再演を決心した次第である。
櫻井武雄 今なぜ「森の歌」を(2001.2.12) より


オラトリオ 「森の歌」

ト゛ルマトフスキイー作詩
井上頼豊
櫻井武雄    共訳
合唱団白樺


 1.戦いの終ったとき

  いくさは終わりを告げ 喜びの春よ
  たのし勝利の日
  歌は地にみちて
  花火 空を飾る

  われら手をとりつつ
  ふるさとの家路をたどる よろこびよ

  祖国のためにと
  われらは戦い
  勝利に輝きて
  いまふるさとへ

  祖国の大地よ 大いなる大地

  われらは今
  自由を守りぬき
  この力でふるさとの大地に
  新しく森をつくり上げ
  祖国の幸を求める

  いくさすでに去り
  むごきおもいでや
  われら 今たちて 緑にいろどらん

  南に北に 河のほとりに
  やがて緑なす森は 拓けゆかん


 2.祖国を緑化しよう

  荒れた地にいどみて 人々は叫ぶ
  ひでりと闘え
  祖国の大地を 森で埋めよう

  焼けるようなあつさを
  香るような春の国にするために
  祖国の大地を 森で埋めよう

  白樺の幹は 美しくのびて
  樫の木も育つ
  祖国の大地を 森で埋めよう

  草原守れよ われらの力で
  大地よ いろづけ
  祖国の大地を 森で埋めよう

  はてもない曠野に 森ひろがりゆく
  明るい希望よ
  祖国の大地を 森で埋めよう


 3.過去の思い出

  わすれえぬ愛する大地のさだめ
  白樺一つ立ち 梢 ただ寒く
  砂ほこりまじえ 砂漠吹く風は
  遠くヴォルガのかなたより

  ゆたかな草原に 風は吹き荒れて
  のびゆく麦の穂を
  火のように焼きつくす

  喜びものぞみも我らには絶えてなく
  うるおいのみ待ちこがれども
  雨降りもせず
  ひでりの空に 雲もなく

  あわれ 野辺には
  人々つかれはてて
  心重くさまよいぬ

  呪いのひでりつづけば
  人々のなやみ深し
  我らに木かげを与えよ
  我らを守れ

  ああ うれいは深し
  我ら愛する 大地よ
  人々パンを求め 雨を待つのみ
  いざ 若ものよ たて 嘆きすてて
  我らの大地育てゆくため


 4.ぼくらは木を植える

  ポプラ ポプラ はやくのびてくれ
  ぼくらはゆく まっさきかけて

  ぐみは ぐみは 草原をかざり
  荒野いっぱいに 白樺植えた

  どんぐりさん どんぐりさんも
  こがねに実り
  みんな みんな 大きくなれ

  りんご りんご きれいに実れ
  雪もきえて あたたかな春

  かえで かえで 緑もふかく
  そだちゆけよ 野をいろどり

  そだちゆけよ 野にみちて!


 5.若ものたちは前進する

  たてよ祖国のために 我ら若ものよ
  喜びは我らのこの手で作る
  幸みつる国の土地を
  緑こき色に飾らん

  今こそ私たちも
  住みよい世界をば
  この手でつくりだそうよ
  はえある時は今

  高く旗をあげ 若ものらよ すすめ
  緑の火は かがやく
  ヴォルガの岸辺まで ああ!

  緑の帯のように 森は畑をつつむ
  はるかな土地をめざし
  豊かにのびる森

  高く旗をあげ 若ものらよ すすめ
  緑の火は かがやく
  ヴォルガの岸辺まで

  緑の森の帯は 地球をとりまいて
  ゆたかな水のめぐみは
  荒れた土地をこやす

  高く旗をあげ 若ものらよ すすめ
  緑の火は かがやく
  ヴォルガの岸辺まで

  この喜びをおかす何ものもゆるさず
  白樺の木の幹は鋼鉄より固い
  我らの国 幸あれ
  我らの街 栄えあれ
  我ら力あわせて平和求め進まん

  高く旗あげよ 緑の木よ 森よ
  喜び我らとともに
  流れゆけ ヴォルガ河


 6.未来への逍遙

  しじまにさえずるは うぐいすのうた
  森にも 林にも 春をたたえて
  春をたたえて

  荒地に森の木は
  のびゆく のびゆく
  昔はうぐいすもこの地には鳴かず
  昔はうぐいすもこの地には鳴かず

  力をあわせて森をひらけば
  森はそだちゆきて
  緑いろこく 緑いろこく

  野にひろがる若ものの夢 明るく
  胸にえがく すばらしい国のすがた
  胸にえがく すばらしい国のすがた

  力をあわせて国を変えゆく
  自由のふるさとへ ふるさとへ いざ


 7.栄光

  祖国の土を守るがごとく
  白樺しげる我らの大地

  森はふかく 林は緑

  森の緑 国のいのち

  いろふかく あやにしげる

  すすめ すすめよ 幸あふれて

  なつかしい祖国ロシアよ

  雨風つよく降れよ 吹けよ
  大地はみのる ゆたかなめぐみ

  森はふかく 林は緑
  森の緑 国のいのち
  はてしも知れず しげるは森よ
  ゆくてをはばむ 何ものもあらず
  すさべよ風よ 狂えよ砂よ

  森はふかく 林は緑
  森の緑 国のいのち
  かえでと白樺
  色ふかく あやにしげる

  ゆくてをはばむ 何ものもあらず
  すさべよ風よ 狂えよ砂よ

  森はふかく 林は緑
  森の緑 国のいのち
  ゆくてをはばむ 何ものもあらず
  すさべよ風よ 狂えよ砂よ
  はえあれ ロシアよ

  空と土に たえざるちから
  そそぐものに さかえあれよ

  いざそだてよ いざ実れよ
  いざそだてよ われら はえあれ
  いざそだてよ われら はえあれ
  はえあれ はえあれ ああ!

  平和の光 いまや明るく輝きて
  自由のこの大地よ ああ!
  われらほめたたえん

  平和の道を求め
  われらは進みゆく
  新しきわが祖国
  ゆくてに陽は輝き 森は育ちゆく

  森はふかくしげり ロシアに歌みちる
  ゆくて はえあれ われらの祖国
  われらたたえよや ああ!