
ムジカノーヴァ 8月号
井上二葉 (4月19日浜離宮朝日ホール)
オペラシティ『午後のコンサート』シリーズ第13回「マエストロと師匠」 (6月2日東京オペラシティー・コンサートホール)
井上二葉 (4月19日浜離宮朝日ホール)
フォーレの「小品集」作品84で、その解釈と演奏の喜ばしい融合を聴かせた井上二葉は、特にフォーレ作品の解釈においての第一人者である。日本では井上の師、安川加壽子亡き後、フォーレの真の理解者は井上以外には見当たらないと言ってもよい。また、井上はいわゆるフランスものといわれる作品において、音色の選び方や説得力のあるフレージングで、他のピアニストの追随を許さない。当夜も井上が好む浜離宮朝日ホールのベーゼンドルファーで、多彩なタッチと豊かな音色のパレットによって3人の個性的な作曲家の作品を自在に弾き分けていた。「無言歌」、「夜想曲」第5番作品37変ロ長調、「ワルツ・カプリス」第4番作品62変イ長調においても、難解なフォーレの心の逡巡の表現や、深い考察もなく演奏すると取りとめがなくなる和声進行の七変化などが、聴くものの前にそれは明解に描き出された。後半はフォーレの弟子2人の作品。作曲家の“ウィンク”や特有の和声の歪みまでもさらりと粋にまとめていた
ラヴェル「ソナティネ」とポール・ラドミロー(1877-1944)の「四つのスケッチ」。
ラドミローの牧歌的な美しい佳品も、叙情的なアプローチで好演。
東京フィルハーモニー交響楽団 ピアノ:室井摩耶子
オペラシティ『午後のコンサート』シリーズ第13回「マエストロと師匠」
“指揮者ミチヨシと恩師のまなざし” (6月2日東京オペラシティー・コンサートホール)
ピアニストの室井摩耶子を迎えて指揮者の井上道義がおくる、日曜日の午後のトーク・コンサート。井上の幼少のみぎり、一緒にレッスンを受けていた妹に対する愛情の深さに驚かされたことなどを室井が語り、45年ぶりに室井宅を訪ねた井上は、その住居の佇まいの変わりの無さに驚いたと話すなど、いつものミッチー節が冴えて親しい故のジョークを交えながらも、子供の頃のピアノの師、室井とのほのぼのとした思い出話が披露された。多数の仕掛けによる興味深い作品、アイヴズの「答えの無い問い」に引き続き、ベートーヴェン「ピアノ協奏曲」第4番では、自身の解釈を決して曲げることなく弾きすすめる室井を、井上が好サポート。「オーケストラのみなさんが素晴らしい音楽をしてくださったので私自身もよい音楽ができた」と述べた通り、ベートーヴェンをこよなく愛し、この作曲家を「恐い恋人」としばしば発言している室井が、心からベートーヴェン作品での井上との初めての共演を楽しんでいるのが見てとれた。特に第2楽章では、繊細なピアニッシモと持ち前の「歌心」でたっぷりと聴かせる室井の美しい音の世界が、ホールに広がった。あらゆる音階が、これほどまでに音楽的に奏でられるピアニストはなかなかいない。後半は、“表現することがとにかく好き”という踊る指揮者、井上の明解な棒捌きによって、マーラー「交響曲」第3番より第1楽章が、非常にダイナミックに聴くものに迫った。