Emile Jobin著「BACH et le Clavier bien Tempéré」:2005年5月






Early Musicに掲載されたバッハの調律法に関する論議の続き
要約和訳:綿谷優子
(*Emile Jobinはベルギー人、50歳代のチェンバロ製作家としてパリ在住。)

Early Music誌・第33巻・2005年2月掲載・P.3−23、Bradley Lehmann著「Bach extraordinary temperament」に、まず敬意を表さなければならないだろう。(*Bradley Lehmannはアメリカ人、40歳代の鍵盤演奏家としてアメリカ在住)バッハ平均律曲集第1巻表題タイトルには、疑いなく適切な調律法が示されている。しかしBradley Lehmannは連結曲線に調律法の重要な鍵が潜んでいる事に、留意していないようだ。左から右へ流れる連結曲線には、以下にあげる3種類のシステムがある。

1. 二重円環の曲線、縦状に大小2つの円が書かれている
2. 一重円環の曲線、一つの円が連続している。
3. 三重円環の曲線、大きな円の中に隣り合った小さな2つの円が書かれている。
これらの円環曲線は連続して計11個書かれ、閉じた円環状の各円が5度音程を示している。左右端の4.5.曲線は、低部に上記2番と同じ一重円環の曲線が書かれている。
従ってこの曲線は、3種類の解釈を示した12音の5度圏であり、各曲線が音程幅を表している。まず上記2番の一重円環の曲線は、純正5度音程を示すと考えるのが当然だろう。上記1.3番の複数円環曲線は、5度音程の幅を如何に加減するかという方法を明確に示している。上記1.3番には2種類の加減幅が示され、上記1番は右回り、上記3番は左回りの曲線である事に気付く。上記1.3番は5度音程を縮める・広げる幅の絶対値を示している、と演繹する事が出来る。この開始曲線4番に関するQuentin Blumenroederの記述は面白いので、引用してみよう。
「左端4番の低部曲線は、疑い無くファ音である。そもそもドイツ・オルガン製作家は、外装箱中のパイプにファ管を示すこの表示を用いていた。」
「右端5番の低部曲線は読解が少し複雑だが、『C』に読み取れ、勿論ド音を示す。底部に『3』という数字が書かれ、一つの円が二つ連続している。一重円環曲線は2番タイプに相当し、ド−ミ音程が純正3度である事を意味している。

(*この図では底部に『3』という数字が読み取れないが、Bradley Lehmann引用図には明らかに見られる。Bradley Lehmannはこの曲線図全体を、Emile Jobinとは上下逆に引用している。)

3番曲線は左横に『C』が読み取れ、最後の5度圏ド−ソ音に相当する。右回り・左回り5度圏では、ド音を中心に異名同音がミ♭=レ#、シ♭=ラ#に発生する事は当時の慣習である。(*Bradley Lehmannは異名同音をとらず、右回り5度圏のみでレ#、ラ#音で表示している。ファ−ド音は純正音程となる。)

以上で我々は、音程幅を綿密に再構成する、首尾一貫した全てのカードを手中に収めた。純正3度音程ド−ミ音を表す下記曲線から、コンマが音程幅を表すという解釈を明確に持った。

3番曲線にあたるド音からシ音まで五つの5度圏は同数絶対値を持ち、4分の1コンマ減を表す。2番曲線の三つの5度圏は純正音程、1番曲線は3番曲線と逆向きなので、「音程幅を広げる」12分の1コンマ増と解釈し、最終5度圏ファ−ド音は純正となる。

「Das Wohltemperirte Clavier」と書かれた表題「D」縦線の横に、「E♭+2つの点」が読み取れる。

古典調律法に基づけば、ミ♭音+2つの点は、ミ♭音を中心にシ♭−ミ♭−ソ#音間の5度音程を、均等に増やすという意味になりはしないだろうか。しかしこの増大比率については、論議されなければならない。
この調律法はミーントーン調律から派生した5度圏調律法で、若いバッハが全く無名だった事を考慮すれば、実践的調律法を示した驚くべき書法だと言えよう。初めての5度圏調律法は、ブクステフーデ、ヴェルクマイスター派に遡る。

以下に私が解釈するバッハの調律法を挙げる。


(*5度圏図の、ミ♭ーソ#間の数字が+〜12となっているが、これは+〜1/12の間違いと考えられる。)

1. ド−ミ音を純正3度音程にするために、ド音から4つの5度圏を4分の1コンマ減、ミーントーン調律ではソ−シ音も純正3度音程となるために、ミ−シ音間も4分の1コンマ減とする。
2. シ−ソ#までの三つの5度圏は純正音程
3. ド−ファ音も純正音程
4. ファ−シ♭音を少し広めに、3度音程を望みどおりの音色にするために、シ♭−ミ♭−ソ#音程を調節する。

最大幅1オクターブの分割比率は、4・5度音程を展開しながら創るのが望ましい。
分割比率には下記との一致があれば更に良い:
振動数:ラ音・220ヘルツ(*ラ音・440ヘルツ)とミ音は、1秒間に2回の短縮音程
振動数:シ音とミ音は、1秒間に3回の短縮音程
振動数:シ♭音とミ♭音は、1秒間に1回の拡大音程
ド−ミ音程=ソ−シ音程
ファ−ラ音程=レ−ファ#音程
以上の設定で調律すると、ラ−ド#音程、シ♭−レ音程、ミ−ソ#音程、シ−レ#音程は、純正3度音程から逸脱する。
ラ♭−ド音程=ド#−ミ#音程
古典調律ではソ#・ラ♭、ミ♭・レ#に異名同音を適用しなかった事を、考慮しなければならない。

★ 補足要綱
バッハ平均律・表題曲線に装飾的価値は無く、むしろ左右非対称の曲線書法が長期にわたり我々の関心事となってきた。バッハの弟子として最も側近にいたキルンベルガーやAltnikol等には、上記のような分割比率は自明の理だった。 この理論の根拠は古典調律法にあり、ド音から4つの5度圏を4分の1コンマ減にする下記調律法が、例としてあげられる:
キルンベルガー第3調律法
ヴェルクマイスター第3調律法
コレット
ルソー
D’Alembert
私があげた調律法はD’Alembertに最も近い。

★ 3度音程が与える色彩感
調律法は、音楽的な演奏効果に貢献するという事を忘れてはならず、私が調律を学び始めた頃受けた大きな衝撃についてお話したい:
約20年前夜のコンサートのために、レオンハルトが調律をしているのを聞いたことがある。注意深く1オクターブを分割後演奏しながら、微妙に3度音程を調節し、隣り合う5度音程も変化した。私はこの時、調律は分割比率だけではなく、3度音程が与える色彩感に敏感でなくては、良い調律者になれないという事を肝に銘じた。
パリ国立音楽・ダンス・コンセルヴァトアールでは私の生徒達と共に、解釈した調律法をこの記述を書く前に実践してみた。5度音程を縮めすぎないよう留意し、純正3度音程を逸脱する事を恐れなければ、上記解釈の調律法が最も実際的であり、単純だった。
勿論バッハの調律法を規定する事等出来る筈も無いが、私の解釈も通用する。音色の柔らかさ、官能的な艶やかさ、又はその逆に、厳しく苦い音色等を味わう習慣を身につけなければならない。調律は聴くだけではなく、演奏してみて音色を賞味する事が、良い音色と嫌な音色とを仕分ける最良の方法である。

謝辞:

Quentin Blumenroeder, facteur d’orgue et professeur d’accord au Conservatoire national de région de Strasbourg.
Pierre Cazes, professeur d’accord au CNSMD de Paris.
Pascal Duc, responsable du département de musique ancienne du CNSMD de Paris.

Emile Jobin, facteur de clavecin professeur au CNSMD de Paris Boissy l’Aillerie, mai 2005

[1] Bradley Lehmann « Bach extraordinary temperament - our Rosetta Stone - 1 » in Early Music, vol.33, n° 1, February 2005, P. 3-23

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