F.クープランとミュゼット




Wilfrid・メラー
 「F.Couperin and the French Classical Tradition フランソワ・クープランとフランス古典伝統 1987年新版」より


III.F.クープランとミュゼット(*musetteアコーディオンなどの伴奏で踊る大衆的なダンス)
P.468
F.クープランの世俗音楽は、音楽的には勿論社会学的見地からも、庶民伝統のコメントを断続的に聞き取る事が出来る。時折非常に興奮した様相を呈する作品には、直接彼が幼年期に見聞きした男女の享楽的な姿が反映している。特に農民特有の騒々しい民謡は、生まれた村で奏でられていたバグパイプの音をそのまま写し取った作品−例えば「La Croûilli ou la Couperinéte(第4巻20番)」「Muséte de Choisi(第3巻15番)」「Muséte de Taverny(第3巻15番)」等に見られる。又都会にたむろしていたストリート・ミュジシアン(*大道芸人)達の音楽も音響効果に使われ−例えば旅役者の低音付きバグパイプ、哀れな声で物乞いをする老人のハーディー・ガーディー、手品師やサル使い等が演芸に使ったフルートと小太鼓、馬が駆け回る様子等は、「Les Fastes de la Grande et Ancienne Ménestrandise(*古代の宮廷詩人、第2巻11番)」に現れている。

F.クープランの理想主義は、田園に暮らす農民や都市生活者の都会的センス(urbanism=都会風、urbanity=上品で洗練されている、の2語は区別して使いたい。F.クープランのはurbanism=都会風)を理想化して、当時の知識人達がこぞって創出したがった天国描写に通じる道でもあった。コンセール・ロワイヤル「Musette with viole obbligato A major」、ハープシコード曲集(*著者は英語圏にも拘わらず、時折フランス的ニュアンスでclavecinという仏語を用い、通常はharpsichordと記している。)「Les Vergers Fleüris(第3巻15番)、Les Bergeries(第2巻6番)、Les Langueurs−Tendres(第2巻6番)」等には、低音付きバグパイプが通奏低音のような意図を持って使われている。彼の理想主義は同時代の社会学的マニフェステイション(*示威行為)となって現れ、貴族達が自分達の領地を訪れた時に貧しい農民達にまじって奏した低音付きバグパイプ(=古代ギリシャから用いられ芸術的価値にまで高められた楽器)や、ハーディー・ガーディー(=旅芸人の持つ中世楽器で農民だけが持っていた楽器)等を変容させる必要があった。
F.クープランの世俗歌曲「A l’ombre d’un ormeau(楡(にれ)の若木の陰)」はハープシコードが伴奏楽器として使われている作品、若いファッショナブルな娘達がairsやcourを伴奏する時は低音付きバグパイプが好まれた。
Henri BatonはF.クープランと同時代の宮廷リューティストで1728年没、フランス・バグパイプ(musette)、フランス・ハーディー・ガーディー(vielle)を組み立てた最初の音楽家である。優雅に装飾されたギターと共に、若い男女が羊飼いの姿をしてこれらの楽器を演奏する流行は17世紀後半から始まり、F.クープラン死後30年近くまで続いた。演奏風景はワトー「fêtes champêtres」に、洗練された官能性と痛切なメランコリーをもって表現されている。

Henri Batonは楽器製作家だったが、息子シャルルは新しくて古いこれらの楽器奏者として大成し、自作曲も残している。1738年パリ、ジャック・オトテールは「Mêthode pour la musette」に作品を発表し、フランス・バグパイプ(musette)ソロ、他楽器との協奏作品、歌曲の伴奏作品等、上品で品格の高いレパートリーを獲得した。ボワモルティエ、ミッシェル・コレット、モンテクレール、フィリドール、ラモー等もこのジャンルの作品を残している。
しかしF.クープランは、桃源郷を田園風景に描く流行を軽蔑しており、直接的にフランス・バグパイプ(musette)の為に作曲した訳では無く、現実主義の観点を通して理想世界の描出にこれらの音響効果を利用したと思われる。
1982年あらゆる種類・作曲家のミュゼットが、ジャン・クリストフ・マイアール指揮CD「Les Plaisira Champêtres」に収集された。明らかにF.クープラン・コンセール・ロワイヨー「Forlane」と比較すると、F.クープランはフルートと交互に使われるオーボエ、バスーンを好んで用いている事が分かる。ボワモルティエ作プロヴァンス地方のダンスと比べても旋律線が圧倒的に豊かで、ワトーの二重性は短調クープレを挟む事で具現されている。
F.クープランの田園性は鳥の鳴き声等を単純に模倣する事は滅多になく、人を性格的にたとえた表現となっている。面白い事にオルガンの「鳥の声ストップ」は、ミュゼットの絶頂期に合わせたように出現する。F.クープラン「鶯(第3巻14番)」等の作品は芸術的だが、当時の常套手段だとも言える。「Le gazouillemnet(第2巻6番)」「Le Carillon de Cithérere(第3巻14番)」「Les Timbres」「Le Réveil-matin(第1巻4番)」「Le Tic-Toc-Choc〔第3巻18番〕」等擬音効果の作品は、無頓着で機械的なボワモルティエ等から遥かに隔たった精妙な音楽であるにも拘わらず、18世紀オルゴールを想起させる。

IV. F.クープランのテンポ表記
P.473
F.クープランが特にクラブサン曲集で「エクスクレスィーボ」の作曲家だと自認していたのは、テンポとモードにその根拠があるだろう。バロック期の慣習として拍子記号でテンポを表し、アルマンド、クーラント、サラバンド等舞曲のテンポとモードは既に伝統的に規定され、大きく逸脱する事は出来なかった。従って各曲の自筆の発想標語は、独自のテンポを周到に意図している。
例えば伝統的アルマンドに「allemande grave」、「allemande légère」と記する時、F.クープラン独自のテンポ感が設定される。しかし「ポートレイト」の人物表題作品では、性格付けを通してF.クープランが見た世界観が、自由に想起される発想標語により書かれている。
F.クープランが最も頻々と用いた「tendre」「tendrement(*優しく愛情を込めて)」は51作品に現れ、7作品に「très」という強調がつき、5作品に「sans lenteur(*遅すぎず)」の緩和表現がついている。「sarabande tendre」「Badinage(*おどけ、冗談) tendre」等は、曲のタイプより特殊なモードを現す。
「légèrement」「légère」「d’une  légère」等は33作品に現れ、5作品に「très」という強調がついている。
「Gayement(*陽気に)」「gai」等は30作品に現れ、3作品に「très」、1作品に「fort」という強調がついている。
「Gracieusement(*優美にしとやかに)」は28作品に現れ、5作品に「sans lenteur(*遅すぎず)」がついている。
「gravement(*重々しく)」は27作品に現れ、5作品に「très」という強調、2作品に「sans lenteur(*遅すぎず)」がついている。
「Vivement(*敏捷に、激しく)」は18作品に現れ、2作品に「très」という強調、1作品に「et fièrement(*毅然として)」がついている。同意の「vite」「viste」は7作品に現れ、6作品に「très」という強調がついている。
矛盾する複合的標語「d’une vivacité(*活発さ)modérée(*控えめに)」も2−3用いられている。
「Lentement」は11作品に現れ、「largo」はイタリア・コレルリからの影響。
「Noblement(*高貴に、気高く)」は10作品、3作品に「sans lenteur(*遅すぎず)」がついている。
「affectueusement(*愛情を込めて)」は9作品、2作品に「sans lenteur(*遅すぎず)」がついている。
「Gaillardement(*元気良く、逞しく)」は喜びに満ちた雄々しい8作品に現れ、1作品に「sans lenteur(*遅すぎず)」がついている。
「languissamment(*物憂げに、力なく)」「nonchalamment(*無頓着に,のんびりと、投げやりに)」は各4作品。
「naîvement」は4作品、1作品に「sans lenteur(*遅すぎず)」、3作品に「animè(*活発に)」「très  animè」がついている。
「fièrement(*毅然として)」は3作品。他に1−2作品にしか現れない11標語がある。
modérée(*控えめに)」が5作品にしか用いられていないにも拘わらず、明らかに「pudeur(*慎み深く)」という語がF.クープランのお気に入りだった。
「majestueusement(*荘厳に)」と彼が言う時、7回の内5回は「sans lenteur(*遅すぎず)」を付け加え、貴族か貴族夫人の威厳を象徴していた。
「impérieusement(*高圧的で横柄に)」は唯一の風刺標語。
「agréablement(*快適に楽しく)」は4作品、耽溺する放縦を表すhedonism(享楽主義)の言葉、他に「affectueusement(*愛情を込めて)」「voluptueusement(*官能的に,快感に浸って)」等も同意。
忘れてならない事は、喜びや笑いがいかに不安定で束の間のものか、時代背景を把握した上でこれらの標語は作品理解を助けるだろう。