F.クープラン研究
F.クープラン「クラブサン曲集」におけるリピート記号と2部形式
フランソワ・クープラン文献
抜粋和訳:綿谷優子
●Early Music 2002年2月号 P.94
Paul Cienniwa
「Repeat signs and binary form in F.Couperin’s Piéces de clavecin」
F.クープラン・クラヴサン曲集におけるリピート記号と二部形式
フゾー版F.クープラン・チェンバロ曲集参照の事
☀F.クープラン・チェンバロ曲集のモダン・エディション
(Note:François Couperin、Complete keyboard works、
J.ブラームス&F.Chrysander 編集、ロンドン1888年
Oeuvres complètes、M.Cauchie 編集、パリ 1932−3年
Piéces de clavecin、K.Gilbert 編集、パリ 1969年)
が出版されてから、ハ音記号を現代譜表に書き直し、調子記号を現代記譜法に直す等、演奏しやすい記譜となった。しかし常に、20世紀の記譜法が18世紀と同じだったと考える事は危険である。現代譜の編集者達はF.クープラン・オリジナル・リピート記号を二重線に付点のついた記号に書き換え、前・後半各ABの2部形式がそのまま繰り返されAABBフォームになるという意味を示した。しかしAABBフォームのみが2部形式なのではない。
☀原典ソースからの証明
18世紀フランスの原典に書かれているリピート記号についての記述は、2つのカテゴリーに分かれる。一つは18世紀フランス百科事典にや辞書に書かれているもの:
(Note:Sèbastien de Brossard 「Dictionaire de musique」Paris、1703
Denis Diderot & Jean le Rond d’alemberet
「Encylopédie、ou Dictionaire raisonné des sciences」Paris、1751−1832
Jean Jacques Rousseau 「Dictionnaire de musique」Paris、1768)
もう一つは教則本やメソード、百科事典、辞書に書かれているもの:
(Note:Henri Louis Choquel 「La musique rendue sensible」Paris、1759
Michel Corrette 「Méthode pour apprendre aisément à jouer de la flûte traversière」Paris、1735
Michel Corrette 「L’école d’Orphée、méthode pour apprendre facillement à jouer du violon 」Paris、1738
?Dard 「Nouveaux principes de musique」Paris、1769
François David 「Méthode nouvelle」Paris、1737
Charles Delusse 「L’art de la flûte traversière」Paris、1760
Pierre Dupont 「Principes de violon」Paris、1718、1740
Joseph de Lacassagne 「Traité général des élémens du chant」 Paris、1766
Ētienne Loulié 「Eléments ou principes de musique」Paris、1696
Jean Baptiste Mercadier 「Nouveau systeme de musique théorique et pratique」Paris、1777
Michel Pignolet de Monteclair 「Nouvelle méthode pour apprendre la musique par des démonstrations faciles」Paris、1709
「?」Raparlier 「Principes de musique 」Paris、1772
Michel de Saint-Lambert 「Les principes du clavecin 」Paris、1702
Charles Antoine Vion 「La musique pratique et théorique」Paris、1742)
これらは参照手引きとして書かれた著作で、リピート記号について多量のページを割き過去・現在にいたる詳細を記している。教則本やメソードはより限定的な範囲の教育目的で書かれ、楽譜の読み方、楽器奏法等に終止するので、往々にして詳細や深い知識に欠ける。長大な著作に平明さは必要とせず、これら2タイプのリピート記号の差異は固有の潜在性により述べられている。フルート教則本はフルート奏者にのみ読まれただろうが、百科事典は作曲家・演奏家のみならず、教則本やメソードの著者にも参照手引きとして利用された。
リピートは通常「reprise」と書き表され、Brossardは「ripresa」と伊語で記している。このエッセイでは全て「reprise」と表す。殆どの原典がreprise−petiteとgrandeの2種類に分けている。petite repriseは通常4小節で、後半Bセクション最後の4小節を繰り返す。何故ならpetite repriseという語には、二部形式や繰り返しの意味は含まれない。Grandes repriseは二部形式における繰り返し部分を指し、この論文の趣旨ともなる。
この時期ダングルベール、シャンボニエール、クープラン、ラモー他作曲家達は、repriseという言葉を二部形式の後半Bセクション部分に用いている。当時このrepriseがいわゆる「繰り返し」の意味で使われたという事実は無い。もし繰り返しの意味で用いられたのなら、各セクションの終わりか、少なくとも後半Bセクション始めに書かれる替わりに、部分毎の終わりに書かれるのが普通だろう。
Grandes repriseは殆どの原典で3つの記号により表され、明白に繰り返しを意味している。(フゾー版F.クープラン・チェンバロ曲集参照の事)
1. Liasonsリエゾンと呼ばれるスラーのような曲線記号は前・後半部分最終音の上に見られ、記号に先立つ部分を繰り返さなくてはならない。AABBフォームの繰り返しになるだろう。F.クープラン・クラブサン曲集第1.2の終わりにはリエゾン記号が無いが、繰り返しの意味に解釈しても良いだろう。(例:第3オルドル、第2クーラント等)リエゾンは繰り返しを行う意味で視覚的に用いられた記号であるが、私は本来的意味と同時に、リエゾン記号が無くても任意の繰り返しを行うという意味と両方に使いたい。
2. Renvois 送り記号(ランヴォワ)は、現代譜で使われるdal segno ダル・セーニョと同じ意味・働きを持つ繰り返し記号である。主にpetite repriseと関連づけられるが、Grandes repriseの中でも時々使う事が出来る。
3. Guidons ギドン(又はイカサマ師がトランプにつける印)はグレゴリア聖歌のcustodesに見られるように、譜表線の最後に後続音を示す為に用いられる。大事な事は、ギドンはリエゾンと同じく、この記号に先立つ部分を繰り返すという意味でも用いられている事である。ギドンに示された記譜が繰り返して戻る後続音を表している場合、ギドンは疑いなくリピート記号として用いられている。
例1.ラモー・クーラントに見られる、リエゾン、ランヴォワ、ギドン
「Nouvelles suites de pièces de clavecin」Paris、1729頃−30
Monuments of Music and Music Literature in Facsimile、First Series-Music、xiii (NewYork:Broude Brothers、1967
(*最終音まで音上に繋がれたスラー状のものがリエゾン、ダル・セーニョ記号の小節に後続音ピッチが#つきで示されているのがギドン、小節内上部についているダル・セーニョ記号がランヴォワ)
次に繰り返し縦線の仏式と伊式を見ると、仏式は五線にまたがって二重縦線が引かれ4つの点が真中に打ってあるのに対し、伊式は五線の真中第2−4線にのみ二重縦線が引かれ2つの点が縦線左右両側に打ってある。この他に異なるデザイン記号も使われているが、リエゾン、ランヴォワ、ギドンどれとも形状が異なり、原典ではこれらを繰り返し記号=リピートとはみなしていない。この不明確さはオリジナルにも見られ、百科事典・辞書の影響による。
(New Grove II、J.Coover 「Dictionaries and encyclopedias of music」参照)Brossardの「Dictionaire de musique 」1703はフランス初めての音楽書だが、後代研究者の模範ともなった。
ルソー「音楽辞典」1768はrepriseの規定がBrossardと似ている。ルソーはBrossardを模範としていたので、彼の百科事典&辞書もrepriseの定義が全く同じである。Brossardの仏・伊式repriseについて記述引用:
「repriseは、記号に先立つ部分を全て繰り返さなければならない。曲始めにある時は全ての部分を繰り返し、曲最後にあれば同じ記号に戻って繰り返す。」
ルソーの仏・伊式repriseについて記述引用:
「繰り返す部分を2度書く混乱を避けるため、reprise記号はリピート記号として用いられている。」
Brossardは異なる方法についても触れている:
「Reprise記号の縦線両側に付点がついている時は、記号前と同じく記号後の部分も繰り返す。」
このようにBrossardは、リピートについて2つの定義をしている。すなわち仏・伊式repriseについては記号前を繰り返し、伊式については記号前と同じく記号後の部分も繰り返すとしている。同様にルソーの序文:
「reprise伊式については、左右に隔てられた縦線の「両側」に付点がついていれば、記号前と同じく記号後の部分も繰り返す。Reprise仏式は伊音楽様式を完全に模倣する事が出来ないので、徐々に廃止されている。我々は少なくとも、Voltaireスタイルをオートグラフィーから移している若い世代のように、伊語、伊式記号を使う事にした方が良い。」
ルソーは伊式だと記号前後を繰り返し、仏式は暗黙の了解として記号に先立つ前部分だけを繰り返すという区別をつけている。最も大事な事は、伊式はフランス音楽にも適用され、フランス式はフランス音楽のみに適用されたという事実である。何故なら、Brossardとルソーだけが2スタイルの明確な使い分けを記しているが、フランス・イタリアの作曲家達はこれらの演奏法に関して明確な区別・定義を持たなかった。他の原典では定義がまちまちで、国ごとのリピートスタイルの差異にも留意していない。理論書の著者達が「通例」「一般的には」等の用語を使い、リピート記号の定義を根拠の希薄なコメントにしている事が往々にしてあるという事が顕著である。
フランソワ・ダヴィッド「Méthode nouvelle 1737」からリピート記号について引用:
「通例としてエアーの前半を繰り返す」
一方、Henri Louis Choquel「La musique rendue sensible 1759」では:
「一般的原則として・・・歌の場合は繰り返しが必要である」
著者達に音楽家としてのコモンセンスが無かった事がよく分かる。従って、リピート記号に定着した意味合いは無い。リピート記号には多くの曖昧さが残るが、リエゾン、ランヴォワ、ギドン等が示しているリピートには、はいかなる曖昧さも無い。しかしリピート記号はどこかの部分を「繰り返す」という意味である事は、原典を通観して一致している。理論的に再構成すると:
1. リピート記号は常に記号前の部分を繰り返すという意味である
2. 我々は記号後の部分を常にを繰り返すという結論に達する事は出来ない。このケースの場合には、原典・モダン両楽譜を任意に検討しなければならない。
☀F.クープラン「クラヴサン曲集」のリピート記号
「クラヴサン曲集」全4巻はF.クープラン監修の元に版刷りされ、生前中数回再版された。
「クラヴサン曲集」第1巻 パリ、1713、1717頃
「クラヴサン曲集」第2巻 パリ、1716−1717
「クラヴサン曲集」第3巻 パリ、1722
「クラヴサン曲集」第4巻 パリ、1730
再版の注文が来たという事は、この曲集が18世紀音楽に影響を与えていた事を示す。全4巻出版には1713−1730と17年のスパンがあり、F.クープランの様式変遷の足跡をたどる事ができる。たとえば初期オルドル作品には長大なものが多く、後期に向かうと作品が短くなる。全27オルドルの内長調系が2部形式作品で、短調系はロンド形式が多く、他は非定型作品。2部形式作品の多くは前後関係からかんがみて、リピートサインが充分に考えられる。
「クラヴサン曲集」第1巻 パリ、1713は、装飾表を伴う「Explication des agréments、et des signes」を含む。Explication にはリピートの為のシンボル・リストは無いかわりに、数種の「renvoi(送り記号)」がリストとして挙がっている。1717頃の再版ではF.クープランは「ravalement」を追加しているが、リピート表示では無い。
「クラヴサン曲集」第1、2、4巻 はF. du Plessyにより彫版されているので、一貫性のある記譜法となっている。これらは仏式リピート記号が殆どで、伊式リピート記号も時々使われている。「クラヴサン曲集」第3巻のみLouis Hüe により彫版され、伊式リピート記号が使用されている。異なる彫版家によるリピート・スタイルは、任意の反復を表している事が共通する。第4巻の伊式リピート記号は、F.クープラン自身より彫版家により選択された可能性が高い。
「クラヴサン曲集」における2部形式作品は、AABB・AABという2つのフォームに分けられる。私見に拠れば第19オルドルL’artisteはABフォーム、第1オルドルnonétes、第18オルドルLe gaillard-boiteuxはAABフォームと思われる。殆どのAABBフォーム作品は、前半・後半共に反復する事に疑いは無い。 liaisons、renvois、guidonsのいずれかがある時は繰り返す事が自明であり、例えば、第5オルドルAllemande La logivière前半には2つの終止形がguidonsと、liaisons無しで書かれており、後半には2つの終止形がrenvois、guidons と、liaisons無しで書かれている。記号の異なるコンビネーションは他にも例証があり、第3巻第17オルドルLes petits moulins á vent 前半には2つの終止形のみがliaisons無しで書かれており、後半には2つの終止形がguidons と、liaisons、リピート記号無しで書かれている。このオルドルでは、Louis Hüe により彫版された他巻とは異なる記譜法が顕著である。私はこれら明白なAABBフォーム作品に、liaisons、renvois、guidonsは、「absolute elements・絶対的(不可欠な)エレメント」であると言いたい。いわゆるリピート記号がAABBフォームを規定するのでは無い。
幾つかのAABBフォーム作品は、二つ以上の解釈の可能性があるという意味であいまいである。例えば第1オルドルLes plaisirs de Saint Germain en Laÿeのように、前半終止にリピート記号のみ書かれ「絶対的エレメント」が無い、後半終止にだけ「絶対的エレメント」が書かれ繰り返し個所が明白な作品。何故なら前半部分は開始部から終止までを繰り返すという意味のリピート記号であり、後半部分は戻る個所が明記されているので、AABBフォームに疑いが無い。
これに反し例えば第4巻第25オルドルLes ombres errantesでは、前半終止に仏式リピート記号のみ書かれ後半終止にはリピート表記が全く無いので、AABフォームと言える。又第19オルドルLes culbutes Jxcxbxnxs前半終止に伊式リピート記号のみ、後半終止にはリピート表記が全く無い場合もAABフォームと言える。
AABフォームを確認するにはF.クープラン自身の書いたリピート記号が、先立つ部分を反復する意だった事を忘れてはならない。AABフォーム議論に仮説の余地は全く無い。AABフォームに疑いを持つ人にこれを晴らす例証は、唯一F.クープラン自身の書いたリピート記号の意味を楽譜から読み取る以外には無い。 第2巻第10オルドルL’Amazône、第2巻第8オルドルGigueのように、後半終止に繰り返し個所と終止形が両方記されている作品もある。これに反し例えば第1巻第4オルドルLes baccanales、第4巻第24オルドルLes jeunes seigneursのように、終止又は最終音に続く部分が文字で示してある場合には、明らかにAABフォームと言える。第4巻第24オルドルLes brinborionsの最終音には「suivés」と書かれ、素早く次曲へ進むという意味でもある。これらの文字表記は奏者に自動的な後半部分繰り返しを抑止する為に書かれており、AABフォームと言える。
しかし我々は本当にF.クープランのリピート記号が先立つ部分だけを繰り返すという意味だったのかどうか、確認する必要があるだろう。
リピート記号はプロポーションの問題に拘わる。AABフォームの場合BセクションはAより長く、AABBフォームの場合ABセクションはほぼ同じ長さである。いずれも明確な2部形式である事に変わりは無い。例えば第4巻第22オルドル・メヌエットは第1曲目メヌエットcroisésのABセクション=1:1、第2メヌエットのABセクション=1:2、(Petite Repriseを含まないで)のプロポーションだが、両方とも明らかなAABBフォームで書かれている。これに反し第8オルドルのガヴォットはABセクション=1:1、(Petite Repriseを含まないで)、Sarabande L’uniqueはABセクション=1:2、プロポーションだが、両方とも明らかなAABフォームで書かれている。多部形式のプロポーションではフォームはより任意となる。例えば第4オルドルLes baccanales、第1部分AABフォーム、ABセクション=ほぼ1:2、第2部分AABフォーム、ABセクション=ほぼ2:3、第3部分AABBフォーム、ABセクション=ほぼ2:7。プロポーション・バランスは2部形式に矛盾する事もあり、曲が進むにつれて部分は長大化する。このようなタイプの例証を見ていくと、2部形式はプロポーションと関連していない事が分かる。
この他に、2部形式がダンス・タイプと関連している例が見られる。全オルドルには、アルマンド、クーラント、サラバンド、ガヴォット、ジーグ、メヌエットの6種類が舞曲スタイルとして挙がっている。第2オルドルのみに見られるカナリー、リゴードン、パスピエ等はここでは検証されない。全アルマンド9曲、全クーラント12曲の内10曲、全ジーグ3曲が、「絶対的エレメント」を前半・後半部分の間に持つ、規則的AABBフォームで書かれている。サラバンド、ガヴォット、メヌエットは確定的2部形式ではなく、AABBフォーム、AABフォーム共に見出される。4分の4拍子16曲の内10曲が、各部分に「絶対的エレメント」を持つAABBフォームで書かれている。舞曲名が書かれていなくても4分の4拍子・アルマンドとみなされる10曲が、「絶対的エレメント」を前半・後半部分の間に持つ、AABBフォームで書かれている。他の4分の6、ジーグと見なされる4曲の内3曲は、「絶対的エレメント」を前半・後半部分の間に持つ、AABBフォームで書かれている。しかし8分の6、8分の3の2部形式作品は明確に舞曲様式の範疇に分ける事は出来ず、多くはAABフォームで書かれている。従ってAABフォームは舞曲様式の範疇に拠るものでは無いが、8分の6、8分の3の拍子の曲に多出すると言える。逆に「絶対的エレメント」を前半・後半部分の間に持つAABBフォームは、アルマンド、クーラント、ジーグといった舞曲様式に関連があると言える。
初期から後期オルドルに向かって、オルドル内作品同士の関連性が希薄になり、より独立した作品の寄せ集めの感を呈して、オルドル内作品が少なくなる。例えば第1オルドル=18作品、第9オルドル=10作品、第18オルドル=7作品、第27オルドル=4作品。又初期から後期オルドルに向かってAABBフォームが減少し、特に第4巻ではAABBフォームが例外的フォームとなる。始めに舞曲様式アルマンド、クーラント、ジーグ等が置かれ、最終部分に2部形式の8分の6、8分の3の拍子の曲が置かれている。
総じて初期オルドルではAABBフォーム、後期オルドルではAABフォームが使われている。F.クープランは聴き手の時間的スパンに合わせて、全曲を通して弾く事を前提に、オルドルの最後へ向かうほど早いテンポの2部形式作品を配している。
F.クープラン自身がAABBフォームを規定している作品では、リピート記号だけでは無く、liaisons、renvois、guidons等「絶対的エレメント」が必ずと言っていいほど書かれている。
他のAABBフォーム作品では「絶対的エレメント」は前半部分にのみ有効で、リピート記号は先立つ部分のみ繰り返す事を意味する。又リピート記号は、舞曲様式の範疇と拍子、オルドル内の作品位置からもその意味を汲み取らなければならない。
結論として、F.クープランの2部形式には、AABBフォームとAABフォームの2種類が存在する。
☀付言
全ての前述論文はラモーのクラブサン作品にも適用する。例えばラモーのアルマンド、クーラントは、「絶対的エレメント」を持つAABBフォームで書かれている。1729−30年頃に書かれた舞曲タイトルを持たないFanfarinette、La poule、L’enharmonique、L’Egiptienne 等は、AABフォームで書かれている。又1729−30年頃に書かれたメヌエット・第2メヌエットはABBフォームで書かれている。1724年のLe lardon、La boiteuse、1729−30年頃に書かれたL’indefferante等はリピート記号を持たず、ABフォームで書かれている。F.クープランのようにラモーの現代譜では、AABB全てが繰り返されるように編集されてしまった。しかし1895年サンサーンス版には、AABB・AABのリピート記号が示されている。
私はフランス音楽に限りこの問題を見てきたが、恐らく他国の例証を探す事も興味深い。例えばドメニコ・スカルラッティが唯一彼自身で監修出版したと言われている、1738年ロンドン版「エセルツィーツィ」では、Bセクションにリピート記号が無い幾つかの例証を見出す事が出来る。前半のみにリピート記号があるAABフォームの作品は、No.1,6,11,13,15、16,22,25,26,29、No.30は前半・後半共にリピート記号が無いABフォームで書かれている。これはドメニコ・スカルラッティのソナタが常にAABBフォームで弾かれるとは限らない事を示している。何故常にリピート記号はBセクションの後に書かれていないのか?
私は残念ながら、リピート記号の実践に明確な解答を与える事は出来ない。F.クープラン同時代にも明確では無かった。唯一確実な事は、現代譜が現代記譜法を用いて出版した事から、リピート記号の実践はより一層曖昧になった。全ての歴史的作品を弾く奏者は、歴史的演奏習慣を学んだ後に、自らの趣味と裁断により結論を出さなければならない。
|