トランジスタ超三アンプ

超三アンプでは出力管はグリッド入力電圧によって出力トランスに流れる電流を制御する働きをしています。この電流によって発生した電圧が帰還管を通じてグリッドに戻されるので深いフィードバックがかかり、結果的に出力管の特性の違いはアンプ全体の性能にあまり影響を及ぼさないと考えられています。それなら出力段は別に真空管でなくてもいいのではないか、たとえばトランジスタやFETでも超三アンプが作れるのではないか、という考えも出てくるわけです。ものは試しとやってみたのがここで紹介するアンプです。

初段管が6AU6A、帰還管が12AX7の半分というのは普通の超三と同じですが、出力管を2SC2333というトランジスタに置き換えました。出力トランスの1次側には電源電圧の2倍近いピーク電圧が発生しますので、このトランジスタはそれに見合う耐圧のものでなければなりません。なおトランジスタは電流入力の素子なので、真空管と同じ電圧入力とするためにベースに直列に680Ωの抵抗を入れています。回路は次の通りで、外部電源から250VのB電源を貰うようにしたのでシンプルです。

出力トランスは東栄T600-12kを二個パラ・シリ接続としましたので、合成インピーダンスは3kΩ:8Ωとなります。エミッタの電圧が40Vになるように初段のカソード・バイアスを調整しました。トランジスタのアイドル電流は約33mAです。この動作条件は6BM8とほぼ同じなのですが、写真のとおり大きな放熱器を背負っているのに触れないほど熱くなります。真空管は頑張っているんだなあと感心させられます。

なお、トランジスタのベース・エミッタ間に入れたダイオードは逆バイアス防止のために必要です。これが無いと大きな振幅でベースがエミッタよりマイナス方向にドライブされ、ベース・エミッタ接合の逆電圧でツェナー降伏するのか、コレクタ電流が流れっぱなしの状態になってしまいます。トランジスタが壊れたのかと思いましたが電源を切って再投入すると何事も無かったかのように動作します。教科書には書かれていない不思議な動作ですが、これを研究しても多分ノーベル賞は貰えないと思います。

1KHzにおける歪率を測定したのが次のグラフです。出力100倍に対して歪率10倍という、完璧な2次歪特性です。特筆すべき歪率の高さで、オシロスコープで波形を観測して直ちに分かるほどに波形の上下が非対称なのですが、不思議にクリップしません。どうも3極管のプレート特性をまともに反映しているようで、帰還管の電流容量不足でトランジスタを電圧ドライブできていない様子です。このあたりは今後の研究課題でしょう。

周波数特性は次の通りです。高域、低域ともにあっさりと落ちたみごとなカマボコ型で、とてもハイファイ・アンプ(死語?)とは呼べません。なお500Hzと1KHzの測定値に段差があるのは発振器の出力レベルの誤差です。

次のグラフは各周波数での出力インピーダンス特性です。オンオフ法と電流注入法の2種類で測定してみましたが、測定方法によって多少の違いが生じるものの、傾向としては同じです。1kHzでのインピーダンスは4Ωプラスアルファですから、8Ωのスピーカに対するダンピング・ファクタは2弱という、ちょっと不満な値になりました。高域でインピーダンスが上昇しているのは東栄の低価格トランスに共通する傾向です。

さて以上の説明からどうしようもない音がするのだろうとお考えかもしれませんが、サニアラズ、なんだか聴かせる音なのです。スピーカから音がポンポン飛び出してくる感じで、この小気味良さは他のアンプとは明らかに違います。この違いはどこから来るのか、強い2次歪を含んだ音はこういうものなのか、あるいはさらに別の要素があるのか、なんだか考えさせられるアンプになりました。

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